遊戯王GX ~水と氷の交響曲~
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ターン35 鉄砲水と菓子屋の陰謀
前書き
今回デュエルはおまけ状態。それと、活報に大事なお知らせがあります。
「まま、どうぞどうぞ遠慮なさらず吹雪さん」
「ありがとう、それじゃあいただくよ。それにしても、一体どういう風の吹き回しだい?君がブルー寮まで来るなんて珍しいじゃないか」
「さささ、どうぞどうぞ!!いいからこれ全部あげますんでまずは食べてくださいよ!」
「あ、ああ……」
ここは、ブルー寮の吹雪さんの部屋。向かい合って座る僕の勢いに押し切られるような形で僕の持ち込んだ自家製クッキーやら自家製マドレーヌやら自家製ブラウニーその他もろもろエトセトラを少しづつ口に運び、優雅な動きで紅茶をすすった。こういう動作の1つ1つも、この人が(無駄に)モテる理由の一つなんだろう。
「………うん、おいしいじゃないか。僕もいろいろな女の子からお菓子をもらったりしたけど、これはかなりレベル高いよ。これ、君が作ったのかい?」
「それ嫌味ですか………あ、いえなんでもないです、はい。料理と菓子には少しばかり自信がありますから」
この言葉は本当。特に料理に関してはここ最近のレッド寮の食卓を仕切ってることもあってかなり色々できるようになってきた。具体的には両手で包丁を使ったり右手でキャベツを千切りしながら左手で揚げものをしたり。
もっとも、ユーノからは『ロクでもねえ特技だな』の一言でバッサリ切り捨てられたけど。
そんなことを思い出している間に、口元を軽く拭いた吹雪さんがこっちを見た。
「さて、本題に入ろう。わざわざこんなところに何も言わずにたくさんのお菓子を持ってきた、そしてこれだけの種類があるにもかかわらず1つも入ってない、おそらく意図的に避けたのであろうあるお菓子がある………これが意味するところはひとつ、違うかい?」
「さすが吹雪さん、わかってらっしゃる」
そう、ぼくがわざわざこんなにたくさんの手土産まで持って来たのにはわけがある。それも、この学園中ではこの人に頼むのが一番現実的な。
「チョコだね?」
「はい!!」
そう、これが今日この場所に僕が来た意味。男子の本懐、バレンタインデーである。これまでだったら適当に冷めた目を送りつつ「リア充のバーカ」と言ってるだけの日だったのだが、今年からは事情が違う。なんとしてでももらいたい人ができたんだから。
「なるほどね。バレンタインまであと5日、それまでに彼女、河風夢想の好感度を稼ぎたいと。つまりはそういうわけだね?」
「はい……」
まさか相手までばれてるとは思わなかった。おかしいな、いつもそんなそぶりは完璧に隠してたはずなのに。なんで知ってるんだろうこの人。
「いや、そんな目で見られても………割とバレバレだよ?」
「なんですとーっ!?」
「うん。だってほら、これ見てごらんよ。ちょっとしたルートを使ってこの間もらってきたものなんだけど」
そう言って吹雪さんが懐から取り出したのは、顔写真入りになっている1枚の名簿。よく見るとランキング形式になっているそれのタイトルはそのものズバリ、
【アカデミア女子大調査!毎年恒例、今年のチョコをささげる人は?ランキング! ※男子禁制】
「……………一体、どんな裏ルートから持ってきたんですかこんな紙」
「余計な詮索をしないで、書いてあることに目を通してごらんよ」
そう言われ、内容に目を通してみる。えーとなになに、吹雪さんがダントツ1位でっと。お、万丈目もいる。あ、三沢の名前も書いてあるな。カイザーはもう卒業したから全部無効票扱いとはかわいそうに。で、ちなみに僕の名前はあるのか………あった!?
