| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

久遠の神話

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第百話 加藤との話その七

「それまでだったな」
「あれが中田さんの限度ですね」
「ああ、どんな悪い奴でもな」
「相手の命を失わせるまではですか」
「出来ないな」
 真顔で顔を顰めさせてだ、上城に答えた。
「俺はな」
「何でも岩清水という人に糾弾されたそうです」
「岩清水か」
「はい、そうした名前の人に」
 糾弾されてだ、高代は徹底的に追い詰められたというのだ。暫く日本にいられなくなるまでに。
「相当追い詰められたと」
「そいつの名前覚えたよ」
 岩清水という名前をだ、中田は今頭の中に入れた。
「とんでもない奴みたいだな」
「そうみたいですね、そういえば」
「そういえば?」
「うちの学校でもいじめの騒動があって」
「ああ、高等部でな」
 あったとだ、ここで中田も思い出した。
「あったよな、とんでもない騒ぎが」
「確かそのことを言っていた人が岩清水といいました」
「じゃあそいつがあの先生を追い詰めていたのか」
「その人じゃないみたいですけれど」
「親戚か何かか」
「そうかも知れないですね」
 上城は首を傾げさせつつ中田に答えた。
「あくまでひょっとしたらですが」
「そうか」
「はい、まさかと思いますが」
「あのいじめは女の子同士でのことだったよな」
「そうだったみたいですね」
「女の子同士でもいじめがあるからな」
 中田は顔を顰めさせて上城に話した。
「これがな」
「そうみたいですね」
「男同士でも女同士でもあるんだよ、いじめは」
「僕昔女の子はいじめはしないと思ってました」
「女の子は皆優しいってか」
「そう思っていました」
 実際そうした考えだったというのだ、かつての上城は。
「けれど違うんですね」
「ああ、性別関係ないよ」
 中田は顔を顰めさせたまま悟っている目で述べた。
「いじめとかはな」
「そうなんですね」
「人間どうしてもそういう一面があるんだよ」
「自分より弱い人間を虐げる面がですか」
「嗜虐性とかな」
 こうした言葉も出した中田だった。
「あと弱い相手をいじめて自分が強くなっていると思いたいとか」
「他には意地悪とかですか」
「八つ当たりもあるな」
「色々なんですね、いじめる感情は」
「どれにしても碌なものじゃないさ」
 中田は忌々しげに言った。
「あの暴力教師は嗜虐性とか強くなっているとか思いたいからな」
「生徒を虐待していたんですか」
「そういう感情に支配される奴こそ弱者なんだよ」
 きっぱりと言い捨てた、一太刀で斬り捨てた。
「人間としてな」
「腕力があるとかじゃないですね」
「心が弱いんだよ」
 いじめをする人間は、というのだ。
「そうした意味でもなりたくないな、俺は」
「弱い人間にはですね」
「本当の意味で弱い人間になったら終わりだよ」
 もうその時点でだというのだ。
「俺は本当に強い人間になりたいからな」
「そういうことですね」
「そうだよ。だから君もな」
「自分にそうした感情があることを頭に入れてですね」
「そうした人間にはならないでくれよ」
「はい」
 確かな言葉でだ、上城は中田に答えた。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