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ピラミッド

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第一章

                   ピラミッド
 ヘシオドスの『歴史』ではエジプトのピラミッド建設は民衆にとっては多大な苦難であったと書かれている。だが。
 実際は違っていた、ファラオは神官達にこう言った。
「ナイルの水が溢れているな」
「はい、ですから今は」
「畑は使えません」
 神官達もこうファラオに答える、ファラオの宮殿の豪奢なファラオの間の中で。
「民の仕事はありません」
「今の時期は」
「そうだな、水が引けばな」
 その時はだった。
「後はナイルがもたらしてくれた豊かな土が残ってな」
「畑を耕すことが出来ます」
「その時は」
「しかし今はだ」
 ナイルの水が溢れている今はだ。
「それは無理だ」
「残念なことに」
「民も手持ちぶたさです」
「それでなのだが」
 ここでファラオは神官達にこう言った。
「今の時は畑を耕すことも出来ず民もやることがない」
「その間は蓄えを潰すだけです」
「民も困っています」
「なら余が彼等に仕事をやろう」
 その民達にというのだ。
「それならばな」
「仕事をですか」
「彼等」
「これまでは時を見付けて奴隷達に墓を造らせていたが」
 ピラミッド、それをだ。
「それを今の時期にな」
「畑を耕せないこの時にですか」
「民達に造らせますか」
「そうだ、そしてだ」
 その時にというのだ。
「余が造らせているからな、住む場所と服は与える。無論パンと酒もだ」
「その全てをですか」
「彼等に与えてですか」
「そうして仕事をさせる」
 仕事がなくて手持ち無沙汰になっている彼等にだ。
「住む場所も服も食事も用意させてな」
「そうされるのですか」
「彼等に」
「しかもこれで余の墓の建設が進む」
 王にとってもいいことだというのだ。
「誰にも悪いことはない、石はナイルの溢れている水の上に船を浮かべて運べばこれまでよりも楽だしな」
「では今に」
「ピラミッドの建設を進められますか」
「その様に」
「そうしよう、これからはな」
 こうしてだった、ピラミッドは農閑期にファラオが衣食住を提供してまでして民に造らせる様になった、確かに炎天下の砂漠での労働だ。しかし。
 民達はだ、ファラオに感謝しながら働いていた。
「いや、ファラオが仕事を下さるなんてな」
「気前がいいよな」
「服も家も食いものも下さるしな」
「ワインやビールまでな」
「大蒜まで下さるぞ」
 とにかくだ、ファラオは彼等にそうしたものを振舞うのだった。
「いや、有り難い」
「全くだ」
「それに神であられるファラオのお墓を造ってるんだ」
 それでというのだ。
「わし等にもいいことがあるぞ」
「そうだ、死んでからもな」
「楽しい暮らしが出来るだけのことをしている」
「死んでからも楽しく過ごせるぞ」
「いいことだよ」
 こう話をしてだ、彼等はヘシオドスが言うのとは違って楽しく働いていると言ってよかった。そしてだった。
 当時の流行を追っていた、服を少しいじってだった。
「これどうだよ」
「ああ、いいな」
「いい感じだよ」
「今の流行りか」
「それをやったんだな」
「そうだよ、それにな」
 髪型もアレンジするのだった、当時のエジプトの髪型の範疇で。
 そうしたこともしていた、それにだった。
 夜にワインやビールを飲んで談笑してだ、お互いを仇名で呼び合ったりしていた。そうした民衆を見てだった。
 ファラオもだ、神官達に笑顔で言った。 
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