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神葬世界×ゴスペル・デイ

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第一物語・後半-日来独立編-
  第六十八章 強くあるために《4》

 
前書き
暴走の謎が明らかに!
竜神相手にどう戦うのか!
ではスタート! 

 
「暴走について調べたこととかあるのか」
 今現在、何処まで奏鳴自身が暴走のことについて知っているのか。
 奏鳴が何も言わなくとも、顔色を見れば誰にでも無理をしていることぐらい解る。しかし早々に暴走の解決を始めようにも、本人の状態が良くければそこまでだ。
「幾らかな。断言出来ることだけ言うと、暴走は竜神によるものだということだけだ。それ以外はあまり、な」
「そうか、なら暴走の原因を言わせてもらう」
「こんな短時間で分かったのか。凄いな、お前は」
 奏鳴は辛そうな表情を出来るだけ堪え、余計な心配を掛けないように努めた。
 そんななかで言われる、暴走の原因。
 頭のなかで整理した情報を、セーランは順々に言う。
「天才という馬鹿ってやつさ。まあ、暴走のことについて言えることはまず、暴走には二種類あたってこと」
「暴走が、二種類だと……?」
「まず奏鳴が家族や黄森の奴らを殺めてしまった時の暴走だが、あれはお前の身体に流れる血が原因だ」
「私のなかに流れている血、が。そうか、竜神の血が」
 何かほっとしたような、そんな印象をセーランは受けた。
 今まで謎だった暴走の原因が分かり、安心したためか。
「もう一種類のは、竜神がお前に憑依したことで起こった暴走だ。これを行った要因を言うと、さっき言った竜神の血による暴走が、竜神自身の宿り主。つまり奏鳴、お前の命に関わると思ったからだ」
「竜神が私に憑依、しただと? これは、まさかの展開だな。予想すらしていなかった……」
「神自身が自ら宿り主に憑依するのはかなり希なケースだからな。後、さ……余命五年の原因も」
「気にするな、理解出来た。神と近い神人族は元々他の種族より寿命が短い。それと暴走による負担が課せられ、私の命は後五年なのだろう?」
 その通りだ。だが、その言葉を口には出来無かった。
 口にしてしまうと、もう五年という命に救いが無いように思えてしまうから。
 寿命についても、何か解決方法がある筈だ。
 まず今はそれではなく、暴走を防ぐ方が先だ。
「必ず救ってやるからな」
 現状での言葉を複雑な心境を持ちながら、まるで自分自身に言い聞かせるように伝えた。
 奏鳴は頷き、その言葉を受け止めた。
「なんか染々としちまったな。話しを元に戻すけど、今の暴走は竜神の血による暴走だ。竜神が現実空間に現れて、身体に負担が来たのが大きな原因だと思うな」
「それを、どのようにして防ぐというのだ」
「竜神の宿り主になったから、竜神との繋がりが強くなった。だから奏鳴が竜神と言ってもいい程に近くなったから、今後は竜神による血の暴走は無くなるだろうな」
 宿り主とはその身に神を宿すこと。
 つまり神の依代となったことで、奏鳴の場合は竜神の血もあって、更に身体が神の力に耐えうるように変化したということだ。
 今回の暴走は正式に宿り主となったにも関わらず起こったが、奏鳴が酷く疲労していることと、神の力の扱い具合に慣れていないために起こったものだ。
 体調が回復していけば、今後竜神の力の使い方を学び、無駄無くこなせるようになるためにもう竜神の血による暴走の心配は無くなる。
「けど今はやっぱ竜神に割いた奏鳴の流魔を、再び奏鳴に送り返して暴走を防ぐ」
「流活路の流れを、逆流させるようなことを言うな。神から流魔を削ぐなど、人類には出来無いぞ」
「馬――鹿、俺だって宿り主なんだぜ。宿した傀神は流魔に作用する能力」
 言うと、セーランの右腕が青く光る。現れたのは手が爪となった青い腕。
 “憂いの葬爪”だ。
 宿り主であることを示すその腕を曲げ、掌を奏鳴の身体の上へと置く。
 ほのかに光る掌からは流魔が送り込むれ、削られた奏鳴の内部流魔を回復させていく。
「少しはマシになると思う。後ちょっとだけ待っていてくれよ」
 ある程度回復させ、奏鳴をその場に置いていく。
 竜神に流れた奏鳴の流魔を取り出すために。
 人には人にあった内部流魔へと自然と流魔が変わり、蓄積されていく。本人にとって一番身体にいいのは本人の流魔ということだ。
「ありがと」
 背後から奏鳴が感謝の言葉を言った。
 背中で言葉を受け取ったセーランは振り向かずに、握る左手を水平に上げ、親指を立てることで返事とした。



