彷徨った果てに
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第三章
第三章
「それじゃあ何がいいかってんだがな」
「あなた元々生まれは」
「百姓の子供さ。そこそこの農園のな」
大農園、所謂地主のそれが有名な国だが彼の家はどちらでもなくだ。中規模の家族でやっている農園だったのだ。そこの息子の一人だったのである。
それで農業については知っていた。しかしそれもだった。
「けれどもう土仕事は飽きてるんだよ」
「子供の頃にやって」
「だからそれはいいさ」
「何かやることがどんどん限られてない?」
怪訝な顔になりだ。妻は夫に問うた。
「サッカーも駄目だし」
「そうかもな。けれどな」
「やりたいことはなのね」
「ああ、あるだろ」
ロペスはこうミレットに述べた。
「絶対にな」
「ううん、それならね」
「それなら?」
「探してきたら?」
こんな提案をするミレットだった。
「それじゃあね」
「探すのか」
「そう、探したらどうかしら」
「探すか。それならな」
妻の話をここまで聞いてだ。彼はだ。
腕を組み考える顔になりだ。そして言ったのだった。
「旅行に行くか」
「旅行ね」
「これまで旅行なんてな」
それはどうだったかというのだ。旅行はだ。
「試合で行ってたからな」
「そうね。アルゼンチンの中だけじゃなくて」
「中南米も欧州もな」
「旅行はそのついでにできたわよね」
「仕事の息抜きだったな」
まさにだ。その合間にだったのだ。
「だから素直に旅行といってもな」
「したことなかったのね」
「ああ、それじゃあ一回素直に旅行だけを楽しむか」
こう言うのだった。
「そうするか」
「そう、適当な国を回ってね」
「わかった。じゃあ御前も一緒に来てくれるか?」
「私もなのね」
「ああ、現役の頃は試合の合間だったからな」
ミレットと共にだ。旅行に行くことはなかったのだ。だから今度はだ。
どうかとだ。彼は言うのだった。
「二人で行くか」
「そうね。それじゃあね」
「適当な国にな」
こうしてだった。特に計画も立てることなくだ。ロペスはミレットに対して述べた。
そしてそのうえでだ。彼はだ。
アルゼンチンを出た。そしてだ。旅に来た国は。
イタリアのナポリだった。その国でだ。
まずはスパゲティを食べた。トマトに茄子、それにガーリックとオリーブ油をふんだんに使ったスパゲティだ。妻と二人で食べたのだ。
そしてそれからだ。彼は言うのだった。
「美味いな、やっぱり」
「そうね。美味しいよね」
「スパゲティはこれまで何度も食べたけれどな」
「ブエノスアイレスにもスパゲティのお店あるじゃない」
「ああ、普通に食ってたけれどな」
「ナポリでもよね」
世界的なスター選手だ。だからナポリにも行ったことがあるのだ。
それでナポリのスパゲティも食べてきた。しかしだったのだ。
二人で食べるそれはだ。一人で食べるものよりもだった。
「美味しいな」
「いつも以上になのね」
「ああ、美味い」
まさにそうだというのだ。
「スパゲティは大好きだけれどな」
「けれど一人で食べるより」
「二人だ」
また言う彼だった。微笑みながらだ。
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