「遊野清明、全校順位79位。コメントとしてはそこそこ美形な中性的な顔立ちがいい、という見た目的なものと料理の腕がうまく、頼めばよく色々なものを作ってくれるという優しい性格にひかれたものが多いね。デュエルの腕がいいのも評価高いよー。ただどちらにも共通しているのは本当ならもっといい順位にいてもおかしくないけど、本人には意中の人がいるようなのでチョコは諦めます、という点」
「ほ、本当だ………」
うわあ、恥ずかしい。明日からどんな顔して学校行けばいいんだろうこれ。変に意識しないのが一番なんだろうけど、ううむ。ちょっと紅茶でも飲んで落ち着こう。
「さ、これでわかったかい?僕に言わせればね清明君、君は自然体を装うってことが苦手なんだろう。だから、そんな君が彼女をデートに誘おうとしても……」
「で、デートっ!?」
あまりと言えばあまりに不意打ちな爆弾に思わず噴き出した紅茶をサッと何気なくかわし、吹雪さんは絶好調な様子で熱弁をふるう。
「おっと危ない。まあとにかくだ、その様子だと厳しいようだけど。慣れないことをしようとして無駄に緊張して滑舌も悪くなって、彼女がOKを出したとしてもそのあと寮に帰って恥ずかしさのあまり悶絶することになるだろうね。食事が喉を通らず大事を取って早めに寝たら寝坊する姿が目に見えるようだよ」
「………なんですかその無駄に細かいビジョンは」
でも、実際そう言われると思い当たる節はある。というか、もうそんなふうになる未来しか見えないぞ僕。じゃ、じゃあどうすれば………
「って、だからそれを相談しに来たんですよ。生活費切り詰めてこれだけ作ってきたんですから、何かいい案があったらバシバシ言ってくださいよ~」
「うーん、そう言われてもねえ」
「万丈目に聞きましたよ?七星門の鍵を盗ってったのってあれ吹雪さんの入れ知恵なんでしょう?」
「いや、確かにそうだけどね?別に手を貸さないなんて言ってないんだけど、あの娘はちょっと難しいからね」
あ、この人たぶん夢想にも一回手を出そうとしてたな。あの渋い顔を見る限り、よっぽどな結果だったらしいけど。うーん、それにしてもこういうことには百戦錬磨に見える吹雪さんでもダメか。
「まあお菓子ももらったしいつも明日香が世話になってるし、とりあえず簡単なことから試してみようか。清明君、メモの用意はいいかい?」
「はいっ、師匠!」
こうして、吹雪さんからいくつかの作戦を伝授してもらった。してもらったのはいいけど、どれもなかなか恥ずかしいなこれ。ええい、夢想のためだ。明日からは頑張ろう。
バレンタインまであと4日:①まずは会話から
「力いっぱい振りかぶって、と」
授業のチャイムが鳴り、先生が来るまでのわずかな時間。夢想の座る席は残念なことに僕の位置からかなり離れているため、話をするきっかけを作るには少しばかり強引にいかねばならない。そのための秘策………何の変哲もない消しゴムをぎゅっと握りしめ、夢想のいる方向に向けて狙いをつける。そう、これをブン投げて偶然を装いつつ夢想に拾ってもらう作戦なのだ。
「おーい、清明。何してんだ?」
「ちぇすとおぉっ………どわあああっ!!?」
そっと振りかぶり、今まさにぼくの夢とか希望とかを色々乗せて夢想のもとに飛ぼうとしていた消しゴムは十代が急に話しかけてくるせいで手元が狂い、あらぬ方向に飛んでいく。
そして間の悪いことに、その時ちょうどクロノス先生が入ってきた。その顔面に、僕の消しゴムがぶつかろうとしている。
「先生、危ない!」
「ムゥ?あ痛ぁ、やられたノーネ、お星さまが飛んでますーノ…………」
「あっちゃー……」
こっぴどく怒られたことは言うまでもない。今日は夢想とは一言も話せませんでした。
バレンタインまであと3日:②花束を贈ってみよう
わー恥ずかしい。でも、ここで心が折れたら何のために昨日怒られたのかが分からなくなる。というか、こんないまどき漫画ですら見ないような方法が本当に効くんだろうか。いや、ここは吹雪さんを信じよう。えっと、赤いバラの花束を………大きさをケチらずになるべく大きいのにしよう!?か、家計が吹っ飛んでいく………。
