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ボロボロの使い魔

作者:織風
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『なし得たものは』

少年は、その日勇者と出会った

纏うは黄金の鎧、振るうは聖なる大剣
その一振りが放つ輝きは、自分のゴーレムなど歯牙にもかけなかった怪物を纏めて蹴散らし闇夜 を照らす

まるでお伽噺の中から現れたようなその存在に少年は憧れたのだった



第九話『成し得たものは』



音が響く

それが銃弾が発射されたものだと理解できた者は僅かだろう
この世界にも銃はある
ただしそれは魔法に比べれば使い勝手が悪く、威力も劣る拙い技術
所詮は魔法に及ばない粗悪品に過ぎない存在だ
だが、しかし 『仮面ライダー』 それを名乗った男が姿を換え、そして手にした『それ』はギーシュのゴーレムを僅かな時間で残骸にかえていく

腕の向きを合わせる、引き金を引く

ただ、それだけ
それが七回繰り返された、ただそれだけ
決闘が始められ経過した時間の一割にすら遠く及ばない時間で全てのゴーレムが消え去った

それは、あまりにもあっけない結末
だが、決着がついた事に気がついた観客達は我先にと逃げ出す
自分達が散々嘲笑った男が手にした銃が、次は自分達に向けられる事を恐れたからだ

こんな結末を一体誰が予測出来ただろう
だが、ギーシュはわかっていた

当然だ

彼は『仮面ライダー』を名乗った
その名を名乗る者の強さを、ギーシュは知っている
自分のワルキューレが、例え百でかかろうと勝てる筈がないのだ

そして、僅かな時間で7体全てのワルキューレを残骸と化した後 『仮面ライダー』は自分に銃口では無く視線を合わせる
悠然と これ以上は無駄だとでも言うように
彼は、『ゼロの使い魔』 只の『平民』
だった、筈なのに。

「ギーシュ!」

振り向く、モンモラシーが自分の名を呼んでいる
彼女は泣いていた 彼女は自分のせいで泣いていた
自分は彼女の笑顔が好きだった
自分は彼女の笑顔を守りたいと思っていた筈なのに

『仮面ライダー』

『彼』にギーシュは憧れた。

何も求めず、只、人を守り続ける、そんな物語の中にしかいないであろう勇者に憧れたのだ

自分も『彼』のようになるのだと、学園に入り
そして強くなるべく勉学に励んだ
その甲斐と才能は僅な期間で頭角を表し、未熟ながらも学園でも一目おかれる存在になれた
好意を抱いていた少女の悩みを『彼』の言葉で立ち直らせ笑顔にさせた時は誇らしかった

けど、そこまでだった

自身を上回る同学年のトライアングル達
彼女達と自身を比べる度、自分の力が届かない
自身がいくら努力をしてもまるで追い付く事は出来なかった
結局の所、自分などがいくら努力したところで届かないものがある
理想を遮る現実という壁、それはギーシュに限らず誰でも経験するものである

だが、少年が目指したものは余りに眩しく
偉大すぎた
…やがて、少年は記憶の輝きから目を剃らすようになった

そんな自分をモンモランシーが気にかける事が辛かった 彼女が自分に好意を抱いてくれている事は嬉しい
けれど、彼女が見ているのは所詮昔の自分に過ぎない
彼女を救った言葉もギーシュ自身のものではない

『魔法が全てじゃない』

そう言っておきながらも、結局自分には『魔法』しかない
ドット止まりの『力』それが自分の全てでしかなかった だから、距離をおいた
過去の自分まで失望され軽蔑される事が怖かった

ルイズの事も嫌いだった
彼女は自分より数段酷い、なにせ『ゼロ』なのだから
何一つ魔法を成功させる事もできず馬鹿にされ続けていた彼女
だが、それでも尚貴族たらんとするルイズの姿を見ていると 夢から逃げた自分が余りに情けなく惨めに思えた

