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エルジアの軌跡 ~国家立て直し~

作者:天霧
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土下座の前に・・・

2005年
7月5日
18時
「さて閣下、今後はどうされるおつもりですかな?」
国防センター内の円卓を囲む人間、そしてその中央に位置する人間が尋ねる。マルセルに共感し、共に軍部の優秀ながら地方に飛ばされた将官を集め、兵士を懐柔させた参謀、バーゼル・ニケア特務大将である。
中央に居た将官は、既に戦争に対しての犯罪など銘打って大半は懲戒免職を言い渡す。軍閥が出来るという懸念は、同時に幻を見続けていた青年将校の原隊復帰、逮捕、そして過激なら更なる粛清をした。
今後10年間は将官の不足が起こるが、これは仕方ない。それよりも戦争を終わらせて、次の戦争の準備をしなければならない・・・しかし
「戦争を終わらせる。そして世界の機嫌を取るためとにかく土下座だ!・・・だが、交渉の材料がない。サンサルバシオンの領土返還、難民の保護の積極、メガリスの開発停止があるが・・・やはり弱い」
「材料は作るもの・・・ですかな?」
「察しが良くて助かる・・・敵は近々大規模な攻勢に出ると思われるが」
私の言葉にバーゼルはうなずき
「そうです。大統領閣下のご命令で調査しましたところ、奴ら、サンサルバシオンの市民軍(レジスタンス)と結託して首都解放を狙っています」
ゲームとしてやっていた時に、5日後のファイアフライ作戦を警戒し、情報収集をさせていた。
「詳細は?」
「それは私が」
代わりに立ち上がるは情報大佐、ネイチャー・バンズ。眼鏡の中肉中背で黒い制服に身を包み、鍛えられた肉体を持つ軍人の中では地味だが、その瞳は一番冷たく、何もかも見透かしてるようにも見える。
彼が目配せすると、側近の士官が端末を操作してスクリーンに必要情報が映し出される。
「ISAF軍は後方支援を含めて約7万~8万、三個軍団を前線に展開し、その先鋒として精鋭のFCU陸軍第11猟兵旅団を中心とした1万2千の軍事力が展開。対する我が方は都市占領の第4機械化歩兵師団と第7歩兵旅団の他部隊と1万4千が展開。数や、練度では勝っていますが、部品の損耗激しい上に士気が低く、特に第4機械化歩兵師団はその戦力の2割の車両、機械、人員を失い、軽歩兵旅団規模と変わりありません」
「敵の狙いは・・・空港と議事堂・・・か」
「恐らくは、敵は大規模な航空戦力と陸軍精鋭部隊を先鋒にこれも大規模部隊で突入、市民軍による連携で我々を打ち砕くつもりです。事実、信頼できる情報筋では市民軍の保有火器が強力になったと」
ネイチャーの言葉に全員が沈黙する。ここで抗戦しても負けるのは分かるが、こちらの懐が痛まない程度の降伏を受け入れてもらえるまで撤退となるとこれも厳しい。
「ただし・・・」
ネイチャーは続ける
「敵は我々の軍需能力、継戦能力を削いで何とか対等に渡り合って逆転しようとしている。逆を言えば彼らは無茶をして戦闘を維持している。それに敵とて2年間まともな軍隊の運用が出来ず、浮足立っているのも事実。ここで的確な一撃を与えれば一気に戦局は泥沼化、敵とて条件を飲まざるえません」
大佐はにやりとしてマルセルに目配せする。そう、実は既にバーゼルとすり合わせていたことがある。これを手柄として流してくれた。代わりに昇進や、色々の手配をしたが・・・
「私に一つ提案がある。聞いてくれるかな?」
全員がマルセルを見る。マルセルはそれを確認してから口を開く。