「ということで万丈目」
「万丈目さんだ。まあいい、こんな昼間から何の用だ」
「実はこうこうこういうわけなんだけど、何かいい花屋ってある?ほら、このあたりって野生のバラとか咲いてないし本土に行かないと花屋なんてないし」
こういうことなら、きっと金持ちに聞くのが1番だろう。いつぞやも明日香のためにいろいろやってた万条目ならこの気持ちもわかってくれるはずだ。
「………まあ、お前の気持ちはよくわかる。わかるが、今から花束を用意するのはもう無理だぞ?」
「なんでっ!?」
言いにくそうな顔になる万丈目。と、いきなり出てきたおジャマ・イエローがかわりに解説してくれた。
『それがさあ、清明のダンナ。実は万丈目のアニキも天上院君に花束送るんだーって張り切って注文してたんだけど、最近本土とアカデミアの間に季節外れの台風が生まれてるから船が出せませんって断られてたのよ~』
「バ、バカ!そのことは秘密にしておけってあれほど言っただろう!」
『で、でもダンナだって困ってるみたいだし……』
「チッ……もういい、戻ってろ!見苦しいところを見せたな、とにかくそういうわけだ」
「う、うん……」
見苦しいったって別にいつもとやってることそんなに変わんないような気がするのは気のせいだろうか。いや、ここは黙っているのが得策だろう。それよりも重要なのは、花束の準備ができない点だ。しょうがない、今からでも他の手を考えるか。
「ありがとね。じゃ、僕はこれで」
「待て!」
礼を言って部屋を後にしようとすると、意を決したような声で万丈目に呼び止められた。
「………実はな、今の話にはまだ続きがあってな。バレンタイン前に届けるのは無理だが、当日にはぎりぎり間に合うらしい。といっても、在庫の関係で届くのは一束だけなんだが。だからもしよかったら、お前にも数本ぐらいは分けてやってもいいぞ、うん」
「万丈目……ありがとう!夕飯何食べたい?リクエストは最優先で受けつけるから遠慮しないで言ってね!」
小躍りしたいのをぐっと我慢して部屋を出る。ちょうど真上にあった太陽に、なんとなくガッツポーズして見せた。イエイッ!
バレンタインまであと2日:③恩を売っておくのも手段の一つ
「とはいえ、恩ねえ」
やっぱり定番としては困っているところを助ける、とかだろうか。そもそも彼女が僕になんとかできることを困ってるところなんて見たことないんだけど。
ちょっと前にワイトがあるカードだからという理由でエンジェルリフトを探してたのは知ってるけど、僕の小遣いとしての有り金全部ドローパンにつぎ込んでも当らなかった時点でこれもダメ。ちなみに夢想が買ったら1つ目でいきなり出てやんの。ああ、なんでこう狙ったカードが手に入らないんだろう。
そんな苦い思い出を噛みしめながら校内をぶらぶらしていると、曲がり角を曲がったところで偶然夢想の後姿が見えた。特にどうするつもりはなかったけど、気が向いたのでこっそり後ろをついていく。ストーカー?言いたい奴は言えばいいさ。
「…………?あ、清明だ、だってさ」
もうバレたー!?え、ちょっとまだ10秒と経ってないよどんだけ勘良いのこの人!
「や、やあ夢想。こんにちは、今日もいい天気だねアははー」
ここでどんよりと曇ってればそれはそれでいいネタになったんだろうけど、あいにく今は空の半分くらいをまばらに雲があるという正直何とも言い難い天気。うわあ、一番会話にしにくい微妙な空だ。
「様子が変だけど、何かあったの?ってさ」
これは僕が悪いんだろうか、それとも彼女が鋭いんだろうか。まさか正直に話すわけにはいかない、ということぐらいは僕にもわかる。だって自分で言うのもなんだけど、これただのストーカーだもん。
んー、何かいいごまかしは………よし、決めた。ごまかすネタがどこにもないなら、自分で作ればいいじゃない。
「(サッカー、お願い!)」
なるべくさりげなく手を後ろに組んで、デッキを軽くたたいてシャーク・サッカーを呼び出す。あっちの方でなんでもいいから何か騒ぎを起こしてくれればそれを理由に逃げ出せる!