「ギーシュ…」

振り向かない、声の主はわかっているから
普段は貴族の誇りがどうだと言いながらも逃げ出した学友達と違い彼女は残った

…本当は何もかも話したい、自分は君が記憶している大した男ではなく、ただのちっぽけで惨め な奴に過ぎないのだと
…けれど、できない
そうするには何もかもが遅すぎた

「っ…!」

彼女の言葉を振り切るようにギーシュは走り出す
杖も棄てて魔法も使わず、ただがむしゃらに
圧倒的な力を誇る『仮面ライダーに』立ち向かう為に?
嫌…違う
自分は結局逃げているのだ
好きだった少女の視線に耐えられず
夢を諦めた惨めな自分から逃げ続けている
自分の弱さを認めるのが嫌で
自分が『彼』のような存在にはなれないことが悔しくて ただ、ただずっと自分は今まで逃げ続けていた




バックルの側面にあるレバーを引く
同時に現れるオリハルコンエレメント
蒼く輝く壁画、それを潜ることでギャレンの姿を解除する橘
途端によろめき、ふらつく体を驚異的な精神力で押さえつけ、橘も走り出す
メイジとしてではなく、一人の男として決着をつけようとしている少年に応える為に
自分もまた『仮面ライダー』としてではなく『橘朔也』として戦うために

「ぅああああああああっ!」

「…ふっ!」

瞬間、交差する影
その勝負もまた一瞬だった、全身ズタボロになりながら、それでも尚、橘のボディブローはギー シュの意識を断ち切る威力を有していた

「畜生…!…強く…なりたい…!」

倒れる寸前、少年が流した涙にどれほどの思いが込められていたのだろうか
自分がそれを知るよしはない、だが

「ギーシュっ…!」

モンモランシーが駆け寄りギーシュを抱き止める
彼には支える人がいる、それを省みることが出来るなら

「なれるさ…君ならきっと」

同じ言葉を叫び、そして叶えた男を自分は知っているのだから

ー眠いー

緊張の糸が切れたせいか? 橘を猛烈な睡魔が襲う、それがなければモンモランシーが片腕を隠すように制服を着ていること に気付いていただろうが、そこまでの余裕さえない
正真正銘、心身ともにボロボロだった、限界はとうに越えていたのだから

それでも

「…ルイズ」

意識が途切れる前に伝えるべき事を言うために
橘は視線を少女に向けた
今はなにも言わず、ただ、自分を睨むかのような目で見つめている少女に




「……………………」

…何を言えばいいのだろうか
訪ねたい事はいくらでもある
『仮面ライダー』とはなんなのか
どうして無謀な決闘を受けるつもりになったのか…等
…だけど、聞けなかった、今言うべき事 それはそんな事じゃない、それはわかっている
何かを言いたい、言わなくちゃいけない
けどうまく言葉にできないから
だから、ただ見つめる事しか出来なかった

「……あ」

「ありがとう、ルイズ」

「…っ!」

何故、橘が私に礼など言うのか

「君のおかげで…どうにかなった…悪かったな、心配させて」

「心配なんかしてないわよ…私は…あんたの事なんか全然心配したりなんかしてなかったんだか ら!」

「…そっか」

何故、そこで笑うのか
まるで、見透かしたかのような彼の穏やかな笑顔に、どうしようもない居心地の悪さと焦燥を感 じる

「わかったような顔をしないでよ!…何も知らない癖に!…何も…本当はわかってない癖に!」

自分独りで勝手に思い込んで決めつけて
この男はこんなにボロボロになってまで一体何がしたかたったんだろうか
『私なんかの為に』
何故、そこまでしたのだろうか






そうだな、俺はまだ君の事をよく知らない
だけど、君が『いいやつ』だということくらいはわかったつもりだ
だから、ゆっくり話をしよう、お互いを理解するために 俺たちはパートナーなのだから

それを言葉にしようとしたその瞬間、橘の意識は途絶えた 
 

 
後書き
橘さんらしさが出せているだろうか…
ネタとシリアスの配分が難しい…
細かいネタはいれない方がいいのかな… 
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