戦国異伝
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第百五十一話 四国と三河その九
「数は随分多いがな」
「数万でしたな」
対する徳川は一万だ、数では大きく劣る。
「ですが負ける気はしませんな」
「殿がおられ我等がいる」
それでだというのだ。
「これでどうして敗れるか」
「ですな、それでは」
「一向宗には勝つ」
負けぬ、ではなかった。確かにだというのだ。
「そして殿と共に勝ち戦を祝おうぞ」
「おお、ではその時は」
石川も応える、それで酒井に笑顔でこう言った。
「是非あれをお見せ下され」
「何じゃ、三河漫才をか」
「はい、あれを見とうございます」
「いやいや、あれよりもな」
「踊りですか」
「この前民に教えてもらったのじゃ」
「ではそれをですか」
石川は今も期待している様に酒井に言う。
「勝った時は」
「やろうと思っておるが」
「ではそれを」
石川はここでも酒井に応える。
「お見せ下され」
「殿も喜んでくれればよいな」
「ですな、殿は笑いがお好きですから」
「うむ、本当によき方じゃ」
「全くですな」
こうした話をしてだった。
徳川の軍勢一万は一向宗の者達がいるその場に向かう、そこに着くと。
彼等は川の向こうに布陣していた、数は四万はいた。しかしその四万の門徒達の状況はというと。
井伊がだ、自ら馬に乗り川向こうの彼等を見る家康に言って来た。
「灰色の服の者達が半分ですが」
「本来の門徒達じゃな」
「はい、それに加えて」
「後は適当に入った者達は」
「国人はいません」
彼等は、というのだ。
「皆代々の三河者、ですから」
「わしについてきてくれているか」
「三河の者ならばです」
家康に従わない筈がないというのだ。
「三河武士は常に殿のお傍にいます」
「うむ、有り難いことにな」
「数が多過ぎます」
ここで井伊の言葉が怪訝なものになった。
「どうも」
「そうじゃな、二万の門徒はわかるがな」
老若男女入れてだ、三河でもそれ位はいる。
だがだ、その他の二万はというと。
「あそこまで何処から出て来たのじゃ」
「まさかと思いますが」
大久保彦左衛門、三河きっての頑固者が家康に言って来た。
「あの者達の中に」
「武田か北条か」
「両家の者達が入っているのでは」
「いや」
家康は川向こうの者達を見た、その彼等の目をだ。
多くは普通の目だ、しかしそのうちの何割かは。
「違うな、侍の目ではないぞ」
「?そういえば」
大久保もそれを見て気付いた、彼等のその目を。
「あの者達の目は」
「侍のものではないな」
「闇の中で光る様な」
「忍の者の目に近いな」
「はい、しかし」
「我等の目ともまた違います」
ここで服部も言って来た。
「あの者達の目は」
「妖しい光じゃ」
そこに得体の知れぬものも感じながらだ、家康は言った。
「あれはな」
「あの様な者達は三河にいたでしょうか」
三河者の中でもとりわけ頭の切れる本多忠信も首を捻って言うことだった。
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