同じ姉妹
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第七章
第七章
翌日多恵と純は映画館に行った。二人で楽しんで映画館を出てから駅まで二人で行ってそれから別れた。多恵が家に帰るとそこにはもう千恵がいた。丁度リビングに一人いたのだ。
「おかえり」
「もう帰っていたのね」
「サークルがなかったしね」
「そうだったわね」
これは同じサークルにいたからわかっていた。
「少し本屋に行ってそれから帰って来たのよ」
「そうだったの」
「それでどうだったの?」
リビングに入って来た多恵に対して問うてきた。彼女はリビングのソファーに座って紅茶を飲みながらテレビを見ている。多恵はバッグを置いてから千恵の横に来た。その彼女に対して問うのだった。
「映画は」
「評判通りだったわ」
まずはこうは答えるのだった。
「迫力もあったし演技もよかったし」
「そうなの」
「楽しめる内容だったわよ」
「じゃあ私も今度行くわ」
多恵の方を見ずに前を見たままの言葉であった。目はテレビに向けられている。
「今度ね」
「そうるといいわ。それでね」
「どうしたの?」
「ほら、昨日会った」
「昨日・・・・・・」
昨日と聞いて千恵の顔がさっと曇った。
「昨日。どうしたの?」
「ほら、昨日会った」
曇った顔になった千恵とは正反対に多恵の顔は晴れやかだった。彼女はその晴れやかな顔で千恵に対して話すのだった。
「純君だけれど」
「弓削さんね」
「そう、彼」
二人で言い方が異なっていた。違っていたのは表情だけではなくなっていた。
「その純君がね。一緒だったから」
「楽しかったの?」
「とても」
やはり晴れやかな笑顔で言うのだった。
「こんな楽しいデートってはじめてだわ。本当にね」
「よかったわね」
曇ったものをさらに濃くさせての言葉だった。
「それは」
「本当によかったわ。ところで千恵」
「何?」
「どうしたの?」
不意にといった感じで千恵に尋ねるのだった。
「何か急に暗くなったけれど」
「何でもないわ」
俯いたまま言う。視点は前に置かれているティーカップに向けている。カップの中の紅茶はまだ白い湯気を出している。しかしそれもあまり多くはない。
「だから。気にしないで」
「いいの?」
「いいの」
また答える。
「だから気にしないで」
「わかったわ。それじゃあ」
気になるがあえてこれ以上聞かないことにした。やはり千恵を気遣ってのことである。
「ところで千恵」
そのうえで話題を変えてきた。
「何?」
「もう御飯食べたわよね」
「ええ」
多恵の言葉に頷く。それはもう食べているのだ。机の上にある小さな洒落たデザインの時計の針はもういい時間だ。お風呂に入って出れば後は寝るだけという時間だった。
「もうね」
「そうなの」
「お風呂も入ったわ」
また多恵に告げた。
「あとはもう」
「寝るだけなのね。それでも待っていてくれたのね」
「それは・・・・・・」
「有り難う」
千恵が何か言う前に礼を述べたのだった。千恵が何かを言うとは思っていなかったのだ。
「姉妹だからよね。待っていてくれたのは」
「え、ええ」
何故か戸惑いながら頷く。顔を曇らせ、そこに強張らせたものも見せながら。
「有り難う。じゃあこれ」
「これ?」
「お土産よ」
言いながら出してきたのはブローチだった。小さな銀色の蝶のブローチだった。
「ブローチ・・・・・・」
「二つ買ったんだけれど」
見ればもう一つ出してきていた。それは金色の蝶のブローチだ。
「もう一つ。あげるわ」
「いいの?それは多恵が自分の為にって買ったんじゃ」
「それでもいいの」
笑顔のままで千恵に言うのだった。
「だって。こんな時間まで待っていてくれたから」
「そうなの」
「そうよ。あげるわ」
こう話しながら千恵の前にそのブローチを置くのだった。ティーカップの左に置いたのだ。
「このブローチね。よかったら着けて」
「銀色ね」
「銀色好きよね」
多恵も好きだからわかるのだ。双子で好みがそっくりだからわかっていたのだ。
「だからなのよ。それとも金色の方がいい?」
「いいえ」
多恵の今の言葉には首を横に振った。小さくであったが。
「有り難う。銀色好きだから」
「そうよね。よかったわ」
「有り難う」
また多恵に礼を述べてきた。
「着けさせてもらうわ」
「着けてくれるのね」
「これでお揃いよね」
また言ってきた。
「私達」
「そうね。金色と銀色」
蝶は同じだが色は違う。そうしたお揃いなのだ。
「その違いはあるけれどね」
「それでもお揃いね」
また言うのだった。
「私達は」
「姉妹じゃない」
ここで顔に僅かに、しかも一瞬だけ多恵の顔が曇ったのは彼女が妹に対して抱いているコンプレックスが出たからだ。明るい顔だったが不意にそれを思い出したのだ。それで自分の顔にその暗いものを出してしまったのだ。しかしこれはほんの一瞬のことでまた元に戻った。
「だから。いいのよ」
「姉妹だからね」
「ええ。他に何かあるの?」
「他に?」
「ないわよね」
妹に顔を向けて問うた。
「それは。ないわよね」
「そうね」
少し考えてから姉に答えた。目は相変わらずティーカップに向けている。
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