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ソードアート・オンライン ーBind Heartー

作者:睦月師走
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食べてしゃべって飛び跳ねて

 
前書き
すいません遅くなりました!

しかも忙しい中で書いたからまた低クオリティというこの体たらく……



と、とにかく、本編を、どうぞ!! 

 










セルムブルグは、六十一層にある美しい城塞都市だ。
俺たちが湖の中心にぽつんと浮かぶ小島に存在するその街の転移門についた時には、すでに陽はすっかり暮れかかっていた。
両脇に品のいい店舗やら住宅が立ち並び、行き交うNPCやプレイヤーの格好もどこか垢抜けて見える。
着いてからずっと物珍しそうに辺りを見回している、田舎者丸出しなトーヤとはえらい違いだ。
アスナの住む部屋は、目抜き通りから東に折れてすぐのところにある小型の、しかし美しい造りのメゾネットの三階だった。もちろん訪れるのは初めてだ。それを意識すると俺は今更ながら腰の引ける思いで、建物の入り口で躊躇してしまう。
ふと見てみれば、トーヤも遠慮がちに俺にちらちらと視線を向けていた。
『先に入ってください』ということだろう。俺が言えたことじゃないが、変なところで奥ゆかしい奴だ。

「しかし……いいのか? その……」

「なによ、君が持ちかけた話じゃない。他に料理ができる場所がないんだから仕方ないでしょ!」

ぷいっと顔をそむけ、アスナはそのまま階段をとんとん登って行ってしまう。覚悟を決めた俺はトーヤに手招きしてから、そのあとに続いた。

「お……お邪魔します」

おそるおそるドアをくぐった俺は、言葉を失って立ち尽くした。
広いリビング兼ダイニングと、隣接したキッチンには明るい色の木製家具がしつらえられ、統一感のあるモスグリーンのクロス類で飾られている。全て最高級のプレイヤーメイド品だろう。

そのくせ過度に装飾的ではなく、実に居心地の良さそうな雰囲気を漂わせている。
俺の後から入ってきたトーヤも、口を開く前から目を剥いていたほどだ。

「なあ……これ、いくらかかってるの……?」

即物的な俺の質問に、

「んー、部屋と内装あわせると四千kくらい。着替えてくるからそのへん適当に座ってて」

ぶはっ と噴き出したのは、アスナのサラリとした答えを聞いたトーヤ。

「け……kが千だから、さらにその四千倍で、つまり0が……いち、に、さん、よん……」

奴にとってはよほど衝撃的な数字だったのか、その場に突っ立ったまま指折りして単位を数え始めた。すぐに四百万コルという額にたどり着くだろう。
まあ、しかし。ちょっと気に入った剣や怪しい装備品に次々無駄遣いしてしまって貯まるはずのない俺からしても、その金額には驚かされざるをえなかった。柄にもなく自省しつつ、ふかふかのソファにどさっと沈み込む。
やがて、簡素な白い短衣(チュニック)と膝上丈のスカートに着替えたアスナが奥の部屋から現れた。俺たちの肉体は3Dオブジェクトのデータにすぎないとは言っても、二年も過ごしてしまうとそんな認識は薄れかけて、今もアスナの惜しげもなくむき出しにされた手足に自然と目がいってしまう。
そんな俺の内的葛藤を知るよしもないアスナは、じろっと視線を投げ、言った。

「君もいつまでそんな格好してるのよ。ほら、トーヤ君も武器くらい外したら?」

「あっ! そうでした……」

我にかえった俺とトーヤは慌ててメニュー画面を操作する。俺が革の戦闘用コートと剣帯などの武装を解除すると、トーヤもマフラーと腰布、剣帯をしまって、くだんの≪ラグー・ラビットの肉≫をオブジェクト化させた。

