ワンピース~ただ側で~
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番外3話『クジラのいる双子岬』
グランドラインを目指し、水進式を行った麦わらの一味。
カームベルトに入ってしまい巨大海王類にウソップが食べられかけたり、グランドラインの入り口、リヴァースマウンテンに入る際にメリー号が岩壁に直撃しそうになったりと早速大変な目にあい、どうにか無事にそれらを抜けてホッと一息……つく間もなく、また彼らは新たな問題に直面しようとしていた。
リバースマウンテンの運河を勢いよく下るメリー号の眼前に現れた巨大な山。
「山じゃねぇ! クジラだ!」
「このままじゃぶつかるぜ! 左へぬけられる! 取り舵だ!」
「舵折れてるよ!」
「何とかしろよ、おれも手伝う!」
――ブオオオオオオオ!
耳をつんざくほどの騒音をまき散らし、メリー号の眼前をふさぐかのように顔を出しているそれに、ゾロとウソップが慌てて舵をとりに行く。ちなみにだが先ほどの二人の言葉の通り、舵は折れていて残念なことに効きが悪くなってしまっている。
しかも勢いよく流れる運河に乗ってきたおかげでメリー号の速度はなかなかのもの。このままクジラに直撃すればまず間違いなく、メリー号は海の藻屑となる。
こうした圧倒的にまずいといえる状況の中で、唯一の救いはまだこの壁のようなクジラがメリー号の存在に気づいている様子がないということだろうか。もしもうまく脇を抜けることに成功したならば、このクジラから逃げることも不可能ではなくなってくる。
とはいえ、やはりすでに折れてしまっている舵では勢いに乗ったメリー号の向きを変えることは容易ではない。このままではぶつかる、という段になってそれを打破すべくルフィが行動を始めた。
「そうだ、いいこと考えた!」
「何すんのルフィ!」
突如としてルフィが動きだし、ナミの問いに答えることもなくそのまま船室に潜り込んでく。それを見ていたハントもまた自身にできることを思いついたのか「俺もなんとかやってみる!」とそのまま海へと飛び込んだ。
「ちょ、ちょっとハントまで!」
ナミが心配そうな表情でハントへと視線を送ろうとするのだが「だめだ、曲がらない!」というサンジの声に気づいて悲壮な表情に――
――突如、轟音がメリー号が立ち上った。
「大砲っ!?」
海中からメリー号の進行方向をずらそうとしていたハントにも、同じくその状況は伝わってくる。
――ルフィか? ……さすがにまずいんじゃ?
危機感を覚えるハントだったが、とりあえずメリー号の勢いが止まったことは確か。おかげでメリー号の象徴ともいえる羊の船首が折れただけで済んだ。
「……」
海中から顔を出したハントはもちろん、ナミたちもが一斉に固唾をのんでクジラの動向を伺うも、図体が大きすぎて神経の伝達が遅いのか、それともまったく効いていないのか。とにかくクジラは動く様子を見せない。
「に、逃げろ! 今の内だ!」
「まだハントが海の中に!」
「何!? そういやさっき海に飛び込んでたか! 何やってんだあいつ!」
「俺は大丈夫だ! すぐに追いつくから先行ってくれ!」
「で、でも!」
「本人が大丈夫って言ってんだ! いくぞ!」
ナミにしては珍しく食い下がろうとする姿だが海からのハント本人の言葉によりあえなく却下。たしかに今はメリー号の安全が第一の状況だ、ナミもすぐに頷いて――
「――え?」
怒り心頭の様子でルフィが甲板に立っていることに気づいた。
この瞬間、嫌な予感を覚えるのはルフィとある程度の付き合いがあれば当然だろう。
そして残念なことにそれは的中。
「俺の特等席に……何してくれてんだぁ!」
言葉のままに腕を伸ばし、そして『ゴムゴムの銃』をメリー号よりも大きなクジラの瞳へとたたきつけた。
「アホーーーーーーー!」
この一撃を受けたクジラが、それでもメリー号の存在に気づかない……なんてことがあるわけがない。
ルフィ以外の全員の断末魔に近い声が響く中、案の定クジラの瞳がついにメリー号へと向けられてしまった。
「かかってこい! このやろう!」
「てめぇもう黙れ!」