彼の転移前記憶で最大のチートの瞬間。そして世界を捻じ曲げ、自分でもこれからどうなるか分からない未知の領域へと突っ込んでいく。



7月9日
23時00分
サンサルバシオン首都
非常にきれいな街並み、湖畔は灯火管制のもとで暗く沈み、それが敵の動きも分からず、同時に味方の動きも相手に悟られない好機であった。
ISAF軍の前進部隊は首都から少し離れた場所に既に展開し、後は首都の市民軍・・・レジスタンスの動きに合わせて戦争をするだけだった。
しかし、情報がおかしくなったのはつい先日、エルジアで起きたクーデター、そして政権交代により、新たな大統領に就任、同時を再編、前線の士官学校出の青年将校、後方の高級将校が粛清されるという事件が発生し、これが国民にかなりの支持を受けているという異常事態が発生している。
また、かなりの部隊が撤退を開始するなど、急激な状況の変化に各軍混乱している。
しかしこのファイアフライ作戦は将校たちは作戦の短縮、延期を許さなかった。
なぜなら、レジスタンスと共同で解放するという劇的な場面を世界の報道機関に公開、強くアピールすることで、ISAFの正当性とエルジアの悪を強調出来る。
そんな真っ暗な世界でさらに鬱蒼とした森の中で待機する部隊。
「だからといってこの状況は・・・」
「ぼやきなさんな中尉殿、世の中理不尽でない作戦なんてないんです」
「やめろ」
FCU陸軍11猟兵旅団所属小隊、ベルツ・クローザー中尉、宥めるのは新米士官時代から鍛えてくれて、そして支えてくれる最古参、ダドル・ネイト曹長である。
ベルツは大陸戦争が開戦した年に卒業し、優秀な戦闘成績で特別に精鋭部隊に配属されている。
自分たちの仕事は一応のための警戒陣地で後方の大隊本部、引いては田園地帯に展開中の大規模部隊を守る。
「まったく、市民軍と結託しなけりゃ倒せないなんて・・・」
ため息をつくとダドルが
「仕方ないですよ。こと市街地戦においては現地の人間と共同した方がよい」
「それは分かるが・・・ISAF軍も真っ暗だな」
メビウス1という規格外を除き、この軍もエルジアに負けず危険な状態だ。まだ猟兵部隊は維持しているが、逆にそれ以外の部隊は新兵と、威張ることだけの古参兵のみ
「一度大陸の端までやられてここまで立て直した。奇跡はここでおしまいして、手打ちもいいんですけどね」
「その発言は聞かなかったことにする・・・だが敵さんはともかく、上はどう判断してるのやら・・・?!」
遠くから響く何か重低音・・・
「報告・・・!」
小声で通信兵が来る
「野戦空軍基地、及び防空レーダーが破壊されました。出撃準備中の戦闘機部隊との連絡途絶」
「な・・・全周警戒、夜襲に気をつけろ!」
一瞬の絶句の後、すぐに命令を下すベルツに呼応し、実包を用意する部下たち、そこにまた通信兵が
「28警戒陣地に夜襲!さらに本部にも浸透部隊が・・・エルジアの精鋭で・・・」
慌てて声を出した通信兵、その言葉は音よりも速い銃弾により頭を打ちぬかれて倒れる。
「うわっ!!」
「ばかっ!撃つな!」
ダドルの言葉むなしく、銃の発射した時の光に向かって撃ってしまう兵士。彼はこの小隊では新人のほうだ。
これで敵に完全に位置が悟られた。相手が精鋭なら尚更だ
「無闇に反撃するな!闇夜に紛れて後退する。駆け足!」
通信機を別の兵士に持たせ、古参の軍曹がどやしながら何とか散らさずに逃げる。
「エルジアは後方を気付かせずに攻撃した、一体どうやって?」
「ステルス戦闘機か?空は良く分からん」
だが、嫌な予感がする。
「通信、敵の動向を・・・」
「隊長!そらからっ!」