「どうぞ。≪ラグー・ラビットの肉≫です!」

陶器のポットに入ったそれをそっと目の前のテーブルに置く。
アスナは神妙な面持ちでそれを手に取り、中を覗き込んだ。

「これが伝説のS級食材かー。……で、どんな料理にする?」

「ふむ……。トーヤ、お前は何かあるか?」

「え?」

意外というような声を出して、トーヤは俺とアスナを交互に見やる。

「お、俺が決めていいんですか?」

「ああ。俺は特に思いつかないしな。問題ないだろ?」

「うん。大抵のものは作れるから、何でも言って」

「おぉ! それじゃあ、お言葉に甘えて……。そうですねぇ……」

えへんと胸を張るアスナに感動したような視線を向けると、頭頂部のアンテナを揺らしながら考えはじめた。
やがて、思いついたのかぽんと手を叩いて言う。

「それじゃあ、シチューなんてどうです? 煮込み(ラグー)っていうくらいですし!」

「そうね。材料も足りてるし、それでいきましょうか。よし、決定ね」

ぱちん とアスナが手を叩きあわせると、トーヤが「やった」とその喜びを露わにする。どうやら、好物だったらしい。その反応が一層子どもっぽさを見せる。
ちなみにそのとき、トーヤのアンテナのような髪が犬の尻尾のようにぶんぶん振られていたように見えた気がした。
……見間違いだと思いたい。










それからわずか五分で、テーブルの上には豪華な食卓が整えられた。
SAOでの調理というのは現実世界のそれとくらべると簡略化されすぎていて、作る側からすればつまらないらしい。食べること専門の俺からすれば、早くうまい料理を食べられれば得な気がするが。
席についた俺たちの前には、大皿にたっぷりと盛り付けられたアスナ作のブラウンシチューに、トーヤが作った付け合わせのサラダがあった。
鼻腔を刺激するその芳香に、俺たちはいただきますを言うのももどかしく食事についた。
スプーンにすくって頬張ったシチューの肉の味は、俺がログインして以来最高の美味だった。俺とアスナ、それにトーヤは一言も発することなく、ただ大皿にスプーンを突っ込んでは口に運ぶという作業を繰り返していた。
トーヤの作ったサラダも、なかなかうまい。
やがて、きれいにーー文字通りシチューが存在した痕跡もなくーー食い尽くされた皿と鍋を前に、トーヤがゆったりと手を合わせた。

「ごちそうさまでした……」

そのまま脱力しきった顔で椅子の背もたれにぐでっ と寄りかかる。
それを見て、アスナがふっと笑って「お粗末さまでした」の一言。それから深く長いため息をついた。

「ああ……いままで頑張って生き残っててよかった……」

まったく同感だった。俺は久々に原始的欲求を心ゆくまで満たした充実感に浸りながら、不思議な香りのするお茶をすすった。
饗宴の余韻に満ちた数分の沈黙を、俺の向かいでお茶のカップを両手で抱えたアスナがポツリと破った。

「不思議ね……。なんだか、この世界で生まれてずっと暮らしてきたみたいな、そんな気がする」

「……俺も最近、あっちの世界のことをまるで思い出さない日がある。俺だけじゃないな……この頃は、クリアだの脱出だのって血眼になる奴が少なくなった」

「攻略のペース自体落ちてるわ。今最前線で戦ってるプレイヤーなんて、五百人いないーーあっ」

しまった、というようにアスナが口元に手をやった。実際、俺もうっかりしていたことだ。
今この部屋にいるのは、俺たち二人だけではない。攻略組として最前線に出ていない少年、トーヤもこの話を聞いているのだ。
今もこのアインクラッドには、前線に出る事ができずにいつ死ぬかもしれない恐怖にかられながら、毎日を過ごす人は多い。
トーヤもそのうちのひとりなのだとしたら、攻略組である俺たちが弱気になっている姿を見て、不安がってしまうかもしれないのだ。
しかし、俺たちの心配をよそにトーヤはよっこらせというかのように傾けていた頭を持ち上げた。
「知ってますよ。いままで何度か前線を歩き回って、いろんな人を見てきましたから。攻略の人たちだけじゃありません。みんな、この世界に馴染んできてしまっている……」