あくまでも喧嘩をしかけようとするルフィにゾロとウソップの蹴り突っ込みが入ったものの、時すでに遅し。クジラが口を開けて、メリー号が浮かぶ一帯の水を呑みこみ始めた。
「っこれだから大型生物は!」
苛立たしげに言葉を吐き出したのはほかの誰でもない、一人海中で行動しようとしていたハントだ。唯一海にいても陸地にいるかのように動ける彼はほとんど反射的に海中から飛び出して、近くにあって岸壁へとその身をおろす。
「みんなっ!」
船を探すが、既にメリー号の姿は見当たらない。クジラの標的にされてしまったメリー号は一飲みにされてしまったからだ。
「どうしよう」
周辺の水ごと、一気にメリー号を飲みこんだあの勢いならば船員たちがメリー号と共に噛み砕かれて死んでしまったという状況はなさそう。
ということぐらいはハントにもわかるが、だからといって放っておけばそのまま消化されてTHE・ENDだ。
「……ま、やるしかないか」
軽く準備運動をして、そのまま海中へと身をひるがえそうとしているクジラをにらみつける。
――さすがに深海に行かれたらこっちがもたない。まずは気を引いて……腹をぶんなぐってあいつらを吐き出させてやる。
「……このサイズはさすがに自信ないなぁ」
自分の思考に対して、まるで愚痴を吐き出すかのように言葉を落とす。
魚人島から東の海に戻る時にカームベルトを渡り、目の前のクジラ級に大きい海王類に食われかけた経験があり、それでもなお無事にカームベルトを渡りきった彼だが、別にそれら巨大海王類を退治したわけではない。
あくまでも彼が海を渡れたのは食われないように逃げて、それが成功したからであり、決して仕留めたからというわけではない……もちろん巨大海王類から生身の体で逃げきったということでも十分に常識外れたことなのだが、それはともかく。
現状において今はさすがのハントもまずいと言わざるをえないほどの状況だ。
「……すー……はー」
彼の醸す雰囲気そのものはのんびりとしているようなそれが感じられるが、全くもってそんなことはなく、内心では焦りに焦っている。なにせ彼の思考の通り、深海にまで潜られた時、海中戦を苦にしないハントでもそもそもその深度まで潜ることすらできないのだから。
幾度かの深呼吸を繰り返し、それからやっと覚悟を決めた。
「うっし、行くか!」
言うと同時。
地を蹴り、まるで弾丸のように海中へとその身を投げ出す。
――……?
海中に入ったハントの目に映ったものは理解の難しいおかしな光景だった。クジラは深海へと潜るわけでもなく、広い海へと泳ぐわけでもない。なぜか大陸の岩壁へと自身の頭をぶつけている。
――好都合だな。
とりあえずどこかへ行ってしまう様子ではない。少しだけ安堵した表情を見せるハントだが、もちろんそれも一瞬。クジラからして蟻のような小ささでしかない自分が、船を丸ごと吐き出させなければならないことの大変さは変わらない。
何度も何度も岩壁へと頭をぶつけようとするクジラに、ハントはまっすぐにその身を向かわせる。
――魚人空手5千枚瓦正拳!
海中なので心の中で技名を叫び、丁度岩壁へとまっすぐに体を泳がせるクジラへと、横合いから覇気をまとわせて黒く変色させた拳をたたきつけた。たとえば前進していた時にいきなり横合いから別の衝撃をうけると、案外簡単に吹っ飛ばされてしまうものだが、今回はさすがに体重差がありすぎて話にならない。覇気に関してもまだ習いたての頃は見聞色に偏っていたハントだが、今では武装色も同様に使いこなせるようになってはいるものの、やはり蟻がどれだけ身を固めて殴り掛かってきたところで大した威力にはならない。
ハントに殴られたクジラはわずかに身じろぎをしたもののまったくダメージを受けた様子がなく佇んでいる。ただ、蚊に刺された程度のかゆみはあったのかもしれない。ゆっくりと動きを停止して、自身へと害意を向ける存在へと頭を向けた。
――かかってこ……やばっ!
ハントめがけてそのまま体当たりを敢行してきた。もちろんクジラが動き出す前に全力でクジラの体当たりを避けようという動きを見せていたハントだが、なにせ相手のサイズがサイズ。
――っ!?
