遊戯王GX ~水と氷の交響曲~
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ターン28(裏) 愉快なトリックスターと人工生命
前書き
というわけでIF(満足ではない)ストーリー、『~稲石VSアムナエル、もし戦わば~』書きました。自分でつけた縛りを自分で守るのにすごく苦労したけど。
なお途中までのくだりは本文(ターン28)とまるっきり同じなためカット。気になる方はそちらも見返していただけると幸いです。
前書き:清明ご一行、廃寮に潜り込み稲石と再会する。その後地下室にて。
「一応確認させてもらうよ。お前が明日香や万丈目をさらって大徳寺先生をこんな姿にしたのか!」
「最後の一つは間違っている。そのミイラは、はるか昔からここにあったものだ。だが、彼らを襲ったのは確かに私だ。返してほしければ、私と闇のデュエルだ!」
「上等っ!セブンスターズ、また返り討ちにしてやる!」
そう目の前の不気味な敵に啖呵を切ってデュエルディスクを立ち上げようとしたその時、スッと僕とフード男の間に立ちふさがるようにして立って勝手に自分のデュエルディスクを起動させる人が1人。
「稲石……さん?」
「なんだ、お前は。これは神聖なる七星門の鍵をかけた戦い、部外者の出る幕はない!」
フードの男が怒りのにじむ声を張り上げるが、稲石さんはそんなものどこ吹く風だ。それで?と言わんばかりに……。
「それで?」
前言撤回。言わんばかりにどころかモロにそう聞き返し、フードの男が放つ威圧感に怯むどころかむしろ堂々と胸を張る。なんで威張ってんだろこの人。
相手ばかりか味方からもそんな視線を向けられていることに気が付いたのか、やれやれと息を吐いてさらに口を開く。そのまるで緊張感のない姿が、こっちの緊張まで削いでいってるような気がする。
「あのねー、ここは自分がかれこれ16年、いやさもう17年くらい住んでる愛しの我が家、というか島なんだよ?…………つまり何が言いたいかというとだね、隠し部屋なんて作ってないでさっさと出てけ」
「ふん、くだらんな。ここは本来私のいるべき場所、薄汚いネズミに荒らすことを許可した覚えはない」
「チューチューチュー、はいはいネズミさんですよーだ。許可しないからなんなのさ、デュエルでもやろうっての?」
あ。なるほど、これはうまい。すごく自然な挑発の流れで断りにくい空気に持ってった。やるなあ稲石さん。
「さあ七星門の鍵の守護者よ、私とデュエルだ」
『あ、スルーされた』
稲石さん………哀れな人だ。あ、ちょっと部屋の隅っこの方でいじけだした。でも、そんな言いがかりみたいな理由で自分がデュエルしにいくような人だったっけこの人。
『少なくともお前よりゃ馬鹿じゃないし、何かしら思うとこでもあるんだろ』
「うるさい」
「さあ、どうした?ここにきて怖気づいたか、守護者よ」
おっと、そうだった。さーて、稲石さんには悪いけどここは僕が指名されてるんだ、相手のデッキも実力も未知数だけど、あの明日香と万丈目を倒すぐらいだから少なくともかなりの実力者のはずだ。気を引き締めてかからないと、僕も一瞬でやられる……ってあれ?
