問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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◆◆◆◆◆◆
主戦力や女子供、怪我人などが乗っている空中城塞。その上空に、突如ヒビが入った。
その亀裂は甲高い音を鳴らして響き渡り、城塞の中に待機していた主戦力の視線を集めた。
その様子を見て、クロアは主戦力全員に向けて叫ぶが・・・警戒するだけで、すぐにそれに対応できるわけではない。
破裂する空間。舞い落ちる粒子の羽。現れるのは、蒼と紅、純白の装飾で身を固めた人影。
そう、とある少女のストーカーをしていた、とってもキモいその人・・・マクスウェルである。
魔王マクスウェルは出現と同時に弓形に体を反らし・・・言語野を失ったように、もはや知性すらなくなってしまったかの如く、叫ぶ。
「―――GEEEYAAAAAAAAaaaaa!!!」
「うるさい!」
そして、出現したマクスウェルを、いつの間にかそこにいた湖札が本気で殴る。
『・・・・・・はぁ!?』
湖札がマクスウェルを殴るまで誰もそこにいることに気付けず、さらにはあっさりと殴ったことで城塞の中にいた人間が同時に疑問の声をあげた。
「はぁ・・・全く、統合してためしにアクセスしてみたら、まさかこのタイミングで来るなんてね。思ってもいませんでしたよ。」
「GE・・・・・・RE・・・・・・!!!」
湖札が話しかけても、マクスウェルにまともな反応は見られない。
それどころか、ギチギチと音を立てて軋みをあげている姿から、正気でないことは明らかに分かる。
「はぁ・・・完全に壊れてる。そこまで壊れるなら、いっそ全部壊れてから来ればよかったのに。」
湖札はそう言いながら陰陽装束を展開し、殴り飛ばされてから動く気配のないマクスウェルに向けて瘴気を放った。
普通であれば死へと向かう、ここまで壊れているマクスウェル相手であれば一瞬で死んでもおかしくないが、それでも死んでいないだろうと、湖札は確信していた。
「GE・・・・・・RE・・・・・・WE―――WEEEeeeeLAAAAaaaa!!!」
「人違い!それと、貴方はここで死ぬんだからもう二度と会えないよ!」
二本の足で立ち上がったマクスウェルは口が裂けるのではないかという位に獰猛な顔で突っ込み、湖札はカウンターで拳を放つ・・・ふりをして、空間跳躍で背後に回り込んでいたマクスウェルの顔面を村正で貫く。
「悪いけど、全部無駄だよ。今、青行燈を憑依させてるから。」
湖札の中に封印されている青行燈。これが誕生する際、そこに込められた物語の中に『覚』がいる。
その力を使い、壊れているおかげで単調になっているマクスウェルの思考から次の行動を予測しているのだ。
だからこそ・・・空間跳躍というチート技をもっている相手に対して、湖札は圧倒的有利に戦う。
マクスウェルが空間跳躍をして攻撃しようとすれば、出てくるところに攻撃を向けて何かする前に止める。
空間跳躍を使わずにくるのなら、真正面から叩き伏せる。
憑依させることで青行燈を構成する全ての妖怪の力を使い、あらゆる事態に対応して、魔王を圧倒していく。
そして、自分が不利であることに気付いたのか、マクスウェルは動きを止めて弓形にのけ反って絶叫をあげ、周囲の熱を奪い始める。
「WEEEeeeeLAAAAaaaa!!!」
「これは・・・ウィラさんには絶対に会わせず、ここで殺さないと。」
そう言いながら、湖札はマクスウェルを観察する。
そして、その場が寒冷地にでも来たのではないかという位に冷え込み、壁には霜と氷柱が降りてきたところで・・・湖札は、自分の中にある知識から一つの可能性を見つけた。
そして、マクスウェルがその熱を体内にため込み始めたところで、その可能性は確信へと変わる。
「・・・集めた熱を使った地爆、ですか。それはさすがに、被害が大きいですよね。」
湖札はかなり冷静にそう判断し、一つ深呼吸をして憑依を解除。青行燈を呼び出し、牛蒡種へと変化させてマクスウェルを捕らえる。
さらに一輝の檻と自分の檻を一時的に融合させたことで一時的に移すことのできた機尋もだし、湖札が与えた神格によって、マクスウェルを完全に捕らえる。