ほんの少しだけ早めに攻撃を察知して動き始めることができた、という程度では山のように大きな一撃から逃げ切ることは難しく、わずかだかその頭の先がハントにかすった。それだけでもすさまじい威力だったらしく、海中にいたハントが、口からこぼれた気泡を追い越し、海中から海上、空中へと打ち上げられた。まるで滝が逆流してしまったと思われるほどの水量が打ち上げられていることを見てもその威力の大きさが見て取れるというものだろう。
そのままハントを飲み込んでしまおうとしたのか、クジラがその大きな口をあけて海上へと頭を出した。
それを、ハントは見逃さない。
「撃水!」
自分とともに浮かんでいた水の一部を手にのせ、鉄をも穿つ弾丸へと昇華させて放った。いくら巨大なクジラでも口内までは頑丈にはできでいなかったらしく、目を白黒させて「ブオオオオオ」と痛みに頭を振り回す。
その間に着水したハントは、息をつく間もなく「槍水!」今度は弾丸のそれよりも貫通力の優れた一撃をクジラの頭部へと放った。これも直撃。頭部からわずかにこぼれる血液が一応は聞いている証拠だが、しょせんはこれも薄皮程度のもの。
――今なら陸式で!
ハントの使える技で最も威力が高い技はもちろん陸式だ。水中なら決して使うことのできない技だが、水上に出ている今なら使うことも可能。というよりも今のチャンスを逃せばきっと使うタイミングはないだろう。
一気に接近してしまおうと動き出した瞬間、慌てて後退。
その瞬間にハントがいた一瞬前までいた位置めがけてクジラの尾ひれが、海中からアッパーカットの要領で突き上げられて海上へと出現した。ぎりぎりで直撃を避けることに成功したハントだったが、その威力の余波がすさまじく、周辺の水辺ごと打ち上げられてしまった。
「うちみ……なに!?」
あわてて態勢を整えて、撃水を放とうとしたハントだったがやはりクジラは哺乳類というだけあって賢い。海上にいるのは危険と判断したらしく、水中へと既に身をひるがえしてしまっていた。
「くそっ!」
もちろん、それを追いかけてハントもまた水中へと潜り込んだのだが――
――あれ?
ハントの目に映ったのは、なぜかその動きを停止させて、ぼんやりと海中に浮かぶクジラの姿だった。
――ラッキー……で、いいのか?。
意味がわからずに、だがそれをチャンスと踏んだハントだったが、次の瞬間にはまた同じように首をかしげて動きを停止させた。
クジラの体内から徐々に体外へと出ようとしている命が、見聞色で伝わってきたからだ。
――……どうやら無事そう、かな。
自分のやったことに意味は感じられなかったハントだったが、それでも仲間たちが無事そうなことにホッと胸をなでおろしたのだった。
グランドラインでは一切の常識は通用しない。
海流や風には恒常性がなく、グランドラインの航路にある島々には鉱物を多く含むために航路全域に異常な磁気をきたしていて、普通の羅針盤は機能しない。何も知らずに海へと出ればまず生還することは不可能。
それゆえ、グランドラインを航海するにあたって絶対的に必要な、羅針盤の代わりとなるものがある。
「これが……ログポース。何の字盤もない」
「……そういえばログポースのことすっかり忘れてたな」
ナミが自分の腕につけて、そのグランドラインにおいて羅針盤の役割を果たすそれをハントと一緒にのぞき込む。なぜナミがそれを持っているかといえばハントがクジラと戦っていた間、そのクジラの体内でルフィたちが遭遇した謎の男女ペアが落としていったものを、ルフィが拾ったからだ。ちなみにその話を聞いたハントは小さな声で「あ、本当に結構余裕あったんだなぁ」とクジラと決死で戦ったことの無意味さに肩を落とす様子もわずかに見せていたのだが、まぁそれはさておき。
「忘れてたって……あんたね」
少しばかり申し訳なさそうに、だがそれ以上にぼんやりとつぶやかれたハントの言葉にナミが呆れ顔を向けるのだが、ハントもまたナミと同様にログポースをのぞき込んでいたせいで二人の距離があまりにも近かった。目と鼻の先にあるハントの顔に、下手をすれば自分の唇がふれてしまいそうになったナミが「って近いわっ!」と彼女の拳が炸裂した。
