戦姫絶唱シンフォギア~another of story~
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EPISODE2 覚醒の鼓動
「どうしてこうなったぁぁぁ!?」
夜の街を疾走しながら路地裏で音野飛鳥の叫びが木霊する。
「わ~い、お兄ちゃん速い!」
「この状況でよくそんなテンションでいられますね!?」
背中ではしゃぐ小さな女の子にツッコミを入れつつ飛鳥は響と共に走る、ただひたすらに走る。現在、二人+一人は陽もすっかり暮れより一層暗くなった路地裏を全速力で走っている。何故こうも彼らが必死になっているかと言うとそれは背後に迫る存在にあった。
この世界には〝特異災害〟というものが存在している。それはどこからともなく急に現れ人々を襲い、灰へと変える。意志はあるのか、また原因はなんなのかすらわかっていない謎の現象。人はそれを総称して〝ノイズ〟と呼んでいる。人を襲い、人のみを標的と定める彼らに対して有効的な手段は現段階で皆無。一時はどこかの国の軍機関が何度か様々な実験を試みたという話もあるがいずれも失敗に終わっており、最終的に残ったのはノイズが出現してからその躯体を保てるリミットである一時間という悪夢の時間をただひたすら逃げるのみである。
「クッソ、こっちだ!」
毒づきながらも飛鳥は響の手を引き、そして背中に乗る命の危機にも関わらずハイテンションなクレイジーガールを乗せて走る。一時間という長過ぎる時間、あの大群から逃げ続けなければならないという悪夢はまだ始まったばかり。
もとはと言うと、響が迷子の女の子と遭遇したことから始まる。彼女はどうやら母親と買い物に来ていたらしいのだが人ごみではぐれてしまい、彷徨っていたところで二人と出逢ったのだ。母親の捜索中、ノイズと遭遇、現在に至ると噛み砕いて言えばこのような感じだ。
「ま、まだ付いてきてるよ!?」
何時の間にやら、場所は海の臨める廃工場。普段は立ち入り禁止区域に指定されている場所だ。こんなところに来るまで思考がまともに働かなかったことを考えるとよほどテンパっていたのがわかる。まぁ。それは今でもさほど変わらないが。
ともかく。
「ここを登る。たぶん、追ってこれないはずだ」
「それはいいけど、ホントに大丈夫!?」
「・・・・でなけりゃ、〝覚悟を決めるさ〟」
「そんな覚悟いらないよォ!」
「いいからはやく行け!」
女の子を響に預け、最後尾に飛鳥が登る。ハイオクだけあって高さもそれなりだが、周囲は暗闇ではっきりとは景色が見えない為さほど恐怖はない。それよりも早く上にたどり着くことだけを考えて、響は手足を動かす。やがて伸ばした手が空を切り、それが頂上に着いたことを意味するとわかり一気にのぼる。
「つ、ついたぁ・・・・」
ぐったりとしてヘタレ込む響。服装がスカートだということなど一切お構いなしにだらしなく倒れる。少し遅れて飛鳥が登って来たことに気が付き慌ててスカートのすそを直し躰も起こす。こういう恥じらいはどうやらあるようだ。
「な、なんとか撒いたな…」
「正直死ぬかと思った。でも・・・・これからどうする?」
う~んと呻ったあと携帯の時計を見る。遭遇から、約30分といったところか。
「30分はこのまま、ってことになるな」
「ちょっと休憩しよ~。走りっぱなしだったから疲れた・・・・」
ごろんと寝転がる響。普通の女の子だったらここに来る前にバテていることだろうが、そこはさすが響だ。普通の子よりもスタミナと運動神経には秀でている。とはえ、これには緊張の糸が切れた飛鳥も響の隣に寝転がる。それを面白がって、女の子も同じようにひんやりとしたコンクリートに倒れた。
「・・・・綺麗」
夜空の星を見た響がそう呟いた。
「普段夜空を見上げるなんてことしないもんな。こりゃ絶景だ」
「お星さまキラキラ!」
「こんな光景、未来にも見せたかったな・・・・」
そう呟いて、響は何か思い出したかのように起き上がる。
「ね、飛鳥も一緒に見ようよ流星群!」
「流星群?」
「うん。今度あるらしいんだけど、飛鳥も一緒に見ようよ!」
目を星のようにキラキラさせながら此方を覗いて来る響。相変わらずこういうお祭りごととなるとテンションの上がり方がまるで子供なところはまったく変わっていない。そのことに安堵しつつ飛鳥も躰を起こす。
