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万華鏡

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第六十七話 秋の味覚その十五

「だからね」
「悪人は悪人の顔になるし」
「生き方ね」
「そういうことだと思うわ」
 部長は副部長と書記にこの言葉で返した、視線は二人を交互に見ている。
「つまりはね」
「三十代で顔に出て来る」
「そういうことね」
「みたいよ。お母さんが若いのも」
 そのこともだというのだ。
「そういう生き方してるせいでしょうね」
「充実している?」
「そういうことなのね」
「ええ、悪い生き方してたり辛い生き方だと顔に出るってことで」
「それでなのね」
「あんたのお母さんは」
「ほら、ヒトラーなんか」
 ここで極端な人物が出て来た、言わずと知れたドイツの独裁者だ。
「ちょび髭なかった怖い顔でしょ」
「あっ、確かに」
「ヒトラーの顔ってね」
「あのお髭に目がいきやすいけれど」
「実はね」
「そうでしょ、眼光が異常に鋭くて」
 このことは案外気付く人は少ないらしい、実はヒトラーの顔はかなり恐いものなのだ。まるで何もかもを射抜く様な。
「顔立ちもね」
「不細工ではないけれど」
「何か」
「そう、怖い顔でしょ」
 部長はまたこう言った。
「実際やってきたこととんでもないしね」
「謀略に弾圧に虐殺に」
「相当なことをやってきたから」
 政治的に卑劣と言っていい謀略も得意だった、確かにヒトラーは卓越した政治家だったがそれは謀略においてもだったのだ。
「それをナチュラルにやってきた人だから」
「怖い顔なのね」
「そう、だからね」
 それでだとだ、部長は言葉を続ける。
「女は三十路からよ」
「そこまでどう生きるか」
「そういうことね」
「そう思うわ、まあそういうことで」
 ここで話を止めた部長だった。
「百杯食べたから」
「終わりね」
「これで」
「いや、満足よ」
 実にという言葉だった。
「美味しかったし満腹、しかも成し遂げた」
「三重ね」
「三重の満足感ね」
「ええ、皆もそうかしら」
 ここで他の部員達はどうかというのだった。
「どうかしら」
「はい、食べました」
「もう満足です」
「お腹一杯です」
「八十杯いきました」
「空腹はそれだけで不幸よ」
 部長はここでも持論を出した。
「だから今あんた達幸せよね」
「凄く、そうです」
「幸せです」
「ではその満足感のまま帰るわよ」
 部長は部員達に明るく言った。
「勝利の凱歌と一緒にね」
「勝利の凱歌?」
「勝ったと思えばそれでいいのよ」
 だから今も勝利の凱歌でいいというのだ。
「ではいいわね」
「はい、それじゃあ」
「皆で」
「大学を出たところで解散よ」
「今日はもう部活はですね」
「しないんですね」
「今が部活よ」
 わんこそば大会に出たことがだというのだ。
「部活は楽しむもの、だからこれでいいのよ」
「わかりました、じゃあ」
「大学の正門で」
 今日の軽音楽部は解散となるのだった。軽音楽部の部員達は後で男子の面々も意気揚々として帰ったのだった。


第六十七話   完


                           2014・1・29 
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