「あ、あれ清明、本当にどうしたの?保健室行こうか?だってさ」
「え、ああ、うん、別に平気だよ、元気元気。それより夢想こそ、最近体調とかどうなの?」
「私?別に何もないよ、だって」
ますます不思議そうな顔になって首を傾げる夢想。ああ駄目だ、何か言うほどドツボにはまってる気がする。それにしても今のポーズ、かわいいなチクショウ。
「危ないぞ、そこの君!」
と、そこでようやくサッカーが何かしてくれたらしい。切羽詰まった感じの声に振り向いて、そのままその方向に駈け出そうとしようと思っていた。あくまでも思って『いた』、大事なことなので繰り返しました。ともかくそう思ってました、手もない鮫の体で何をどうやったのかこっちに向かって勢いよく回転しながら飛んでくる植木鉢、しかも中に土がたっぷり詰まった飛び切り重そうなやつを見るまでは。
「っ!?」
だけど大丈夫、あの程度のスピードならダークシグナーにとっては全然たいしたことない、本気出せば余裕でかわせる………と、そこまで考えた時点で背筋が凍った。もし僕がこれを避けたら、どうなる?当然あの植木鉢が止まるわけでもなし、位置的に言って僕の真正面にいる夢想にあたっちゃうじゃないか!ったくサッカーめ、もう少し考えてくれたってよさそうなものを!
「でーい!」
スッと腕を後ろに引いて、特攻してくる植木鉢を迎え撃つように打ち出したパンチ一発!焼き物の植木鉢程度、今の僕の体なら骨も折らずに叩き割れるはず!
だが、そんな計算すらもあざ笑うように、植木鉢の軌道がすっと変わった。野球でいうところのフォークボール、つまりは落ちる球である。全体重をかけて突き出した拳は空振りし、その腕の下を通って僕の腹にボディーブロー。
「へっ?」
悲鳴すら上げる暇はなかったのは、情けない声を聞かれなくてラッキーだったと捉えるべきなんだろうか。あまりに一瞬の出来事で腹に力を込めて耐えることすらできず、そのまま意識が遠くなっていった。
「………うー、痛てててて」
目が覚めるとそこには見知った天井、具体的には僕の部屋の天井が見えた。どうやら、誰かが運んでくれたらしい。十代かな、なんて考えながら起きあがって。
「って、夢想!?」
「おはよ、なんだって」
そう言い、安心したような笑顔を見せる夢想。
「お、おはよう。えっと、もしかして」
夢想が運んでくれたのか、と聞こうとすると、急に彼女は時計を見てあわてたように、
「もうこんな時間、私は帰るからね、だってさ」
そう言うが早いが、ぴゅーっと走り去っていった。恩を売るどころか、こっちが借りを作っちゃったみたいだ。吹雪さんも言ってたけど、慣れないことはするもんじゃない、ってことだろうか。ああ恥ずかしい。
バレンタイン前日:④やはりこれがないと始まらない
「夢想ー、デュエルしよー」
「清明、もう具合はいいの?だって。でもいいよ。デュエルしようか、だってさ」
これが吹雪さんからもらった最後の作戦。と言ってもやることは単純、デュエルで勝ってカッコいいところを見せるだけである。ただ、この作戦は諸刃の剣。僕がここで勝てば問題ないのだけど、もし負けたりしたらもう目も当てられないことになる。学園最強との呼び声も高い彼女相手にはかなりリスキーな賭けだけど、その分当たった時に得られるものは大きい。
だからこのデュエル、絶対負けられないんだ!
