流星のロックマン STARDUST BEGINS
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憎悪との対峙
17 悪の巣窟
前書き
今回から再び過去編=本編に戻ります。
ようやく悪役との戦いです。
今まではジャックやクインティアなど身内同士の戦いやクラスメイトとの喧嘩ばかりだったのでw
アクションに主軸をおいてます!
スターダストの戦闘スタイルにご注目ください!
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スターダストとなった彩斗は凄まじいスピードでウェーブロードを駆けていく。
真っ暗な夜空が広がる視界に酔い始める。
真下に見える毒々しい街の光が星のようだった。
「すごい...これが電波変換」
自分が電波体であると思えば別に驚くことでもない。
むしろ自分を見ている他の人間たちはどのような感想を抱いているのかということを思い出す。
電波体はまず視認できない。
だがもし見えているとすれば、未確認飛行物体にでも見えるのだろうかと勝手な想像をふくらませる。
そしてとうとう街外れにある悪の住処へとあっという間に辿り着いていた。
風はわずかに西南の方向から吹き、空には先程と違い、雨雲が星と月を隠し始めている。
「....」
プライムタウン、それは俗称だ。
かつてはデンサンシティの商社ビルに溢れた、いわゆるビジネスタウンだった。
だが交通などの立地条件から自然と駅などの方に拠点が移っていき、残ったのは大量の廃ビルのみ。
そこを拠点にあらゆる犯罪集団や浮浪者、売春婦が巣食っている。
しかしそれはある意味では救われていた。
就職もできず、学校にも行けず、先進都市の表の顔である電気街やグローバル企業の高層ビル、ショッピングモール、アミューズメント施設が建ち並ぶ地域から社会的にドロップアウトしてしまった人間たちにもここならまだ職があれば住むところもある。
彼らは自分たちで勝手に名前をつけた。
彼らにとって『素晴らしい町』、『優良の町』、『プライムタウン』と。
スターダストはとある廃ビルの屋上から辺りを見渡した。
「...」
所々から人々の争う声と排ガスが上がり、路上には死んだように仕事の依頼を待っているかのような浮浪者と売春婦に薬物を売っている売人。
スターダスト=彩斗自身はここに来たのは初めてだった。
大人は皆、「ここには近づくな」と教育する。
そして当たり前のように近づかずに生活している。
そんな常識から当然の如く想像がつく。
どのくらい腐敗しているのか。
だがこれは予想を超えていた。
「....あそこか」
スターダストはのWAXAの監視システムから得た盗聴履歴にあった廃ビルを見つけ出した。
現在位置から約200メートル。
3階建ての至って普通な運輸会社の成れの果てだった。
納得がいった。
運輸会社ともなれば倉庫がある。
そこを自分たちの武器の倉庫にすることで大幅にコストを削減、注文があれば、すぐに届けに行ける。
デンサンシティが大都市といっても車で1時間もあれば街中どこでも届けに行ける大きさだ。
敵ながら賢いと思わざるを得ない。
だが、だからといって見過ごすわけには行かなかった。
スターダストはビルからビルへと飛び移り、目標の建物へと接近していく。
だがここでも驚きを隠せない。
まるで石でも蹴り転がしている程度の力で何メートルもの跳躍が出来る。
重量など感じない、体が軽い。
スターダストは正直、電波変換に恐怖を覚え始めていた。
もしこの感覚に慣れてしまえば、この世界から出られなくなってしまう。
これは自分だけに言える話題ではなく、電波変換出来る人間全てに言えることだ。
この力に依存すれば、間違いなく身を滅ぼす。
そんな予感が心の何処かに刻み込まれた。
「はっ!」
窓をすり抜けて3階の廊下へと突入する。
人気はない。
真っ暗で不気味で電気系統にトラブルが起こっているのか、バチバチとおかしな音を立てながら電灯が着いたり消えたりを繰り返す。
廃墟という言葉がよく似合う場所だった。
ゆっくりと足音を殺しながら捜索を始める。
「....」
3階は印刷室と給湯室、そして倉庫からなっている。
スターダストは最初に印刷室を覗いた。
「....契約書?」
そこには数世代前のコピー機が並んでいる。
数年前までは現役で会社のためにあらゆる書類を印刷し続けたエースたちだったのだろう。
だが今ではホコリをかぶり、見る影も無い。
そんな中、一番入り口の手前にあるコピー機だけは新品にも思えるほどに手入れがされていた。
そしてトレイにはつい最近印刷されたような書類がある。
Valkyrieの武器の購入契約書だ。
既に契約者がサインするだけという状態で、そこに列挙されているのは大量の銃火器の名称だった。