「GE・・・LA・・・!!!」
「無駄ですよ。牛蒡種は青行燈から創り出した偽物みたいなものだけど、その分あらゆる妖怪の霊格をもってる。機尋も、相手を捕らえるという事に特化した妖怪。さらに、機尋には神格を二つ与えてあるから、空間すら飛ばせない」
そう言いながら、湖札は右手をあげる。
そして・・・一輝から半分を受け取り、自分の中で一体丸々が封印されている歪みの力を、解放する。
「疑似創星図、起動!」
空に向けて伸ばしたその手は、怪しい青色に輝く顎に覆われた。
見た目は、狼が一番近いであろう、顎に。
そしてそのまま、捕らわれながらも逃げようとしているマクスウェルに向けて走り、
「知へ変え喰らいつくせ、◆◆◆◆◆◆・・・!」
おおよそ人体に発音できない、全ての生物に発音できないはずのその名を唱え、マクスウェルの腹に突き刺す。
その瞬間、マクスウェルが情報へと変換され、顎に喰われていく。
マクスウェルという名が、存在が、姿形が、マクスウェルというもの全てが情報となって顎に喰われていく。
そして・・・ついに、それが内包していた熱すらも情報に変えて喰らい尽くし、マクスウェルの魔王は完全に消滅し、その瞬間に何かが、コッペリアへと流れ込んだのだが・・・それはまた、別の話。
「ふぅ・・・これで、マクスウェルは片付けた。後はタイミングを見計らって兄さんに合流して・・・」
「オイ、今のは何だ?」
と、湖札がこの後の事を考えていると十六夜が後ろからそう尋ねる。
「・・・何のこと?」
「何の事、じゃねえだろ。今お前が使ってた疑似創星図の事だよ。・・・名前も現れた現象も、全てが分からねえ。」
「それはそうでしょうね。これは、私たちの世界にしか存在しないものですから。」
そう言いながら湖札は振り向き、真正面から十六夜を見る。
「それよりも、今はやることがあるんじゃないですか?・・・兄も、そのために今準備をしてる。」
「一輝か・・・あいつは今、何を?」
「封印の解除。さすがに、今回は解かないと無理だって判断したみたい。せっかく解けるようになったんだから、全部完全に解く、って。」
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一輝はゲーム盤の中で、座禅を組んでいた。
そしてそのまま右手の刻印に対して血を垂らし、言霊を唱える。
「汝、寺西一輝の封を『型破り』の名のもとに解く。今ここに、完全なる力を。」
その瞬間に席組みとして受けていた封印が解け、圧縮されていた呪力と封じられていた霊格が全て解放されてその場にクレーターができる。
だが、封印の解除はそれでは終わらない。
「第六十三代鬼道、鬼道一輝の名のもとに、一族の戒めを解く。我は世界より信仰を受け、民より憎悪を受ける。その存在、今こそ開放しよう。我らが敵を葬らんがために。」
続けて紡がれた言霊は、一輝が生まれてからずっとつけられていた封印を、解除した。
そして、一族が湖札以外全員死んだことによって一輝にまとめられた鬼道の一族の霊格が、功績が、その全てが解放され、さらには一輝という存在の本来の霊格が、解放される。
さらにいくつかの封印を解き、スィミとのシンクロ率も限界以上にあげたところで・・・目を、開いた。
「・・・終わったの、お兄さん?」
「ああ、これでとりあえずは全部だ。危険因子はさすがに、解放できないしな。」
ヤシロに聞かれた一輝は、そう答えながら自分の存在を安定させていく。
解除したばかりであれている存在を、だ。
「まあ、ここまで強くなればいけそうよね。」
「ええ。すぐそばにいるだけでも、一輝さんが強くなったのがすぐに分かります。」
そう言いながら音央と鳴央が手を差し出し、一輝は片手ずつ二人の手をとって、引っ張り上げてもらう。
「で、どうだ?俺の存在、まだ危険な状態だったりする?」
「・・・いえ、問題ないかと。今の状態であれば、十分に安定しています。」
スレイブからそう返事をされたことで、一輝はようやく、自分の足で歩きだす。
「んじゃ、行くか。」
「ええ。」
「はい。」
「分かりました。」
「レッツゴー!」
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