 空に浮いている竜神が見詰める者。
 それは黄森の長、織田瓜・央信だ。
 赤い瞳に映し、じっと遠目に見ていた竜神。
 動きの見せなかった竜神が一鳴きした後、大気を割って央信の元へと突っ込んだ。
 軌道から推測するに、ずっと行けば央信と衝突する形となる。
「長を守れえええ――――!!」
 突如として叫んだ繁真。
 映画面|《モニター》越しに聴いた黄森の者達は身体を震わせ、反射的に言葉の意味を理解した。
 竜神が央信を殺しに来た。
 宿り主を解放させようとした報いとして、怒りの矛先を央信に向けた。
 戦闘艦の主砲が鳴る。
 日来の制圧を行っていたドラゴン級戦闘艦・輝光が、その機動力を活かして即座の砲撃を行った。
 それを合図として、他にも日来の制圧に向かっていた戦闘艦から竜神を目標とした砲撃が放たれた。
 砲撃対象を竜神に優先し、副砲も続いて鳴いた。
「清継、急ぎ玄次郎殿に連絡だ!」
「りょ、了解です!」
 慌ただしい空気に圧倒された清継は、震えた手を動かして映画面を表宇した。
 早く早くと心のなかで焦りながら、やっと繋がった相手は繁真が言った相手ではなくて、
『んだよ、清継か』
 日々日・王政。同級生だった。
「あ、あれ? 通信相手間違えましたあああ――――!?」
『叫びながら疑問系とか凄えなお前』
「どうしましょう! 不良と、不良と繋がってしまいましたよ! 私、不良なんかと話したことありませんよ――!」
『涙目で不良言うンじゃねえ! オレが泣かしたと思われンだろ!』
 パニック状態の清継に、何やら王政が怒鳴り散らしている。
 同級生だと二人共、どんな時も元気なようだ。とズレたことを思っている繁真だが、落ち着くようにと清継の肩に手を乗っける。
「心配無い。ああ見えて王政は年上好きだ」
『いきなり先輩は何言ってるンすか!?』
「いや、楽しそうだったもので。……つい」
『……つい、じゃないっすよ! なんて言ってる場合じゃねえ。日来の制圧を行ってた戦闘艦が先輩がいる方へ砲撃してたっすけど、どういうことっすか』
 移動中の王政は空気を切りながら、繁真にことの説明を求めた。
 咳払いし、ふざけた態度を正す繁真。清継と代わり、映画面の前に立つ。
「竜神が央信殿の命を狙っている。砲撃はその竜神に対して行ったものだ」
『ンだと!? あの目の前に見える竜がそうか』
 王政は映画面を反転させ、今見えている光景を見せる。
 映画面を見てみると、確かに竜神だ。位置から考えるに数秒前の光景だ。
 竜神が見えるということは王政が、この西貿易区域内にすでにいることは間違いない。
 長を殺させるわけにはいかない。
 そのためには竜神の進行を食い止め、長である央信が逃げ切れる時間を稼ぐ必要がある。
 ならば、と考え。
「王政、お前は長の元へ行き、撤退しろ」
『納得いかねえが竜神相手じゃ仕方ねえか。けど距離的に考えれば先輩達の方が近いっすよね』
「拙者と清継はこれから竜神を相手にする。何処まで保つ分からない。出来るだけ早く行ってくれ」
『貿易区域に入って二キロぐらい進んだっすから後一分ちょっとっす。それまで保たせてくださいよ』
「了解した。ところで玄次郎殿はどうした」
 覇王会隊長である九鬼・玄次郎と、覇王会副隊長である王政は一緒にいると思っていたため、彼のいないのが気になった。
 一瞬、嫌な顔をされたが自分に向けられたものではない。
 玄次郎という名前を出されて、気持ちが顔に出たのだ。
『ああ、あの先輩なら日来の社交員相手に戦うのが面倒臭くなったとか言って逃げ出しましたよ。お陰でオレ一人で戦う羽目になったンすから』
「それはご苦労」
『多分そっちに向かってるンじゃないっすか。オレよりも遅えから後から来ると思うっすけど』
「分かった。よし、清継。竜神相手に拙者達の力を見せる時だ」
「頑張りますっ!」
『精々やられんなよ、な・き・む・し』
「泣いてなんかいま――」
 せん、という前に映画面の画面が真っ暗になった。
 王政が通信を切ったのだ。
 言いたいことだけをいい消えていったのが気に入らなかったのか、感情に身を任せて清継は空しく表示されている映画面を割った。
 と、同時に爆発音が響いた。
 鳴った方向へ振り向くと、見えたものは竜神の竜口砲|《ドラゴンブレス》によって艦の半分を持っていかれ、煙を上げていた戦闘艦だ。
 前の放射状のものではなく球状の竜口砲。
 竜神の方にも無理は来ているのだろう。当たり前だ。宿り主の具合が元々良くなかったのだから。
 こちらにしてみれば運がいい。
「後で王政を殴っていいから今は行くぞ」
「いいんですか!」
 悔しく拳を握っていた清継が、目を輝かせてこちらを見た。
「拙者が許す。準備は必要か」
「特に必要ありません」
「よし。味方も必死になって砲撃を行っている。巻き込まれないように、竜神の視覚、目を潰しに行く」
「了解!」
 繁真は腰に携えた鞘から刀を、清継は拡張空間と表示されている映画面に手を突っ込んで、左右から二本の槍を取り出した。
 刃に映るのは側にいる者。
 二人は頷きを一つ入れ、同じタイミングでその場を後にした。
 砲撃が打ち付けられている竜神の元へと、迷い無く向かっていった。



