問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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少女の想い
オベイロンという存在を完全に消滅させた一輝は、四人の元まで戻り・・・手に持っていた鎌の形を、甕へと変える。
そして、様々な要因で傷ついた四人に向けて、その中身を・・・優しく光る翠色の甕から、同じ輝きを持つ液体を、流した。
「恵みを与えよ、■■■■■■。」
その液体は四人の体を優しく包み、全ての傷をいやして見せた。
「・・・ねえ、それは何なの?」
「俺にも分からん。・・・ただ、中々に便利なものみたいだな。」
一輝はそう言いながら甕を消し、陰陽装束も解き、発動しているギフトを全て解除する。
「まあでも、何も問題はないだろ。音央を取り戻せたんだ。しかも、おまけで魔王オベイロンを討ち取って、俺という存在まで確立できた。ここであれの正体が分からないとか、そんなのはたいした問題じゃない。」
「・・・うん、そうだね。よく分からないことなんてお兄さんに関しては今更だもんね!」
ヤシロが真っ先にそう言うと、その空気が全員に伝染し、一輝もほっと一息ついた。
「湖札は大丈夫か?よく分からん力を使ったし、少し心配なんだが。」
『大丈夫だよ、兄さん。檻そのものには何の影響もなかったから。』
そう自分の中から返事が返ってきたことを確認すると、一輝はようやく一息ついた。
そして、そのまま音央に近づき、
「さて、と。音央、まずお前に渡すように、と預かっている物を渡しておく。」
「私に・・・?」
「ああ。ギフトカードを貸してくれ。」
首をかしげながらも差し出されたギフトカードを受け取り、一輝はそれに自分のものを一度重ねてから音央に返した。
「これ・・・ギフトが増えてる。」
「オベイロンが迷惑をかけたから、ってタイターニアから預かってきた。何であの人がオベイロンと夫婦になったのか、理解できねえな。」
そう呆れながら一輝がいうと、音央はそのギフトが記されている部分を指でなぞる。
「『妖精の女王』・・・これって、『夜妖精の女王』と何が違うのかしら?」
「俺には分からん。ま、いつか使ってみて判断するんだな。」
「そうね。きっと、何か違うでしょ。」
音央はそう言いながらギフトカードをしまい、再び一輝を見上げる。
「それで?まだ何かあるんでしょ?」
「よくわかったな・・・」
「さすがに、あんたが何か言いたそうにしてるかどうかくらい、分かるわよ」
「そうか。なら・・・音央、お前はこれからどうしたい?」
そう、一輝は聞いた。
「どう?」
「ああ。とりあえず、俺はお前に依頼されたことをこなしたし、今回の事件の関係でお前の隷属は解けてるんだよな。・・・だから、どうするか決めるのは音央自身でやるべきだな、と。」
今回、オベイロンは自らの霊格を利用して一輝と音央の繋がりを斬った。
それをどうするか、一輝はそれを聞いているのだ。
「そう・・・じゃあ、私はあんたに隷属するわ。今更変わる、ってのも違和感があるし。」
「ん、分かった。なら、これからもよろしくな、音央。」
とても軽い一言だが、隷属の契約はなされて二人の間に再び、つながりができる。
「じゃあ、これで全部終わったんだし、早く戻るぞ。まだアジ=ダカーハとの戦いは終わってないんだ。」
そう言いながら、一輝は音央に向けて手を差し出す。
まだ座ったままである音央はその手を掴み、一輝に引っ張られるのに合わせてちょっと強めに引き・・・そのまま、一輝にキスをした。
「・・・!?」
「ンッ・・・」
一輝は突然自分がキスされたことに驚いて固まり、音央はそんな一輝の様子は気にせず、ねぶるようにキスを続け、舌を入れて絡め出した。
「「「『・・・・・・・・・・・・』」」」
そんなものが突然目の前並びに精神世界で広げていた視界で始まった四人は、ポカンと口をあけて一瞬固まり・・・
「「『あーーーーーーーーーー!!!!!』」」
内三人がすぐに再稼働して、ヤシロが音央を、スレイブが一輝を引っ張ってひきはがす。
二人の間につーっと唾液の橋がかかり、それがより一層三人の勢いを飛躍させる。
「兄様!?何をなされているのですか!こんな時間帯、人の目の前でキ、キ、キキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキスをするなど!」
「いや、俺も現状が理解できてないんだが・・・」
『兄さん!それはそれで男としてどうなの!?』
一輝はそう、真っ白になった頭でスレイブに返事をしてから現状の理解に、使いものになりそうもない頭を働かせ始めた。
