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神葬世界×ゴスペル・デイ

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第一物語・後半-日来独立編-
  第七十三章 終息へ向かう時《1》

 
前書き
 幾度となく竜神への接近を試みたセーラン達。
 その戦いは何時になったら終わりが見えるのか。
 お急ぎスタート。 

 
「負傷はしていないな」
「ああ、平気だ。状況は竜神が有利っぽいな」
「急に活性化しだした。本当にやれるのか」
 疑いの言葉が吐かれた。
 信じる価値があるのかと見定められているようで、事態が事態なために当然だとセーランは思う。
 今の自分では竜神に確実に勝てる確率は低い。ただ竜神を負かせる確率もあるため、他の誰かが竜神を相手にするより適任だ。
「現時点で言えることはやれる半分、やれない半分の五分と五分ってとこだ。能力の扱いに慣れれば心配はいらねえんだけどな」
「心配だな」
「しょうがねえだろ、神相手なんだ無茶言うな。お前達が相手するより黄森長助ける可能性は高いだろ」
「それもそうだな。すまない、身を弁えていなかった」
 頭を下げる繁真を見て、慌ててセーランは顔を上げるように指示した。
「そうぺこぺこされるとかえって面倒事になるから頭上げろって。別に攻めるために言ったわけじゃねえよ」
「全てはお前に懸かっている。せめて黄森へ撤退する時間は稼いでくれ」
 最悪、長を戦闘艦に運び、黄森の地で竜神を迎え撃つということになり得る。
 黄森全土を危険に晒す行為だが、自分達の地域なために自由の幅が格段に広い。朱鳥天へ援護を頼み、対神兵器を用いて撃退する。
 だがなるべく辰ノ大花で事態を収めたいのが本心だ。
「了解。しかし俺の知ってる宿り主はこんなんじゃねえんだけど、何が違うのかねえ」
「確かに宿り主と言えば世界を揺るがす程の力があると聞く。今のお前は宿り主と言ってもただ能力がずば抜けているだけだ」
「だよな、なんか覚・醒! みたいなもんあるんのかね」
 特撮ヒーロー系の変身ポーズをしてみたセーラン。だが意味が通じていない繁真は首を傾げただけだ。
 妙な間に咳払いをし、空気を断つセーラン。
 話しをずらしたのか元に戻したのか、拾うように竜神を話しに持ち出す。
「結局はやることは変わらねえんだ。このまま俺は竜神を相手にする」
「援護にしたいのはやまやまだが、拙者は仲間の元に……」
 繁真の視線が動いた先にセーランも視線を動かし、目を凝らして地上を見た。
 見えるのは規則正しく停泊している戦闘艦の群れ。
 そのなかには黄森の長の姿も見えるが、それよりも先に目が行ったのは甲板に倒れ込む黄森の女子学勢。目の前にいる学勢と共に居た学勢だ。
 繁真が心配の目差しを送っている。
 女子学勢の口元は赤く染まり、負傷しているのは間違いなかった。
 助けたいという思いが込み上げてくるが、自分がなすべきことはなんなのかと考え、思い止まった。
「すまねえ、仲間傷付けちまった」
「戦いにおいて負傷は付き物。理解していない者ではない」
「竜神片付けてから手当てしてやる。応急措置ぐらいは出来るな」
「ああ。ではまた会おう」
「気を付けてな」
 これを期に会話は終了し、これまで以上の速度で駆け出した繁真。
 仲間を思う気持ちは人一倍なのだろう。
 残されたセーランも一呼吸した後。
「奏鳴が待ってんだ。……やってやる」
 誰かに向かって言ったのではない。
 独り言のような言葉。
 奏鳴のためにも竜神にやられるわけにはいかない。
 小さな決意に呼応するかのように、微かに光る憂いの葬爪に気付かないセーランも繁真に続いて地上を目指した。
 宿り主としての力の使い方を知らない。
 自分もまだまだなのだと思いながら宙を行く。
 そしてその場に誰もいなくなり、それぞれが目的の場所へと近付いた頃。空がうるさく音を奏でる。
 違う。空が奏でているのではなく、活性化した竜神の甲殻が破裂している音だ。
 竜神の身体が自身の活性化によって耐えられず、存在が崩れ始めている。
 黄森にとっては好機だ。時期を待てば竜神は消滅するのだから。
 かえってセーランにとっては、肝心の奏鳴の流魔が吸収出来無いのだから急がなければならなくなった。
 自身の身体が傷付こうとも、狙いは央信であることを変えてはいない。
 周囲に展開された防御壁を全身を使い打ち砕き、最後の接近を行った。
 戦闘艦は長への進行を防ごうと、砲撃や防御壁を展開し、副砲さえも射ち鳴らす。
 直撃するものは幾つもあり、進路を塞ぐ防御壁も少なくはなかった。しかしそれをもろともしない竜神が勝り、央信への接近を許してしまった。
 誰かなんとかしてくれ。
 何処の誰が思ったのかその思い。
 応えるものは誰なのか。
 日来か辰ノ大花か黄森か、国か世界か。それとも神なのか。
 いや、そのなかに人は含まれていたのか。
 重なり合うように二人の者達が、一瞬の間に行動を起こした。