「そうか……」

心配は杞憂に終わったーーと言っていいのだろうか。
シビアな雰囲気をまとったトーヤを見て、やはりコイツもこの世界で過ごすひとりの人間なのだということを再確認させられた。
アスナもそれにつられたのか、物思いにふけるような美しい顔が橙色のランプに照らされている。

「でも、わたしは帰りたい」


アスナは俺たちに微笑みを見せると、続けて言った。

「だって、あっちでやり残したこと、いっぱいあるから」

その言葉に、俺は素直に頷いていた。

「そうだな。俺たちががんばらなきゃ、サポートしてくれる職人クラスの連中に申し訳が立たないもんな……」

お茶のカップを大きく傾ける。
ついでにトーヤの方に視線をやると、まだ手をつけていないカップを眺めながら、自分の手を握りしめていた。

「……そうですよね。帰らなきゃ……絶対に、いつになってでも……」

つぶやくような、小さい声でそう言ったのが聞き取れる。
トーヤにも、現実世界に何かやり残したことがあるのかもしれない。それは、コイツにとってはとても重大なことなんだろう。
すっかり重くなってしまった空気を悟ったのか、トーヤは気まずそうにお茶をちびちび飲みはじめた。
そんな空気を変えようとしたのか、アスナがコホンと小さく咳をひとつ。

「そうだ、キリト君。キミ、しばらくわたしとコンビ組みなさい」

「……は?」

何故か、俺に話が振られた。しかも、とんでもない内容で。

「ボス攻略パーティーの編成責任者として、君がウワサほど強いヒトなのか確かめたいと思ってたとこだし。わたしの実力もちゃんと教えて差し上げたいし。あと今週のラッキーカラー黒だし」

「な、なんだそりゃ!」

唐突すぎるうえにあまりの理不尽な言い様に思わず仰け反りつつ、必死に反対材料を探す。

「んな……こと言ったってお前、ギルドはどうするんだよ」

「うちは別にレベル上げノルマとかないし」

「じゃ、じゃああの護衛二人は」

「置いてくるし」

時間稼ぎのつもりでカップを口に持っていってから、空であることに気づく。アスナがすまし顏でポットを手にしようと手を延ばしーーたところで、トーヤが手早くそれを持ち上げた。
予想外な行動を起こしたトーヤを見た直後、俺とアスナはそろって目を丸めた。
さっきまでの申し訳なさそうな雰囲気は何所へやら、本日何度めになるかのキラキラした瞳をして俺のカップに新しくお茶を注いでいるのだ。
なにを考えているのかは知らないが、ろくでもないことであるのは予想できた。

「最強のソロプレイヤーと最強ギルドの副団長が組むってとは、やっぱり迷宮区の攻略ですよね? ですよね!?」

「そ、そのつもりだけど……」

トーヤに詰め寄られたアスナも若干たじろいでいる。
無理もない。俺だってこのマイペースな豹変ぶりには、先ほどたいへん驚かされたのだから。

「だったら、俺もお供させてください! 助けてもらったことと、美味しいご飯のお礼もしたいですし」

そのテンションのまま、今度はトーヤがとんでもないことを言い出した。

「アホか。今日まさに死にそうだったのに、そんな奴をほいほい連れていけるか」

いつ死ぬかわからないような奴を守りながら戦えるほど、最前線は甘くない。
俺がそう言って再びお茶を飲み出すが、トーヤは何故かニヤリと不敵な笑いを見せる。
そこからゆらりと体を揺らしたかと思うと、ポットを握っていた手を、唐突に開いた。