 事態を理解出来ていない者達は、理解を求めて誰彼構わず疑問を投げ掛けた。
 黄森の者達のなかであっても同じであり、充分な説明がなされていないのは明らかである。
 皆の緊張の糸が複雑に絡み合い、思考で物事を考えられなくなっていた。
「どうなってんだ。俺達は宇天の長救いに行ったのに、なんで今度は竜神と黄森が戦ってるんだ」
「そんなこと言ってもこの場にいる誰もが知らないわよ」
「くそっ! 訳わかんねえ」
 などと日来の学勢達も荒れていた。
 慣れない戦場の変化に苛立ち、何をすればいいのか迷っている。
 それを見ていたレヴォルフは先導を行くように、
「静かにしろおおお――!」
 咆哮の如く言葉を放った。
 急な大声に皆はまるで目が覚めたように、静まり返り冷静さを取り戻した。
 今後は実戦のことについて、詳しく学ぶ必要があると思いながら、この場にいる日来の学勢をまとめ上げる。
「黄森が相手にしているのは竜神、俺達ではない。事態が変化し、目標が変わったと捉えるべきだ。俺達の目的は宇天長の救出。それがなされた今、現状はその場での待機だ。
 いいか、この状況下では俺達の入る隙間は無い。冷静に戦いの流れを見極め、今後に活かせるようにしておけ!」
 レヴォルフ自身も事態を把握仕切れていない。
 黄森の目標が宇天の長から竜神に変わったことしか理解出来ず、何故竜神を狙うのかは理解出来無かった。
 覇王会の誰かに説明を求めた方がいいが、長であるセーランは無しだ。
 彼方は彼方でことを進めている。邪魔をするわけにはいかない。
 残るは戦場にいる覇王会隊長であるネフィアか、日来にいるであろう覇王会指揮官、伝達者、戦術師であるアストローゼ、飛豊、レヴァーシンクかだ。
 ネフィアに連絡すべきなのか。いや、連絡したところで彼方も事態を把握出来ていないかもしれない。仮に把握出来ているしていたら、連絡が来る筈だ。
 ならば、まず日来にいる覇王会戦術師であるレヴァーシンクあたり連絡するのが妥当だろう。
 映画面|《モニター》を表示し、離れているレヴァーシンクへと通信を行う。
 数秒経ち、すぐに映画面にレヴァーシンクの表情が映る。
『あ、レヴォルフか。いいところに来たね』
「聞きたいことがある。黄森がいきなり目標を竜神に変え、攻撃を行っている。一体何故だ」
『その様子からだとそっちも分からないみたいだね』
「ん? そうか、そっちも分からないか」
『うん、分からないね。けどこっちの――』
 返事を変えそうとしたレヴァーシンクが画面から消え、代わりに覇王会指揮官とその補佐が映った。
 画面外へとレヴァーシンクを突き飛ばしたニチアに、後からアストローゼが映り、日来の現状を話したり
『今ね、日来は結構暇かな。日来を制圧しに来た戦闘艦が急に離れていってね、こっちは防御壁しか使えないから追い討ち出来無かったんだよねー』
『黄森の目標が竜神に変わったようだが、一体何が起こったというんだ。価値ある説明を求める』
「見たままのことを言うとするならば、竜神が黄森長の方へと向かっていった、ということだな」
『なるほど。つまり黄森は竜神に狙われた長を守るために、竜神相手に攻撃を行っているわけだな』
 さすがは覇王会。事態の把握が早いと、ルヴォルフは関心する。
 三人が話してるなか、ニチアによって突き飛ばされたレヴァーシンクが戻って来た。
 彼方が映画面の大きさを変えたのか、ルヴォルフの映画面には三人が映る形となっている。
 半目でニチアを睨み付けるレヴァーシンクは、唐突に自身の考えを口にした。
『どうせ宿り主を解放させようとした黄森長に怒ってやり返そうとしているわけでしょ。分かり易いね』
『何自分は分かってますけど? みたいなこと言ってるの。だっさーい』
『うるさいな、君は黙ってなよ』
 レヴァーシンクとニチアの口喧嘩が始まりそうなのを、アストローゼは面倒臭いという感情を表に出しつつ、二人の間に割り込んで止めに入る。
 二人は物言いたそうに互いを睨むが、間に立っているアストローゼによって出来無い状態だ。
 アストローゼがいなかった場合、すぐさま彼方は口喧嘩が勃発していたに違いない。
「やはり現状は待機の一択を選んだ方が良さそうだ」
『こちらで何か情報を得たら伝えよう』
「頼む。しかし竜神相手に黄森は何処までやれるの
か……」
 砲撃の音が鳴り響くなか、竜神は戦闘艦に向かって反撃の竜口砲を放つ。
 何十枚も防御壁を重ね合わせ、なんとか軌道を変えて着弾を防いでいるが、見る限り流魔の消費が激しいように見える。
 それ程、竜神の竜口砲は強力なこと示している。
 と、その時だ。
 宙に走る青い線。
 なんだ、あれは。と疑問に思っていると、答えはすぐに来た。
「セーランか!」
 青い線は流魔線だ。
 流魔線を使い、セーランが宙を行く。だがこちらの声に気付かず、真っ直ぐ、竜神の元へと向かった。
 多数の砲撃のなかを潜るように進み、一刻も早く辿り着こうとしているのが見て分かる。
 援護をしてやりたい気持ちはあるが、あの砲撃の雨のなか付いて行くには、獣人族であっても無理があった。
 ただ見ていることしか、自分達には出来無かった。



