アーチャー”が”憑依
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八話
「これでどうだ?」
「イヤ、ココハモットコウ……」
「こう、だな」
「オオ、イイ感ジジャネェカ」
「お前達、一体何をしてるんだ」
大ぶりのナイフを手に楽しそうに雑談する一人と一体に、エヴァはそう言わずにはいられなかった。
「なるほど、チャチャゼロの武器か」
「ケケケ、コイツノ剣ハドレモ最高ダカラナ」
ネギはかつて会得した技術を失わぬために良く剣を振っている。チャチャゼロと手合わせをすることもある。その中でチャチャゼロはネギの剣、干将・莫耶に心を奪われたのだ。
一時はオレニモ寄コセとうるさかったものだ。何とか折れたら消滅するなどのリスクをもって説得したものの、何か代わりを用意しろと言われてしまったのである。
「ふむ、確かに中々見事だな」
エヴァには刀剣の類の知識はほとんどないが、長い戦いの経験がこの武器は良いものだと告げているのだ。
「そう言ってもらえるとありがたい。麻帆良に来てからは初めて鍛ったものだからな」
「お前が鍛ったのか!?」
そう、ネギが変わりを用意しろと言われて選んだのが自身で鍛つことだった。既製品を購入しようとすれば、いいものを見つけるのには相応の時間がかかるし、値段も張る。だが、自分で鍛つとなれば話は別だ。別荘の中には魔力のこもった鉱石等、材料にはもってこいのものも多数見つかったため、利用したのだ。
無断ではあるが、ネギはエヴァに別荘内のものをある程度自由に使用することを許可されているし、茶々丸に一応確認もしたから問題はない。
「今は魔術で微調整中だ」
これまでネギはオーダーメイドの作品を作ったことがない。故に、その本人に合わせる最終的な作業は変化の魔術を利用して後付けで行っているのだ。此方の方が手間がかからないし、久しく使わなかった変化の魔術の鍛錬にもなるため利益は大きい。
「何ともまぁ、多芸なものだな」
「常人より出来ることが多い、と言うのは否定せんさ……っと、これでどうだ?」
「オッ! 完璧ダゼ」
ケケケと笑いながらナイフを振り回すチャチャゼロにネギは満足いった、という顔をする。その顔が、エヴァには職人の顔に見えたとか……
「あれ? ネギ先生?」
「ん? 大河内か」
人が行き交う街の中で、両者は偶然にも顔を合わせた。
「すまないな、付き合わせて……」
「いえ、今日は皆部活で暇でしたし」
大河内のいう皆、とは明石、和泉、佐々木の事だ。この四人はよく一緒に行動している。
ちなみに、プライベートでは先生と言う呼称をつけなくていい、とネギはいったが比較的どころか非常にまじめであるアキラは受け入れなかった。
「あ、これなんかどうですか?」
「置物か……相手は下宿している身だからな、あまり場所をとらないものの方がいいかもしれん」
「そうですか……そうなると、アクセサリーとかかな」
さて、このふたりが何をしているかと言うと絶賛、プレゼント選び中である。春休みに入った今、ネギが麻帆良にやってきて三ヶ月弱程が経過した。丁度いい頃合いだと、幼馴染に手紙と、何か日本で買ったものを送ろうと考えたのだ。そんなわけで、偶然街で出会ったアキラに助力を請うたのである。
「アクセサリーは、こっちみたいですね」
「何から何まですまないな」
ネギは別に女性への贈り物などに全く覚えがないわけではない。この世界にネギとして生を受けてからも、親しいものの誕生日にはプレゼントを贈っている。だが、それは皆手作りのものだった。
無駄に器用な所為か、材料さえキチンとあればそこらの店で売っている者より良いものが出来あがることもある。
