ロード・オブ・白御前
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オーバーロード編
第13話 vsデェムシュ! 推参、極アームズ
ユグドラシル・タワーにさえ着けば何とかなる。例え凌馬がねちねち言おうが無視しよう。傷を癒し、態勢を整え、また挑めばいい。そう考えていた裕也は――自分の甘さを突きつけられた。
ユグドラシル・タワーは、内側からヘルヘイムの植物に侵食され、本物の大樹のような有様だった。
唖然としていると、タワーの頂点からロケットが発射された。
《悪いね、湊君、角居君。ま、後は任せたから》
共に帰って来た黒影トルーパー隊は「ユグドラシルはおしまいだ!」と叫んで、槍を捨てて逃げ去った。
タワーの前に立つのは、裕也と耀子だけだ。
「世界の終末、って感じっすね。今から新天地探して旅立っちゃいますか?」
「バカなこと言ってないで―― !」
耀子がふり返ったように、裕也もふり返った。
大量のインベスが裕也たちに迫っている。
裕也と耀子はそれぞれのドライバーを装着し、ロックシードを開錠した。
「「変身!」」
《 ピーチエナジーアームズ 》
《 ソイヤッ オリーブアームズ 雷・電・エキサイティング 》
マリカとシャロームに変身した二人は、背中合わせになり、互いに矢を、電撃を放ち、襲い来るインベスを撃退した。
それでも低級・中級インベスは次々に現れる。
そもそも紅いオーバーロードを相手にして彼らは消耗している。このまま数で押されれば負けるのはシャロームたちのほうだ。
(しゃあない。紘汰の時にやったの使うか)
シャロームはカッティングブレードを3回倒した。
『耀子さん、跳んでくれ! できるだけ長く!』
マリカは、シャロームの意を理解したかは分からないが、近くの噴水を足掛かりに高くジャンプした。
シャロームは石畳に警棒を刺した。
《 オリーブスパーキング 》
『痺れろや!!』
警棒の電流を最大値にして流した。シャロームに向かっていたインベスが尽く感電し、爆散した。これで今いるインベスは片付いた。
『っと。荒業ね』
着地したマリカには、苦笑を返した。フェイスマスクがあるので分からないだろうが。
『角居!』
知った声に呼ばれ、シャロームはそちらを見た。
『駆紋。よっ』
こちらに走って来るのは、バロンとナックルだった。
『インベスは』
『ざっと片付けた。けどすぐ第二陣、第三陣と来るだろうな……って言ってる内に、おいでなすった』
4人はそれぞれの得物を構え、タワーからやって来る上級インベスに相対した。やはり数で押す作戦(?)らしく、大量だ。
『うへえ。こりゃまた大所帯で』
『フン。数がどうした。全てねじ伏せるだけだ』
「おおおおっ!」
そこでさらに知った声。その声の主は、走って来てインベスの一体に飛び蹴りを食らわせた。
「パティシエ、ナメんなよ」
『城乃内!』
「こういう時のために鍛え直されて来たんだよ、俺は。――変身」
城乃内は戦極ドライバーにドングリの錠前をセット、ロックし、カッティングブレードを落とした。
《 カモン ドングリアームズ ネバー・ギブアップ 》
グリドンに変身した城乃内は、ドンカチで手近なインベスを殴りかかった。
マリカたちを守るように、ほんの先ほどまで敵対していたはずのライダーたちが、戦っている。マリカは驚きを禁じ得なかった。
さらには、マリカに迫ったインベスの一体を、凰蓮・ピエール・アルフォンゾが生身で蹴り飛ばした。
「ボーっとしてんじゃないわよ。いい大人のくせに、こんな子供たちだけに戦わせておくつもり?」
『どうして……この期に及んで』
「ノンギャラで戦うなんてアマチュアの極み。ただ『負けたくない』ってだけの幼稚なポリシー。でもそれはそれで、見守ってあげたくなっちゃうのよね」
凰蓮はドリアンの錠前を開錠し、ドライバーにセット、カットした。
「変身」
《 ドリアンアームズ Mister Dangerous 》
ブラーボに変身した凰蓮は、グリドンと協力していくつものインベスを吹き飛ばして行った。
乱戦の中でバロンが叫んだ。
『派手に動くな! 円陣だ!』
シャロームのほうが反応が速かった。彼は即座にバロンの意図を理解したらしく、生垣を背に、マリカを引っ張って並ばせた。
『落ち着いて隣の奴の背中を守れ。数は多いが、ザコの群れだ。消耗を押さえて戦えば、いずれこちらが有利になるっ』
タワーから溢れるインベスは止まらない。今度は飛行型インベスが空から来襲してきた。
これに対し、シャロームが警棒で電気ショックを飛ばすより速く、マリカが弓弦を引いた。桃色のソニックアローは空から来たインベスを殲滅せしめた。
『耀子さん……』
『分かったの。私がここにいる理由。見届けるべき者が』
駆紋戒斗の言葉でまとまったライダーたち。それは、戒斗が「上に立つ者」だから。その「上」がどこまでか、彼はどこまで駆け登るのか。湊耀子はそれを見たい。ようやく心は定まった。
円陣作戦は、戒斗の言う通りの効果を発揮した。目の前の敵に集中し、隣の相手の動向にのみ集中する。