「デュエルディスクが」
『反応しねーな。壊れたか?』
「いやいやいや、そうじゃないでしょ清明。よく見てよ、これ!自分!」
ガサゴソと電源をいじってるうちに復活したらしい稲石さんが、ババーンと腕のデュエルディスクを見せびらかしてくる。見ると、そこにはすでに【4000】のライフ表示が。
………そーいやこの人、いの一番にデュエルディスク立ち上げてあのフード男の相手する気満々だったっけか。
ん、待てよ?ということは必然的にあのフードの相手をするのは。
「まあ自分に任せといてよ、清明。だから、しっかり見ておくように」
「え、いやえっと、稲石さん?」
「い・い・ね?しっかり見ておくんだよ、本当に」
「……はい」
負けた。今のなんだかよくわからない迫力に負けた。そんな僕の戦意喪失を見たフード男は小馬鹿にしたように鼻で笑うと、デュエルディスクを構えなおす。どうやら、稲石さんとのデュエルを引き受けたらしい。
「「デュエル!」」
「さあ、先攻は自分だね。モンスターをセットして、カードをセット。ターンエンドさ」
「私のターン。永続魔法、次元の裂け目を発動。先に言っておこう、私の錬金術の前ではデュエルモンスターズの常識は通用しないぞ!」
いつも通りのセット戦法を使う稲石さんに対しフード男が発動したカードにより、フィールドの上空1メートルくらいの空がぱっくりと割れてどこかもわからない異世界がその中にぼんやりとうつる。次元の裂け目、確かあらゆる墓地に送られるモンスターを除外するカードだったはずだ。ということはあのフード、除外デッキの使い手なのか。
「手札から錬金生物 ホムンクルスを召喚、そのまま攻撃」
男の呼び出した人造生物が、金属光沢を放つ腕でセットモンスターを殴りつける。だが、そのモンスターも手にした数珠を振り回して鋼の拳を受け流し、なんとかパンチを受けずにすんだ。
錬金生物 ホムンクルス 攻1800→??? 守1800
「む………?」
「セットモンスターは守備力1800のゴーストリック・キョンシー。さらにキョンシーはリバースした時、デッキから自分の場のゴーストリックの仲間の数以下のレベルのゴーストリックを手札に呼ぶ能力を持ってるからそれも使わせてもらうよ、レベル1ゴーストリック、ランタンを手札にっと。あ、続けてどうぞ」
「ターンエンドだ」
「あれ、あんだけ偉そうなこと言っておいてやるのはただ殴ってくるだけかな?ああ別に答えなくていいよ、こっちがただ言いたいこと言ってるだけだから」
フード LP4000 手札:4
モンスター:錬金生物 ホムンクルス(攻)
魔法・罠:次元の裂け目
稲石 LP4000 手札:5
モンスター:ゴーストリック・キョンシー(守)
魔法・罠:1(伏せ)
攻して、お互いビックリするほど動きのない最初の攻防が終わる。でも油断はできない、なんてったって今デュエルしてるのは最後のセブンスターズと本物の幽霊稲石さんなんだから。考えてみるとある意味無駄に豪華なメンツだ。
「さあて、自分も動くとしようかな?ゴーストリックの猫娘、召喚!」
ポン、と音を立てて活発そうな顔つきのゴスロリ風和服というなかなか新しいセンスの服を着た猫っ娘が人魂とともに召喚される。手で顔をこするしぐさなんか、まさに猫そのものである。
ゴーストリックの猫娘 攻400
「で、これも使おうっと。魔法カード、テラ・フォーミングを発動。効果でデッキのフィールド魔法1枚を手札に。うーん、今回はこれでいいかな。ゴーストリック・ミュージアムを加えてそのまま発動!」
フィールド魔法の演出によりいくつもの展示品が飾られた棚やら何やらがゴゴゴッとせりあがってきて、あっという間に謎の部屋が小規模な博物館のようになる。とはいえよく見ると飾ってあるものが馬に乗った首なし騎士の像や色白のヴァンパイアの肖像画など、いささか偏ってる気もするけども。
「はい、終わり。やっぱりやめた、ここは動かないでターンエンド」
「私のターン、ドロー。もう1体ホムンクルスを召喚する」
そっくり同じ顔、同じ体をした2体目のホムンクルス。そのホムンクルスに猫娘がいきなりとびかかり、そのままの勢いで押し倒して顔中を引っ掻き回す。
「猫娘の効果発動さ。フィールドにゴーストリック・モンスターがいる場合でレベル4以上のモンスターが召喚及び特殊召喚された時に、そのモンスターは裏側守備表示になる」
「ならば、破壊するだけのこと。最初からいるホムンクルスでゴーストリックの猫娘に攻撃!」
「冗談じゃない、そんな攻撃受けないよ。手札からゴーストリック・ランタンの効果発動、その攻撃を無効にしてランタンを裏守備で特殊召喚」
「カードを伏せる。これでターンエンドだ」
フード LP4000 手札:4
モンスター:錬金生物 ホムンクルス(攻)
