アーチャー”が”憑依
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七話
「……こっちか」
地図を片手に地下深くへと潜っていく。早乙女達に借りたものだが中々どうして、詳しく書かれている。罠の数々だが、最近に発動したと思われる痕跡が残されている。最も、再設置しなおされていたが。発動されても面倒なので辺りに解析を行いながら慎重に進んでいく。
頭の良くなる魔法の本とやらが置かれているとされる場所までもう少しだ。
「あれは……」
開けた祭壇の様な作りの広間に鎮座する巨大な石像。あれには魔法的な力を感じる。それも、覚えのある魔力だ。やはり、間違いない。
「一体どういうつもりなのか、説明してくださいますね」
「ふぉふぉふぉ、ワシが見ているとよく気付いたのう」
響き渡る年老いた声。それは麻帆良学園学園長”近衛近衛門”のものだ。今回の件は、すべてこの男が仕組んだことだったのだ。
「そんなことはいい。何故、このような真似を?」
「最終試験じゃよ、魔法使いとしてのな」
そこからは学園長の思惑が明かされていった。神楽坂と近衛の部屋に住まわせようとしたがそのあてが外れ少々強引に今回の件を起こすしかなかったことなどなどをだ。
だが、ネギが聞きたいことはまだ明かされていなかった。
「何故、一般人を巻き込む様な手段をとったのです」
長瀬等は正直一般人の範疇に収めるのはどうかと思ってはいるが、少なくとも巻き込まれたメンバーの半数以上は特別な力を行使できるわけでもない一般人だ。今回の件、魔法使い達の”魔法を秘匿する”と言うほぼ共通と言っていい思想に大きく反するものだろう。
「さっきも言ったが少々強引に行うしかなくての。何、安全の確保には十二分注意してあるから大丈夫じゃよ」
的外れな回答にネギはこれ以上質問するのをやめた。大体、使うなら多くいる魔法生徒を使えばいいのだ。今回のメンバーに学園長の孫がいることに、くだらない思惑でもあるのだろう。他のメンバーは不可抗力とでもいうのか。本当に、くだらない。
「それでは、私は行きます。皆は発見し次第地上に連れ戻します」
疑問ではなく断定。学園長の了承を聞くこともなく、ネギは床に開いた大きな穴へその身を投じた。
「ここは天国です」
「そうやなぁ」
横になって本を楽しそうに読む少女。
「楓! 見るある!」
「おお~、これは凄まじい水きりでござるな~」
楽しそうに湖で遊ぶ少女。
「あすな……砂糖と塩間違えてない?」
「そんなわけないでしょ! ちゃんと作ったわよ!」
「じゃあ何でこんなに不味いの!」
「知らないわよ!」
何やら料理にいそしむ少女。
彼女達と連絡が取れなくなってからおよそ半日。学園長が安全を確保したとはいえ、無事で良かった。そう、思わなくもなかった。この光景を見るまでは……
「およ? ネギ坊主ではござらんか。一体こんなところで何を……」
長瀬が気配に気づき声をかけてくる。それに反応して他の面々もこちらを向く。皆一様に何故ここに、そんなことを言いたげな視線を向けてくる。つまり、コイツ等は自分達がどういう状況に置かれているのかを全く理解していない。
「全員、こちらへ来て並べ」
「へ?」
「早くしろ!」
今の私は教師だ。説教をするなどあまり柄ではないが、責務は果たす。
「並んだな。では……」
ぱぁん、と乾いた音が六度響き渡る。
「え?」
「は、反応できなかったアル」
一瞬おいて、自分達が頬をぶたれたのだと理解する。最も、何故ぶたれたのかは全く理解していなさそうだが。
「ちょっとアンタ! 何すんのよ!」
「何を、だと? それは此方のセリフだ。お前たちは一体何をしている」
掴みかかろうと伸ばされた神楽坂の腕をつかみ、締め上げる。
「っ!?」
「お前達が起こしたこの行動がどれだけ皆に迷惑をかけていると思っている。いや、迷惑をかけたなど思っていないのだろうな。でなければ呑気に遊んでなどいられるはずがない」
「あ……」
そこで綾瀬と近衛が状況を察したようだ。自分達は図書館島の深部に潜ろうとした。図書館島は罠などが多くあり、危険である。だからこそ地上組メンバーと密に”連絡を取り合っていた”。それが途絶えれば当然、地上組は何か起こったのかと慌てるだろう。
「お前達が遊び呆けている間、クラスメイト達はお前達の身を心配していたよ。学園長が安全を確認している、と言う言葉を聞いたあともな。宮崎なんかはお前達が無事だと聞いたとたん泣き崩れた程だ」
それを聞いてようやく全員が自分達がしたことの愚かさを自覚したようだ。
「すぐにここから出るぞ。言っておくが、お前達は新田先生に厳しく叱ってもらうから覚悟しておけ」
「げっ!」
「そんな~!」
「しゃあない、かな」
「うう、そうですね」
「うう~、説教は苦手アル」
「拙者もでござるな~」