言い切る前に次の地獄が始まる。突っ込んでくる幾重の矢、その音はやがて地面に突き刺さり紅い華を咲かせる。その爆風は小隊も包み、一部は飛んでいく。
「爆撃機か!」
「敵の精鋭が地点を教えたのでしょう!警戒陣地と本部の方に刺さってます!」
「クソッタレ!」
ダドルの冷静な分析にベルツが悪態をつく。絶望というのは更に絶望を呼ぶ
「首都の市民軍とエルジアが戦闘状態に!同時に多方面からエルジア地上軍が?!」
通信からの絶叫、闇夜に紛れて進軍したのは味方だけじゃなかった、エルジアは後方の大規模防衛戦に回そうとしていた地上軍を彼らの側面や、首都に呼び戻したのだ。縦深防御をやめ、ここで敵を仕留める方向にシフトしたのだ。
「このままでは包囲されるな・・・ダドル曹長」
「はっ」
ベルツはダドルに向き
「逃げるぞ」
「逃げますか」
「ここは足掻いて逃げて、それでもだめなら降伏するしかないな。残念ながら後方の時間稼ぎとか、小心者の自分では考えられなくてね」
ベルツが言い切る。ダドルはため息を吐き
「勝ち戦が一転地獄になりましたなぁ」
「まったくだ・・・・小隊退却!味方本陣まで走り抜けるぞ!!」
「おうっ!!」
小隊は嵐の中を駆け抜ける。
そして、ベルツたちの小隊は何とか地獄から10名ほどおいていきながらも帰ることに成功するが、待っていたのは前線の悲惨な結果であった。
この戦闘においての犠牲者は、大陸戦争開戦以来では4番目に当たり、同時にサンサルバシオン市民軍の陥落のためにISAF側は戦闘開始を延期を迫られることになった。




ISAF軍前線司令部 司令執務室
サンサルバシオン首都から50km後方に位置し、エルジアと全面対峙する三個軍団の内、前線軍団、約2万8千人の兵員たちの指揮統制を取っていた場所。
そこは今、動揺と沈黙に包まれていた。
エルジアの攻撃は的確に前線軍の重要施設を破壊し、空軍は40機の航空機、陸軍はその1割の戦力が戦線から消え、同時に通信施設の断絶で各地で連携が取れずに散発的な抵抗の後降伏など惨憺たる結果を残したのだった。
また、敵の作戦の全容が分かってきた。
相手が使ったのは、X-02通称「ワイバーン」。これは前進翼から速度が上がると後退翼に変わるという独自の形状で、高速度時は翼を畳んでステルスを重視して防衛線を突破し、爆撃時は前進翼で安定させて爆撃する。
兵装量や燃料搭載量を犠牲にする代わりに、F-22以上の格闘能力、F-117以上のステルス性、そして爆撃性能を持つ機体だ。こいつらが一気に重要施設を叩いた。
同時にエルジアが誇る空挺部隊及び特殊部隊による最前線の警戒部隊の攻撃に、まんまとかかった部隊は誘導されたTU-160の大編隊によって消し炭にされた上、側面から戦車連隊を中心とした打撃部隊に、前面は残存の歩兵部隊による攻撃により完全に進退見失った部隊が各個撃破されるという構図となったわけだ。
ISAFは負ってはいけない大打撃を受けた。同時にエルジアも打撃を受けている。
恐らく奴らの最後の力を持って我々に対抗してきた。その為恐らく敵の抵抗は一層弱くなっていると推測される。
内部でも戦争はもうやめるべきという派閥と、エルジアに今こそ突入するチャンスと主張する派閥がいがみ合うのだ。
だがそんないがみ合い関係なく頭を抱える・・・というよりも笑いしか出ない人物が居る。
ISAF前線司令軍団司令、ブイネス・ベルチャー、ISAF軍の貴重な生き残り将官として中将となり、また所属するFCU軍の強力な後押しもあって前線指揮という大命を背負っていた。勝てれば未来は明るく、50手前で大将、そして統合参謀総長に限りなく近い椅子に座れる可能性もあった。だがそんな未来は敵の襲撃と共に脆くも崩れ去る。