これでValkyrieがここに巣食っているのは確定したも同然だ。
スターダストは一番怪しいと思われる倉庫の方へと歩き出す。
だがその時、外から音が響いた。
「...お出ましか」
割れた窓ガラスからビルの玄関を見下ろした。
雨が本降りになっている中、玄関には黒のGT-R、そして大型のバンが停車していた。
Valkyrieがやってきたのだ。
中から誰が現れるかなどを見届けぬまま、スターダストは倉庫に突入する。
そこには大量のダンボールが積み上げられていた。
大きさは巨大なものから小さな小包サイズのものまで様々だが、どれも決まってValkyrieのロゴ入りだ。
スターダストは目立たなそうなところのダンボールを開いた。
「!?...これは」
中には禍々しい黒いチップがぎっしりと入っていた。
『ダークチップ』だ。
ネットサファーなら一度は聞いたことがある。
いや、普段ニュースを見ている人間なら一度は聞いたことがあると言い直すべきだろう。
それは使ったネットナビの心を闇で染め上げ、犯罪に駆り立てる悪魔のチップだ。
またナビの組成データを何度クリーンアップしても僅かなコードの隙間に入り込み、長期に渡って依存し完全な排除が困難という人間における麻薬と似たようなものだった。
数年前に『ネビュラ』を名乗るシンジゲートが世界中に蔓延させたことは記憶に新しい。
隣のダンボールには昨晩、Valkyrieのセールスマンたちが使っていた『ユナイトカード』が入っている。
だが昨晩のものとは違い、色は紫ではなく赤だった。
「....」
スターダストはダークチップとユナイトカードを一1枚ずつ掴みとり、自身のユーティリティベルトに収納した。
そして耳をそばだてる。
足音は間違いなくこちらを目指している。
スターダストはそれを悟ると奥のダンボールの山の影に隠れた。
隙を狙って奇襲を掛けるつもりだった。
「さぁ....こい」
右腕のガントレットのいくつかのボタンのうち適当なものを先程のように押す。
すると今度はクナイ型のカッターかピーラーのようなものを装備した装備へと変形した。
これは接近戦用の武器のようだった。
それも主に格闘の補助的なものだ。
先程の『バルムレット・トラッシュ』にしても『ウイング・ブレード』にしても大型で小回りが効かない。
それを補うために後から付け加えられたような感じがする。
そんなことを考えながら、息を殺して入口の方を盗み見た。
それと同時に倉庫の扉が開かれる。
「急げ、2時間切った。例のブツとダークチップ、ユナイトカードを30枚ずつ用意しろ」
「了解」
「...安食」
案の定、やってきたのは安食空夢だった。
眼鏡にスーツ、紫のネクタイと昨晩と何ら変わりない姿だ。
やはり昨晩と同じく指示を出し、他の人間たちを従えている。
その様子だけで安食という男はValkyrieという組織の中でもそれなりの地位を築いていることが伺えた。
スターダストはValkyrieたちの行動からあらゆる事柄を頭の中で繋げては考察を繰り返しながら、攻撃の機会を伺っていた。
だがそれは安食も同じだった。
「ん?」
安食の視線の先には僅かに列を乱すダンボールがあった。
それも目立たないところにあり、一応テープで梱包されているが開けられた痕跡がある。
当然、スターダストが先程開けたものだ。
それだけで用心深い安食には疑いをもたせるには十分だった。
「....先客がいる...」
「はい?」
「倉庫内を捜索しろ。ネズミが潜んでいるかもしれん。見つけ次第殺せ」
安食は足元で大型のエンジンのような機械を運びだそうとしていた部下たちに指示を出した。
その機械は重いのか、ゆっくりと地面に置かれた。
そして6名の部下たちは一斉にユナイトカードを使って禍々しい怪人へと姿を変えた。
ジャミンガーだ。
電波ウイルスと人間の融合体。
人間と電波ウイルスが偶然出会って、融合して誕生するのはかなりの低確率だ
だがユナイトカードはその理論を覆した。
カードに前もって捕獲したウイルスを閉じ込めておくことで、使えば誰でも電波変換できてしまう。
そんな超人をいとも簡単に作り出せる脅威の兵器だった。
「こっちにはいないぜ」
「こっちもだ」
「お前はあっちを頼む」
「...」
徐々にスターダストの方に迫ってくる。
そしてとうとうスターダストの隠れるダンボールの方にきた。
「!?ぐぅ!!うわぁぁぁぁ!!!」
スターダストは顔面を肘で叩くと足を払って窓の外に放り投げた。
悲鳴が倉庫中に響き渡る。
「やはり来ていたか...」
安食はため息をついた。
こういう時に限って嫌な予感というのは当たる。
何故かは分からないが、いつもこうだ。
まるで不幸に愛されているかのようだった。
「おい!!誰かいるんだろ!!」
「出てきやがれ!!!」
ジャミンがーたちは大声で怒鳴り散らす。
そしてスターダストは逃げられないことを悟り、姿を現した。
