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同じ姉妹

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第六章


第六章

「それじゃあ。誰か」
「私はいいわ」
「私も」
 女の子達は口々に断ってきた。そして皆多恵に対して言うのだった。
「合わないから」
「明菜の曲はやっぱりね」
 そう言いながら多恵に顔を向けて告げる。
「多恵が一番合ってるわよ」
「そういうこと。だから歌って」
「歌っていいのね」
 それを聞いてまた言う。
「私が」
「いいのよ。だからね」
「どうぞ」
 多恵が差し出す構えをしていたマイクは彼女に、と逆に手で差ししめられる。これで話は決まりだった。
 純が曲を選んで多恵がまた歌う。それがまた行われた。合コンの間多恵と純は息をぴったり合わせて話を続けた。終わった時にはもうこんなことを言い合っていた。
「また連絡していいかな」
「ええ、御願い」
 多恵はにこやかな顔で純の言葉に応えていた。
「じゃあ携帯の番号とメアドだけれど」
「俺のはこれ」
 純は多恵の言葉に応えてすぐに自分の携帯を出してきた。黒い携帯だ。
「この番号とメアドだから」
「わかったわ。じゃあ私は」
 それに応えて多恵も出すのだった。
「これよ。記録しておいて」
「わかったよ。それじゃあ」
「お互いになるわね」
「そうだね。じゃあさ」
 明るい顔で多恵に対して言ってきた。
「何かあったら。連絡して」
「そっちこそね」
「今度は何時会えるかな」
 話はかなり進んでいた。少なくとも一回の合コンを経ただけにしてはかなりのものがあった。
「何時?何時でもいいわよ」
「じゃあ明日はどうかな」
 また随分と単刀直入に尋ねるのだった。
「時間あればだけれど」
「多分だけれど」
 少し考えてから述べてきた。
「いけると思うわ」
「じゃあいいよね。映画館行こうよ」
「映画?」
「うん、ほらあの海賊の映画」
「パイレーツオブカリビアンね」
 流行りの映画だった。実は以前から観たいと思っていた映画でもある。
「それでいいかな」
「ええ。前から観たいと思っていたのよ」
 こう言葉を返した。
「じゃあ明日ね」
「うん、明日ね」
「そういうことでね」
 二人で言い合うのだった。そこは完全に二人の世界だった。だから他の面々には気付いていなかった。とりわけ千恵については。多恵もそうなのだった。
 合コンからの帰り多恵と千恵は一緒だった。それから裕香奈に付き合わされて同じく駅前の居酒屋でまた飲んだ。時間制限の飲み放題でそこでしこたま楽しんだのである。
 その帰り道だった。二人は電車の席に並んで座っていた。千恵は俯いて座っていた。その彼女に対して多恵が声をかけるのであった。
「ねえ千恵」
「何?」
 多恵の言葉に応える。その声も何処か不機嫌な感じだった。しかし今の多恵は気付かない。
「楽しかったね」
「ええ」
 一応頷く。しかしその頷きは言葉も動作もはっきりしないものだった。
「そうね」
「お酒もよかったし」
「弓削君ね」
 千恵の方から名前を出してきた。
「彼は」
「ええ」
 千恵のその言葉に今度は多恵が頷く、やはりここでも千恵の気持ちには気付いていない。
「いい人みたいね」
「そうね」
 多恵に応えるその声も何処か虚ろなものだった。
「私もそう思うわ」
「私明日ね」
 ここで迂闊だったが明日の約束について言うのだった。
「彼と一緒に映画館に行くの」
「映画館になのね」
「ええ。パイレーツオブカリビアン」
 観に行く映画の名前を出した。
「それを観に行くのよ」
「そうなの。いいと思うわ」
「千恵もそう思うのね」
「うん」
 少しだけだが顔を多恵から背けた。俯いたままだったので多恵にはその顔がよく見えなかった。まるで彼女から隠すように背けていた。
「私も。そう思うわ」
「有り難う。千恵にそう言ってもらえると嬉しいわ」
 ここでは完全に姉妹になっていた。昔からいつも一緒にいる双子の姉妹に。あのコンプレックスは今は忘れてしまっていたのであった。
「それじゃあ。行って来るわね」
「楽しんでくればいいわ」
 こうも告げる千恵だった。
「ゆっくりね」
「ええ。あの映画かなり見応えあるそうだし」
 映画に関する話題に移っていた。多恵の中ではそうだった。
「今からとても楽しみね」
「私も。何時か観に行くわ」
「そうしたらいいわ。ところで千恵」
 相変わらず機嫌のいい状態で千恵にまた声をかける。
「帰ったらね」
「何?」
「一緒にお風呂に入らない?」
 こう提案したのだった。
「お風呂に?」
「ええ。久し振りにね」
 二人はこの歳になっても一緒にお風呂に入ることがあるのだ。そうした意味ではまだまだ女の子なのだった。大学生ではあっても。
「どうかしら」
「いえ、いいわ」
 だが千恵はそれを断るのだった。
「多恵が先に入って」
「嫌なの?」
「そんなのじゃないけれど」
 それは断った。しかしそれでもであった。
「けれど。それでも」
「そうなの」
 深くは聞かなかった。あえて千恵を気遣ったのだ。ただし彼女の内面については全く考えていない。
「それじゃあ。私一人で先に入るわね」
「そうして。この時間じゃ帰っても皆まだ起きているしね」
「そうね。それはね」
 左手の腕時計を見て応える。見てみればまだそんな時間だった。随分色々と楽しんでそれからまた飲んだのでかなり時間が経ったと思っていたがそれ程ではなかったのだ。
「まだたっぷりとあるわね」
「だから。別々に入りましょう」
 やはり顔を少し背けて言う千恵であった。
「それでいいわよね」
「そうね。千恵がそう言うのなら」
 深く願って言ったのではない。だから多恵もこれでよしとしたのだった。
「別々に入ろうね」
「それで御願いするわ」
 一言返すだけだった。
「じゃあ。ちょっと休むから」
「寝るの?」
「少しだけね」
 そう言いながらもうその目を閉じるのだった。
「自分で起きるから」
「そう。それじゃあ」
 多恵は妹の言葉を聞いてそれに頷いた。千恵はそのまま目を閉じてそれから一切話さなかった。しかし寝ているかどうかまではわからない。それはわからないのだった。
 
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