だが、今回はその考えを捨てた。幼馴染とは手紙を書く時は修行の成果について書くと約束していた。未だ魔法使いとしての修行が学園から言い渡されない(図書館島の件は認めていない)今、ネギの修行の成果とは教師としての労働に対する給料に他ならないからだ。
「腕輪にネックレス、指輪もあるけど……」
「ふむ、比較的邪魔にならないネックレスが妥当か」
アキラはネギから聞いた色でたとえるなら赤、といったヒントを頼りに何かいいものがないかを探していく。そして、探し始めて五分ほどすると、一つ目にとまったものがあった。
「先生、これなんかどうかな?」
「どれ」
自分の物色を中断し、アキラが手にとったものを受け取る。円の中に正三角形を二つ重ねた六芒星があり、三角形の重複部分である六角形部に紅い石がはめ込まれている。
「これは良さそうだ。礼を言おう」
「え、いえこれくらいなら別に」
自分が見つけたもので即決してしまったネギにアキラは少し戸惑うが、礼を受けとった。
「そうだ、今日の夜は何か予定はあるか」
「いえ、特には」
あえて言うならゆうなが今日は部活仲間と晩御飯を食べるとのことで自分が一人になってしまい、外食でもしようかと思っていたぐらいだ。
「今日の礼に晩御飯をごちそうしようと思うんだが、構わないか? 丁度今日の晩御飯は私が担当だしな」
「いいんですか?」
ネギが料理をする、というのにも驚いたがこの質問は同室の者達に許可をとらなくていいのか、というものだ。
「何、私が作るのだから、文句は言わせんよ」
「分かりました、ごちそうになります」
一瞬、断ろうかと思ったアキラだったが断るのも悪いし、普段あまり話さないクラスメイトと話すいい機会かもしれないと、ネギの申し出を了承した。
その日の晩御飯は人数が増えたことでおかずも一品増え、生徒三人は非常に満足したものだったと言う。
「む?」
「え?」
新学期まで後数日。これから一年間世話になるだろう教室の掃除でもしようかと学校に訪れてみると、席に座る一人の少女がいた。ただし、その少女は……若干透けていた。
「と、言うわけなんです」
「なるほど、な」
話を聞くに、この少女は数十年前に何らかの理由で死を迎え、それから今まで幽霊として過ごしてきたらしい。それも運の悪いことに……場合によっては良かったのかもしれないが……隠密性が高く、誰にも気づいてもらえず寂しい思いをしていたと言うことだ。
「私に気付いてくれたのは、先生だけなんです! 本当に寂しかったんですよー!」
「気持ちは分からんでもないが泣くんじゃない。これからは話し相手ぐらいにはなってやれるからな」
本当ですかー!? と今度はうれし涙を流す幽霊少女……相坂さよを適当にあしらいながら思考にふける。名前を聞いて思いだした事だが、彼女はれっきとした2‐Aの生徒だ。学生名簿にもちゃんと載っている。これだけでもまぁ問題なのだが、さらにそれに拍車をかけるのが名簿に書かれたタカミチからの言葉「席、動かさないこと」これだ。これのせいで、学園は相坂の存在を知りながら放置していたと言う証明になってしまう。
タカミチが彼女の存在を知っていて書いたのか、それとも学園長に指示されたことをそのまま伝えたのかは知らないが相坂を放置したということには変わりない。
「先生、私の話聞いてます?」
「ああ、聞いているよ」
少し怒ったような、それでいて不安そうな声をかけてくる相坂に、私は考えるのをやめた。とりあえずは、この少女の相手を務めるとしようか。
「すまないな、掃除を手伝ってもらって」
「いえ、元はと言えば私が話し続けてしまったからですし」
相坂の話がひと段落した所で、私は当初の目的である掃除を始めることにした。相坂は私も手伝います! と言ってくれたわけだが、幽霊に出来るのかという当然の疑問を問いかけてみたが、相坂は感心するほどに洗練されたポルターガイストで窓拭きを担当してくれた。おかげで予定していたより速く終わった。