その間も涙目のスレイブによって体を揺らされ、涙声の湖札が中から騒いでいるのだが、それに気付かないくらい一輝は混乱している。
「ちょ、音央お姉さん!?何がどうなってこんなことに、」
「そうね・・・もう、遠慮はしないことにするわ。」
ヤシロも珍しく混乱しているが、音央は対照的にとても冷静だった。
頬はさすがに赤くなっているものの、その口調には三人の様な様子は見られない。
と、一輝は少し上を向いて考えていたのだが・・・ようやく現状を理解し、顔が真っ赤になった。
過去、マヤが頬にキスをしたときとは比べ物にならないくらい、真っ赤である。頭から湯気とか吹きだしそう。
「さて・・・どう、一輝?何が起こってたのか理解できた?」
「理解、出来たが・・・何でこんなことになったのか、理解できてない・・・」
「ふぅん・・・ひょっとして一輝、こう言うの初めて?」
「そりゃ、な・・・」
「ちょっと意外ね。でも、そっか・・・初めてなんだ・・・」
音央は一輝のファーストキスが自分であるという事に花が咲いたような笑顔を見せ、一輝は今キスしていたこともあってさらに赤くなる。
そして、音央は・・・
「一輝。私は・・・あんたの事が好きよ、異性として」
そう、一輝に自分の気持ちを伝えた。
さすがにこの状況で邪魔をする気になれなかったのか、ヤシロにスレイブ、湖札の三人も黙っている。
「えっと・・・その・・・」
「あ、無理に返事はしなくていいわよ?今返事を求めるのは・・・ズルい気がするし。」
「・・・・・・スマン、助かる。」
「だからいいって。惚れた弱み、とも言うしね。」
音央はそう言いながら笑っており、一輝はその前で申し訳なさそうにしている。
「あー、でも。いつか返事を要求するかもしれないから、その辺ちゃんと考えといてよ?」
「・・・分かった。ちゃんと、真剣に考える。」
音央が自分の事も考えて返事を延期してくれたことくらいは鈍感極まりない一輝でも分かったので、その言葉はとても真剣だった。
「・・・それと、まだお願いしてもいい?」
「・・・何だ?」
「まず、最後に私を選んでほしいからこれからもアピールをしてくから、そのつもりでいて。」
「・・・俺が倒れないくらいに、手加減していただけると・・・」
「その時の気分次第ね。気絶したらどうなるか、覚悟しなさい?」
一輝はそれを聞いて、ちょっと覚悟を強めた。
音央が吹っ切れたのは分かったので、どうなるか分かったもんじゃないとすぐに理解できたのだ。
「・・・それと、私があんたの事をそう思ってるってことは、ちゃんと意識してほしい。」
「それについては、言われなくても・・・ってか、するなて言われてもしちまうと思う・・・」
「ならいいわ。一輝、アンタって意外と可愛いところもあったのね。」
どう見てもうれしそうな様子の音央に、一輝はもう本気で何も言えなくなる。
「あ、でも今はダメよ?アジ=ダカーハと戦ってる間は、あれを倒すことだけを考えて。」
「・・・ん、了解。全力で、あの三つ首蜥蜴を倒す。」
それで二人の話は終わり、音央の雰囲気も一瞬で変わった。
「じゃ、これでこの話はおしまい!早く戻って、皆の手伝いをするわよ!」
そう言って音央は妖精の羽を使って羽をはやし、先行して飛んでいく。
それを一輝も水を操り、そこに乗って飛び立とうとしたのだが・・・鳴央が、ずっと固まっていて動かないのを見つけた。
「あの・・・鳴央?もう行くけど・・・」
そう言って一輝が鳴央の肩に手を置いた瞬間、
「音央ちゃんと一輝さんが、キ、キキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキ、キキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキ、キキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキ、キキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキ!!?!?!?!?!?!?!?!?!?!!?!!!!!!!!?!!?!?」
「オイ鳴央言えてすらいないってか俺もどうにか恥ずかしさ抑えてるんだから蒸し返さないでくれって頭から湯気吹いてるぞ!?」
鳴央は壊れたおもちゃのようにひたすら『キ』を繰り返し、目を回して、頭から湯気を吹いて倒れた。
結局この後、一輝が抱えて水の上まで運び、先行していた音央に追いついたあたりで鳴央は意識を取り戻した。
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