???(錬金生物 ホムンクルス)
魔法・罠:次元の裂け目
1(伏せ)
稲石 LP4000 手札:3
モンスター:ゴーストリック・キョンシー(守)
ゴーストリックの猫娘(攻)
???(ゴーストリック・ランタン)
魔法・罠:1(伏せ)
場:ゴーストリック・ミュージアム
「ね、ねえ、ユーノ」
『………おう』
正直、こんなこと言うのは間違ってるとは思う。だけどこれまで見てきたセブンスターズの戦いと比較して、どうしてもひとつだけ言いたいことがあった。
「なんかこう、地味……だよね」
『………おう』
当然だけど、別に悪口ではない。ただ相手のフード男がなかなか仕掛けてこないうえに稲石さん自身も相手が動くまでまるっきり動く気がないみたいだから、全然デュエルが進まないのだ。
「そして自分のドロー。ゴーストリック・マミーを召喚、その効果を発動。1ターンに1回、自分はゴーストリック・モンスターをもう1回通常召喚できる。ゴーストリック随一の力持ち、ゴーストリック・シュタイン召喚!」
白い包帯を体中に巻きつけたミイラ男が、その太い腕でもはやおなじみになったあの料理に蓋するやつ、クロッシュのやたらと大きいのを両手で重そうに抱えてよたよたと展示物の間を縫うように歩いてやってきて、ドスンとクロッシュを床に置いて蓋を取る。と、そこにはうずくまって隠れていたフランケンシュタイン、ゴーストリック・シュタインの姿が。
ゴーストリック・マミー 攻1500
ゴーストリック・シュタイン 攻1600
「さらにキョンシー、ランタンを攻撃表示に変更して魔法カード、破天荒な風を発動!この効果によって、シュタインの攻守は次のそっちのエンドフェイズまで1000ポイントアップ!」
ゴーストリック・キョンシー 守1800→攻400
ゴーストリック・ランタン 攻800
ゴーストリック・シュタイン 攻1600→2600 守0→1000
「まずはシュタイン、表側表示のホムンクルスに攻撃!」
『この攻撃が通れば、ミュージアムの効果で4回連続ダイレクトか……決まればの話だけどな』
まあ無理だろう、と言わんばかりの口調でユーノがポツリとつぶやく。案の定というべきか、シュタインのパンチは床からにょきっと生えてきた謎の回転する機械に止められる。
「永続トラップ、エレメンタル・アブソーバー発動!手札からネクロフェイスを除外することでそれと同じ属性………つまり闇属性の相手モンスターは攻撃宣言を行うことができない!さらにネクロフェイスはゲームから除外された時、お互いのデッキトップ5枚のカードをゲームから除外する効果を持つ」
「デッキトップ5枚も痛いけど、アブソーバーは闇属性ばっかりのゴーストリックにとってはありがたくないね……だったらゴーストリック共通効果を使って、シュタインと猫娘以外すべてのゴーストリックを裏側守備表示に変更。猫娘を表側のまま守備表示にしてターンエンドさ」
博物館の通路に仁王立ちするシュタインとその横にちょこんと座る猫娘のそばに、ボワンと音を立てて3つのクロッシュが設置される。もっとも、今回のデュエルにうごめく影は使われてないから正体は丸わかりなんだけど。
「私のターン。魔法カード、ブラック・ホールを発動!説明は不要だろうが、この効果によりすべてのモンスターは破壊される!もっとも、次元の裂け目の効果によりその魂の行きつく先は墓地ではなく除外だがな」
「しまった!」
ぽっかりと空中に浮かんだ黒い穴、ブラック・ホールに全てのモンスターが吸い込まれて消えていく。がらんどうのミュージアムと虚しく浮かぶ次元の裂け目だけが占める空間に、仮面をつけた白い影が忍び寄る。
「次元合成師を召喚し、効果を発動。1ターンに1度デッキトップのカードを除外し、このカードの攻撃力をエンドフェイズまで500ポイントアップさせる。除外するカードは……モンスターカード、光の追放者か」
次元合成師 攻1300→1800
「次元合成師でダイレクトアタック!」
次元合成師 攻1800→稲石(直接攻撃)
稲石 LP4000→2200
「くっ、これが闇のゲーム、ね。なるほどとんでもない、やっぱヤバそうな相手だ」
「あれ?稲石さんって確かタイタンともデュエルして鍵ぶんどったんじゃ」
「ああ、あのチェスデーモン?ノーダメージで勝っちゃったからね、あのときは」
マジか。稲石さん、僕はあんたの方が数段とんでもないと思いますよ。
「ふん、奴は使えん男だった。まさか鍵を1つも手に入れることができずに倒れるとはな。まあいい、エンドフェイズに次元合成師の攻撃力が元に戻る」
次元合成師 攻1800→1300
フード LP4000 手札:2
モンスター:次元合成師(攻)
魔法・罠:次元の裂け目
エレメンタル・アブソーバー(対象・闇)
稲石 LP2200 手札:1
モンスター:なし