「ふでっ!?」
ログポースにばかり視線を送っていたハントはそれを避けることもできず、クリーンヒット。すさまじい力が込められていたらしく、意味不明な奇声とともにそのまま華麗に吹っ飛んで岩壁へとたたきつけられてしまった。
さて、ナミとハントの二人が自覚もなしにバカみたいにじゃれあっている間、ルフィたちはクロッカスという男の、クジラに関する話に耳を傾けていた。クロッカスはクジラの体内でルフィたちが出会った男で、クジラの体内でルフィたちが出会った謎の男女ペアからクジラを守ろうとしていた男でもある。
グランドラインの入り口、リヴァースマウンテン。その岬に存在するレンガ造りの建築物。
そこで灯台守として暮らしているのが、まるで花が咲いているかのような独特な髪型をした老人、クロッカスだ。あらゆる海賊が通過するであろうその位置に堂々と居を構えるその豪胆さには驚きを禁じ得ないが、巨大なクジラもここで暮らしているらしく、名をラブーンという。
もう50年も前にした約束、2,3年で帰ってくるという仲間の言葉を信じてラブーンは今でもこの双子峠で仲間の帰りを待っている。
クロッカスから語られたラブーンの話に各々が感想を漏らす。
「しかし、50年もこの岬でね、まだその仲間の帰りを信じて待ってんのか」
「随分と待たせるんだなー、その海賊も」
「ばーか、ここはグランドラインだぞ――」
「てめぇはなんでそう――」
「――だが事実は想像よりも残酷なものだ」
まだまだクロッカスの話は終わっておらず、ナミもそれに耳を傾けていたのだが、ハントが先ほど壁に叩き付けられてからそのまま横になって動いていないことに気づいた。
「だ、大丈夫? ……ハン……ト?」
少々強く殴りすぎただろうかと不安げに近づいたナミだったが、ハントの表情が珍しく真剣なそれになっていることに気づいた。
「ん……ちょっと考えてただけ」
ナミの戸惑いが含まれた声に、ハントはすぐさま立ち上がって顔をラブーンへと向ける。
「……?」
つい一瞬前まであった陽気な姿ではなく、声をかけるのも憚れるほどに真剣な表情でラブーンへと視線を送るハントの姿を不思議には思うのだが、今はまだクロッカスの話の最中。どうしたのか、というハントへの問いを呑み込み、またクロッカスと仲間たちの会話に耳を傾けて――
「見捨てやがったのか、このクジラを! そいつらを信じてこいつはここで50年もずっと待ち続けてんのに……ひどいぞ、そ――」
「――違う!」
ラブーンを見捨てた海賊たちをなじるウソップの声を、ハントが遮った。
「事情があってグランドラインから逃げ出したのかもしれないけど、帰ってくる。約束の期限を守れなくても、何年かかっても、絶対に帰ってくる! 男の約束は恐怖心なんかに負けるもんじゃない! 絶対に!」
誰を見つめるでもなく、ただ切実な声で。自分に言い聞かせるかのようにハントが叫ぶ。
ハント自身本心からそれを信じて言っているわけでもないことはその悲痛な表情を見ればわかる。
もしかしたら自分のことを重ねているのかもしれない。
大切な仲間のもとに帰ってくる。
大切な人を助ける。
内容に差異はあれど、大切な何かのためにそれを果たすという中身に変わりはなく、ハントがそれを叶えるのに大変に長い歳月がかかった。島のみんなに随分と苦労をかけ、ナミにはいらぬ悲しみを味あわせてしまった。
だから、ラブーンを見捨ててしまった海賊たちに自分を重ねているのかもしれない。
不意にヒートアップしたハントの様子に目を白黒させる一同をおいて、ナミだけはハントのその想いに気づいたのか「ハント」と小さく心配そうな声を漏らす。
誰もが声を失い、発するべき言葉を失ってしまった。
――と。
「うおおおおおお!」
不意にルフィの叫び声が響いた。
もちろん、一同の視線はルフィへと向けられる。
そこには折れてしまったメリー号のマストを抱えてラブーンの頭をかけあがるルフィの姿が。
「は?」
意味がわからずに首をかしげる一同をおいて、ルフィがマストをふりあげて「ゴムゴムの生け花!」ラブーンの頭へと突き刺した。
