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東方魔法録~Witches fell in love with him.

作者:枝瀬 景
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38 人質~They are not wrong about anything.

フランが来てから戦況は一変した。

「フォーオブアカインド!レーヴァテイン!…皆を…いじめるなぁ!」

フランは四人に分身し、四人とも燃え盛る剣を手にして人狼達を高速で切りつけて行く。人狼達は成すすべもなく、次々と切断され燃やされる。
物凄い勢いで仲間が死んでいることに気が付いた人狼のリーダー核が指示を飛ばした。

「なんだあの吸血鬼は!?くそっ!アイツを先に始末しろ!」
「そして誰もいなくなるか!?」
「なに!?消えた!?」
「ぎゃあ!」

人狼は襲いかかろうとした四人のフランが突然消えたことに驚いた。そしてどこからか弾幕が飛んできて人狼に襲いかかる。
攻撃し終わったフランがあらわれて言った。

「いじめるのは死んじゃえ。スターボウブレイク!」

七色の丸い弾幕が降り注ぐ。もはやそれは一方的な虐殺に何ら代わりなかった。
が、お陰で今レミリア達に向かってくる人狼はほとんどいない。

「フラン…」

そしてそれを上空からレミリア達は見ていてフランの言動に心を動かされていた。こんなにも私達を想ってくれる。異性の恋とは違った家族愛に似たものに胸を苦しくしていた。

「クランベリートラップ!」
「グァ!」
「フォービドゥンフルーツ!」
「ウッ!」

快進撃を続けるフラン。だが、こうも人狼を大量殺戮し続けるとフランが狂って暴走しないか不安になる。

「パチェ…」
「わかってる…」

パチュリーは何時でもフランを止められるように雨雲の準備をした。本心ではこんなことをしたくはないが暴走は止めなければならない。パチュリーはフランの嫌がることをしたくないし、フランだって傷付けたくないから暴走を止めてほしい。ついさっきフランのことを想い始めたばかりのパチュリーは更に心を苦しくした。

「…っ!パチェ!今何時!?」

突然レミリアが何かに気が付いて慌ててパチュリーに時刻を訪ねた。

「何時って…あ!」

人狼達と戦い始めたのは真夜中。既にかなりの時間が経過していた。つまり

―もうすぐ夜が明けて太陽が昇る。

吸血鬼にとって太陽は危険だ。その光は吸血鬼の皮膚を焦がし尽くし死に至らしめる。このままでは吸血鬼二人は太陽に焼かれて死んでしまう。

だが、夜が明けるということは月がほとんど消えるということでもある。人狼は月によって力が変化する。満月になるほどその力は増していき、月が姿を消すほど減っていく。つまり夜明けは吸血鬼の弱点が現れると共に人狼を弱体化させ、この戦いが終わるタイムリミットとなる。

悩んでいる時間はない。
パチュリーは雨雲の準備を日光を遮るに足りる普通の厚い雲の準備に代えてそのまま広い範囲に渡って雲を魔法で出した。
動き回るフランが勢い余ってパチュリーが出した雲の日光を遮る範囲の外に出ないように精一杯、雲を生産する。

雲は空気中の水蒸気と塵の集まりだ。
雲ができる空は気圧が低い。空気が空に上がっていくと、急に膨らんで温度が下がる。すると、空気の中に含まれていた水蒸気が冷やされて塵に集まって水や氷の粒になる。これが雲の正体だ。

雲を作ること自体は意外と簡単だ。ペットボトルにぬるま湯と線香の煙を入れた後、蓋をしてペットボトルを何度も握って圧力をかける。これだけで少量の雲が出きる。嘘だと思うなら試してみればいい。

紅魔館の上空に雲を作る程度ならパチュリーにとって造作もないことだが、高速で移動するフランをカバーするともなるとペットボトル云々のレベルじゃない。もっと多くの雲を作り、多くの魔力を消費することになる。

パチュリーがなんとか雲を出していると、夜が明ける明けてきた。薄く明るくなってきてうまく雲によって日光が遮られている。

「危なかったわ…ありがとうパチェ」
「はぁ、はぁ、はぁ…。けほけほけほっ!」
「パチェ?」

パチュリーは全身からごっそりと力が抜けていくのを感じた。広い範囲の雲を作るといってもたかが雲。普段のパチュリーなら疲れる程度ですむ筈だが、今は魔力が底をつきそうだった。度重なる戦闘で激しく消耗していたからだ。そして悪いことに

