ロード・オブ・白御前
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オーバーロード編
第8話 抗体の拒絶反応
『オノレ……!』
紅いオーバーロードが憤怒も露わに杖剣を構えた。シャロームも鎧武も再び武器を構える。
その時だった。紅いオーバーロードが急に苦しみ出したのだ。
『っ、う!?』
『裕也!』
シャロームは膝を屈した。
音のような何かが圧し掛かってくる。意味のある音でも言語でもない何か。内臓を吐いてしまいたいほどだ。
『…! …ッ、ロシュオ…!』
『ろしゅお……?』
紅いオーバーロードが立ち上がった。攻撃をしてくる様子はない。
紅いオーバーロードはマントを払い、霧となってその場から駆け去った。それと同時に裕也を襲った謎の圧迫感も消えた。
『やっべ……追うぞ、紘汰!』
『っああ!』
鎧武が差し出した手に掴まってシャロームは立ち上がった。
鎧武とシャロームは紅いオーバーロードを追ってキャンプから出て走った。
変身を解いた裕也と紘汰は、鬱蒼とした“森”の中をひたすら進んで、石柱や石壁の残骸が多く転がる場所に出た。
「こっちのほうに来たはずなんだけどな~」
紘汰の呟きはもどかしげだ。
オーバーロードには瞬間移動能力がある。急いで追ったが見失うのもしようがないことだ。
「俺、あっちのほう見て来る」
「じゃあ俺はこっち行くわ。気をつけろよ」
「ああ。裕也もな」
裕也は笑顔で、別方向に行った紘汰に手を振った。
そして、自身はその場から動かず笑顔を引っ込め、無表情で後ろをふり返った。
呉島貴虎が息を切らして立っていた。
「早かったっすね、貴虎さん。キャンプのほうはもういいんすか?」
「研究員は全員退避させた。それより、角居。あのしゃべるインベスは何だ。お前は何か知っているのか?」
懐疑の目が裕也に向けられた。
(そういや前にミッチが言ってたな。貴虎さんは一番信用しちゃいけない人を信用するって。逆に言うとそれって、一番信用していい人を一番疑うってことか。うわ、めんどくさ)
裕也はパーカーのポケットに両手を突っ込んだ。
「さっきの奴はオーバーロード。もちろん本名じゃない、プロフェッサー凌馬命名のコードネームです。引用はアーサー=C=クラーク辺りかな。“森”の侵略を超えた、先史文明の生き残りっす」
「なん、だと……そんな馬鹿なっ」
「馬鹿なも何も、貴虎さんだって戦ったでしょ? あの紅いのと。しゃべるし武器は使う。立派に思考能力を持った生命体じゃないですか」
貴虎は信じきれない様子だった。当然だ。凌馬がそんな情報を持っていたなら、貴虎に隠すはずがないと、貴虎は本気で信じている。
「友達だろうと秘密はある。碧沙と巴ちゃん、俺と紘汰みたいに。貴虎さんは、戦極凌馬の全てを理解してるって言えますか?」
「それ、は……」
我ながら嫌な攻め方だとは思うが、このくらい追い込まなければ、貴虎の中には凌馬を警戒する気持ちは芽生えない。
「角居。お前はその情報を凌馬から得て知ったのか?」
「はい。俺、一応あの人側ってことになってるんで」
シャロームとして戦い始める前、凌馬はオーバーロードと禁断の果実の存在を裕也に教えた上で量産型ドライバーを与えた。裕也が逃げられないように、心に楔を打ち込まれた。
「お前は凌馬の味方なのか? それとも俺の味方なのか?」
「俺は、碧沙の味方です」
裕也はきっぱりと言い切った。
「俺は碧沙にとっていいように動く。プロフェッサーでも貴虎さんでも、情報をリークしたほうがいいならそうするし、裏切る必要があるなら裏切ります。だから俺のことは信用しないほうがいいっすよ」
「お前……碧沙を」
ここで裕也は初めて笑みを浮かべた。
「好きですよ。新人類産めって言われて、まああの子が16歳になったらそうしてもいいかな~って思う程度には」
貴虎が頭を抱えた。頭痛を堪えているような顔――兄としての「顔」だ。
「……分かった。ひとまずはお前の証言を真実と仮定しよう」
「ありがとうございます」
「帰るぞ。凌馬たちも交えて、今後の方針を話し合う」
踵を返した貴虎に対し、裕也は苦笑してから、歩いていく貴虎に続いた。
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