魔法・罠:1(伏せ)
場:ゴーストリック・ミュージアム
「さあて、さあて。とりあえずアブソーバーをどうにかしないと話が始まらないね。魔法カード、大嵐を発動。このカードは発動時に自分と相手の場の魔法、罠カードを全部破壊するけど、このままだと自分のこのカードも破壊されるね。だからセットカード、アビスコーンの効果発動。このカードがセット状態のまま墓地に送られた時、相手モンスター1体を墓地に送るよ」
「む………いいだろう、通しだ」
博物館が、闇属性の攻撃をすべて止める謎の機械が、そして空中に浮かぶ割れ目さえもが消え、フィールドが元の洞窟に戻る。随分すっきりしたもんだ。
「で、マジック・ストライカーを召喚してダイレクトアターック」
「手札からバトルフェーダーの効果発動。その直接攻撃を無効にしてこのモンスターを特殊召喚し、バトルフェイズを終了させる」
バトルフェーダー 守0
「あー、惜しい!」
だけど、これであのフードの手札は残り1枚。そう悪いことばっかりじゃないはず。
『………まあ、そのかわりあっちの手札も0になったけどな』
ま、まあきっと何とかしてくれるよ、うん。
「ターンエンド」
「私のターン。なるほど、タイタンを倒した実力は本物ということか。いいだろう、その実力に敬意を表そう!バトルフェーダーをリリースし、黄金のホムンクルスをアドバンス召喚!」
同じホムンクルスと名がついてはいるが、さっきのホムンクルスは割と人間に近かった。服着てなかったけど。だけど今度は違う、金色に光り輝くゴーレムだ。
「黄金のホムンクルス………私の研究にとっては不完全な失敗作とはいえ、戦闘能力は十分にある。このカードのステータスは自分の除外されたカード1枚につき300ポイント上がる、よって攻撃力、守備力ともに3300アップした4800だ!」
黄金のホムンクルス 攻1500→4800 守1500→4800
「ヒューっ、派手だねえ。それで?そのまま自分に攻撃?」
「無論。ゆけ、黄金のホムンクルス!ゴールデン・ハーヴェスト!!」
黄金の岩のかけらが、小人の戦士を直撃する。何か仕掛けてくれるのかと思ってみていたのに、なんと稲石さんは何一つ動きを見せなかった。
黄金のホムンクルス 攻4800→マジック・ストライカー 攻600(破壊)
「はい、残念」
「稲石さ……あれ?」
おかしい。確かにマジック・ストライカーは破壊されたのに、全く稲石さんにダメージが入ってない。
『マジック・ストライカーが戦闘で受ける自分へのダメージは0になる……いい効果だなやっぱ』
「なるほど、そんな効果が」
「ほう。なかなかしぶといな、これでターンエンドだ」
フード LP4000 手札:0
モンスター:黄金のホムンクルス(攻)
魔法・罠:1(伏せ)
稲石 LP2200 手札:0
モンスター:なし
魔法・罠:なし
「場も手札もカードはなし、しかも相手の場には攻撃力4800か。いいね、面白いよ。自分のターン、ドロー!モンスターをセットして、そのままターン終了さ」
絶体絶命の状況で稲石さんがセットしたモンスターはただの苦し紛れなのか、それとも逆転の一手なのか。それは本人にしかわからない。
「私のターン、黄金のホムンクルスで攻撃!ゴールデン・ハーヴェスト!」
だが、じっとしているわけにもいかない以上相手には攻撃しか選択肢はない。無数の黄金の岩のかけらがセットされたモンスターを破壊し………そしてその直後、黄金のホムンクルスの姿がみるみるうちに氷漬けになっていく。
黄金のホムンクルス 攻4800→??? 守800(破壊)
黄金のホムンクルス 攻4800→???(セット)
「何!?」
「またまた残念。セットモンスター、ゴーストリックの雪女の効果を発動させてもらったよ。ひとつ、このカードを戦闘で破壊したモンスターを裏側守備表示にする。ふたつ、そのモンスターはこれ以降表示形式を変更できない。まあ、実質行動不能になったと思ってくれればいいよ」
「くっ……舐めた真似を!カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」
フード LP4000 手札:0
モンスター:???(黄金のホムンクルス)
魔法・罠:2(伏せ)
稲石 LP2200 手札:0
モンスター:なし
魔法・罠:なし
「さあて、さあて。ドロー、なんだかんだ言ってもまだ守備力4800だからね、まともに突っ込んだらまず勝てない。だから自分は、リバース・バスターを召喚!そして攻撃!」
リバース・バスター 攻1500→???(破壊)
刃の部分が自分の上半身ほどもある大鎌を軽々と手にするマントを羽織った死神が、問答無用とばかりに守備力4800のセットモンスター………黄金のホムンクルスを真っ二つにする。え、なんで?
