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久遠の神話

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第九十一話 戦いでも得られないものその七

 それでだ、こう言うのだ。
「幾ら手に入れても僕がどうなるかっていうと」
「何にもならないのね」
「僕は僕だよ」
 それ以外の何でもないというのだ。
「変わらないよ」
「そう思うからなのね」
「うん、力に溺れるとか僕が戦いを求めるとか」
 そういうことはというのだ。
「ないから」
「それが上城君のいいところだと思うわ」
「僕のだね」
「欲がないというか。力をね」
「そういう人を見たからね」
 またここであの暴力教師を思い出す、その腕力と竹刀の力で自分の生徒達に虐待を行い悦に耽っていた輩の。
「あんな人になりたくないから」
「力を手に入れても」
「そう、その力で誰かを痛めつける人をね」
「そうした人になりたくないのね」
「醜かったよ」
 その心がというのだ。
「何よりも、誰よりもね」
「力があってもそれで誰かを傷つける人は」
「うん、最低だから」
 このことがわかっているからだというのだ。
「あの人みたいなことはしないよ」
「絶対になのね」
「うん、しないよ」
 また言った上城だった。
「間違ってもね」
「そうなのね。そう思うとそうした人も」
「役に立つんだね、暴力を受けた人には災厄以外の何者でもないけれど」
 それを見る者にとってはというのだ。
「反面教師になるから」
「ああいう人にはなりたくないって思うから」
「僕も。あんな人にはなりたくないから」
 その暴力教師の顔を思い出す、中田に完全に成敗され廃人になっても彼の心の中には強く残っている。
「絶対に」
「人にそう思わせるだけでも凄いわね」
「世の中って反面教師もいるんだね」
「ええ、そうね」
 樹里も上城の言葉に頷く、反面教師という存在については。
「ああした人にはなりたくないって思って頑張るのね」
「だから僕はどれだけ力を入れてもね」
「それでもよね」
「そう、その力を剣士の戦いだけのことだし」
 普通の世界では精々剣の腕がよくなる程度だ、実際に上城は剣道の腕も身体能力も普通の人間の能力の範疇のレベルの中で上がっているがこのこともそれだけに留めている。これは戦いの中で運動神経がよくなり力や瞬発力が上昇しているだけだと思っているからだ。
「それだけだよ」
「それでいいと思うわ」
「そうだよね」
「ええ、若し溺れたら」
 剣士の戦いの中でだというのだ。
「上城君は終わるわ」
「そうなるよね」
「上城君でなくなるから」
 悪い意味で変わりというのだ。
「そうなるから」
「そうだね、僕もそう思うから」
「その先生のことは忘れないでね」 
 樹里からも彼のことを言う。
「さもないとね」
「本当にそうなるから」
「反面教師でも役に立つのなら」
「役に立たせないと駄目だね」
 そうした人間になりたくない、そう思ってだというのだ。
「やっていかないと」
「ええ、それじゃあ」
「もう少しで終わるから余計に」
 気を引き締めてだというのだ。
「やっていくよ」
「頑張ってね」
「そうしていくね」
 上城も応える、そしてだった。
 携帯の電話を切る、彼はこの日はこうした。
 彼もコズイレフも闘いの時が近付いていた、コズイレフもまたその中で戦い続けていた。この日彼は巨人と戦っていた。
 全身をギリシアの兵士の鎧兜と槍で武装している、それだけを見ればただの巨人だ。大きさは背の高さで三十メートル程とかなりの大きさにしても。
 その両足に特徴があった、両足はというと。
 蛇の下半身だった、それがそのまま巨人の両足でありそれで動きコズイレフと戦っている、その中でだった。 
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