アラガミになった訳だが……どうしよう
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原作が始まった訳だが……どうしよう
37話
シオの服も完成し、そろそろ本編の終わりが近付いてきた時の事だ。
特にやることの無かった俺は退屈凌ぎにサカキの研究室から何冊か本を借りて読もうと考え、軽い気持ちで彼の部屋を訪ねた。
「サカキ、何か俺が読めそうな本を貸してくれないか?出来ればアラガミ関連の物がいいんだが」
「ああ、構わないよ。ただ、私からも一つお願いをしてもいいかな?」
「そのお願いの内容次第だ、それを聞いた上で判断させてもらうぞ」
「いや、大した事じゃないよ。シオ君と遊んであげては貰えないだろうか?
彼女は少々退屈しているようで、先程から不機嫌なんだよ」
「それなら引き受ける」
そんなもの即答に決まっているだろう。シオの機嫌が悪くなりでもしたら、またあの偏食場パルスをくらうハメになる。
それにそれさえなければ別段シオは苦手な相手ではない。
「おや?意外だね、君はこういった事は嫌いな……ああ、君は子供に対しては甘いんだったね」
……待て、なんだそれは?
「いや、カノン君やアリサ君から君に子供の頃よく相手をしてもらっていたと聞いているのだけれど、違うのかい?」
いやその二人に関しては間違いではないんだが、子供に対して甘いわけじゃないぞ?
俺は俺に対して好意的な感情を向ける奴に甘いだけだ。
流石に悪意をもって接してくる奴は子供であれ、あまりいい感情をもって接することはできない。
大人げないと言ってしまえばそれまでだが、自分でもどうしようもないのだから仕方ないのだ。
「半分くらいはその通りだ。シオは奥にいるんだな?」
俺はそう言ってドアを開けると、シオが床でゴロゴロと転がりながら退屈そうにこちらを見ていた。
「ひまだぞー」
「……そうだな、少し待ってろ」
ドアを閉めながら、部屋に備え付けられたベッドに腰掛ける。
そして、俺は両腕のオラクル細胞を少し操作し、シオが壊さないような強度の各面3×3の色の付いた正方形で構成された立方体……要するにルービックキューブを作る。
それを見ていたシオは体の向きをこちらに向けて、俺の手元のルービックキューブを興味深そうに見た。
「おとーさん、それなんだ?」
「まぁ、待て」
完成したそれをシオに見せる。
「シオ、これを覚えろ」
俺がそう言った時には既にシオはキューブを見ていた。
シオがそれを見終わるのを確認して、彼女から取り上げる。
その後、俺の背中にキューブを隠して、ガチャガチャと適当に色を崩し、ある程度混ざってからそれをシオに差し出す。
「これの色を揃えてみろ、できるか?」
「おーやってみるぞ」
シオはキューブをガチャガチャと弄る事に専念し、その間サカキから借りた本を読む。
「できたぞー!!」
半分程読み進めた頃にシオが立ち上がって声を上げた。完成したキューブを俺に差し出して、嬉しそうな笑顔を浮かべている。
「よくやったな」
「シオ、えらいか?」
「ああ、偉いぞ」
シオに頭を撫でてやるとその名前の通りに仔犬のように目を細め、嬉しそうな表情になっている。シオにも尻尾があれば左右に振っているだろうな。
そう考えていると、ふいに研究室に誰かが入ってきた足音が聞こえた。数としたは5人か?
多分、第一部隊の面子だろう。
「シオちゃん……あれ、おじさん?」
「ああ、アリサか。それじゃああとはお前に任せよう、じゃあな」
本に栞を挟み、部屋を出ようと立ち上がった時、何かに足を掴まれた。
「ん?」
視線を下にやると、シオが俺の右足にコアラのようにしがみ付いているじゃないか。まさか、腹が減ったと言って俺の足を喰う気じゃないだろうな?
「おとーさん、もっと遊ぶ!!」
遊ぶと言っても俺は遊び道具を提供しただけで、遊んだ訳じゃないんだが?
「あのな、アリサやソーマと遊んでもらえ」
「むー……」
いかん、目に見えて機嫌が悪くなっているぞ。この至近距離であの偏食場パルスが発されればまた倒れるハメになる……仕方ない、もう少し相手をしてやるか。
「分かった分かった、もう少しだけだぞ」
もう一度ベッドに腰掛けてなおし、何かないかと考えを巡らせる。今度は知恵の輪でも作ろうかと考えていると、シオが俺の手をマジマジと見つめ首を傾げた。
「どうしたんだ?」
「おっかしーなー」
「……何が?」
「おとーさんの手はトンデモへいき?ってアリサが言ってたぞ?」
「……おい、アリサ?」
「あ、あはは……」
こら、視線を逸らすな。
確かに俺は手足の具足に機能を集約させてる。トンデモ兵器と言われるのも間違いじゃないんだが、流石にその言い方は酷くないか?