「リバース・バスターは攻撃するとき、相手の魔法、罠カードの発動を封じる。さらに裏守備モンスターをダメージ計算抜きで破壊することができるのさ。もっとも、攻撃前に発動したんならあんまり意味なかったけど………うん?」
きょろきょろと辺りを見回す稲石さん。一体何が見えるんだろう、と思ったのもつかの間、すぐに僕にも何が起きているのかが分かった。ここはついさっきまで洞窟のような部屋の中だったはずだ。一瞬だけ博物館になったりもしてたけど。だけど、おかしい。上に星が見える。いや、上だけじゃない。真ん前にも、後ろにも、それどころか僕らの足元にまで星が広がっている。
「ようやく気が付いたか。だが、まさかこのカードまで使うことになるとはな。本来ならば鍵の守護者と戦うその時までこちらの手は温存しておくつもりだったが、私のホムンクルスが倒れた以上もはや手加減する余裕はない。永続トラップ、マクロコスモス発動!今、我々のデュエルは人間の世界を飛び越え、宇宙へと転換した!!」
「マクロ……コスモス?」
「そうだ。そしてこのカードの効果により、私はデッキから原始太陽ヘリオスを1体特殊召喚する。ヘリオスの能力は、除外されたお互いのモンスターの数1体につき100ポイント。私の除外されたモンスターはエレメンタル・アブソーバーで除外したネクロフェイスにその効果で除外した4体、ブラック・ホールで破壊した2体に次元合成師の効果で1体、そしてバトルフェーダーの計9体だ。そしてお前のモンスターはネクロフェイスで除外した中のゴーストリック・フロスト、キラー・トマト、ネクロ・ガードナーの3体にブラック・ホールで破壊した5体、か」
宇宙の果てからふわふわと漂ってきた一つの太陽。その太陽の下に無数の包帯が重なり合い、組み合わされ、人間の女のようなスタイルを映し出す。な、なんだってのさあのモンスターは。黄金のホムンクルスが切り札じゃないなんてただのはったりだと思ってた、というよりそうであってほしかったのに。
原始太陽ヘリオス 攻0→1700
「自分にできることは何もないか。ターンエンド」
「ならば私のターン!ゆけ、ヘリオス!私の錬金術、最高の成果よ!」
原始太陽ヘリオス 攻1700→リバース・バスター 攻1500(破壊)
稲石 LP2200→2000
「くっ………」
これで、ついに稲石さんのライフが半分を切った。それに対し、あのフード男のライフはまだ全然減ってない。しかも、ついさっきまであのフードは本気出してなかったって言うし。流石セブンスターズ最後の一人、強い。
「リバース・バスターはマクロコスモスの効果により除外され、ヘリオスの攻撃力はさらに上がる。メイン2、カードを1枚セットしてターンエンドだ」
原始太陽ヘリオス 攻1700→1800
フード LP4000 手札:0
モンスター:原始太陽ヘリオス(攻)
魔法・罠:マクロコスモス
2(伏せ)
稲石 LP2000 手札:0
モンスター:なし
魔法・罠:なし
「自分のターン、ドロー!…………ターン、エンドさ」
「そんな!」
ついにこの時が来てしまった。多分あのカード、唯一の手札はセットすらできない上級モンスターなんだろう。次のターン、ダイレクトアタックが素通しになっちゃう。
「私のターン。魔法カード、闇の誘惑を発動。デッキからカードを2枚ドローして手札の闇属性モンスター1体をゲームから除外する。そして闇属性モンスター、異次元の生還者が除外されたことでより攻撃力の上がったヘリオスで攻撃だ!」
原始太陽ヘリオス 攻1800→1900→稲石(直接攻撃)
稲石 LP2000→100
「稲石さん!」
