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八条学園怪異譚

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第五十七話 成長その一

                    第五十七話  成長
 愛実と聖花はこの日は朝早くから、自分達の学校に行く前に博士の研究室に向かった、まだ運動部の朝練と同じ時間だが。
 研究室の扉には在室とあった、愛実はその表示を見て聖花に言った。
「博士って朝早いみたいね」
「そうね」
「もう来られてるなんだ」
「まだ七時半なのに」
 それでもだ、在室になっているのだ。二人はそれを見て話すのだ。
「もうなんてね」
「ひょっとして研究室で寝ていたのかしら」
「その可能性もあるわね」
「そうね。けれどね」
「在室は在室だから」
「それじゃあね」
 二人は頷き合ってから部屋の扉をノックした、するとすぐに返事が返って来た。
「どうぞじゃ」
「博士の声ね」 
 愛実はその声を聞いて言った。
「それじゃあ絶対にね」
「博士がおられるわね」
「じゃあ行こう」
「うん、一緒にね」
 二人で頷き合いそうしてだった。
 部屋の扉を開ける、すると博士は普段の時間通り自分の机に向かって座っていた。部屋の中もいつも通り妖怪達で一杯だ。
 その妖怪達も見てからだ、二人は朝の挨拶をした。
 そのうえで博士に対してだ、あのことを尋ねたのである。
「ここにも泉の候補地があるんですよね」
「そう聞きましたけれど」
「遂に辿り着いたのう、ここにも」
 博士は二人の言葉を受けて感慨深そうに言った。
「よいぞよいぞ」
「って今まで黙っておられたのは」
「私達が来るのを待ってたんですか」
「それでなんですか」
「今のお言葉ですか」
「そうじゃ、よく来てくれた」
 やはり感慨深そうに言う博士だった。
「待っておったぞ」
「ううん、何か試されてたみたいですね」
「そう思いますけれど」
「学生の成長を見守るのもまた教授の務めじゃ」
 教授もまた教育者だ、それならである。
「だから君達がここまで来るのを待っていたのじゃ」
「そういえば博士も生徒に教えるんですよね」
「教授ですから」
「まだ講義は持っておるぞ」
 百五十歳を優に超えているらしいがだ。
「幾つかのう」
「そうなんですか、まだ現役なんですね」
「そうなんですね」
「昔は高等部や中等部でも教えておった」
 そうしたこともしていたというのだ。
「初等部や幼稚園でもな」
「そっちの資格も持っておられるんですか」
「学校の先生も」
「師範学校でな」
 戦前の教育制度の中にあったものだ、かつてはこの学校で教師になる人材を育成していた。嘉納治五郎もこの中で重鎮であった。
「そうしておった、嘉納君とも懇意だったぞ」
「嘉納君って嘉納治五郎さんですか?」 
 聖花は苗字だけですぐにわかった。
「あの」
「そう、柔道の創始者のな」
「あの人ともお知り合いだったんですか」
「立派な人格者じゃった」
 生前は柔道の創始者ではなく教育者として知られていた。東京オリンピック開催、戦前の幻の大会の実現に貢献したことでも知られている。 
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