「ま、断る理由もないしな。いいぜ」
「やった!じゃぁ約束っ」
そう言って小指を出してくる。飛鳥も響と同じように対照の小指を出し、絡めさせる。日本古来から続くまじない――――ユビキリゲンマンだ。
「ユビキリゲンマン、嘘ついたら、」
「ハリセンボン飲~ます、指切った!…ところでハリセンボンって針千本?ハリセンボン?」
「すこぶるどうでもいい」
「酷い!乙女の純情な疑問を傷つけるなんて…!」
「そーだよ、ひどいよ!」
「こいつらめんどくせぇ…」
でも、まぁ・・・・悪い気はしないな。そう心の中で呟きながら飛鳥は左手の小指を見つめた。
「・・・・リンゴが、浮かんだ、空に・・・・」
「どうしたの?」
「・・・・前もこうして誰かと星を見ていた気がするんだけどなぁ・・・・なんか約束してた気がする」
「ふぅ~ん・・・・さっきの歌は?」
「聴いたことあるけど思い出せない・・・・なんか、こう…そう、懐かしい・・・・ような、切ないような」
ちぐはぐなことを言う飛鳥。ふと脳内に浮かんだ歌と光景。だがそれは酷く曖昧で断片的にしか思い出せないため上手く説明できない。不思議に思う響は首を傾げた。
「・・・・さて、早く帰らないとな。未来も待ってるし、そのこの母親も見つけないと」
「あ、そうだった。お母さんが見つかるまでの間、ちょっと待っててね」
「うん!」
立ち上がり、梯子を降りようと歩き出した瞬間――――突然、悪寒が走る。そして聞こえる雑音。飛鳥は解いていた警戒心を再びMaxまで跳ね上げる。いきなり飛鳥の雰囲気と表情が変わったこと何かあると諭す響。
「・・・・オイオイ、今日は厄日か?」
呟きと同時に、空間に歪が現れ、そこから大量のノイズがあふれ出す。あっという間に何もできずに囲まれる三人。唯一の逃げ道である梯子はすでにノイズにより封鎖されてしまっている。おまけにまだ一時間も経過していない為降りたところでノイズがいる、どのみち逃げ場はない。
・・・・死。その一文字が、響の脳内によぎった。
「・・・・、飛鳥?」
頭に乗せられた温かい感触に響は隣の幼馴染を見る。その顔は――――笑っていた。
「言ったろ?もしもの時は、奥の手を使うってさ。今がちょうどその時だ」
覚悟を決めたように飛鳥は一歩前に出る。そしてそこから中心に向かって歩いていく。反射的に、響は手を伸ばす。まるで、行かないでと縋るかのように。
いや、実際そうだ。そんな顔で、こんなことしてほしくない。やっと会えたんだ。やっと笑顔を見れたんだ。やっと話せたんだ。それなのに・・・・こんなことで、全部失くしたくない!
――――生きることを諦めるな!
いつか聞いたその言葉が、響を動かす。胸に手をあて、深く深呼吸。そして・・・・
〝少女と少年は、歌を歌った〟
♪
反応を受け、現場近くにはヘリが飛んでいる。突如として検出された正体不明の波形とノイズの対処に駆り出された特異災害対策機動部二課の武装ヘリコプター、それに乗り込んでいるのは現在トップアーティストとしてその名を世界にとどろかせる風鳴翼とそのマネージャーである緒川慎二だ。全席についているモニターから、司令部で行っている波形の照合と解析の結果を待つ。
「まさかシンフォギアの反応まであるとは、なにか奇妙ですね?翼さん」
「まぁ…そうでしょうね」
興味ないと切り捨てんばかりの冷たい態度をとる翼。テレビで見るあの可憐な姿からは想像もつかないようなドライぶりにマネージャーである緒川でさえ苦笑してしまう。
そんな中、本部からの結果がこちらの端末にも送信されてくる。一つは、自分も知るもの。だがもう一つに翼は弾かれたように食いつく。
『解析認完了。波形タイプS。カテゴリーEX――――〝エクスカリバー〟。解析完了。〝ガングニール〟』
「そんな・・・・バカな・・・・!?」
静かな驚愕がこぼれた。
後書き
と言うわけで主人公である音野飛鳥のシンフォギアはエクスカリバーに決定。他にも色々と候補はありましたが取り合えず語呂と後の展開を考えるとコレがいいかなと思い採用しました
では、また次回
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