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久遠の神話

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第百話 加藤との話その五

「下手しなくても怪我しますよ」
「ましてその相手が受身知らない柔道の素人だとどうだよ」
「受身を知らない相手に背負投ですか」
「しかも床の上でな」
「とんでもないことですよね」
 唖然とした顔になって答えた上城だった、顰めさせた顔で言う中田に対して。
「それ武道をする、いえスポーツをする人のすることじゃないですよ」
「暴力でもかなり酷いレベルだよな」
「はい、本当に」
「そうしたことは自分の為だからするんだよ」
「自分の得点にならない生徒だからですか」
「ああ、殴って蹴ってな」
 投げてというのだ。
「しごくんだよ、それで罵倒してついて来れないと思った生徒は平気で切り捨てるんだよ」
「生徒は駒なんですね」
「完全にな」
「生徒は駒ですか」
「ああ、駒だよ」
 まさにだというのだ。
「駒だからやるんだよ」
「そこまでですね」
「言うまでもなく生徒は人間でな」
「駒じゃないですね」
「そうしたことを弁えないで人に教えるなんて問題外なんだよ」
 中田は顔を顰めさせたまま上城に話す。
「生徒のことを一切考えないで自分の得点を稼いでさらにな」
「さらに?」
「そこから偉くなろうとかな」
 そうした輩はというのだ。
「最低の奴だからな」
「だからお嫌いなんですね」
「ああ、そうだよ」
 まさにだというのだ。
「そういう奴はな」
「活人剣じゃないですね」
「暴力だからな」
「それで、ですよね」
「俺はそんな奴になりたくない」
「絶対に」
「そう思ってあらためて剣道をやってるよ」
 中田は穏やかな微笑みを浮かべて上城に話した。
「これからもそうするよ」
「そうですか、じゃあ」
「また剣道やろうな」
「はい、手合わせして下さい」
「剣道はいいよな」
 中田はこの言葉も微笑んで言った。
「本当に」
「はい、心も鍛えてくれますね」
「むしろ心な」
「鍛えるのが剣道ですね」
「そうだよ、けれどな」
 しかしだとだ、中田は言うのだった。
「心を鍛えてない奴がいるからな」
「あの先生ですね」
「それじゃあ剣道をしたら駄目なんだよ」
「心が鍛えられないと」
「そういうものだよ。俺だってな」
 中田にしてもだというのだった、そのことは。
「剣道をするならな」
「心もですね」
「生徒ってのは自分より弱いだろ」
 教師から見ればだ、身体的にも立場的にも。
「絶対的にな」
「その絶対的な相手に暴力を振るうことは」
「やっちゃいけないんだよ」
 まさに絶対に、というのだ。
「相当な不良でもないと先生を殴ったりしないだろ」
「そうした人もいますけれど」
「例外中の例外だよ」
 普通の生徒はやはりだ、身体的にも立場的にも教師には絶対に逆らうことが出来ない。これは精神的にもだ。 
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