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久遠の神話

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第百話 加藤との話その九

「食べなさいね」
「うん、わかったよ」
「あとスープとね」
 息子にさらに話した母だった。
「お野菜もあるから」
「お野菜は何なの?」
「八宝菜よ。ついでに言えばスープはニラとか入れた中華風よ」
「中華なんだ、今日は」
「スーパーに行ったら餃子が安かったのよ、お野菜もね」
「それでそうしたお料理にしたんだね」
「そうなの、じゃあ一緒に食べましょう」
 その為にだ、今まで息子を待っていたというのだ。
「お父さんももうすぐ帰って来るわよ」
「それじゃあ」
「お父さんは先に食べてくれって言ってたから」
「じゃあ僕達だけで」
「餃子は今焼けたところよ」
 実は上城は家に帰る前に母に携帯で連絡をしていた、そこから焼いたのである。
「だからね」
「熱いうちに食べないと美味しくないから」
「そう、早く食べましょう」
「わかったよ。それじゃあね」
 上城は母の言葉を受けてだ、そのうえでだった。
 すぐに私服に着替えてテーブルに着いた、そうして二人で向かい合って夕食を食べながら母にこんなことを話した。
「やっぱり家族っていいよね」
「どうしたの、急に」
「いや、ちょっとね」
「ちょっと?」
「うん、知ってる人がまた妹さんと一緒にいられる様になってね」
 中田のことを話すのだった。
「ご家族ともね」
「あら、何かあったのその人」
「ちょっとね」
 戦いのことは言えなかった、母にそのことで心配はかけたくなかった。それであえて中田の名前も出さずに話すのだった。
「色々あって」
「それでなのね」
「うん、ずっとご家族と離れ離れだったんだ」
「それがなのね」
「やっと一緒になれて今妹さんと一緒におられるんだ」
「いいことね、一人だとどうしてもね」
 どうかとだ、母は自分の八宝菜を食べながら息子に話した。
「寂しいのよ」
「そうみたいだね、その人もずっとご家族とまた一緒に暮らしたいって言ってたよ」
「それで遂にその願いが適ったのね」
「そうなんだ。とても嬉しそうだったよ」
「いいことね」
「本当にね」
「人は一人だとね。お母さんもね」
 自分にしてもだとだ、我が子に話していく。
「寂しかったわ、一人暮らしは」
「そういえばお母さんってこの街に一人で出たんだったね」
「進学を機にね。大学の頃からよ」
「新潟の実家から出て」
「最初は寂しくてずっと夜は泣いていたのよ」
 ホームシックだ、それにもなったというのだ。
「けれどお父さんと知り合ってね」
「それでお父さんと一緒になってなんだ」
「寂しくなくなったわ。特にあんたが出来てから」
「僕がなんだ」
「賑やかになったわ」 
 今夫である人と一緒になり寂しくなくなりだ、そして息子が生まれて賑やかになったというのである。そうなったというのだ。
「だから出来ればね」
「出来れば?」
「もう一人欲しいわね」
 笑顔での言葉だった、食べながらの。 
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