空を見上げる白き蓮 別事象『幽州√』
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プロローグ
――今回あなたにはとある『適性』があったので、別の世界に跳んでいただき世界を変えてきてもらいます
――いうなれば決められた流れをかき混ぜる要因になってもらうというわけです
――最終的に世界を変える気がないと判断された場合は、上位意志の介入によってその世界自体も壊されます。その世界の生物全てが最も苦しむ形で……ね
――失った身体の復元、ある程度の身体強化と武器、その扱い方、あと言えませんが一度きりですが限定条件下で発動するある力が与えられます
――その世界ではあなたの氏は没収します。徐晃・公明と名乗ってください。あと真名は名前のまま秋斗です
――歴史をなぞろうが反逆しようがのたれ死のうがあなたの自由です。まあこれから行っていただく三国志は歴史とも少しだけ違うので好きに動いちゃってください
――真名っていうのは勝手に呼んだりしたら殺されるようなものすごく大事なものですから気軽に教えちゃだめですよー。時間も押してますしここまで。では外史の世界に……いってらっしゃーい!
†††
「ぐほぁ!?」
ぐるぐる回って闇に堕ちていく夢を見ていたら唐突に腹に衝撃が走り、痛みのあまり飛び起きた。
「いてぇ! 何だ!? って変な格好したおっさん!? なんで俺に突っ込んできたんだよ!?」
痛みの原因たるモノを退けて見やると現代ではありえないような格好をしたハゲ散らかしたオヤジが白目を剥いてのびている。
――わけがわからん。ってかここどこだよ!? 草原!?
ハゲおやじから目線を上げて広がる景色に衝撃を受けた。俺の生きてきた中では修学旅行で行った北海道あたりでしかこんな草原は見たことが無い。
「まだ仲間がいたんですか!? 草の陰に隠れて様子を伺っていたなんてとんだ卑怯者ですね! 死んでください!」
大きな怒鳴り声が聞こえた方に顔を向ける。すると少し離れたところにいた少女がハルバートらしきものを振りかぶりこちらに目掛けて全速力で駆けてくる様子が目に映った。
「ちょ、おま、えぇ!? 何!?」
――やばい! 意味わからんうちに殺されそうなんですが!?
焦りに思考が定まらないまま、咄嗟に近くにあった剣を持ち上げて斧の一撃を防ぐ。しかしその剣を持った時になんとなく使い方が分かったのが不思議だった。
甲高い音が響き鍔迫り合いで膠着するも、相手が重量武器のハルバートであるのに弾こうと思ったら弾ける事がさらに不思議だった。
「私の一撃を受けれるなんて……男のくせにやるじゃないですか」
武器がギリギリと音を鳴らす中、相手の顔をよく見るとかなり可愛い美少女。
――うへぁ、かわいい女の子のくせにこんな武器もって戦ってんなよ。いや、正当防衛で戦っていたのかもしれないな。
「すまんが、寝てたらそのおっさんが腹に突っ込んできたんだ。俺は被害者だ。武器を置いて話を聞いてほしいんだが……」
「腹に突っ込んで!? 男同士でナニしてんですか!?」
説明するなり顔を真っ赤にしてあらぬ方向へと思考を暴走させて怒鳴ってくる美少女。さすがにその勘違いをされては不快感を露わにしてしまう。
「ふざけんな! あんたみたいな可愛い女の子にしか興味ねぇよ!」
「はぁ!? じゃあやっぱりこの暴漢達と一緒じゃないですか!?」
どうにか弁解をしたのだが、何故かどんどんと間違った方向に話が進んでいった。
少し頭を冷やしてもらうために勢いよく剣を振り抜き、相手を吹き飛ばして距離を置く。
倒れるかと思ったが持ちこたえた彼女はかなり驚いていた。無言で尋常じゃない殺気を纏いこちらを睨んできた。怖いんですが。
寒気が背筋に走るのを押さえつけて、もう一度詳しく、少し威圧を込めて説明を行うことにした。
「おい、俺はこの草原で寝てただけだ。そこにこのおっさんがあんたに吹き飛ばされて俺に衝突した。分かる?」
一瞬考え込む仕草を見せたが、彼女は眉根を寄せて返答を口にする。
「……仲間じゃないという証拠は?」
証拠は……ないな。実際、俺の言い分だけではこいつらと関わりが無い証明をする事など出来ない。ただ――――
「仲間って証拠もないんですが」
「う……確かに……」
俺が放った苦しい言い訳を苦い顔をしながら素直に信じてしまう美少女。
――この子、頭がいいのか悪いのかわからんな。
「はぁ、じゃあ武器を君に預けるから今は信用してくれないか? ほら」
ため息を一つ、後に武器を彼女の方に投げる。素手でも戦えるけど、とはさすがに言わない。
「……ただの暴漢とは違うようですね。あ、変わった剣。確かに賊ならこんな剣を簡単には渡しませんね」
警戒しながら武器を拾いあげ、少しは信用してくれたのか殺気が落ち着いた。
