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久遠の神話

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第八十四話 運が持つものその四

「だからこそ欲もあるわ」
「そして欲故にだな」
「剣士も戦うからこそ」
「ええ、貴方達にも欲がない筈がないわ」
 そのことは決してだというのだ。
「心と欲は常に共にあるものだから」
「確かにな、俺達にもだ」
 工藤はもう整理体操を終えている、それでタオルで自分の顔の汗を拭きながらそのうえでこう答えたのである。
「欲はある」
「やはりそうね」
「より給与が欲しい」
「俺は結婚相手が欲しいね」
 高橋は笑ってこう答える。
「それが今の願いだよ」
「そうね、けれどなのね」
「誰かを倒してまで手に入れるものでもない」
「俺にしてもだよ」 
 二人は微笑んで智子に答える、まさにそうだというのだ。高橋ももうその顔を汗で拭いている。整理体操を終えて。
「給与は一年で上がる」
「嫁さんは今付き合ってる相手がいるから」
「普通に無理はしない」
「結婚前提だからね」
「そうなのね」
「俺達は特に欲は強くないと思う」
「誰かを倒してまでとは思わないから」
 欲はある、だがそれは決して強くもなく大きくもないというのだ。それで二人は戦いについてもなのだ。
「特にだ」
「戦うつもりはないよ」
「そうした考えもあってだ」
「俺達は戦わないんだよ」
「そうなのね、いいことよ」
 欲があまりない、智子もこのことはよしとした。
「欲に基づく戦いはね」
「アテナ女神としてはだね」
「好むところではないわ」
 こう高橋にも言う。
「実際ね」
「そういうことなんだね」
「私は守る為の戦いを司っているからこそ」
 戦いといってもなのだ、そこもまたアーレスと違っているのだ。
「そうしているわ、だから貴方達についてもね」
「それでいい」
「そう言えるんだね」
「そうよ、ではね」
「俺達はこれからもだな」
「このままいけばいいんだね」
「むしろこのままでいて欲しいわ」
 これが智子の二人への願いだった。
「戦いを止める立場でいて欲しいわ」
「だが俺達は何も出来ていない」
 工藤はここでこう言った。
「戦いを止めることも、他の剣士に降りてもらうこともな」
「結局俺達は何も出来てないんだよね」
 高橋も言う、自分達ではというのだ。
「自分達では」
「そうだな」
 工藤も高橋のその言葉に頷いて同意する。
「俺達は誰もだな」
「はい、本当に誰も」
「何の役にも立っていない」
「全部女神の人達がやってくれていることで」
「そうではないわ」
 そうでもないとだ、こう返した智子だった。 
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