「それより、本当にいいんですか?」
「構わんさ、放っておくわけにもいかんしな」
現在は相坂を伴って寮へと帰宅中だ。相坂がこれまで寂しい思いをしていたのが学園のせいであるなら、それに対処するのも学園に所属する私の役目だろう。彼女は私の生徒でもあるからな。それに、刹那と真名ならば、ここに相坂が存在すると教えてやれば視認できるようになるだろう。 二人とも友好的とは言い難い部類ではあるが、悪い子ではない。相坂と友人になってくれることを、ひそかに期待した。
「…………」
「…………」
「……ネギ先生?」
一匹の猫と見つめあってからおよそ10分。さすがに耐えきれなくなったのか、茶々丸が声をかけてきた。
「猫に餌?」
「はい、よろしければ先生もご一緒にいかがかと」
今日も今日とてエヴァとの修行をこなし、夕御飯の準備には早く、かといってこれから新たに何かをするには遅い……茶々丸が声をかけてきたのはそんな時間だった。内容としては散歩がてらに野良猫達に餌をやりにいかないかと言うものだった。別段動物が好きと言うわけでもないが、普段あまり自己主張等をしない茶々丸からの折角の誘い……断る理由は無い。
「ああ、行くとしよう」
「それでは早速」
こうして、猫の餌を手に茶々丸が何時も行くと言う広場に向かったわけだが……
「おかしいですね」
猫が一匹たりとも現れなかった。普段なら自然と姿を現すとのことだが、今日に限って、だ。私がいることに警戒したのではないか? という意見は茶々丸に否定された。何度か子供たちを伴って餌をやったことがあるからそれはないのでは、とのことだ。
それからしばらく待って、現れたのが真白い一匹の猫だった。茶々丸曰く、ここらの猫のまとめ役のような存在らしい。その猫は私の前にくると、黙って見つめてきた。それに返して、私も猫を見つめ返した。
「らちがあかんな」
「一体どうしたのでしょうか……」
白い猫は茶々丸がいくら声をかけてもピクリとも反応しない。ただ黙って私を見つめてくるだけだ。変化の無い状況にオロオロし始めた茶々丸を救うべく、私はゆっくりと猫に手を伸ばした。
「……!?」
野良にしても過敏すぎる反応で猫が後ろへ飛びずさる。尾と毛を逆立てて、警戒していることを全身で表現している。なるほど、やはり私が原因だったか。ますますオロオロし始める茶々丸をいさめ、一歩猫へと近づく。
「……!?」
猫は動かず、さらに毛を逆立て今度は鳴き声を上げて威嚇をしてくる。それを見て、私は常に行っている”周囲への警戒”を解いた。
「……?」
猫が呆気にとられたような顔をする。どうやら、予測通り私が常時行っている警戒が、猫達に恐怖心を抱かせていたようだ。もう一歩歩み寄り、猫に手を伸ばす。
「……!」
一瞬身を強張らせたものの、今度は飛びのいたりすることは無かった。そのおかげで、私は猫の頭を撫でることができた。
「……」
完全に警戒心を解いてくれたのか、私が撫でるのを気持ちよさそうに受け入れてくれている。やがて、猫は私の手から逃れると、茂みの中に入って行ってしまった。
「ネギ先生」
「大丈夫だ」
しばらく待つ。すると、先ほどの白猫が入って行った茂みから多くの猫が現れた。どうやら先ほどの猫は代表として私を伺いに来ていたようだ。
「みゃあ~」
「君か」
足元に、白猫が来ていた。私の足に体を擦り付ける様にしている。さっきは悪かったとでも言っているのかもしれない。
「ネギ先生、餌を」
「そういえば、そうだったな」
当初の目的を思い出し、茶々丸から餌を受け取り足元の白猫に与える。問題なく食べてくれている所を見るに、もう心配はないようだ。
この日から、ネギは茶々丸とよく猫の餌やりに行くようになった。
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