八条学園怪異譚
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第五十九話 時計塔の話その十一
「だって好きな女の子をとっかえひっかえで可愛がることが出来るのよ」
「何かそう言われると怖いですけれど」
「それもかなり」
「怖くないわよ」
それは全くだというのだ、そして二人にこうも言うのだった。
「むしろ楽しいから」
「それは先輩がですよね」
「楽しいんですよね」
「あんた達も楽しいから」
こう言いはするがやはり怪しい。
「百合の園はね」
「百合ってね、つまりは」
「そっちの言葉だからね」
二人もこの場合の百合がどういう意味か知っている、それで愛実は茉莉也を見つつ聖花に問い聖花も愛実に答えた。
「だから百合だから」
「私達そういう趣味ないし」
「先輩って確かにいい人だけれど」
「そういうところがね」
どうにもだというのだ、これは二人共だ。
だから今は茉莉也を微妙な顔で見ている、しかし当の茉莉也はにこにことしている。
そしてだ、二人にまだ言うのだった。
「まあまあ、今すぐ決めなくていいから」
「気が変わったら、ですか?」
「百合の園にですか」
「私は待ってるから」
それこそだというのだ。
「何時でもね」
「ですから私達女の人とは」
「ノーマルですよ」
「とはいっても男の子とも付き合ったことないですけれど」
「私もですけれど」
「とはいってもあんた達いつも一緒にいるから」
このことはその通りだ、やはり愛実と聖花は親友同士である。それでいつも一緒にいるのだ。
その二人にだ、茉莉也はこう言った。
「結構怪しがられてるかもね」
「そういう関係、ですか」
「それ実際に言われました」
かつて言われたとだ、二人も認める。
「二人でもうできてるんじゃないかって」
「いつも一緒だからって」
「そうでしょ、まあ実際は違うわね」
茉莉也もそのことはわかっていて言う。
「あんた達は今のところはノーマルね」
「そうです、そんなことって普通は」
「そうそうないですよ」
「日本じゃ昔から普通だけれどね」
「それって男同士ですよね」
「そちらですよね」
「まあ女同士でもね」
普通だとだ、茉莉也は答えた。
「普通よ」
「そうなんですね」
「普通なんですね」
「そう、普通よ」
そうだというのだ、女同士でもだというのだ。
「男同士がよくて女同士が駄目ってことにはならないでしょ」
「何か凄く説得力のある言葉ですね、それって」
「それもかなり」
「そうでしょ、そうなるのよ」
これが茉莉也の言い分だ、男同士がいいのならというのだ。そしてそれはまさにその通りのことであった。
「実際女同士で捕まったって人日本の歴史じゃいないでしょ」
「あっ、確かに」
「そういう人は」
二人も気付いた、日本では同性愛で捕まった人間はいない。それは男同士の場合も女同士の場合もなのだ。
「いないですね」
「それも一人も」
「そう、いないわよ」
全くだというのだ。
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