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久遠の神話

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第九十二話 百腕の巨人その七

「頭と腕の数だけね」
「そうなりますね」
「けれど勝てるのね」
「はい」
 それはだ、必ずだというのだ。
「僕は勝ちます」
「五十の頭の知恵と目と百の腕の力と技に」
「はい、そうしなければ」
 家族の顔を思い浮かべる、そのうえでの言葉だった。
「僕は幸せを手に入れられません」
「幸せは生きてこそよ」
 智子はコズイレフにこの真理も告げた。
「それでこそよ」
「そうですね、生きているからこそですね」
「この世での幸せを楽しめるのよ」
 この世は生者の世だ、それならである。
 生きていなければ楽しめない、こう話してだった。
 智子はだ、コズイレフに告げた。
「五十の頭と百の腕に勝つのよ」
「僕よりも遥かにあるそれに」
「ええ、絶対にね」
「わかりました」
 コズイレフもはっきりとした声で答える、敵の強さは圧倒的だがそれでも諦めてはいない。巨人の激しい攻撃も今度は右に動いてかわしてだった。
 その隙を伺う、しかし。
 巨人は五十の頭で彼の動きを見ている、そしてだった。
 一つ一つが考えてだ、そのうえで。
 彼に備える、その動きも構えも全く隙がない。
 その隙のない動きを見てだ、大石も言う。
「隙がないですね」
「そうですね」
 コズイレフは大石にも答えた。
「全く」
「五十の頭とそこにある目で見ていますので」
「耳や鼻もありますね」
「感じ取ることはそれだけ多いです」
 多ければ多いだけだ、まさに。
「手強いですね」
「それだけを考えても」
「そうですね、迂闊には攻められません」
 それはとてもだった。
「この巨人には」
「それを実感しています」
「しかしです」
「それでもですね」
「弱点のない相手もです」
「いませんね」
「それは一人としてです」
 例えだ、神を封じる力を持つ巨人でもだというのだ。
「いません」
「その通りです、弱点のない存在なぞ」
 いないとだ、彼等も話す。
 そしてだった、ここでだった。
 コズイレフはあらためて巨人を見る、今も五十の頭で彼を隈なく見ておりそのうえで百の腕に石を次々に出して投げてくる。それは変わらない。
 だが、だ。ここで彼は気付いた。その気付いたこととは。
「石を出しますが」
「それでもですね」
 今度は聡美が応える。
「ヘカトンケイルは」
「魔術はありませんね」
「はい、ヘカトンケイルはです」
 魔力を持っていない、そうだというのだ。
「そうした巨人です」
「確かに絶大な力はありますが」
 巨体と五十の頭と百の腕、それがあるだけにだ。
「しかしですね」
「それでもです、この巨人は魔力は持っていません」 
 例え石を自由に出すことが出来てもだ、それでもこの巨人は魔力やそうした類の力は持っていないというのだ。 
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