 双角を持つ甲殻系魔人族が竜神の前に立ちはだかる。
 地上からの跳躍で竜神と対等の高さに達し、魔人族はにやりと笑うように口を曲げる。
 動じる様子は無く、むしろ喜んでいるように思えた。
 跳躍から落下へと運動が変わる際、表示した足場に着地し待ち構える。
 身体が武者震いから、感情と共に奮えている。
 久し振りの後に引けない戦いが、彼の闘志をたぎらせた。
「いいね、いいねえ! すっげええいいねえええ――!!」
 甲殻系魔人族である天桜学勢院の制服を身に付ける、朱色の甲殻を持つ天桜覇王会隊長、九鬼・玄次郎が叫んだ。
 好戦的な玄次郎にとって強敵を目の前にすることは最高の幸せであり、自身の力を存分に発揮出来る機会と対峙する瞬間でもある。
 魔人族は他の種族とは身体能力が優れている点が多く、それゆえに並大抵の相手でない限りは手加減をしなければ重傷を負わせてしまう。
 再び言うようだが玄次郎は好戦的だ。
 そのため不用意に相手に重傷を負わせ、戦えなくするのは彼にとって戦いという幸せを奪うということだ。
 だから玄次郎は普段は自身の力を制御し、“これくらい”という感覚で力を振るう。
「毎日毎日、力制御してて苛々してたんだ。けどよお、テメエ相手なら本気出してもいいよなあ――!!」
 玄次郎の背後に足場が幾つも表示される。
 足場によって宙に出来た道の先端に玄次郎は立ち、利き手の右腕に力を込める。
 朱の甲殻が力を入れる度に黒く、名に入っている玄と化していった。
 揺らめく陽炎が現れ、体温の上昇を表した。
 右腕全体が黒に染まる時、竜神が目の前までに進行していた。絶好の攻撃機会だ。
 馬鹿正直に突っ込んで来た竜神に黒い一撃を放った。