ここでこちらに敵意はない事を畳み掛ける事にしよう。
「逃げも隠れもしないしなんでも話す。どうせなら手を縛っても構わんぞ。それとも後ろ向いて寝そべったほうがいいか?」
言いながら思考をフル回転させ自分の現状の把握を行い始める。
まず自分の名前は徐晃。徐公明。真名は秋斗。……いや、おかしいだろ。
なんで徐晃さんなわけ? てかこれじゃあ夢のままじゃないか。
初っ端から思考に躓いて自問自答していると遠くから他の声が聞こえた。
「おーい、牡丹! 遅いぞ、何やって……うお!?」
馬に乗って近づいて来た女の子はそこらに転がる気絶した男達を見て驚いていた。
瞬間、俺の事を窺っていた少女はきらきらと瞳を輝かせて胸の前で両手を握り、
「白蓮様! ああ、やはり私にとっての白馬のお姫様はあなただけですもはやお声を掛けられただけで口づけをするまでもなく目が覚めて着いていってしまうでしょうでも口づけしてくださったなら私はもう死んでもいいいやだめです死んでしまったら白蓮様のお顔が毎日確認できなくなりますああでもその甘美なモノを体験してみたい今度朝早くに起こしに行くついでに奪ってしまいましょうそうですねそうすれば私のこの想いも白蓮様に伝わる「状況! 説明! しろ!」ふぁっ! ありがとうございます!」
言葉のマシンガンと呼べる程に早口で喋りだし、途中で馬に乗った女の子に止められる。
――しかしなんだこの子。速さに命をかけていたアニキみたいに超絶早口すぎて聞き取れなかったんだが……。
「暴漢、襲撃、対応済」
――今来たから三行で頼むってか? 全く意味が分からんぞ。
「……お前も暴漢か?」
たった三つの言葉で伝わったのか馬の上で警戒しながらこちらに問いかける女の子。年の程は分かりにくいがその子も美少女で、どこか威厳溢れる凛とした顔に俺は少し見惚れてしまった。
「……いえ、俺は寝ていた所に暴漢が吹っ飛ばされてきて起きたのですが、起きてあたりを確認しました所、その子に暴漢と間違われまして揉めていた所です。暴漢の仲間ではない証明のため彼女に武器を渡しました」
一応誠実さを見せる為に敬語で説明を並べてみたが、信じては……貰えないだろう。
「牡丹、本当か?」
彼女が問うと、牡丹と呼ばれた少女は口を押えてぶんぶんと何回も頭を縦に振った。奇声を上げていたらどこかの非公認のご当地キャラみたいだなんて考えてしまい少し吹き出しそうになる。
「落ち着け牡丹。部下の非礼申し訳ない。私は公孫伯珪。ほら、お前も名乗れ」
「信じちゃうんですか!?」
「仲間が動いている時に寝てるような賊がいるか! それにお前相手に武器を渡すくらいの胆力を持つ人なら賊になど堕ちないだろう?」
「あ……さすがは白蓮様! その明晰な頭脳もやはり私が一生かけて仕えるべき「自己! 紹介! 速く!」ありがとうございます!」
何故か礼を言い口を押えて黙ったがそれじゃ自己紹介もできないだろうに。無言で公孫賛が睨むと彼女は悦に浸りながらも手をどけて自己紹介を始めた。
「……ぷはっ。関士起です。いきなり斬りかかってごめんなさい」
言うなりすっと頭を下げて謝ってきた。
――やっぱり素直な子なんだな。
「士起さん、気にしなくていいよ。こんな世だし、こんなとこで寝てた俺も悪いしな。申し遅れました俺は徐晃、徐公明と申します。気ままな旅人です」
こちらも倣って、違和感しかない自己紹介をすると馬から降りた伯珪さんは一つ頭を下げた。
――しかし……なんか引っかかるな。
「徐晃殿。部下の非礼を詫びたいのでよければ最寄りの街で食事でも奢らせて貰えないだろうか」
「あ!」
違和感に気付いたと同時に思わず声が出てしまった。
「……? 如何した?」
「なんでもない! いや、滅相もありません! 公孫賛様にそのような事をしていただくなど!」
訝しげな顔で俺を見る公孫賛に急いで告げ、自分の思考に潜る。
――なんで公孫賛が女なんだよ! ちょっと三国志と違うって全然違うじゃねーか!
「いや、そういう訳にもいかない。こちらの顔を立てると思って……」
公孫賛程のお偉いさんにそこまで言われたのなら付いていかないと失礼にあたると気付く。
「……わかりました。その……ありがとうございます」
混乱した頭で考えた結果、口から出たのは何故か感謝の言葉。
「……ふふ、おもしろい奴だな。では行こうか。牡丹の馬に乗ってくれ」
「ええ!? 私はどうやっていけば……」
「走って付いてこい」
「無茶ですよ! ああ、でもそんな無茶を振る白蓮様も素敵ですそうまるで――――」
そんなやりとりを聞きながら、混乱する思考をまとめながらも言われた通りに従い、公孫賛に促されるままに近場の街に向かった。
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