「「デュエル!!」」
「僕の先行、ドロー!」
そういえば、この先攻ドローも近々ルール改訂が行われてなくなっちゃうそうだ。ううん、僕のデッキは手札消費があんまりいいとは言えないから、かなりこれは困るんだけど。反面フィールド魔法が重複するようになったから僕と相手でお互いにフィールド魔法を使って、なおかつ相手がサイクロンとかで僕のフィールド魔法を破壊してきた場合という恐ろしく限定的な状況だけとはいえほんのちょっぴりだけチャクチャルさんが生き残る可能性も増えてきたのはよしとしよう。
まあ、今はまだ関係ない話なんだけど。
「ハンマー・シャークを召喚、そのまま効果発動。このカードのレベルを1下げて、手札から水属性でレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚!僕がこの効果で出すのはレベル1、鰤っ子姫!」
ハンマー・シャーク 攻1700 ☆4→☆3
鰤っ子姫 攻0
「そして鰤っ子姫の効果発動、召喚か特殊召喚に成功したこのカードをゲームから除外して、デッキからレベル4以下の魚族を特殊召喚する!僕が呼ぶのはレベル4、竜宮の白タウナギ!」
マイクを器用にひれで抱える黄色の鰤が左右に流し目を送りながらどこかへ泳ぎ去っていくと、そのあとを追いかけるようにどこからともなく白タウナギがふらふらと泳いできた。ううん、魚の価値観はよくわからん。あれが追っかけになるほどカワイコちゃんなんだろうか。
竜宮の白タウナギ 攻1700
「さらにフィールド魔法、忘却の都 レミューリアを発動。このカードの効果で、水属性モンスターは攻守が200ポイントアップするよ」
おなじみの白い神殿。よし、当面の準備は整った。
ハンマー・シャーク 攻1700→1900 守1500→1700
竜宮の白タウナギ 攻1700→1900 守1200→1400
「さらにカードを2枚伏せてっと。僕はこれで、ターンエンド」
「私のターンだって。うーん…………ゾンビ・マスターを召喚。さらに手札の永続魔法、奇跡のピラミッドを発動するね」
夢想がカードを発動した瞬間、その背後に上空から光り輝く怪しいピラミッド型の何かが三角錐のとんがった部分を下にして降りてきた。そしてほのかに青く輝くそれのとがった部分から光が走り、ゾンビ・マスターに命中する。さあ、一体何が始まるってんだ。
ゾンビ・マスター 攻1800→2200
「攻撃力が上がった!?」
「そう。このカードは、自分のアンデット族の攻撃力を相手モンスター1体につき200ポイントアップさせるんだよ、だってさ。バトル!まずはハンマー・シャークに攻撃!」
「させないよ、トラップ発動!イタクァの暴風!」
ゾンビ・マスターが杖を振り上げた瞬間にものすごい突風が巻き起こり、たまらず振り上げた手を下して吹き飛ばされないよう地面に座り込んでやり過ごそうとする。だけど、それこそが僕の狙い!
「イタクァの暴風………私のモンスターの表示形式を変更させるカードだね、って」
「その通り。そしてゾンビ・マスターは防御力のなさに定評のあるアンデット族、これで守備力0がむき出しだよ!」
ゾンビ・マスター 攻2200→守0
「むー。カードをセットして、これでターンエン……」
「エンドフェイズにリバース発動、サイクロン!今伏せたカード、そのまま破壊!」
先ほどよりもはるかに規模が小さいつむじ風が吹き、夢想の伏せていたカード………次元幽閉を破壊する。よしよし、いいカードを壊せた。
さすがにこれは予想外だったのか、ちょっと驚いた顔になる夢想。うん、普段あんな表情にはならないからなんか得した気分。
清明 LP4000 手札:2
モンスター:ハンマー・シャーク(攻・☆3)
竜宮の白タウナギ(攻)
魔法・罠:なし
場:忘却の都 レミューリア
夢想 LP4000 手札:3
モンスター:ゾンビ・マスター(守)
魔法・罠:奇跡のピラミッド
「さあ、このまま行かせてもらうよ!僕のターン、またまたハンマー・シャークの効果発動!自分のレベルを2に下げて、レベル3のハリマンボウを特殊召喚!さらに、ツーヘッド・シャークを通常召喚!」
今、夢想のフィールドにいるのは守備力0のゾンビ・マスターだけ。よし、勝算は十分。この勝負、いける!
