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アーチャー”が”憑依

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六話

「…………」

2-Aの本日最後の授業である英語を早めに終わらせたネギは、椅子に座ってクラスの様子を確認していた。

「今日の晩御飯なにー?」

「うーん、からあげとかどう?」

「さんせーい!」

「それでさ、駅前の喫茶店のケーキがすごくおいしくてさー」

「えー、私も行きたーい!」

「今度皆で行こ!」

活気に溢れるいいクラスだ。多少の例外はあるが、クラスは笑顔に溢れている。だが、ここ一週間程観察してもついぞ現れなかったある話題を、ネギは皆に振ることにした。

「皆、少しいいか?」

基本ネギは必要以上の事を自分から話すことは無い。聞かれれば可能な限りは答える、というスタンスを取っているため、今回のネギからの呼びかけに興味津津と言った感じでクラスは静まってくれた。

「私はこの一週間、君達を他クラスと比較しながら観察してきた。結論として、君達と他クラスでは決定的な違いがあることが分かった。何か分かるか?」

クラスの者達は近場の席のもので相談するが答えは中々出てこない。自覚がないとは、少しネギも驚いた。

「質問を変えよう。既に終わろうとしている今週だが、今週は普段の一週間とは違うはずだ。それは何だ?」

「んーと、部活がなかった?」

「佐々木、それも関係あるから間違いではない。質問を付け足そう。何故、部活がなかったと思う?」

「それは……」

既に気付いていたものが半数強。そして今気付いた者が約十人。そして、未だ気付かないものが数名。

「そう、今週がテスト週間だからだ」

顔から血の気が引いていくものが何人か。主に赤いのと青いのと黄色いの。

「中にはキチンと勉強している者もいるだろう。だが、教室で全くその話題が出なかったことには正直驚いた」

「まぁ、うちはエスカレーター式だからねー」

そういう意識がダメなのだが、全く自覚できていないようである。タカミチは一体何を教えてきたんだ。

「確かに、エスカレーターのため身が入りにくいと言うのもあるだろう。だが、見習いとはいえ私は教師だ。黙って最下位等と言う不名誉な称号を受けさせるわけにはいかない」

正教員であるタカミチが出来なかったことが出来るわけがない、と言い訳も出来る。だが、自分は普通ではないし、教師となったからにはその責務を全うすべきだろう。

「幸いなことに、私は女子寮に住んでいる。一つのクラスに傾倒しすぎるのはよくないが、そこは見習いということで納得してもらおう。私は今日からテストまでの間、出来るだけ寮のロビーにいることにする。質問があるものは聞きに来てくれ。英語以外でも構わん。それと……」

授業始めに持ってきていたプリントを皆に配布する。

「今回の英語のテスト範囲の要点を纏めたものだ。これを見てしっかり勉強するように」

「「はーい」」

さて、これでしっかり取り組んでくれるといいんだが……何か嫌な予感を感じながら、その日の業務を終えた。





「ネギ先生、ここなんだけど……」

「ああ、これはだな……」

その日の夜、早速何人かの者達がロビーにいる私の元を訪れていた。大河内に和泉、那波に雪広、少々強引に連れてきた真名に刹那等、比較的真面目な者たちだ。

「それにしても、ネギ先生がわざわざおっしゃって下さったのに、これだけしか来ないなんて……」

「ゆーな達は後から来るって言ってたけど」

まぁ、来てくれただけ良い方だろう。突然真剣に取り組めと言われても、早々出来るものではない。

「ネギ先生、ここえーか?」

「ああ」

出来れば、この行動が結果に繋がってくれればいいんだが……しかし、現実は厳しいものでネギの知らぬ所で大きな問題の種は着々とその芽を伸ばしていた。



「ネギ先生! 皆が図書館島で行方不明に!」

「「ええー!?」」

今朝方渡された最終課題に続いてこのトラブル。ただえさえ低かった運が拍車をかけて悪くなっていっている気がする。ネギはため息を抑えることが出来なかった。

「それで、詳しく話してくれ」

何とか慌てる宮崎のどかと早乙女ハルナを宥め、詳しい事情を尋ねる。しかし、その内容がまたネギに頭痛をもたらした。曰く、――クラス解体、小学校からやり直し。――頭の良くなる本が図書館島に! と、言う二種類の噂。それがこの騒動の原因であった。

