彷徨った果てに
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第二章
第二章
「シェフを呼んで経営するにしてもな」
「違うのね」
「ああ、だからな」
それでだというのだ。
「かといってもイタリアやそうした国の料理でもな」
「違うのね」
「そう思う。これが日本でも中国でも同じだろうな」
アジアの国々でもだ。それは変わらないというのだ。
「やっぱりな」
「そうなのね。それじゃあ」
「デザート食って出るか」
味はよかったので最後まで食べることにした。そこまでして食べ終えてだ。
この日は家に帰った。次の日はだ。
飲み屋に行った。そこでカクテルを飲みながらタンゴを観る。アルゼンチン名物のそのタンゴをだ。男女が絡み合う艶かしい踊りは彼の好きなものだ。しかしだ。
彼はだ。ここでも浮かない顔で言うのだった。
「これもな」
「違うのね」
「ああ、違うな」
声も浮かないものだった。
「タンゴを踊るのもこうした飲み屋を経営するのもな」
「やっぱりやりたいことじゃないのね」
「サッカーでは誰にも負けないさ」
離れている筈のこれも話に出した。無意識のうちにだ。
「それでもタンゴになるとな」
「あなたタンゴ上手じゃない」
タンゴは趣味でだ。よく踊っていたのだ。このことはファンの間でもかなり有名だった。しかしそのタンゴについてだ。ロペスは浮かない顔でミレットに述べた。
「俺より上手な奴なんて幾らでもいるからな」
「だからなの」
「ああ、ダンサーにはならない」
このことは断言したのだった。
「やっぱりな」
「そうなのね」
「かといって店の経営もな」
「それもなのね」
「経営自体がな」
ひいてはだ。そうした立場になること自体がだというのだ。
「俺には向いてないだろうしな」
「だからしないのね」
「ああ、止めておくな」
こう言うのだった。
「その方がいいな」
「じゃあ一体何にするの?」
「とりあえず経営やダンサーでないことは間違いないな」
このことはわかったのだった。彼自身もだ。
では他に何があるのか。ロペスは席でカクテル、テキーラサンライズを飲みながらだ。ミレットに言った。
「俺は何かを書いたり芸術とかもな」
「興味ないわよね」
「ああ、ない」
だからそれは最初から考えていなかった彼自身もだ。
そしてだ。他にはだった。
「かといって政治家とかタレントとかもな」
「そういうのも?」
「政治家は政治家に任せていればいいんだよ」100
これが政治に対する彼の考えだった。
「俺達は投票するだけだ」
「そうね。やっと落ち着いてきた感じだし」
政情不安で有名でしょっちゅうクーデターが起こったアルゼンチンもだ。そうした意味では何とかよくなってきていたのだ。経済もそうなってきている。
「だからな。そういうのはなのね」
「ああ、俺は政治家とかになるつもりはないさ」
「タレントにもなのね」
「テレビは嫌になる位出たさ」
現役時代にだ。それこそだというのだ。
「今更出たいって思わないさ」
「そうなのね」
「絶対に出ないって訳じゃないがタレントとかになるつもりはないんだよ」
「そういうのもなしで」
「ああ、どっちもない」
はっきりと述べたのだった。
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