 それは玄次郎が跳躍し、視線の高さを竜神と同じぐらいにした頃。
 立体的に移動をしていた一人の人族が、戦闘艦の甲板上に膝を着いている央信の元へと向かった。
 重力を感じさせないような機動。
 障害物があるならば飛び越えるか避けるか、地を駆けていると思ったら急に宙へ跳び、加速系術を用いて大跳躍を行ってみせた。
 更に驚くのはその速さだ。
 加速系術を使っているとはいえ、立体的な機動を取っているのに減速せず、逆に加速し続けていた。
 視線が央信を確かに捕らえた時、竜神を目の前にした玄次郎が打撃を放った。
「――ンのやろ! 後ろに長がいるだろうが!」
 注意の行き届かない先輩だなと思いつつ、玄次郎の拳が竜神へ当たるまでの数秒間。
 天桜覇王会副隊長である日々日・王政の顔の横に、灯火-トモシビ-と映る映画面|《モニター》が表示された。
 それは王政が扱う創作系術であり、名の如く灯すように王政の足元に映画面が現れ、照した。
 能力の発動は二パターンある。
 一つは灯火-トモシビ-を直接身体に対し使うか。もう一つは現れた灯火-トモシビ-に触れるかだ。
 灯火-トモシビ-の能力自体は単純なものだ。
 灯しの火に触れた箇所の身体能力強化。
 ただこれだけだ。
 端から見れば単なる身体強化に過ぎないが、他と違う点は一度発動したら更に同箇所に重ね掛け出来る。最大の特徴としては強化の上限が無いということだ。
 基本的な身体強化は対象者が扱い切れない程の力を対象者には与えない。あくまでも扱える範囲内での身体強化に過ぎない。
 かえって王政の灯火-トモシビ-には身体能力の対象者が王政のみで、能力の発動に条件はあるものの身体の強化に上限が設定されていない。
 これは自身の限界以上の力を扱えるということであり、人族である王政にとっては強力な系術に感じられる。
 創ったはいいものの、いまだ使い慣れていないが上手く扱えるようになれば、生身で騎神を相手に出来ると理論上答えが出されている。
「重ね掛け五十!」
 言う王政は足元に現れた灯しの火を踏み、瞬間に王政の姿が残像を残さず消えた。
 灯火-トモシビ-による脚部の強化である。
 足場を踏み込み、前へと前進する力が数十倍にも跳ね上がり、常人ならば視覚困難の速度に達した。
 王政はたった一踏みだけで、開いていた央信との距離を縮めてしまった。