「あっ……!?」

アスナの短い声が挙げられ、俺が慌てて椅子から立ち上がったときには、高級そうな装飾の施されたポットは床にぶつかる直前まで落下していた。
マズイ。これは、間に合わない。
現実世界とは違い、SAOではポットの中身が絨毯にぶちまけられるという事態は起きない。だが、固定アイテムではない道具にはそれぞれ耐久値が割り振られている。衝撃を受けてそれが0になれば、ポリゴンの欠片となって消滅することとなる。
しかも、こんなに小さなアイテムだと耐久性は高くはない。もし落ちれば、すぐに消滅してしまうだろう。
金欠だと言っていたトーヤにこんな高そうな家具を弁償できるのかだろうか、とか思っていたら、視線の先からポットが消えた。
一瞬もう壊れてしまったかと思ったが、アイテム消滅時の効果音が発生していないことに気がついた。

「ふっふっふ。こっちですよ」

笑を含んだトーヤの言葉に、俺たちはそちらを見る。
すると、さっきまで床のすれすれまで落ちかかっていたアスナのポットが、トーヤの左手の中に再び収まっていた。
だが、驚きはそれだけで終わらない。
トーヤは椅子の上で、空いた右腕を使って逆立ちをしているのだ。

「ふふっ。更に……よっ、と」

そのポットを今度は真上に放り上げたかと思ったら、その間にくるりと空中での見事な回転を見せて何時の間にか正常な座り方に戻る。そして、残されたポットの着地点はというとーー

「よいしょっ」

ーートーヤの頭上に、カツンと小さな音と共に乗っかった。

「じゃじゃーん!」

「うわ……」

得意気にサウンドを口で発して両手を広げるトーヤに、思わずそんな声が漏れていた。
これがステージの上で行われていたら、間違いなく拍手が起こっているだろう。
トーヤがやってみせたのは、体術スキルから派生されるスキル≪軽業(アクロバット)≫だ。
そこまで珍しいスキルではないが使い勝手が難しく、ここまで使いこなしているプレイヤーはそうそういない。

「ふふん。これだけじゃないです。何度も前線のダンジョンに潜っている間に、結構レベルアップしたんですよ。今日だって、ちょうど安全マージンが取れるくらいまで鍛えられましたし。それじゃあ、お次は空中三回転をーー」

「やめなさい。すごいのは認めるけど、さっきからマナーが悪すぎ」

部屋の主であるアスナのドスの聞いた声に、トーヤはおとなしくテーブルに乗せた両手を膝に乗せて引き下がった。

「ーースイマセン」

「それも、下ろしなさい」

「………………」

頭の上に乗ったままのポットをテーブルにそっと移し、今度こそ反省ポーズで座り込む。
そのシュンとした姿がまた子どもっぽくて、口の中で小さく笑ってしまった。

「そ、それで、同行の話ですけど。迷惑は絶対にかけませんから……お願いします!」

食い下がるかのように、頭を下げて懇願してきた。
しばし困ったようにそれを見ていたアスナだったが、テーブルを乗り出して俺に耳打ちしてきた。

「どうする? わたしは構わないけど……」

そう言われると、俺としても困る。
この状況から思考を張り巡らせれば、確かにトーヤには手練れの護衛付きでレベリングができるというメリットはある。
仮に護衛といっても確実ではない上にたった二人しかいないのだ。しかも、潜るのは前人未到の最前線故に、なにが起こるかは誰にもわからない。
そこから考えるに、自分から死地に飛び込んで行くというデメリットの方が多いだろう。
それなら、疑う余地は格段に少なくなっていた。

「……まあ、後衛でおとなしくしてるっていうなら、別にいいだろ。ただし、余計なことはするなよ」

適当にそう言ってやった瞬間、うつむいていたトーヤの顔がいきなりがばっ! と勢いよくあげられる。
その瞳は、さっきの倍の輝きをはなっているようにも見えた。

「やったー! ありがとうございます! 精一杯、頑張ります!」

「いや、後ろにいるだけでいいって……」

俺の言葉を聞き終わることもなく、椅子から立ち上がったかと思えばその場でくるくる回り出す。
その奇天烈で過剰すぎる感情表現に、流石にアスナも呆然としていた。
その怪訝そうにして、また俺に耳打ちしてくる。

