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ボロボロの使い魔

作者:織風
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『彼』

 
前書き
うーん…何か無反応過ぎて不安になる…
何か間違えてるのかな?自分… 

 
トリスティン魔法学院。

「…まさか、『仮面ライダー』とはの…」

学院長オールドオスマンは自室にて溜め息をついた
普段は温厚で飄然とした態度を崩す事の無い彼だが今の表情は険しい

昨日、行われたという『決闘』
その噂は一晩で学院を駆け巡り、オスマンの耳にも入ることとなった
平民が『変身』し、ドットとはいえメイジを圧倒したというその戦闘能力
もしやと思い、秘書ロングビルに噂の真偽を調査させた所、彼自身が『仮面 ライダー』である事を名乗った事を知った

『仮面ライダー』

オスマンはその存在を知っている

数年前
国外旅行の旅先で遭遇した得体のしれない怪物達
それと戦い自分を助けた『恩人』は言葉こそ通じなかったが、既にボロボロ でありながらも自身を盾にオスマンを逃がした

一人の男、意識の無い『彼』をオスマンに押し付けて

何とかトリスティンに帰還したものの
その途中、目を覚ました『彼』もやはり言葉が通じず意志疎通は困難を極めた
恩人に託された『彼』を見捨てる訳にはいかず、苦労しながらも何とか理解させ、とりあえず近くの街に用意した部屋に住まわせ、更に街で仕事を探していた平民の 一人に『彼』と共に生活し世話をするよう大金と引き換えに命じ、言葉と常識を勉強させる事で
『彼』と『恩人』が『仮面ライダー』と呼ばれる存在である事をようやく 知った

『彼』が『仮面ライダー』である事を知っているのは自分一人である
彼自身が公にされる事を嫌い 、またオスマンもそれを理解した
彼の携えていた力は、自分達に
否、人の手に余るものであるとオスマンも感じたのた。 それ故、『彼』との出会いを、その『力』をオスマンは誰に話すことなく、 只自身の胸の内にしまっている

だが

「タチバナ、サクヤといったかの」

彼も また『仮面ライダー』というのなら『彼』の事を話すべきなのだろうか
だが、報告によれば彼は、一部記憶を欠落させているようで『仮面ライ ダー』そして『ベルト』についても偶々少し思い出しただけで、それが何で あるか、何故自分がこれを持っているのか自分でもわかっていないとの事 だったのだ

…これは、余計な詮索を恐れた橘の嘘であるが、その真偽をオスマンがわかるはずもない

それが橘に『彼』の話をするべきかオスマンを迷わせている
『彼』の絶大な力
そして『彼』から預かり、今は宝物庫に厳重に保管してある物は 安易に話し、渡す事ができる物ではない

「どうしたものかのぉ…」

いずれは話さなくてはならないだろう
『彼』の事も、 だが、それには少し時間がいると思った
橘がどのような人間なのか、それ を見極めるだけの時間が
オスマンは深く溜め息をついた。



第十二話『彼』




学園の庭にて
一人の少女が繕い物をしている
彼女はこの学園で働く使用人の一人
ギーシュに絡まれルイズに助けられた平民の使用人

彼等の『決闘』を少女は見ていない
貴族達の『娯楽』に『平民』である自分が混ざり見学するなど許されることではなかったから

なので少女は橘の『変身』も見ていない
どのような形で『決闘』に決着がついたのかも知り得ない

だが、少なくともルイズが、そしてその使い魔の人が自分を助けてくれた事は代わりない
だから、こうして僅な休憩時間を削ってボロボロになった橘の服を修繕している

カメンライダー

その言葉と僅な噂だけは少女も耳にしたがそれ以上の話は知り得なかった

平民が貴族を魔法でない力で圧倒した

そんな絵空事を信じてはいない
そのような話を信じるには、彼女の生活は平凡すぎた



平凡で平穏な庶民として生きていた少女
故郷から旅立ち
家族を養う助けとなるべく仕事を探していた
そこで出会ったオスマンと『彼』
二人との出会いは人生の転機だった




初めは不安があった
良く知りもしない、言葉さえ通じない男と一つ屋根の下で暮らすのだから
年若い乙女であれば抵抗感も人一倍だ
だが、それで断るにはオスマンの、提示した金額はあまりにも魅力的すぎた