「ちょっとパチェ、大丈夫?」
「ごほっ、ごほっ!ゼー…ゼー…」
「パチュリー様!」

喘息が出てしまった。

魔力を使って飛んでるとはいえ空中で激しく動き回り、何度も呪文を詠唱していたパチュリーが今まで喘息が出なかった方が不思議だった。雲を出すことで限界が来たのだろう。

パチュリーは姿勢を崩し、地面に落下していった。



















「くそっ…!」

人狼の会議でいた比較的に若い人狼が悔しがった。

「こんな情報聴いてないぞ…!」

この人狼は会議で明希がいないから戦闘を仕掛けるべきと進言したものだった。進言は受け入れられ、憎き吸血鬼の館に攻め行ってジワジワと追い詰めたところまではよかった。あの出鱈目な吸血鬼が出てくるまでは。

ずっと地下に幽閉されていたフランのことをしらなかったのは無理もない。しかし、人狼はフランの存在を知らなかったから負けた。何故なら紅魔館の中で戦闘だけならフランが一番強いからだ。

その若い人狼は仲間が次々と倒されていく様を目に焼き付けられながら考えた。

どうすればいい!?アイツらを追い詰めた、そこまではいい。でも止めを差せなければ意味がない!今じゃ一方的にやられているだけだ!!
月も消えかけているしこれ以上は仲間が死んでいくだけだ。何かいい手は…せめてレミリア・スカーレットだけでも狙い撃ちするか…?

若い人狼が責任やこれからのことで頭を悩ませていると上空から紫色の…確かパチュリー・ノーレッジとかいう魔法使いが墜落してくるのを目にした。地面に衝突するのを防ごうと必死に追いかけている吸血鬼と赤毛と使い魔も見えた。

若い人狼は閃いた。

「おい!あの紫色を攫うぞ!人質だ!」

既に人狼には力の源である月がほとんど消えている。どんなに人狼の数がいたって月がなければ勝ち目がない。それに今回、多くの仲間を失ったせいで再び紅魔館を襲撃する戦力が足りない。次回はないと思っていい。あるとしても十年、二十年先の話だ。

そこで文字通り降ってきた最後のチャンス。あの紫色を人質にとって満月の夜にあの中の誰かをおびき寄せれば確実に勝てる。満月で無敵の人狼数十体、対レミリア一人なら圧勝だ。もし、この作戦が上手くいけば紅魔館の奴らを根絶やしに出きる。そのために何としてでも紫色を拉致しなくては…!

人狼達は若い人狼に従い、フランや、パチュリーを守ろうとするレミリア達の攻撃を受けながらも仲間の死体を踏み越えて、時には足場にしてどんどん気絶したパチュリーを攫おうと近付く。

そして若い人狼が空中で紙一重でパチュリーを強引に引き寄せ攫うことに成功した。
パチュリーをつかもうとしたレミリアの手が空を切る。そしてレミリアはパチュリーを取り返すべく、若い人狼を攻撃しようとした。
だが、若い人狼は空中で物質の法則に従って落下しながら手だけ動かしてパチュリーの首に爪を寄せた。

「動くな!こいつが死んでもいいのか?」
「くっ!?」

これじゃまるで悪役だなと人狼は思いつつ早速パチュリーを人質に使う。
レミリアは固まって人狼の言う通りにした。

よかった…と人狼は思った。実は若い人狼は人質作戦が上手くいくか心配だった。もし、この吸血鬼が人質ごと自分を攻撃したら作戦どころじゃなくなる。人狼の心配は杞憂に終わった。

地面に着地した後、若い人狼はレミリアに言った。

「あの出鱈目な吸血鬼を止めろ」
「……フラン、来なさい」

レミリアが呼ぶとすぐにフランがあらわれた。

「どうしたの御姉様。折角いいところだったのに…ってパチュリー!?パチュリーを放せ!!」
「待ちなさいフラン!」

パチュリーが捕まっているのを見たフランはすぐさま助けようとしたがレミリアがフランの肩を掴んで止めた。

「う~!」

肩を掴まれたフランはパチュリーの喉に爪があることに気付き、唸った。

「この娘を返して欲しくば一週間後の満月の夜に一人でここにこい」

人狼は指定した場所の地図が書かれた紙を捨てるように渡して人狼の大軍(今となってはフランのせいで大軍とは呼べないが)を引き連れて帰って行った。 
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