アーチャー”が”憑依
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幕間
その1 異常気象
「ネギ先生、お茶です」
「すまんな、絡繰」
「先生、今は私的な時間ですので茶々丸で構いません」
「そうだったな、すまない」
「謝る必要はありません」
僅かに頬を緩ませる茶々丸。茶々丸は人間では無い……簡単に言ってしまえばロボットだ。故に笑うと言うのはありえないのかもしれない。だが、それでも私は茶々丸が笑っていると、そう感じた。
「って、お前らは何をいい雰囲気を醸し出してるんだ!」
「む? いたのかエヴァ」
「いたに決まってるだろう! それよりエミヤ、貴様今日は釣りに行くと言っていなかったか? デカイのを釣ってふるまうともな」
確かにそう言った。つい先日自分で言ったことだ、忘れるはずがない。だが、考えてもみてくれ、今日は……
「嵐だぞ?」
「分かってるさ! だが、何でこんな季節に嵐が起きるんだ! おかしいだろう!」
「一般人には魔法より異常気象の方がまだ受け入れられるさ。案外、これも魔法使い同士の戦いの余波かもしれんぞ?」
「そんなわけあるかー!?」
その頃、日本から南東の太平洋上。
「俺は、貴様を倒してアイツの所へ帰る!」
「ハハハ! 私は貴様を踏みつぶし、世界を手に入れる!」
荒れる海の上、漆黒のマントを身に纏う男と光り輝く鎧を身に付けた男が対峙していた。両者の体からは吹き出す様に魔力があふれている。
「いく、ぞおおおおお!」
「かかって、こいやあああああ!」
魔力で覆われた二振りの剣が、衝突した。
「あーあ、いい年してヒーローごっこなんかしちゃって」
「勇者ごっこ、らしいよ?」
「どっちも同じよ」
「そうだね」
激しくぶつかり合う両者を遠くから眺める女性。二人は長い杖にまたがり愚痴に聞こえなくもない言葉を発している。
「あ、接近する魔力反応あり。結構速いわね、そろそろトンズらしなきゃマズイわ。あいつ等止めて」
「お~け~。雷の暴風~」
「「ぬわーーーーーーーーーー!?」」
「よし、回収して逃げるわよ」
女性はそれぞれ一人ずつ抱きとめ、すぐさまその場を離脱した。ほどなくして、異常気象はおさまったという。
その2 憧れ
「…………」
カリカリ、と言うペンの動く音だけが辺りに響く。現在、2-Aは英語のミニテスト中だ。担当教員であるネギは何をしているかというと……
「ふむ」
読書をしていた。ほんのタイトルは、”世界の名剣大全集”。本と言うよりは図鑑に近い代物である。
「あの、ネギ先生」
「ん? 綾瀬、何か質問か?」
「いえ、そうではないのですが……何を読んでいるのか少し気になったもので」
そう言われたネギは本のタイトルを生徒たちへ向ける。
「今は丁度カリバーンの所だな」
「カリバーン……確かアーサー王が岩から引き抜いたと言う剣でしたわね。ネギ先生は英国出身、やはりアーサー王はお詳しいのですか?」
「よく知っているな雪広。まぁ、それもあるが、アーサー王は憧れだよ。私の、な……」
どこか憂いを帯びた顔に、生徒達は見とれてしまった。この時のネギの顔はとても10歳の少年には見えなかったという。
「それより、残り時間は3分だが、皆終わったのか?」
「「あー!?」」
優秀な者達はともかく、あまり成績がよろしくない者達は急ぎ残りの問題に取り掛かる。その様子を見るのもそこそこに、ネギは窓の外を仰ぎ見る。
「アーサー王、か……」
その呟きは、鳥たちの囀りの中に消えた。
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