 僅かな時間に黄森の二人は最良の結果を残した。
 まずは後から行動したのにも関わらず、見事に央信の元へと辿り着いた王政だ。
 すくうように片腕を広げ、速度を殺さずに央信を回収した。
 央信本人は自分へと近付いてくる王政を目で捕らえてはいたが、如何せん身体を支えるだけでも精一杯だったために人の手を借りる事態となってしまった。
「すまない、王政」
「別に謝んなくていいっすから。結局は黄森の負け、つまりオレ達覇王会面々にも責任はあるっす。一人で抱え込まないでくださいよ」
 肩にぶら下がるようにして、背に顔を向けている央信は鼻で笑った。
 これで黄森は長を遠く安全な場所へ運ぶことが出来る。忘れてはいけないが、まだ事態が解決したわけではない。
 無事、王政が央信を回収した時。目の前の竜神へ打撃を放った玄次郎の拳がぶつかった。
 体格差から見れば竜神の方が圧倒的だが、戦いにおいて体格差は誤差の範囲内でしかない。
 むしろ玄次郎にとって体格の違いなど関係無かった。
 表示された足場を滑るように、始めは玄次郎が押されていたが。始めは、の話しだ。
 徐々に足場を滑る玄次郎が減速するかのように、滑りにムラが出てきた。
 摩擦の強弱があるみたいに、ある場所では速く、またある場所では遅くを繰り返し、最終的には一寸たりとも動かなくなった。
「竜神はどんくれえの強さかなんて期待してたが、おいおい幻滅させんなよ。百メートルも進んでねえじゃねえかよ!」
 他の種族と見比べて、体格の大きい玄次郎の腕は竜神から見れば小枝に等しい。
 それなのにたった腕一本。小枝程度の太さの腕で止められた。
 玄次郎が拳を放った竜神は本体の意思の一部でしかなく、本来の竜神とは力量に天地の差があるものの、人類にとってはそれでもかなりの強敵となりうる。
 セーラン、繁真、清継。更に付け加えるのならば戦闘艦が相手になっても手を焼いたのがその証拠だ。
 しかし今回竜神の相手になった玄次郎はたった一人で、竜神の進行を受け止めた。
 まさに黄森を象徴する力であろう。
「活性化しちゃあいるが動きが野生の獣よりも下。馬鹿みてえに一直線に突っ込んでくる大馬鹿野郎だぜえ」
 神を馬鹿にし、既に勝ったことを確信した玄次郎は右腕とは反対の左腕に力を込める。
 右腕同様、力を込めた左腕が徐々に朱から黒へと変色していく。
 陽炎が立ち初め、揺らぐのを確認すると。
「見せ場はテメエにくれてやるよ――」
 竜神を上へと突き上げるように、無惨に傷付いている顔を左の拳によって打ち上げた。
 衝撃が音になって皆に伝わり、砕けた甲殻が落ちるのと反対に、竜神自身は顔を始めとし身体が天へと上がった。
 さすがに幾ら強烈な打撃を打ち込んでも、巨大な竜神を数メートルうち上がるのが精一杯だ。
 けれどそれで良かった。
 言葉を紡ぎ、
「日来長!」
 天を見上げる玄次郎の目に映る、高い場所にいる日来の長。
 右腕の青い、人外の腕が流魔の光を放っている。
 見るや否や直感というもので玄次郎は、右腕の力を感じ取った。面白い、そう思ったのは強敵になりうる存在を目にしたからか。
 いずれにせよ、何時かは手合わせ願いたと思った。
「そりゃあありがてえなあ!」
 振りかざす憂いの葬爪は竜神の顔面に狙いを定めた。
 打撃の衝撃で動きの取れない竜神は避けることが出来ず、落下してくるセーランをただ見詰めるだけだ。
 どうにか動こうとする竜神だが結局は震える程度でしか身体は動かず、玄次郎による打撃とセーランによる攻撃を立て続けに受けることとなった。
 憂いの葬爪を振り下ろし、竜神の顔へ爪を突き刺した。
 甲殻は砕け、宙に散る。
「イメージすれば力になる……イメージすれば力になる……」
 呪文のように唱える。
 暴れ出したならば身動きが取れなくなる。
 ゆっくりしていては竜神にペースを持っていかれてしまうので、決めるならばこの一回のみ。
 幾度も訪れた機会。
 もしこれが最後ならば、もう無駄には出来無い。
「流魔全部吸収してやるよ! 竜神だろうが神だろうが戦うなら全力もって勝ちにいく。日来の覚悟ナメんなあああ――!!」
 渦に巻き込まれる水を想像し、渦に自分、水に流魔を当てはめる。
 吸い込むように水を巻く渦。
 単純で強力な想像。他にもセーランの意思の変化もあってか、早くも現実空間に具現化した。
 光る憂いの葬爪は活性化の証拠だ。
 目に見えている竜神の身体が微かに薄く、淡い存在となっていく。
 放たれる流魔光のしぶきが吸収の激しさを感じさせ、その場にいた玄次郎にある感情を呼び起こした。
 コイツは何時か化ける。
 興奮という名の恐れ。玄次郎以外ではなく、今のこの状況を見た実力者ならば思った筈だ。
 宿り主を無しにしても、蓋を閉じた底知れぬナニカ。そのナニカが現状解らないのも恐れの一つの原因か。
 なんにせよ見れば分かる。
 彼も自ずと踏み込んでくる、実力者達の世界に。 
 

 
後書き
 久し振りの登場の玄次郎君に王政君。
 彼らの登場により事態が急速に進みましたね。
 玄次郎君なんて素手で竜神圧倒しちゃうとか、どんな化け物なんだって話しですよ。
 一方の王政君は創作系術で央信を救出していましたね。
 まだまだ若い彼らですが、セーラン達が強くなるにつれて彼らもまた強くなっていくことでしょう。
 未来がありますからね。
 では今回は短めに、去らば。 
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