吹っ飛んだ稲石さんに思わず駆け寄ろうとするも、あの人はそれを地面に、いや宇宙に倒れた状態のまま片手をあげて制止した。ダメージを受け続けたことが幽霊の体にもだいぶこたえてきているのか、つっかえつっかえぼくに向かってしゃべりかけてくる。
「これは、まだ、自分の………仕事、だよ。まだ、まだきっとあの男は、本気で来てないから、ね。せめて、手の内だけでも、見せて、あげるからさ……」
「でも……」
『やらせてやれ』
「ユーノっ!」
いいからサレンダーしてください、そう続けようとしたところでいきなりユーノが口を開く。開いたと思ったらいきなりなんてこと言うんだこの人は。鬼か。
『お前こそ分かんねえのか?多分、どのあたりからかは知らんが途中からずっとこのつもりだったんだろうよ。明らかに不自然な理由でわざわざお前より先にデュエルを挑んだのも、参加する義理も何もねえセブンスターズ戦にわざわざ関わってボロッボロにされながら立とうとしてんのも。全部次に戦うであろうお前らの誰かに少しでも情報アドを渡して、あわよくば闇のゲームを通して少しでも奴にダメージを与えようとしてんだろう』
「だったら、なおさら……」
『だーかーら、やらせてやれって。そこまで言うなら聞いてやるけど、もしお前があの立場ならどうするってんだ?』
そう言われると、一瞬でそんな状況のイメージが思い浮かんだ。
「………耳栓詰めて聞こえないふりしてコンマ1秒でも早く立ち上がって元気いっぱいに見えるように手を振ってる僕が見える」
『お、おう。まあそういうことだ』
そう言われると何もできない。だって、たぶん僕が同じことをしてるなら絶対に止めてほしくない、むしろなにがなんでも中途半端なところでは止めさせないだろう。なら、せめてしっかりと見ていよう。お願いします、稲石さん。
「……続ける、よ。自分は今の攻撃でダメージを受けたから、手札のゴーストリック・マリーの効果を発動………自分がダメージを受けた時にこのカードを手札から捨てて、デッキからゴーストリックモンスターを裏側守備表示で特殊召喚。おいで、ゴーストリックの魔女………!」
ボワン、と煙を立てて銀色のクロッシュが1つ、ふわふわと宇宙に浮く。ゴーストリックの魔女、でもいまさらあのカードを出してももうできることなんてないんじゃ。
「お前が捨てたゴーストリック・マリーもまたマクロコスモスの効果を受ける。したがって原始太陽ヘリオスはさらにその輝きを増していく。ターン終了だ」
原始太陽ヘリオス 攻1900→2000
フード LP4000 手札:1
モンスター:原始太陽ヘリオス(攻)
魔法・罠:マクロコスモス
2(伏せ)
稲石 LP100 手札:0
モンスター:???(ゴーストリックの魔女・セット)
魔法・罠:なし
「自分のターン、これが最後のドロー……ッ!」
「待て!この瞬間にトラップ発動、バトルマニア!このカードは相手のスタンバイフェイズにのみ発動ができ、相手のモンスターをすべて表側攻撃表示にしたうえでこのターンの攻撃を強制的に行わせる!」
クロッシュを勢いよく宇宙の果てに蹴飛ばして、強制的に叩き起こされたいかにも元気そうな顔の金髪魔法少女が幅広の魔法使い帽をくいっと頭に合わせる。若干寝癖がはねているもののその自信満々な表情は、まるでこの状況を自分の力でどうにかできる、と語っているようにも見えた。
ゴーストリックの魔女 攻1200
「そしてモンスターカード、Ghostrick Ghoul…………まあゴーストリック・グールを召喚!」
ゴーストリック・グール 攻1100
稲石さんがラストドローで引いたカードは、デフォルメされてはいるもののゴーストリックでは珍しいおどろおどろしい系の見た目をしたゾンビモンスター。どれくらいおどろおどろしいかというと、味方のはずの魔女が若干引き気味の目を向ける程度には刺激的だ。