「ブオオオオオオ!」
さすがのラブーンでも痛かったらしく、耳をつんざかんばかりの声をあげる。
「何やっとんじゃーーーー!」
突然すぎる意味不明な行為。
全員が激しく叫び、もちろんラブーンもそれで怒らないわけがない。
わけのわからないルフィの行為を発端としてルフィとラブーンの喧嘩が始まった。
ルフィはゴム人間で、ラブーンは超巨大なクジラ。
ルフィの攻撃ではたとえラブーンの目などの急所を殴ってもダメージにもならず、かといってラブーンの攻撃も打撃しかなく、ゴム人間のルフィには全くといっていいほどダメージにはならない。
不毛な戦いが続き、いつ終わるとも知れない戦いに「ルフィ! てめぇいったい何がやりてぇんだ!」とゾロが怒鳴りつける。
「ブオオオオオオオオオ」
ラブーンが瞳に敵意をみなぎらせ、ルフィへとその大きな頭で一撃を加えようとした時。
「引き分けだ!」
ルフィが叫んだ。
いきなりの言葉ではあったが、人語を理解できるラブーンの動きがおそらくは反射的に止まった。
「俺は強いだろうが! 俺とお前の勝負はまだついてないから。俺たちはまた戦わなきゃならないんだ!」
「……」
ラブーンは意味が理解できずに、目をぱちくりとさせて、じっとルフィを見つめている。
「お前の仲間は帰ってくるかわからねぇけど、俺はお前のライバルだ。俺たちがグランドラインを一周したらまたお前に会いに来るから」
「……」
ルフィの真意を、ラブーンが理解した。こぼれる涙がその証拠だ。
そして、ルフィは笑う。
「そしたらまたケンカしよう!」
「ブオオオオオオオオオオオ!」
ラブーンが喜びの声をあげ、ハントを含めたクルーたちの顔にも自然と笑みが浮かぶ。
――でかいなぁ。
ぼんやりと、ハントは船長を見つめて思う。
ハントがルフィたちと一緒に海賊になることを決めたのはただナミといれるから、それだけだった。
ルフィたちと一緒にいて楽しそうだったし、ナミのことを大事に思っているのがわかったから自分もルフィたちといても後悔することはないだろう。ハントにとって、まだまだその程度の認識でしかなかった。
ルフィのことを大きい人間だと思ってはいた彼だが、それも心のどこかではまだ半信半疑でもあった。
要するにまだハントには仲間としていることの意識がどこか薄かったのだ。
ただ、、今の彼のルフィを見る目の色は今までの、どこか腑抜けたそれではない。深い感情のこもった、強い目だ。
――やっぱ、いい船長だ。
ハントのルフィに対する認識は今この瞬間にこそ、ナミ本位の関係ではなくなり始めたのかもしれない。
ハントがルフィという人間性に惚れたのはあくまでもルフィのラブーンのための喧嘩の副産物だが、もう一人。その喧嘩の副産物のあおりを受けて大変な労力を被ることになった人間がいた。それが――
「あの野郎、船をバキバキにしやがって」
――ウソップだ。
「おいゾロ、てめぇも手伝えよ!」
「ぐー」
誰かに手伝ってもらおうと声をかけるが、ルフィはラブーンの頭に絵を描いているし、ナミはこれからの航海の予定をたてている。サンジは食事を作っていて声をかけることができない。手があいているだろうと思われたゾロに声をかけるも、すでに熟睡していて起きる気配がない。
「俺は船大工じゃねぇんだぞ」
結局誰の助力も得られそうになく、文句をたれるウソップに「じゃあ俺が手伝おうか?」とハントが声をかけた。
「お、手伝ってくれるか!」
「ま、ウソップほど器用じゃないからサポートぐらいしかできないだろうけど」
「十分だ」
「にしてもウソップ器用だよな、船大工でもないのに」
「ふふん……だろう?」
「とりあえず材料もってきたらいいか?」
「……お前、比較的いいやつだな」
「『比較的』はいらなくね?」
なんだかんだで仲良くメリー号の修繕に励む二人だった。
後書き
お久しぶりです。
更新再開ですが、アラバスタでまた一度終わります。
あとすいません、更新遅めです。
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