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遊戯王GX ~水と氷の交響曲~

作者:久本誠一
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ターン34 鉄砲水と完全なる機械龍

 
前書き
Q、今回の話を一言で表してください。
A、手札があれば何でもできる。

 

 
 我らがオシリスレッド寮に客がやって来たのは、あの男らしく実に突然だった。アポの一つも入れてくれないものだから、お茶菓子を用意する暇もなかったほどだ。

「清明、いるか」

 そう言ってその男がドアを開けた時には、さぞかし驚いたことだろう。なにせ部屋の両端には明らかに不釣り合いな古ぼけたドアが素人丸出しの建築で強引に取り付けられ、その横には万丈目の部屋に入りきらなかった家具で野ざらしになっていたのをいくつかかっぱらってきた戦利品である一級品の椅子がポン、と置いてあったりするんだからねえ。住んでるうちに僕たちはだいぶ慣れてきたからいいんだけどね。

「………まあ、とにかく上がってよ、カイザー」

 カイザー亮。デュエルアカデミアで最強ともいわれる、サイバー流の使い手である男。そんな男がわざわざブルー寮からここまで一人でやってくるとなると、その要件は………うん、さっぱりわかんない。

「で、何してるのそんなにキョロキョロして」
「いや、俺の寮とはずいぶん雰囲気が違うなと思ってな」
「……具体的には?」
「味がある部屋だ」

 い、いかん。悪気がないのはわかってるけど、それでも嫌味にしか聞こえない。大体ブルー寮の方がおかしいんだよ、見た目からしてもう城だもん!そう、あれは断じて寮なんてチャチなもんじゃない。あれはどこからどう見てもただの城だよ。

『いやー、そこ抜きにしてもこの部屋は実際世にも珍しいと思うぞ。なんてったって壁のぶち抜きだし』

 幽霊も住み着いてるし。カードの精霊もちょっとした動物園並みにいるし。あと(ファラオ)。うーん、改めて並べてみると何かがおかしい気がするけど、まあいいや。

「話が脱線したな。俺がここに来たのは、お前に用があったからだ。明日、俺の卒業デュエルがあるのは知っているな?」
「まーね。確かあれでしょ、全校生徒から一人選んでそいつと皆の見てる前で学園最後のデュエルするっていうアカデミア恒例行事で年間行事予定表にも書いてあるあれ」

 別に僕が行事予定表をじっくりと見たわけではない。台所の冷蔵庫に張り付けてあるから確かに一番見る機会は多いけど、この行事はかなり大掛かりなイベントだから誰だって知っている。十代クラスのデュエル人間だともしかしたら知らないかもしれないけど、まあさすがにそれはないだろう。この間の授業でクロノス先生もチラッと言ってたし。

『待て。もしかしてその時、十代グッスリ寝てなかったか?』

 あ、そうだったかも。よくわかったなユーノ。っと、また話がずれた。

「それで、その卒業デュエルがどうしたの?あいにく十代と万丈目と翔は釣りに行っちゃったけど」
「いや、さっきも言っただろう。俺がここに来たのは、お前に用があるからだ。………そのデュエルで、俺はお前を指名する」
「ほえっ!?」
「それだけだ、明日は楽しみにしているぞ」

 言いたいことだけ言って、クルリと背を向けて出ていこうとするカイザー。ちょっと頭の中が混乱してるけど、とりあえず一つだけどうしても聞いておきたいことがあった。

「そう言ってくれるのはもちろん嬉しいよ、だけど、なんで僕なの?十代や万丈目や三沢、それに夢想とかの方が実力的には僕よりずっと上だよ?」

 心からの本音。カイザーは、決して自分が確実に勝てる相手だからとかいうゲスな理由で対戦相手を決めるような男じゃない。だからこそその理由が、僕は知りたかった。

「それはお前自身が考えろ。あえて今言うとしたら、お前にはカミューラから助けてもらった借りがあるからな。そういうことにしておこう」

 ………なるほど、あくまでその理由を言うつもりはないってわけか。なら、こっちにも考えがある。

「じゃあさ、カイザー。明日のデュエルで僕が勝ったら教えてくれる?その理由を」

 下手をすると宣戦布告にも聞こえるそんなセリフを背中で受け取って、カイザー……アカデミアの皇帝がふっと薄く笑ったのが、見えた気がした。

「いいだろう。ではまた明日」

 それきり振り返ることなく、今度こそカイザーは歩き去っていった。うーん。





「ってことがあったんだけど」

 これ言ったらたぶん荒れるだろうなあ、ってことはわかってた。最初からわかってたけど、まさか言わないわけにもいかないし。そもそもここで隠しても、どうせ明日にはばれる。

「ずるいぞ貴様、この万丈目サンダーを差し置いて卒業デュエル代表生徒だと!?なぜ俺ではないのだ、おかわり!」
「万丈目、いくらお前だけボウズだったからってそんなやけ食いすることないんじゃないか?」
『そうだよアニキ、十代のダンナの言うとおり。みっともないよ~』
「ええい、貴様みたいな気持ち悪い雑魚にみっともないといわれる筋合いはない!大体お前もだ十代、なぜ貴様はそんなにヘラヘラしていられる!お前だってカイザーとはデュエルしたいんじゃなかったのか!」