バロンが、マリカが番えたソニックアローが。
ナックルが放ったクルミボンバーが。
ブラーボが揮ったドリノコが。
グリドンが振り下ろしたドンカチが。
シャロームが突き出した警棒が。
全てがインベスに命中し、次々とインベスの数を減らして行き、ついには最後の一体を、皆が同時に屠った。
『やっ、た……』
息を上げつつも、マリカがフェイスマスクの下で笑みを浮かべた――直後だった。
街路の石畳が熱くなり、火柱が上がった。
火柱から出て来たのは、マリカとシャロームにとっては最悪の敵。
『サあ、まトめて引導ヲ渡しテやル』
紅いオーバーロードであった。
マリカはバロンを見やった。バロンは肯き、ドライバーのレバーを握った。
相手は一人。一度に攻撃しても互いの威力を殺してしまう。
《 レモンエナジースカッシュ 》
《 ピーチエナジースカッシュ 》
《 クルミオーレ 》
《 ドリアンオーレ 》
《 ドングリスパーキング 》
《 オリーブスカッシュ 》
六色の衝撃波が360度をカバーし、紅いオーバーロードを襲った。
6人分のアーマードライダーのソニックブーム。これを受けてはさすがのオーバーロードもダメージがあるはず。
『無力、あまリニ無力!』
しかし紅いオーバーロードは、ソニックブームを体表に矯め、360度全方位に弾き返した。
『ぐあっ!』
『ああっ!』
それだけに留まらず、紅いオーバーロードは手に顕した火球を回し投げし、マリカたち全員を襲った。
シャロームはようやっと起き上がりながら、周りを観察した。
全員、闘志こそ折れていないが、体のダメージが意志に付いて行けないレベルに達している。
『諦めちゃ、ダメだ!!』
『粘りに粘ってチャンスを待つの!』
グリドンとブラーボは言うが、諦めずに戦い続けようと、ブラーボが使った意味でのチャンスは訪れない――シャロームたちであれば。
その「チャンス」は、ただ一人の男が到着するまで持ち堪える、ただそれだけ。
『――来た』
ヘルヘイム抗体の持ち主は、五感が鋭くなる。抗体保持者が碧沙と裕也しかいないので、確定した説ではないが、現に碧沙は鼻が利くし、裕也は――
『大遅刻だぜ、ヒーロー』
耳が異常なほど遠くの音も捉えられるようになった。
「悪ぃ。無理させて」
フルーツが刻まれた金の鍵を持った葛葉紘汰が、ついに駆けつけた。
『で、分かるよな、この状況。……後は頼む』
「任せろ。裕也たちは休んでてくれ。――変身!」
紘汰は生身のまま紅いオーバーロードに駆け出し、何も持たない腕を揮った。それと同時、紘汰を夕焼け色の鎧が装甲し、手に現れた無双セイバーが紅いオーバーロードを斬りつけた。
紅いオーバーロードが火球を鎧武に放った。
炎上しながらも、鎧武はダメージを受けた様子がない。それどころか、新たなロックシードを開錠した。
頭上に開く、無数の円形クラック。
《 フルーツバスケット 》
落ちたアームズが乱舞し、赤いオーバーロードにぶつかってから、鎧武を囲んで浮遊した。
鎧武は金の鍵をドライバーの横から射し、ひねった。
《 ロック・オープン 極アームズ 大・大・大・大・大将軍 大・大・大・大・大将軍 》
全てのアームズが鎧武に吸収されるや、オレンジの光粒子が散った。
その下から現れた鎧武は、白銀の甲冑と赤と黒のマントをまとった、まさに将軍と称すにふさわしい出で立ちだった。
(この土壇場で新しいロックシードか。やっぱお前、すげえよ。紘汰)
鎧武は雄叫びを上げ、紅いオーバーロードに大橙丸を揮った。大橙丸は的確すぎるほどに紅いオーバーロードを切り裂いた。
鎧武一人で充分だと判断したのか、周りいた耀子や戒斗たちも、次々に座り込んだ。その拍子に全員の変身が解けた。元よりダメージの蓄積でオーバーワークだったのだから当然だ。
『おノレ……ナラば!!』
紅いオーバーロードが放った電撃に対し、鎧武が呼び出したのはシャロームのスタンガン警棒。
使ってくれるというのか。ユグドラシルに与した自分の武器を。
裕也は胸に沸く熱い想いを堪えきれなかった。
電撃は、鎧武が警棒から出した電撃によって相殺された。
警棒に限らない。メロンディフェンダー、ブドウ龍砲、バナスピア、ドンカチと次々に品を変え、紅いオーバーロードにダメージを与えていく。
『認めン! 認メんゾ! 貴様のよウなサルごトきにィ!!』
最後に鎧武は無双セイバーと火縄DJ大橙銃を呼び出した。火縄DJ大橙銃に無双セイバーをドッキングすると、それだけで刃の太い大剣の出来上がりだ。
裕也はつい声を上げていた。
「やっちまえ! 紘汰ぁぁぁぁ!!」
『うおおおおおおお!!』
《 極オーレ 》
鎧武は火縄DJ大橙サーベルを二重に袈裟切りにした。
あらゆる果実の極彩色のソニックブームが、ついに、紅いオーバーロードを両断し、爆散させた。
(これが紘汰の、新しい力――紘汰、やっぱりお前は)
裕也は、自分自身のドライバーにセットした“鍵”を見つめる鎧武を、声をかけることなく見守っていた。
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