「全くもって私の人生は面白く、そして厳しいものだ」
作戦開始せずに大失敗に終わり、前線担当の報道陣に報道規制や各方面のお偉いさんに状況報告、そして現在も更に後方の前線軍総司令部の紛糾の結果待ちだ
「司令、少し休まれては・・・」
ブイネス以上に上からも下からも圧力かけられ疲弊している付の中佐が進言する。だがブイネスは首を横に振り
「そんなこと、君が許しても後ろの怖い老人方には通用しないさ」
彼が言うのはこの前線軍を引っ張るFCU軍大将やその取り巻きの中将さんなどが責任転嫁祭りをしてるだろう。特に総司令のヤヌス大将と作戦参謀のウリティカ中将はその性格が強く、その二人が居たから今回作戦見直しせずに強行に及んだと考えられる。
「たく、少しは他の国の将官も登用したほうが・・・言うだけむだか」
信頼できる中佐の前だから愚痴れるが、こんなの聞かれたら懲罰必至だ。
この連合軍は歪が多い。大陸戦争においてこちらの反撃の立役者となった極東のノースポイントを始めとした16カ国、その独立連合がISAFと称されるが、内11カ国は元から連合軍としてエルジアに対抗し、そしてFCUという連邦国家によって包括的に連合軍の中の一強となっている。そのバランスの悪さは組織を歪にしている。
まあ、そんな歪をどう矯正したかというと、ユリシーズの被害による大陸東部の一致として無理やりに近い併合、連邦国家として更に大きくなったのだ。1995年、20世紀最後の大戦争、ベルカ戦争の加害者、ベルカ連邦とは真逆の奴だ。
「さて、前線軍団はその戦力を大きく削られ、猟兵旅団始めた部隊からも撤退と再編の上申が嵐の如く舞い込んできている・・・・さて、どうするか」
こちらとしては部下の願いを聞きたいが、そうは問屋が卸さない。
こちらの首席参謀の少将はブイネスより年上で、戦闘継続と死守を判断。それに対してこれも年上の副司令少将が対立・・・まあバラバラなのだ。
軍隊という鉄の統率を持つ自己完結組織はあっけなくメッキが剥がれ、上層部の我がまま渦巻く悲しい武装集団へと成り下がったわけだ。
そんな中、執務室に三度ノックの音が響き
「通信担当、メリル・ウズテッド、中将閣下に用事あり!」
「・・・入れ」
本国通信担当士官が中に入る。
「ISAF軍最高司令部より緊急です」
「ご苦労」
厳重に封書される書類は、即日配達手渡しで将官クラスしにしか読めない最高クラスの文書、これが届いたという事は・・・
中身を開いて読むブイネス、彼の目線が二度三度左から右へと流れてから・・・彼は・・・不可思議な表情を浮かべ
「なんてこった・・・」
「い・・・いったい何が?」
恐る恐る聞いてくる部下に、ブイネスは
「ただちに全軍撤退準備にかかれ、エルジアが降伏した!サンサルバシオン全て返還するらしい」
その言葉に執務室に居る人間が驚く
そしてブイネスはしてやられたと苦虫噛み潰した表情になる。
奴らは前線軍が疲弊したところで降伏をぶっこんで、少しでも有利に終わらせようとしている。恐らく内輪もめで上から下まで戦意低下しているのを見込んで・・・
全く持って気に入らない、気に入らないが・・・
「面白い事をしてくれる・・・!」
ブイネスは誰にも聞こえないくらいの小声でつぶやき、俄然エルジアの実権を握った大統領に興味を持つ。
そしてこの男が、FCUの改革者で、エルジアに脅威を運ぶ男になるのはまだ先のお話。


 
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