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兄弟

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第二章


第二章

「ここを離れるわけにはいかない」
「今はですか」
「これからもだ」
 ここで意外な言葉を出した。
「これからもだ。それは」
「これからもといいますと」
「あいつが成長して結婚するまで」
 随分と先のことまで話すのであった。
「私はあいつを見守っていきたいのだ」
「そこまでですか」
「駄目か?」
 ここまで話したうえで執事に問うた。
「それは。私のこの考えは」
「そうは思いませんが」
 一応は肯定しているがそこには妙に挟まったものがある返答であった。
「それでも。やはり」
「私自身のことか」
「御結婚はされますな」
「おい、それを言うのか」
 自分のことを言われて思わず苦笑いになる。安楽椅子に座ることなく立って話をしていたがここでふと足が動いた。
「私はまだ十六だぞ。そんな話はまだ」
「早いうちに決めるのがいいことですが」
「今はまだ考えられない」
 これが彼の返答だった。
「今はな。あいつを見ていたいのだ」
「左様ですか」
「あいつは私が育てる」
 言葉に強い決意が宿った。
「必ずな」
「それでは今は」
「そうだ。それでだ」
 話をジョージに関することに移してきた。
「何年か経てばだ」
「どうされますか」
「家庭教師のことも考えておかなければな」
 次に言ったのはこのことであった。
「そのこともな。それも考えておいてくれ」
「はい、それもまた」
「これから忙しくなるな」
 窓を見ての言葉である。真剣であったが微笑んでもいた。
「かなりな。だがきっとな」
 彼はジョージを育てていった。やがて赤子から子供になり家庭教師までつけられるようになった。彼の弟としてまんべんなく育てられていた。彼はジョージを愛しジョージもまた彼を慕っていた。だが周りではそんな彼等を馬鹿にする者も少なからずいたのであった。
「今何と言った」
 あるパーティーの席においてのことであった。ウィリアムは険しい顔で相手に詰め寄っていた。
「何と。もう一度言ってみるんだ」
「よかろう」
 相手は鋭い目をした痩せた男だった。当然ながら彼もまた貴族である。その彼はウィリアムを嘲笑する目で彼に対して言うのであった。
「変わった道楽をお持ちだな、スチュワート公爵は」
「私の道楽とは何だ」
「妾の子を弟といって育てている」
 このことに他ならなかった。彼もまたこのことを嘲笑しているのである。
「それが変わった道楽と言わずして何というのだ」
「私のこれは道楽ではない」
 険しさをさらに増した目で言い返す。
「ジョージは私の弟だ。紛れもなくな」
「妾の子は家族ではない」
 当時の貴族社会の常識である。
「卿もまた。酔狂なことだ」
「ほう、酔狂か」
 今の言葉が彼をさらに刺激した。そしてさらに鋭い目で相手く見据えて問うてきた。
「今酔狂と言ったな」
「うむ、言った」
「その言葉。訂正する気はないな」
「私は貴族だ」
 相手の貴族は傲然とした態度で彼に返す。
「酔狂な趣味を持たないな」
「わかった。では話はわかった」
 ウィリアムはここまで話を聞くとそれ以上は彼に対して聞こうとはしなかった。そのかわりに懐から何かを取り出してきた。それは。
「決闘か」
「そうだ」
 それは白手袋だった。どういう意味を持つのかは最早言うまでもなかった。それを見た相手も冷静な態度で彼に対して応えるのだった。
「では。どちらだ」
「銃か剣かということか」
「そうだ。どちらだ」
 こうウィリアムに問い返す。
「私はどちらでもいいがな」
「では剣だ」
 ウィリアムはすぐに彼に言葉を返した。
「剣だ。それでいいな」
「場所は」
「ここの入り口でだ」
「では今すぐにだな」
「不服か?」
 鋭い目で相手に問い返す。
「それでは」
「構わん。それではすぐにな」
「その言葉後悔させてやる」
「妾の子という言葉か」
「その通りだ。卿があくまで取り消さないというのだからな」
 決闘というわけだった。やはりここでも目が鋭い。
「侮辱は晴らす」
「侮辱か。何が侮辱なのか」
「わかっていないならいい」
 顔には出さないが既に怒りはとうの昔に限界を越えていた。そうして入り口に出てそれぞれ剣を手にする。そのうえで決闘に入るのだった。
 
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