 止まる気配の無い砲撃。そのなかをセーランは行く。
 黄森側は竜神を止めるべく砲撃による攻撃を行っているが、セーランは竜神に流れた奏鳴の流魔の回収するまでは竜神をやらせるわけにはいかない。
 これ以上は黄森との仲を悪くはしたくない。
 竜神がやられる前にこちらの目的を果たす。
 すまないが、今回は竜神の味方ではない。
 戦闘艦から放たれる砲撃はセーランがいるも、構わず主砲をも鳴らす。
 何もしなければ直撃する砲撃だが、わざわざ当たる義理も無い。流魔操作によって創り出す盾によって防ぐ。
 流魔を圧縮させ、密度を高めた流魔の盾は大きさ数メートル。
 完全に防げるわけではない。
 一定時間の時間稼ぎであり、セーランが通過したならば盾は崩壊する。そうして竜神に近付くセーランの元に、二人の女子学勢が来た。
 女子学勢の二人は宙に系術で足場を築き、その上を行く形で宙を行く。
 身に付けている制服は日来学勢院のものでも、宇天学勢院のものでもない。
 黄森のものだ。
「またあいつらか」
 解放場に突入する際に、行く先を阻んだ者だ。
 なんの目的で近付いてくるのか。
 邪魔をしに、それとも竜神を仕留めるためか。
 どちらにしろ、仕掛けてくる場合だった時の構えは取っておく。
 そう時間は掛からず迫る黄森の女子学勢。手にはそれぞれ武器を持ち、勢いを落とさず近付いてくる。
 ふとした瞬間、黒髪の女子学勢がセーランの目の前へと距離を詰めた。 
 

 
後書き
 まさかの竜神を相手にするとは、一体誰が予想していたでしょうか。
 天桜の長である織田瓜・央信を狙っているため、黄森の皆さん心中焦っております。
 辰ノ大花を治めている委伊達同様、黄森を治めている織田瓜。
 長年治めているだけあって信頼は厚く、今回は敵側に回っていますが憎めない存在なのです。
 ところで伊達やら織田やら歴史を感じさせる名字が出てきましたが、今作ではちょっとアレンジを効かせています。
 委伊達は「委ねた伊達」という意味で、継承の意を表しています。
 織田瓜はお分かりの通りでしょう。織田家の家紋はきゅうりの断面。ゆえに織田瓜です。
 第一物語では地名のみ出てきました嗚虎、朱鳥天、色宝甲盾にも歴史を感じさせる名字を持つキャラクターがいますが、出るのはまだまだ先のお話しです。
 ちょっと名字に意味を持たせているキャラもいたりして、我ながら凄いと自画自賛していたり……。
 恥ずかしい話しはここまでとし、それではまた。
 去らばです。 
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