「なんか、変わったヒトね……。本当に大丈夫かしら?」

「大丈夫、だと思う……多分。まあ、そうじゃなくても……守ってみせるさ。絶対に……」

そうだ。今度こそ、必ず守ってみせる。
あの時と同じようなことは、絶対に繰り返させたりしない。

「キリト君……?」

気付けば、アスナがさっきまでとは違う心配そうな面持ちで俺の顔を覗き込んでいた。
どうやら、自分でも知らないうちに険しい顔をしていたようだ。
それと同時に、彼女との顔の距離が目と鼻の先ほどにまで接近していたことを、今更ながら思い出して、俺は慌てて身を引いた。

「い、いや。なんでもない。それより、明日の予定だけど……明日朝九時、七十四層のゲートで待ってる」

ハテナを浮かべたような表情をしつつも、アスナは確実に頷いて見せた。
視界の端で、トーヤがこちらを振り向いて意味ありげな笑みを浮かべたのは、後に残る俺の疑問だ。










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一人暮らしの女性の部屋にいったい何時までお邪魔していいものなのかさっぱりわからない俺は、食事が終わるや、トーヤを引っ張ってそそくさといとまを告げた。建物の階段を降りたところまで見送ってくれたアスナが、ほんの少し頭を動かして言った。

「今日は……まあ、お礼をいっておくわ。ご馳走様」

「こ、こっちこそ。また頼む……と言いたいけど、もうあんな食材アイテムは手に入らないだろうな」

「そのときは、俺が頑張って取ってきます」

いや、無理あるだろ。
えっへん、とでも言いたげに胸を張るトーヤに、俺は呆れてため息も出なかった。

「あら。普通の食材だって腕次第だわ。トーヤ君も料理上手なんだから、覚えておくといいよ」

「は、はい! 精進します」

アスナがまるで生徒に言い聞かせる先生のように言うと、トーヤが微妙にぎこちない気をつけの姿勢で応える。
そのやりとりに少し笑うと、アスナはつい、と上を振り仰いだ。すっかり夜の闇に包まれた空には、しかしもちろん星の輝きは存在しない。百メートル上空の石と鉄の蓋が、陰鬱に覆いかぶさっているのみだ。つられて見上げながら、俺はふと呟いていた。

「……今のこの状態、この世界が、本当に茅場晶彦の作りたかったものなのかな……」

半ば自分に向けた俺の問いに、誰も答えることができない。
どこかに身をひそめてこの世界を見ているのであろう茅場は、今何を感じているのだろうか。
当初の血みどろの混乱期を抜け出し、一定の平和と秩序を得た現在の状況は、茅場に失望と満足のどちらをもたらしているのか。俺にはまるで解らない。
このデスゲームが開始されたのが、二◯二二年十一月六日。そして今は二◯二四年十月下旬。二年近くが経過した今も、救出はおろか外部からの連絡すらもたらされていない。俺たちにできるのは、ただひたすら日々を生きのび、一歩ずつ上に向かって進んで行くことだけだ。
こうしてまたアインクラッドの一日が終わる。俺たちがどこへ向かっているのか、このゲームの結末に何が待つのか、今は解らないことだらけだ。道のりは遥かに遠く、光明はあまりに細い。ーーそれでも、全てが捨てたもんじゃない。

「……それにしても知らなかったですねぇ」

それまで落ちていた沈黙を破ったのは、まるで感慨深げと言った風に吐かれたトーヤのそんな台詞だった。

「まさか、キリトさんがあのアスナさんとお付き合いしていただなんて」

「なぁっ……!?」

「えぇっ……!?」

お互いに顔を真っ赤にして驚愕の声を漏らした俺たち二人がマイペース全開な少年剣士の誤解を解くのに、そこから五分を要した。
その間、何故かアスナが俺をジトっとした目で睨んでいたのは、また別の話である。









 
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