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エルジアの軌跡 ~国家立て直し~

作者:天霧
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決裁回廊

エルジア大統領官邸
「国防省軍人帰還支援部です!全軍に武装解除命令をだし、命令の届かない部隊は安全と、無用な戦闘防止のために伝令を全力で向かわせています」
「大変結構、2か月以内に迅速かつ確実に後を濁さず撤退させてくれ」
「イエッサー!」
マルセルの言葉にスーツの男は頷いてから来た道を戻っていく
「治安維持本部であります!サンサルバシオン治安維持隊から降伏した市民軍については・・・」
「彼らはゲリラでも正規の軍人でもない民間人だ!サンサルバシオンの正式な返還と、軍撤退までは銃器の没収及びしばらくの拘留で済ませろ!虐待したら即時軍法会議で有利なことはないといえ!」
「了解であります!」
軍服の生真面目な人間はその言葉を聞くと、敬礼して見送る。だが後ろにはまだ多数の人間が一緒に廊下を歩いてくる。
相手方が我が国の降伏を受けて一段落したと思ったらそんなことは全くなかった。
むしろ戦争以外の事務作業が復活し、執務室は修羅場に、更に即時決裁必要な事項は口頭で応えなければならない。本来なら大統領に通さなくてもよいことも、非常大権として事実上の独裁状態であるこの国ではマルセルの許可がなければすべてが進まない。
また、マルセル自身もゲーム世界に入ったことでこの世界の知識、大統領に必要な能力が強化され指示が反射で出せるから更に部下が群がる。
常に詰めている国防管理センターから執務室まで、その間決裁の嵐は止まず、衛兵や関係ない部署の人間からは「決裁回廊」とまで揶揄される。
「はい、ストップ」
その言葉にあれだけ嵐のように迫ってきた人間たちがピタッと止まる。白髪で眼鏡をかけた初老の男性は、軍の制服を着ているにも関わらず威圧感は無く、すらっとした立振る舞いをする。少佐の階級章と勲章のラインが無ければ完全に紳士か執事だ。
「これより先は執務室で機密性が高い場所です。お引き取りを」
その静かな言葉に全員が無言で頷き去っていく。
去っていくメンバーの中には少佐と同等、上の立場の人間もいるが、誰も彼に反論なんてしない。したら待つのは「死」のみ
「ありがとう、プロスさん」
「閣下、私は当たり前のことをしたまでです。感謝の言葉もいりませぬ、上のものは上らしくしてればよいのです」
ニコリとしながら言う。だが苦手なんだよなぁ。
この執事のような軍人、プロス・ヴェニファーはただの軍人でない。
職業訓練学校卒業後、18で軍に入隊、以後歩兵の中で精鋭の第1歩兵連隊、花形の空挺連隊、特殊部隊と現場の精鋭と呼ばれる部隊を周り、士官昇格後は教官を育てる為に集められた最精鋭メンバーの一人で、陸軍24万人の上位3%しか取れない格闘徽章や最上級射撃徽章持ち、そして現在自分、軍や憲兵、警察から選抜された最精鋭の要人特別警護官の中でもほんの十数人しかなれない、大統領特別警護官の隊長であり、間違いなくエルジア軍最強の男、それがプロスである。
兵卒出身だが50で少佐に上り詰めた彼の実力は桁違いのものである。
そしてマルセルに対する盲信的なまでも忠義心は異常であるが、昔ゲームとしてプレイした時に彼の所属する部隊を優遇したり、知らないうちに信頼築くイベントしていたらしい。
多分、この世界に移る前に、悪戯のような笑いを浮かべた神のような存在のあいつらが置いた土産だろう。
「ライト、メリウス、ご苦労」
「はっ」
プロスの言葉に、マルセルの後ろに留まる二人の男女は答える。
男はライト・フレシス国家警察出向準キャリアの警部補、歳はマルセルと同い年、高い戦闘能力と状況判断力を持つ。そしてもう一人は、陸軍出向の二等軍曹、メリウス・フレッツ、歳は四つ下で、下士官学校卒業、彼女の方は事務能力の高さと、超長距離から5mの射程まで幅広い銃火器で対処する天才である。
二人はプロスに認められマルセル護衛専任兼秘書的立場の地位にある。
「本当、君たちはどこから出てくるのかな?」
「ただ付いてきただけです」
マルセルの問いに困ったような表情でライトが言う。そう、彼らの追跡術は異常に高く、周りの人間も気付かないほど人畜無害。ただ、マルセル自身が危うくなった瞬間、殺意と任務遂行の固い意志を持って不埒物は生きては帰れない。
「さて閣下、残念でありますが、あの周りの人間の他にも閣下のサインが必要な人間はたくさんいます。執務室へ」
「ああ・・・また始まるか」
判子だけの日本人の頃が懐かしい、ここでは常に万年筆でサインサインサイン・・・外国、この世界においてもサインは大事。
その時プロスがああ、と呟いてから
「緊急で入ったのが一つ、講和会議についてとか・・・」
「お、来たか」
マルセルが受け取り書類を眺め・・・そして
「よし・・・第一段階は成功だ」
「第一段階・・・ですか?」
マルセルの言葉にライトが聞き返す。
「そうだ・・・楽しくなってきた。すぐに関係省庁を集めろ。講和について対策を始める」
「執務は・・」
「・・・集合までに片づけられるだけ片づける!」
「はぁ」
プロスもさすがの苦笑いである。しかし信じて付いていく手前、彼はそれに反対せず、やがて頷き
「承知いたしました。優先順位の高い書類から回していきます」
「頼んだ」
そして歩き出す。エルジアの未来をかけた講和会議の対策をしに・・・・

マルセルが望んだ講和会議の場所、それが第一段階であった。それが正式に狙い通りに決まった。
ユージアに近く、関係諸国と繋がり深く、特にエルジアが根回ししている、ベルーサ大陸最大の国にしてオーシアと張る超大国、ユークトバニアでと・・・



 
 

 
後書き
序章終了
次回世界観、登場人物設定

そして講和会議へ・・・
 
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