そして始まった『彼』との生活
毎日、毎日、身の回りの世話をし、根気よく言葉を一つづつ理解させ、文字を書かせる
まるで、小さい弟が出来たような感覚は『彼』が言葉を覚えて意志疎通が出来る頃には、少し形を変えていた

普通に会話が出来るようになっても『彼』は自分の事を多くは語ろうとはしなかった
オスマンからも『彼』から深入りした話はするなと厳命されていた
だから、少女はただ『彼』の世話をして
『彼』とのまるでおままごとみたいな生活を楽しんでいた
少なくない日数を共に過ごすうちに『彼』の人柄に心を惹かれている自覚はあったのだ

だけど、自分はあくまで『彼』の世話係だからと押さえていた感情は
ある日、夕食の食材を購入し、帰った日に少し弾ける事になった

晩御飯の買い物を終え家に帰った自分が見た光景、それは

なんと、褐色肌で肉感的な女性が半裸で『彼』に迫っていたのだ

…あの日の事を思い出す度に…!

「…ぁ」

いけないいけない、力が入りすぎて失敗した
手順を戻してやり直す

結局『彼』が抵抗したこともあり、最悪の事態は未然に防ぐ事ができたが
その日以来、自分と『彼』の部屋に彼女が事ある毎に入り浸るようになってしまった

彼女とはどういう関係なのか、どういう経緯で知り合ったのか
厳しく問い詰めても『彼』ははぐらかすばかりで
彼女に聞けば『二人の秘密♪』などと、非常に不快な言葉が帰ってくるため、それ以上の追求はしなかったが

その日から暫く『彼』巡って争う日々が続いたが
それも長くは続かなかった

突然『彼』は姿を消したのだ
少し下手な置き手紙に、自分への感謝と謝罪だけを込めて

心にぽっかりと穴が空いたような喪失感
それを埋めるだけの時間をのんびりと過ごす事は、平民であり裕福ではない家族を持つ彼女にとって許されなかった

幸い、オスマンは『彼』について口外しない事を引き換えに
自分をこの学院のメイドとして雇ってくれた。
口封じと監視の意味もあるのだろうが、新人にしては少し多めの給与を提示されれば断れる筈もない
そして、少女はここでメイドとして働く事になる

『貴族』と『平民』その格差に苦労することも多かった。
だが『彼』を巡り争った少女
この学院で再会し『貴族』であった彼女が自分を何気なく庇ってくれたりした事もあり、どうにか日々の無体な激務も過ごす事ができていた

そんな『彼女』も今はいない、暫く前学院をやめ旅立ったのだ

『彼』を探すために

無理だと言った
無茶だと言った
この広い世界で、なんの手がかりもなくたった一人の男を探し出すなど

だけど『彼女』は諦めなかった
それでもだと
それでも好きだから探しにいくと、そして旅立った

…自分は、残った
『彼女』のように生きるには、背負うものが多すぎたから


「これで…よし、と」

何とか繕い終えた服を畳ながら空を見上げる

彼女は『彼』と出会うことができただろうか
…その再開を祈ってあげる事の出来ない自分は
少し、嫌な女かもしれない、そう思った







「へぇ…大したものね」

繕い終えた橘の服を受け取ったルイズの感想である
決闘を経て、大穴だらけになってしまった橘の服は見事に修繕されていた
勿論、それなりに、ではあるが少なくとも一目で馬鹿にされる程のものではない

「はい、家が貧乏なのでこういう裁縫は得意なんです」

こんな事くらいでしか、自分を助けてもらった恩を返せない、その申し訳なさも込めて頭を下げる

「…別に、どうにかしたのは私じゃなくタチバナよ…私は…何も出来ない…貴女だって噂くらい知ってるでしょうに」

少し投げやりな感じで言ったルイズの言葉を、小さく首を降って否定する

ゼロのルイズ

その噂は勿論少女も知っている、だがそんな事は関係ない

「他の方々がどう言われようと、私にとってミス・ヴァリエール、貴方は貴族です…貴女のご命令であればどのような事でも従います」

「…そ、ありがと」

小さく、苦く
それでもルイズは笑った

「世話をかけたわね、感謝するわ」

力なき平民を守る貴族
そんなルイズの支えとなること

「それが、私の仕事ですから」

使命ではなく義務でなく、わずかながらに誇りを込めて
ルイズに感謝の笑顔を向けたこの少女が『彼』と再会し、その『仕事』を知るのは

まだまだ、先の話であった




  
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