ハンマー・シャーク ☆3→2
ハリマンボウ 攻1500→1700 守100→300
ツーヘッド・シャーク 攻1200→1400 守1600→1800
「バトル!まずはツーヘッド・シャークでゾンビ・マスターに攻撃!」
「奇跡のピラミッドのさらなる効果を発動!このカードを墓地に送って、アンデット族1体の破壊を無効
にするよ!」
ツーヘッド・シャーク 攻1400→ゾンビ・マスター 守0
ツーヘッドの牙がゾンビ・マスターに届く寸前、光るピラミッドが薄い壁になってその突撃を押し止める。む、そんな効果もあったのか。
「だけど、ツーヘッド・シャークには1ターンに2回攻撃ができるからね。そのまま連撃!」
ツーヘッド・シャーク 攻1400→ゾンビ・マスター 守0(破壊)
「これが決まれば!ハリマンボウ、白タウナギ、ハンマーの順で一斉攻撃、トリオ・ザ・ダイレクトアタック!」
「………本当に?」
「へ?」
そう言われてよく見ると、先ほどツーヘッドの攻撃でモンスターを倒したはずのフィールドには、濃い紫色の竜が一匹佇んでいた。
「あ、あれ?」
「ゾンビ・マスターが破壊されて墓地に送られたことで、手札から異界の棘紫竜の効果を発動。このカードを特殊召喚したんだよ、だってさ」
異界の棘紫竜 攻2200
「くっ、ターンエンド」
うーん、まずい。攻撃力2000越えのモンスターに対する対抗策がない。策があるとすれば、ハリマンボウでの自爆特攻ぐらいなんだろうか。でもあんまりやりたくないなあ。ポセイドン・ウェーブがあればすごくいいカモなんだけども。
「私のターン。でも清明、一体どうしたの?いつもより気合入ってるみたいだけど」
「ちょっとしたわけありでね。今の僕は普段より当社比3割増しぐらいで強いのさ」
まさか正直に言うわけにもいかないので適当に誤魔化しておく。彼女はふーん、とよくわかってなさそうな顔で頷いていたけど、これ以上の追及はなさそうだ。
「うーん、奇跡のピラミッドの効果を使わないほうがよかったかな?ナチュラル・ボーン・ザウルスを召喚して、まずカップ・オブ・エースを発動。コイントスで表が出れば私が、裏が出れば清明がカードを2枚ドローするね。えいっ!………ありゃ、裏だ」
よし、今日はついてる。カードを2枚ドローして確認すると、より一層その気持ちは強まった。
「バトルするってさ。棘紫竜でハンマー・シャークを攻撃!」
紫色のブレスに、なすすべもなくハンマー・シャークが丸焼きになる。ごめんよ、でもよく頑張ってくれた。
異界の棘紫竜 攻2200→ハンマー・シャーク 攻1900(破壊)
清明 LP4000→3700
「そのままナチュラル・ボーン・ザウルスでツーヘッド・シャークに攻撃するよ、だってさ」
「それも受けるよ。ありがとう、ツーヘッド」
ナチュラル・ボーン・ザウルス 攻1700→ツーヘッド・シャーク 攻1400(破壊)
清明 LP3700→3300
「……ふう」
さっきのターンで終わらせられなかったのは誤算だったけど、なんとかダメージは700で済んだ。これくらいならまだまだ平気だし、僕の場にはまだ2体のモンスターがいる。いくらでもやりようはあるね。
「カードを伏せるね。私はこれでターンエンド、だって」
清明 LP3300 手札:3
モンスター:竜宮の白タウナギ(攻)
ハリマンボウ(攻)
魔法・罠:なし
場:忘却の都 レミューリア
夢想 LP4000 手札:0
モンスター:異界の棘紫竜(攻)
ナチュラル・ボーン・ザウルス(攻)
魔法・罠:1(伏せ)
「僕のターン、ドロー!」
引いたカードはっと。お、来た来た。なんだか、このカードを召喚するのもずいぶん久しぶりな気がするなあ。
「僕はこのモンスター2体をリリースして、超古深海王シーラカンスをアドバンス召喚!」
超古深海王シーラカンス 攻2800→3000 守2200→2400
「そしてこの手札1枚をコストに効果発動、魚介王の咆哮!デッキからレベル4以下の魚族モンスターを、可能な限りフィールドに呼び出すよっと。カモーン、シャクトパス!オイスターマイスター!ヒゲアンコウ!ハリマンボウ!」
魚の王の咆哮に、素早くおなじみのメンツが寄り集まってくる。あ、アーチャーとかもっと優先して出すの忘れてた。まあいいか、たまにはほかの子を出しても。