「いくら私立といえど、小学校からやりなおしなんて暴挙がまかり通る筈がなかろうに……」

「え? あー、確かに」

常識的に考えて無茶な内容であるそれも、麻帆良と言う理由で無茶ではないと言う意識が生まれる。
学園に施された大規模な認識阻害の結界の影響だ。多くの魔法使いが活動する場においては必要なものなのかもしれないが、こうやって常識を欠如してしまうほどの強さはいささか問題であろう。

「……私はこの事を学園長に報告し、指示を仰いでくる。皆は自習をしていてくれ」

「で、でも! 学校に知らせたら明日菜達が!」

当然、罰を受けるだろう。だが、それもいたしかたない事だろう。

「それに、先生も最終課題があるんでしょ! もしコレの所為で不合格なんてことになったら!」

「最終課題? 一体何のことですの!?」

不味い事になった……今朝方渡された最終課題。2-Aを最下位から脱出させると言う内容までは見られていないものの、それを渡された事自体は何人かの生徒に目撃されてしまっている。この時ばかりは付近に生徒がいたと言うのに無造作に最終課題を渡してきたしずな先生を恨んだ。

「先生になるための最終課題!? ああ、こんなときに明日菜さん達はなんてことを!」

案の定、最終課題の存在を知ったことで生徒達が騒ぎ出した。普通に声をかけた所で、この騒ぎはおさまらないだろう。仕方なく威圧をかけながら声を出そうとするが、ここで救いがやってきた。

「2-A! 一体何を騒いどるんだ!」

新田先生。その威厳ある叱責に、喧騒に包まれていた教室が一斉に静まりかえる。

「ネギ先生、これは一体どうしたのですかな?」

ここ最近は比較的静かであったのに、と言う声とともに此方にやってくる新田先生。丁度良い、学園長だけでなく、ベテランであるこの人の力も借りるとしよう。

「どうやら、生徒数名が昨夜の内に図書館島で行方が分からなくなったようです。今から学園長の指示を仰ぎに行こうと思っていたのですが、ついて来て頂けますか?」

「行方不明!? それもよりにもよって図書館島で! 分かりました、直ぐに学園長に報告しましょう」

先に教室を出る新田先生に続く。不安そうに見つめる生徒達に

「ちゃんと自習しているんだぞ」

と残して。



「学園長、直ぐに捜索を開始すべきです!」

「私も一度だけ訪れた事がありますが、あそこには正直度が過ぎる罠がありました。何時間違いが起こっても不思議ではありません」

直ぐに行方の分からない生徒たちを捜索すべきだと新田先生と主張するが、どうにも様子がおかしい。行方不明の生徒の中には学園長の孫も含まれている。だと言うのに、学園長からは全く焦りの色を感じない。ここに来て、この事件が一気に胡散臭いものに感じ始めた。

「そのこと、なんじゃがのぅ。実はもう生徒たちの安全は確保できておる」

「それは本当ですか!」

安全確保の言葉を聞いたとたん学園長へと詰め寄る新田先生。本当に、教師の鏡だ。それに対して、目の前にいる”魔法使い”は……

「うむ、昨夜の内に司書が安全を確保。今頃は特別反省室でこってり絞られてる筈じゃ」

罠だらけかつ複雑な作りをしている図書館島でこうも迅速な対応、そして、安全を確保したと言う結果。ここまで上手くいっていると、逆に怪しさが増すというものだ。それに、新田先生の相手をしながらも、学園長の意味深な目線が此方を見つめている。

「………………」

つまり、はそういうことだ。ああ、気にくわない。 
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