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久遠の神話

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第九十六話 剣道家その四

「僕の剣道は活人剣です、活人剣は人の身体を斬るものではなく己の心を鍛えるものです」
「全く違いますね」
「はい、人を斬るものではありません」
 だからだというのだ。
「ですから」
「炎の剣士はですね」
「他の誰も。決して」
 イミテーションでしかない怪物は別としてだ、生きている剣士はというのだ。
「斬りません」
「そうですね、それでは」
「僕は戦います、ですが人を斬る戦いではないから」
「戦いを終わらせる戦いだからこそ」
「中田さんは斬りません」
 例え勝ってもだというのだ。
「それはしません」
「だからこそです」
「僕は今以上に強くなるべきですね」
「力は強ければ強い程こちらの受ける傷が減り」
「相手もですね」
「かえって傷つきません」
「力学よ、これは」
 智子が話す、物理に例えて。物理もまたその原点の一つは古代ギリシアにあるからこそ彼女も言えるのだ。
「拮抗する力同士がぶつかればそれだけ力が激しく消耗されるわね」
「二つの方向からですね」
「そう、ぶつかればね」
「そうですね、物理でも」
「物理は数学よ」
 要するにだ、それである。
「数学を文章にしたものよ」
「簡単に考えればそうなんですね」
「そう、ただ文章を理解してそのうえで数学を当てはめていかないから」
「難しく感じるんですか」
「それが物理よ、けれど物理の基本は数学と同じよ」
 それ故にだというのだ。
「二つの方向からそれぞれの力が衝突する場合拮抗していたら力は拮抗して」
「それだけ双方が傷つきますね」
「けれど一方が強いと」
 少しでもだ、そうであればというのだ。
「お互いに傷が少なく住むものよ」
「だからですか」
「そう、貴方は強くなるべきよ」
 このことはだった、智子も同意だった。そして豊香もだった。
 ラドンについてだ、こう言ったのだった。
「ラドンはオリジナルは不思議ですが」
「この戦いでのラドンはですね」
「そう、普通です」
 それでだというのだ。
「確かに百の首がある巨大な竜だけれど」
「不死身ではないですね」
「そのことは安心していいです」
「死ぬからですか」
「死なないことと死ぬことでは全く違います」
「ですね、不死身ならどうしようもないですね」
「不死身というのはそれだけで絶対の力があります」
 これは神もだ、神の力には不死性も入っているのだ。
「だからこそ」
「相手がラドンでもですね」
「勝って下さい」 
 是非にとだ、豊香はまた言って来た。
「是非」
「わかりました、勝ってきます」
「そしてです」
 勿論ラドンとのことだけではなかった、上城が勝たなければならない闘いは。
「炎の剣士とも」
「わかっています、中田さんにも」 
 勝つとだ、上城は豊香にも約束した。そうしたことを話してだった。
 それでだ、今はだった。
「じゃあ今は」
「学校の午後の授業にですね」
「戻ります」
 自分の左手の腕時計で時間を確認しての言葉だ。 
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