シャクトパス 守800→1000 攻1600→1800
オイスターマイスター 守200→400 攻1600→1800
ヒゲアンコウ 守1600→1800 攻1500→1700
ハリマンボウ 守100→300 攻1500→1700
「っと、ここで今リリースしたハリマンボウの効果も発動。自身が墓地に行ったことで相手モンスター1体………どっちでもいいけど、ここはダメージ優先でナチュラル・ボーン・ザウルスの攻撃力を500ポイントダウンさせるよ」
ナチュラル・ボーン・ザウルス 攻1700→1200
よし、これで準備は万全だ。なにせ手札にあるのは死者蘇生、シーラカンスのコストで捨てたのはキラー・ラブカなんだ。ここまでやっておけば、あとは力押しで押し切れるだろう。
「バトル、シーラカンスでナチュラル・ボーン・ザウルスに攻撃!マリン・ポロロッカ!」
超古深海王シーラカンス 攻3000→ナチュラル・ボーン・ザウルス 攻1200(破壊)
夢想 LP4000→2200
魚の王の突撃の前に、なすすべなく骨になった恐竜が砕け散った。だが、そのバラバラになった頭蓋骨の目の部分から植物の根がにょっきりと生えてきたかと思うとそれがみるみるうちに伸びて育ち、3つの赤い花を咲かせたかと思うとその中心からいくつもの種がはじけ飛ぶ。
デモンバルサムトークン×3 守100
「なっ!?」
「リバースカード、デモンバルサム・シードを発動したみたい。私の表側モンスターが破壊されて戦闘ダメージを受けた時、ダメージ500ポイントにつき1体のトークンを特殊召喚するんだってさ」
「むっ、厄介な。ターンエンド」
さすが夢想、かなりきつい一発を当てたのにそれを逆に利用されてしまった。伏せカードが1枚も用意できなかったのはかなり痛いな。
「私のターン、ドロー。………ねえ、清明」
「なーに?」
「この勝負、私がもらうからね」
「え?」
その自信たっぷりの言葉に、思わず聞き返す。その様子はさぞかし間抜けに映ったことだろう、と聞き返した後で思いしまった、と心の中で毒づいた。でも、そんなことをしている間にも彼女のターンは進んでいくわけで。
「プリーステス・オームを召喚して効果を発動するんだってさ。このカードは自分フィールドの闇属性モンスター1体をリリースして800のダメージを与える効果を持ってるの」
「1体、800………」
えっと、僕のライフが残り3300だから、4回まではぎりぎり耐えられるわけだ。まずデモンバルサム・トークンで3回ダメージを受けて、さらに棘紫竜で1回。で、最後に残った自分をリリースすれば合計5回。
…………ダメじゃん。
「発射!なんだってさ」
清明 LP3300→2500→1700→900→100→0
「ま、負けた………」
しかもものすごくあっさりと。ははは、こりゃチョコは絶望的かな。何か彼女が言ってた気もしたけどもう話をする気力もなかったので適当に聞き流し、とぼとぼとレッド寮に帰ることにした。
どこの道を通ったのかもよくわからないままぼんやりと寮にたどり着き、そのまま頭から布団かぶってさっさと寝ようと思ったのに僕の部屋ではなぜか万丈目が待ち構えていた。そして僕がドアを開けた瞬間、間髪入れずに土下座のポーズをとる。たいていのことなら無視しようかと思ってたけど、これにはさすがに驚いた。
「何、万丈目。どったの?」
「どったの、だと?すまない、清明。本当にすまん!」
この一言を皮切りにワーワーと喋る万丈目をなだめながら話を聞いていくと、なんでも花束を届けるための万丈目グループのヘリのパイロットが着地場所がレッド寮周辺に見つからないとの理由で上空から花束を投げ落として渡そうとしたらしく、その瞬間に吹いてきた風に吹き飛ばされて鼻は全部海中に消えていったそうな。はっはっは、ここまで踏んだり蹴ったりだともう笑うしかないね。
「それでだ。なんとか海に飛び込んで拾おうとしたんだが、ほとんどが海水でダメになっていてな。なんとか見栄えのいいものがこれしか………」
そう言って差し出す手の中には、真っ赤なバラが1本。うーん、花束が1本の花に、か。随分スケールダウンしたもんだ。