「テメェ....」
「こいつは...ロックマン?」
「でも色が違う....何者だ!?」
「....」
「そういうことか...昨日、私の部下が殺されたのは君の仕業か...」
何も答えないスターダストの姿を見てジャミンがーたちはパニックを起こす。
基本的なシルエットはロックマンと瓜二つ、それにあらゆる武装が装備されている。
未知の電波人間だ。
「殺れ」
安食のその言葉を引き金にジャミンがーたちは一斉にスターダストに襲いかかった。
コンクリートの地面を蹴り、それぞれ『ソード』や『ワイドソード』といった武器を構えて突っ込む。
だがそれに対してスターダストはスロースタートだった。
「このやろう!!!」
「ハッ!!ヤァ!!!」
1人目のソードを交わして、握りこぶしで太ももを砕く。
「うっ!!?」
「ヤァァ!!!」
トドメはバランスを崩したところに顔面への膝蹴りだった。
そしてすぐさま次の相手へと攻撃に移る。
心臓めがけて向かってくる拳を肘で弾き、ターンして肘で顔面を砕いた。
「ぐぅぅぅ!!!」
3人目は腕のカッターで持っていた重火器を払っては足に刃を突き立てる。
そして前方に飛び、両手で体を支えた体勢になる。
いわゆる『チェア』というやつだ。
ここから手を崩すようにして回転を始めた。
ブレイクダンスでいう『ウィンドミル』。
崩しては次の手でキャッチして足を振り、襲いかかってくる敵を蹴り飛ばしていく。
まるでブレイクダンスを踊るバックストリート・ボーイズに返り討ちにあっている光景だ。
「ヤァァァ!!!」
「!?うわぁ!!!?」
そして一瞬留まったかと思うと、首跳ね起きで最後の1人を飛び潰した。
それは僅か数秒の出来事だった。
1対6という不条理極まりない勝負でありながら、スターダストは全くダメージを受けることなく圧倒した。
スターダスト自身は全く驚くことはなかった。
『紺碧の闇』で受けた修行に比べれば大したことはなかった。
あの天井に潜んだり、床の底から奇襲をかけてくる忍者たちと違って正面から襲ってくるのだから。
「ふぅ....」
拳を握り締めながら、若干の恐怖に襲われていた。
凄まじい力に酔いそうだった。
力に溺れるという人間の気持ちが今なら分かった。
自分は今までムーの特異な力を持っていたことで気味悪がられ、差別されながら生きてきたために力を妬ましく思うことはあった。
だからこそ力には溺れることはなかった。
溺れたら自分を差別してきた人間たちに負けてしまうような気がしたから。
しかし今はこの強大な力を得て、全てを叩き潰せるような感覚に溺れそうになる自分が頼もしくて仕方がなかった。
誰にも負ける気がしなかった。
パチパチパチ!!
「ん?」
スターダストは不意に聞こえてきた拍手の音のする方向を向いた。
「お見事...としか言い様がない。一応、全員が剣道、柔道、空手でいうところの2段以上の戦闘能力を身につけるように訓練された者たちなんだがね...」
声の主は安食だった。
眼鏡を外すとポケットから取り出したハンカチで拭き始めた。
スターダストは安食の声に耳を傾けながらも、その仕草と周囲に意識を尖らせトラップや不意の攻撃に備える。
「で?要件は何かな?沢城アキくん、あぁシンクロナイザーって言ったほうが正確かな?」
「!?」
スターダストは驚きを隠せなかった。
一瞬にして正体を見破られた。
と言うよりはまるで最初から自分がスターダストだと分かっていたかのようだった。
「君はネット上では有名なクラッカー『シャーク』、そしてその正体はディーラーの孤児、全ての人間に少なからず受け継がれているムー人類の因子を『PROJECT LOKI(プロジェクト・ロキ)』なる計画で遺伝子操作によって覚醒させられた後天的デザイナーチルドレン、通称『ロキの子』の1人。通常、彼らはディーラーの養護施設で英才教育施されながら過ごし、徐々に能力開発を行われる」
「....」
スターダストは口を挟めなかった。
自分の知らなかったムーの力を持った意味、それが僅か数秒で明らかにされてしまった。
安食は自分の知らないことまで知っている。
『ロキの子』や『PROJECT LOKI』など初めて知った事だ。
それが我慢ならず自然と右手の拳を握った。
「フッ」
安食は僅かにスターダストの表情から動揺を感じ取り、不敵な笑みを浮かべた。
後書き
最後までお付き合いいただき有難うございました。
ブレイクダンスを交えた戦闘スタイルでした!
そして忍者のように闇に隠れて肘打ちなど格闘技全般では禁止にされているような強力な一撃を与えていく感じです。
卑怯とも言えますが、目的のためなら手段を選ばない破天荒さを楽しんで頂ければ嬉しいです。
誤字脱字等のご指摘、感想等お待ちしてます!
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