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久遠の神話

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第九十六話 剣道家その五

「そっちに出ます」
「そうですね、学生として」
「授業に出ないといけませんね」
「出たくないなら別ですが」
「いえ、出ないといけませんから」
 上城は笑ってそれを義務と返した。学生が学校の授業に出ることはというのだ。
「ですから」
「それならですね」
「はい、出ます」
 絶対にだというのだ。
「そうしてきます」
「わかりました、それでは」
 聡美は微笑んで上城のその生真面目な性格を受けた。そうしてだった。
 今は彼女も共に大学に戻った、智子も豊香もそれぞれの場に戻る。それは上城と共にいる樹里もだった。
 共に行く、校門には誰も残らなかった。五人は日常に戻った。
 その放課後だった、聡美は中田に上城の決意を話した、中田は剣道部の道場に入るところだった。その左肩には竹刀袋と防具袋がある。如何にもという姿だ。
 その姿でだ、こう言うのだった。
「そうか、じゃあ俺もな」
「その時にですね」
「ああ、闘うよ」
「その時は」
「五日後だな」
 中田はその日にだと答えた。
「場所は道場がいいな」
「では」
「ああ、この道場にな。五日後は部活が休みでさ」
 それでだというのだ。
「そこはどうだろうな」
「道場ですか」
「俺も上城君も剣道をやってるだろ」
「はい」
「それならだよ」
 闘う場も、というのだ。
「剣道場がいいだろって思ってな」
「最後にですね」
「そこで闘って終わりたいんだよ」
 微笑んで聡美に言うのだった。
「そう考えてるけれどな」
「そうですか、道場で」
「ああ、どう思うそのことは」
「はい、別に」
 悪くないとだ、こう答えた聡美だった。
「いいと思います」
「そうだよな、それじゃあな」
「水の剣士にお話しておきます」
「そうしてくれるか」
「はい、私の方から」 
 今回もだ、そうすると言う聡美だった。
「今貴方は水の剣士とはお話しにくいですね」
「本当は俺から言わないと駄目だけれどな」
 自分でわかっているのだった、苦笑いと共にこう言うところにそれが出ていた。だがそれでもだったのだ。
「どうしてもな」
「感情的にですね」
「言えないな」
 それはというのだ。
「俺でもな」
「そうですね、こうしたことはどうしても」
「俺自身が言うのはな」
 どうしてもというのだ。
「無理なんだよ」
「そうですね、では」
「助けてくれるんだな」
「私が出来ることなら」
 やらせてもらうとだ、聡美はこのことははっきりと答えた。 
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