「万丈目グループの不始末は俺の責任も同じ、俺にこの花をプレゼントする資格はない。だから、せめてお前が受け取ってくれ。なに、俺のことなら心配するな。天上院君へのプレゼントは、何かもっとふさわしいものを考えるさ」
そういう万丈目の服は海に飛び込んだという言葉通りまだかすかに湿っていて、どれだけ必死になって拾い集めようとしたのかがよく伝わってきた。それに、そんな震え声だと無理してるのがバレバレだよ、万丈目。
「いいよ、もう。それ、あげるよ。万丈目が頼んだ花なんだし、僕にはもう必要じゃないしね」
「必要じゃない?待て、それはどういう………」
「はい、この話はおしまい。僕はもう今日は寝るから、夕飯はテキトーに作っといてね。お休みー」
なかなか帰ろうとしない万丈目を半ば強引に部屋から押し出し、電気を切ってさっさと布団にもぐりこむ。視界が閉ざされる寸前に見えた景色は、なんだか妙にぼやけていた。まるで、僕の目が水か何かでうるんでいるように。
そのまま眠りに落ちる寸前、壁の向こうから万丈目の声がした。
「清明。…………すまん」
と、ただ一言だけ。だけど、言いたいことは僕にはよく伝わった。
そして今日も朝が来る。バレンタインデー当日である。よっぽど今日は休もうかとも思ったけど、そこまでするのもさすがにどうかと思ったので素直に学校に行くことにする。とはいえギリギリまで布団の中で粘ってたらいつの間にか僕以外の皆はもう出発していたんだけど。ああ、今日はなんだか足が重いなあ。せめて夢想には今日一日は会いたくないなあ。
「清明、おはよう。ってさ」
……と思った矢先にこれだ。世の中の流れってのは、よーっぽどまがった性格とひねくれた根性を元に動いてるらしい。
まあでも、挨拶は大事。人間関係の基本だしね。
「お、おはよう、夢想」
ああ駄目だ、会いたくないっていう気持ちが割とストレートに声に出てる。こんなんじゃあ嫌われても文句は言えないだろう。でも、正直今だけは一人にしておいてほしいです。
「あのさ、清明。これ、もしよかったらね、なんだって」
彼女にしては妙に歯切れの悪いそんな声とともに、何かが動く気配。振り返って僕の少し後ろを歩いていた夢想の方を見ると、彼女の手には何か包みが一つ握られていた。あれってまさか、いやまさか、ね。あそこまで情けない負け方したってのに、さすがにそれは虫が良さすぎるってもんだ。少しは現実見ようや、僕。
「はい、どうぞ。…………チョコだよ、だってさ」
「え……?」
ドッキリ。何よりもまずその単語が思い浮かんでどこかにカメラマンが隠れてないか見まわすようになった辺り、僕もこの1年でだいぶ性格が荒んできたんだろうか。結論から言うと、そんなモノ見つからなかったんだけど。
え、じゃあちょっと待って。これがいわゆるチョコレイト?チョコもどきとかチョコだましとかそういうオチじゃなくて、いわゆる原材料カカオのあのチョコ?あーうん、今すごく混乱してます、僕。本来ならお礼を言うのが当然ってものなのに、それすらも思いつかないし。みっともないなあ、恥ずかしいなあ、僕。
「じゃあ、もう授業始まるから、ね」
僕が完全にフリーズしているうちに、そう言ってたっと駆け出す夢想。僕は何か声をかけるわけでもなく、 その後ろ姿をじっと見ているだけだった。
ちなみに、これは後で知ったのだが。わざわざ朝一番に寮まで来て渡してくれたのは実は万丈目のおかげらしい。本当ならもっと後になって渡すつもりだったのを、『だいぶ落ち込んでるみたいだから、もし奴に何か渡すものがあるなら早めに行ってやれ。………いや、奴のためにも今行ってほしい。頼む、この通りだ』とわざわざ頭まで下げたんだそうだ。まったく、万丈目め余計な真似を。
もっと余談。結局明日香は今年チョコを作らず、必然的に万丈目自身は彼女からチョコをもらえなかったそうな。あと海水に漬けたのがやっぱりまずかったらしく、最後に残ったバラも朝見たらしなびて生ごみに直行したらしい。
………ホワイトデーにはどうせクッキー焼くし、少し多めに焼いておいていくつか皆にもあげようかな。
後書き
書きながら思いました。つくづく日常パートって難しいね。自分が書くとこの程度のレベルにしかならないのが残念。
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