戦国異伝
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第百五十一話 四国と三河その十
「果たして」
「いや、いなかったのではないのか」
家康もこう言う。
「わしも見たことがない」
「ですな、到底」
「わからん、しかも灰色の者達は鋤や鍬、鎌等を持っておるが」
それが百姓であることの証だ、これはわかる。
だが、だ。その剣呑な目の者達はというと。
「鉄砲に弓矢」
「刀に槍ですな」
「妙に武器がいいですな」
「下手をすれば我等以上に」
徳川の者達も怪訝な顔で話す。
「百姓の持っているものではありませぬ」
「百姓達も刀や槍は持っていることもありますが」
これはまだある、店でも売っているからだ。しかし問題はその質なのだ。
「やけにいいものばかりですな」
「鉄砲の数も多いです」
「本当に何処にあんなものがあったのか」
「しかもあれだけ」
「一向宗の者とも思えぬな」
家康は馬上で首を捻りながら述べた。
「これは」
「ですな、どうも」
「何処からどう見ても」
「しかし戦わぬ訳にはいかぬ」
このことも言う家康だった、このことは紛れもない事実だ。
それでだ、徳川家の諸将にこう言うのだ。
「じゃがここは勝つぞ」
「はい、それではです」
榊原が出て来た、そのうえで家康に己の考えを述べた。
「敵を釣り出しますか」
「あえて川を渡らせてか」
「はい、そうしては如何でしょうか」
こう家康に述べたのである。
「ここは」
「ふむ、そうするか」
「数は敵の方が遥かに多くしかもやたらと武器のいい得体の知れぬ者達もいます」
「迂闊に川を渡って攻めるのは危ういな」
「むしろ敵に川を渡らせましょう」
自分達から渡るよりはというのだ。
「そしてそのうえで」
「川を渡ってきた敵をじゃな」
「囲みそしてです」
倒す、これが榊原の考えだった。
「これでどうでしょうか」
「そうじゃな、しかも相手は戦を知らぬ者も多い」
一向一揆は僧侶が率い百姓が戦う、それでその軍勢は武士や僧兵達とは違い戦についてはあまり知らない、何しろ僧侶も百姓も本来は戦をする者達ではないからだ。
家康もそのことは知っている、それで榊原に応えるのだ。
「ではな」
「はい、それでは」
こうしてこの戦の戦い方が決まった、徳川家の軍勢は主力を残し僅かな兵達が川を渡りにかかった、しかも。
まずは敵の右手から渡ろうとする、それを見てだった。
一揆を率いる僧侶達は一揆を右手に持って行った、だが。
彼等は渡らなかった、すぐに引き返す。
「ふむ、我等の数に怖気付いたか」
「その様じゃな」
「だから退いたな」
「数は向こうの方が少ないからのう」
こう思い安心した、だが。
今度は左手からだった、川を渡ろうとする。
一向宗はそちらにも向かった、しかも四万全てでだ。そこから徳川の軍勢が全て渡ると思いそうしたのだ。
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