「どれほどのカードを引いたかと思えば、攻撃力1100か。私のヘリオスの方が攻撃力は上だ!」
「確かに。だけど、グールには効果がある!ゴーストリック・グールの効果発動!1ターンに1度自分フィールドのゴーストリックモンスターを選ぶことでそのモンスター以外の攻撃をこのターン封じるかわりに、自分の全ゴーストリックの力を結集させる!すべての力を、魔女に転換!」
グールが両手を合わせてまじないのようなポーズをとると、魔女の全身が鈍い緑色に光り始める。これで魔女の攻撃力はグールと合わせたぶんで2300、つまり勝てる!これならヘリオスを倒せる!もしこの後にまだ本命がいるっていう稲石さんの予想が本当だとしても、ゴーストリックの効果を使えば裏側表示にできるからまだ希望の目はある。なんだ、あれだけ悲壮な感じだったけどこの勝負まだわかんないね。
「ゴーストリックの魔女で原始太陽ヘリオスに攻撃!ヒス・オブ・メイジ!」
ゴーストリックの魔女 攻2300→原始太陽ヘリオス 攻2000
いや、たとえ魔女を裏守備にすることができなくても。せめて、この一発の攻撃さえ届けば、まだ希望が無くなるわけじゃない。そうだ、この攻撃さえあのヘリオスに届きさえすれば。
そんな僕のせめてもの願いは、ついに聞き取られることはなかった。
「攻撃宣言時にトラップ発動、血の代償。ライフポイントを500払うことで、手札のモンスターを通常召喚する!誇り高き戦士よ、そこまでこのカードを守護者に見せたいのならば見せてやろう!我が錬金術のさらなる高みのその一部を!私は場の原始太陽ヘリオスをリリースし、ヘリオス・デュオ・メギストスを召喚!」
その瞬間、太陽が弾けた。急激に大きくなったその光に体の包帯が耐え切れなくなって燃え尽きていき、また新たな包帯が新しい太陽の下に体を構成し始める。頭を支えるためにより身長を低くし、体型を横に広げ……だが、そのスタイルが女性のそれであることは変わらずに。
フード LP4000→3500
ヘリオス・デュオ・メギストス 攻4200
「攻撃力、4200………!?」
「そう。ヘリオス・デュオ・メギストスの攻撃力はゲームから除外されたモンスターの数につき200ポイント、ヘリオスの倍だ。そしてアドバンス召喚を行うために原始太陽ヘリオスをリリースしたことでマクロコスモスにより除外され、もう200ポイント攻撃力が上がる。さあ、これで終わりだ。ヘリオス・デュオ・メギストスで迎撃、ウルカヌスの炎!」
稲石さんが、すまなそうにこっちを見てすぐに目を伏せる。本来なら攻撃の巻き戻しが発生するこの状況でも、バトルマニアの効果で強制攻撃をさせられる魔女にはそんなもの何の意味もない。
ゴーストリックの魔女 攻2300(破壊)→ヘリオス・デュオ・メギストス 攻4200
稲石 LP100→0
炎の衝撃をまともに受け、稲石さんがまた吹き飛ばされる。すぐに駆け寄ろうとしてフードに背を向けた瞬間、後ろから声をかけられた。
「どこへ行く気だ?さあ、私とデュエルだ」
「くっ……」
これはどうしようもない、申し訳ないけど稲石さんのことはほかの皆に任せよう。あの人が今のデュエルで教えてくれたいくつものことは、このデュエルを有利に進める役に立つ。
ありがとう、稲石さん。このフードはきっと僕が倒して、敵討ちと洒落込ませてもらいます。
「いいよ、それじゃあはじめようか。ユーノ、準備はいい?」
『当たり前だろ、誰に向かってモノ言ってんだ』
「「デュエル!!」」
後書き
ごめんよスケルトン、イエティ、フロスト。またいつか君達にも出番を作ってあげよう。
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