大体、トンデモ兵器はむしろイザナミの黒い腕だろうが。あの腕の性能こそ真のトンデモだ。
いや、アリサはあれを見たことがないんだから、それについて兎角言うのは筋違いなんだがな。
「まぁ、確かに神機と比べればトンデモ兵器って言われても仕方ないんだがな」
右腕だけを具足に変化させてシオとアリサに見せる。
「おおー」
シオは具足をぺしぺしと叩いたり触ったりと色々弄っている。
「おじさんのそれって一体どんなことが出来るんですか?パンチやキックの時に爆発したりしてる所しか見たことないんですけど」
「ん?他にはレーザーを撃ったり、剣を生やしたり、プラズマ撃ったりする程度か?ああ、あとパイルバンカーができるな」
「なんでそんなトンデモ兵器なんですか……ドン引きです」
「やかましい、これでも十数年愛用している武器なんだぞ?」
随分と長い間改良したりして大分愛着お湧いているんだ、それをトンデモ兵器呼ばわりされるのは少し不快だ。
「これ、シオにもできるか?」
「「……は?」」
いやいや、そりゃ外見を真似る位ならできるだろうが、機能までは難しいだろ。確かにシオの学習能力はズバ抜けているが、これを真似るにはオラクル細胞の総量的に難しい。
「多分無理だな」
「そう、シオちゃんはこんなトンデモ兵器なんて使わなくていいの」
「アリサ、お前、この具足に恨みでもあるのか? 」
「いえ……恨みじゃないんですけど、コウタがそれの事を男の浪漫武器って言うのを聞いて、何故だかそれが嫌いになったんです」
……ああ、要するにとばっちりか。
「シオ、真似るなら俺じゃなくてイザナミを真似ろ。あっちの方が遥かに強いし、お前向きだ」
あの腕を扱うのは人間じゃ無理だが、中身もまっとうなアラガミであるシオならば扱えるだろう。
それにあれの方が回避やらなんやらを一々考える必要もない分、慣れるのも簡単だろうしな。
俺の具足やらはあくまで中身が人間で、特別な技能もないアラガミが、場数を踏むことで強くなるっていうのがコンセプトだからな。
弱いとは言わんが、すぐに強くなれるかと言われると疑問符が付くような武器だ。
シオならばしばらくすれば使いこなせるだろうが、それをやるならという事でイザナミの腕の方がいい。
「あの、イザナミさんってそんなに強いんですか?」
「どういう事だ?」
「いえ、ソーマもあの人に勝てる相手なんていないって言ってましたし、おじさんもイザナミさんの事を自分よりも強そうに言ってるんで気になったんです」
ああ……そういえば、ソーマ以外は誰も知らなかったな。
「そうだな……あいつがその気になればこのアナグラを一人で潰せるって言えば分かるか?」
「……冗談ですよね?」
「いや、本当だ。当然、ユウも戦うと仮定してだぞ」
「ちょ、ちょっと待ってください。リーダーが負けるって言うんですか!?」
何故そこで怒る、仮定の話だろうに……あ、そういえばアリサはユウに惚れているんだったな。そりゃ、ユウが蔑ろにされているとも取れるこの言い方じゃ怒るか。
「いや、ユウは負けない。あいつと正面からやりあえば、俺やイザナミでも勝てるか怪しい……時々、本当に人間かどうか疑いたくなりような強さだ」
「……ま、まぁ、リーダーは時々そう思えるような強さですけどね。でも、それでもイザナミさんが勝つってどういうことですか?」
「簡単だ、あいつが一番危険な理由は手数とその精密性があるからだ」
「手数と精密性?」
「ああ、あいつの攻撃はあいつを中心に半径100m内じゃ、どうやったって処理しきれない。ユウなら全部叩き落とせるかもしれんが、並のゴッドイーターじゃ無理だ」
「私でもですか?」
「ああ、お前が前後左右上下全てからの同時攻撃を、剣だけで全て処理できるなら話は別だがな。一発でも防げなかったら手足の一本は握り潰されるぞ」
アリサの顔が一瞬青くなったが、すぐに気を取り直して俺を見る。
「……イザナミさんの攻撃って何なんですか?」
「うーむ……無限に近い本数の黒い紙みたいな腕での攻撃と馬鹿げた怪力だな」
「……馬鹿げた怪力って、あの大きな神機を振っていた、あれですか?」
「ん?ああ……前のあれか、いや、あんなもんじゃない。昔、ヴァジュラの手足を持って、紙みたいに縦に引き裂いたことがあるって言えば分かりやすいな」
「……ドン引きです」
そう言ってアリサは壁にもたれかかって、何かにブツブツ呟いている。
……本当に今日のアリサはどうしたんだ?
「おとーさん!!」
「ん?どうしたシオ……って、おい」
シオが自慢げに自分の手を見せる。そこには俺の具足と似たような具足が装着されており、それを楽しそうに俺にぶつけている。
「できたぞ、えらいか?」
「……シオ、とりあえず、痛いから叩くのやめてもらえないか?」
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