一応、皆を見つける前に辺りを探索して出口は見つけてある。場所を教え、先行させた後で私は……
「腹いせだよ、これはな」
ここに来た時に感じた視線が今は無いのを確認して、生徒たちと共に落ちてきたであろう未起動のゴーレムへと魔法の矢を放ち、破壊した。
『それでは、学年末テスト初日一科目目開始して下さい』
放送を合図に、生徒達は一斉に問題に取り掛かった。
「おめでとう、とでも言おうか? ”ネギ”先生」
「よしてくれ。それに、私がなったのではなく生徒達がしてくれたんだ」
円卓に向かい合わせに座り、茶々丸作の料理に舌鼓をうつ二人。無事に学年末テストを終えた二人はネギの正式な教師就任の祝いを行っているのだ。
「くくく、それにしてもまさか一位をとるとは思わなかったぞ? これでタカミチをいじる材料ができた」
「それに関しては新田先生の力だろうな」
ネギは数日前の事を思い浮かべた。
「お前達は一体自分達が何をしたのか分かっているのか!」
生徒指導室にて新田先生の怒声が響く。間違いなく周囲にも響き渡っているだろう怒声は、生徒たちを委縮させるのにはこの上なく有効であった。
「テストを間近に控えていると言うのにお前達は……佐々木! 聞いているのか!」
「は、はいぃ!」
地下からの脱出ルートにあった長い長い螺旋階段。各所に張り巡らされていた問題付きの岩壁はネギが即答で答えていったものの、鍛えている上に気を使える長瀬と古、そして同じく無意識かつ少量とはいえ気を使っている神楽坂はともかく、それ以外の三人は疲れがたまっているようだ。
「司書が早急に安全を確保してくれたから良かったものの、これほどの問題を起こしたのだ。何のお咎めもなし、とはいかんぞ」
半分はお咎めの部分に反応しているがもう半分は司書の部分に反応している。それもそうだろう、長瀬に事の経緯を詳しく聞いてみたが、彼女達は司書になどあっていないのだから。
「新田先生、折角ですので彼女達には先生特製の補習を受けさせては?」
お咎めなしにはできないとはいったものの、罰を決めかねている新田先生に提案する。これは新田先生がかつてからバカレンジャー等と呼ばれている成績不振者達の事を心配していると聞いたからだ。……他の生徒たちの面倒を見なければいけないためそこまで手が回らない、と言う考えも多分にあったが。
「むぅ、しかし無理やり勉強させるというのは……あくまでも自分から学ぼうとするのが大切です」
「新田先生のおっしゃられることも良く分かりますが、彼女達は”頭の良くなる魔法の本”なんてふざけたものを探しに行ったのです。このまま待っているだけで良い方向へと向かっていくとは思えません」
神楽坂他数名から恨みがましい視線を送られるが知ったことではない。全て事実だ。
「ネギ先生の言うことにも一理ありますな……分かりました。今回の騒動の罰を補習とし、私が監督を行います」
「お願いします。どうか”厳しく”やってやって下さい」
いやあああああああ! とどこからか聞こえた気がしたが、当然無視した。
結果、新田先生の補習により神楽坂達は平均を大きく上げ、また他のクラスメイト達の点数も全体的に右肩上がりとなり、僅差で平均点学年一位の称号を獲得したのだ。
「さすがは麻帆良の鬼、と言ったところか。奴は学園で敵に回したくない人物堂々の一位だからな」
麻帆良にて定期的に行われている無差別アンケートによって張り出される様々なランキング。その中の一つに新田先生は頂点として君臨しているらしい。エヴァ曰く初めて選ばれた時からその順位は不動のものであるらしい。色々とはっちゃけている麻帆良の人間達も、新田先生だけは敵に回したくないとのこと。本当に、凄い人だ。
「正直、あの人ほど生徒達のことを思っている人を私は他に知らないよ」
「ほぅ、貴様の記憶には一人教師の知り合いがいたはずだが?」
思い浮かべるのはブレてはっきりと定まらないとある人物の顔。覚えているのは教師だったことと、とても自分と親しく恩人と言える存在だったことだけだ。自分が恩義を感じていたとはいえ、それだけで優れた人格者だったなどと断定することはできない。
「さぁ、な」
その返答に何を思ったのか、エヴァはそれ以上何も言ってはこなかった。自分がとある目的を抱いてからは、あるのはただ憎悪のみだった。ただ恨み、目的の成就だけを願っていた。だと言うのに、憎悪に染まってから初めて、”エミヤ”は衛宮士郎だったころの事を思い出してみたいと、そう思った。かつての自分を見れば、己の憎悪は激しさを増すだろう。だが、何か救われるものもあるのかもしれない。それは人の一生分とはいえ、守護者の任から完全に解き放たれたからこそ、芽生えた思いだったのかもしれない。静かに、夜は更けていく。
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