 バンッと机を両手でたたき、万丈目が十代を指さす。だが、当の十代は案外冷静だった。

「まあな。そりゃ、俺だってカイザーとはまたデュエルしたいさ。だけど俺、実は今すっげえワクワクしてるんだ!なんでかわかんないけど、明日はきっとすごいデュエルになる。そんな予感がするんだよ。だから、今回は清明に譲っておくぜ。多分カイザーは卒業したらプロに行く。そして俺がいつかデュエルキングになる。俺がカイザーとデュエルするのは、その時までお楽しみにしておくぜ!」
「十代………!」
「ふん、貴様らしい考えだ。だが一つ間違いがある。その時デュエルキングとして君臨しているのはこの俺、万丈目サンダーだ!だがまあ、それ以外の点については一理ある。いいだろう清明、今回はお前に花を持たせてやる。………明日はしっかりな、清明」
「万丈目………!」
「気を付けてね清明君、お兄さんのサイバーデッキはわかってると思うけど、すごく強いから。僕には応援するぐらいしかできないけど、精いっぱい応援してるから!」
「翔……!」

 あ、なんかちょっと目に汗が。こ、こんなとこ見せられないよ!

「ごめん皆、僕もうちょっと今日は寝るから!」

 そう言い残して、顔を見せないようにして二階へと駆け上がっていく。後ろの方でおい、俺のおかわりはどうした!とか言ってる声が聞こえたけど、ごめん万丈目。今あの場所に戻って感動のあまり泣かない自信が僕にはない。





「ふう………」
『やっと落ち着いたか。んじゃ、最終デッキ調整と洒落込もうかね』
「うん、そーだね」

 さすがにあのカイザーが相手なんだ、中途半端に突っ込んでいったら速攻で返り討ちに合うのは目に見えてる。さーて、どうしようかなこのデッキ。

『まあ機械メタなら酸の嵐やシステム・ダウン、光メタならD.D.チェッカーとかコアデストロイあたりかねえ。ただまあ、正直言って俺はそういうのは好かん。そもそもあのカイザーに付け焼刃のメタデッキが効くとは思えんし、卒業デュエルでそんなの使ったらお前が大ブーイング受ける未来しか見えねえし』
「そうなんだよねえ。僕も欲を言うなら使い慣れたカードで勝ちたいし」

 かと言って、僕のデッキは全体的に低い攻撃力を誤魔化しながら戦っていくビートダウンデッキ。圧倒的な攻撃力でガンガン攻め込んでくるサイバー流との相性は最悪だ。コントロール系が相手ならわりと強いんだけども。うーん。

『ふむ……ならいっそのこと、逆の発想もありかもな。具体的にはこれ入れてみよーぜ』
「コレ!?あー、でも………ありかも」
『だろ?』

 そんなこんなで、ゆったりと夜は更けていった。明日、絶対勝とう。





「それでは只今よりシニョール丸藤バーサス、シニョール遊野による卒業デュエルを開始するノーネ!申し遅れましたが司会はワタクシ、クロノス・デ・メディチが担当しますーノ。ささ、それでは両選手入場ナノーネ!」

 あらかじめ聞かされた話通りにクロノス先生からの超簡単な初めの言葉を聞き、僕らの入場が呼ばれたタイミングでデュエルフィールドへと登っていく。ふと見るとカイザー側の観客席は赤青黄の三色の制服でぎっしりと埋め尽くされており、その人気がうかがえる。ちなみに僕の方は………あー、うん。ですよねー。もののみごとにスッカスカだ。そんな中に座ってこっちを応援してくれてる十代たちには感謝。もしこれで誰もいなかったら戦う前から気持ちの問題で負けてたかもしんない。

『ギャラリーなんざいらねぇぜ、ここで勝ったら官軍だ!』
「勝てば官軍、か」

 この続きはなんだっけか。負けたら賊軍、だったかな確か。ここはひとつ、官軍になりたいもんだ。いや、こんな覚悟じゃだめだな。狙うは官軍ただ一つ、他の道なんて選択肢に入らないね!

「それじゃあ始めようか、カイザー………1学期に十代とのタッグデュエルではぼろ負けしたけど、僕はこの1年で大きく変わった、強くなった!それを今から証明してやる!」
「ふ、いいだろう。ならばその力、見せてもらう!」

「「デュエル!!」」

 本来ならば先攻後攻はランダムで決まるシステムのデュエルディスクも、今回はちょっぴり特別仕様。なんと、指名された相手である僕が好きな方を選べるのだ。普通の相手ならば先攻をとるのが有利と一般的に言われているけど、相手はあのサイバー流。ここはひとつ、様子見も込めて後攻にしよう。

「僕は後攻を選ぶよ、カイザー。お先にどうぞ」
「ほう?ならば俺のターン、ドロー!サイバー・ラーバァを守備表示で召喚。さらに永続魔法、強欲なカケラを3枚発動。俺はこれでターンエンドだ」

 サイバー・ラーバァ 守800

 カイザーが先行で召喚したのは、まさにサイバー・ドラゴンの幼虫のようなこじんまりとしたイモムシ型機械。意外だ、たとえ先行であっても何かしらの大型モンスターを出してくることは覚悟してたのに。そしてもっと怖いのが、あの強欲なカケラ3枚同時発動。なんとかしてせめて1枚でも除去したいところだけど、今の手札じゃ無理か。でも当面の問題はあのラーバァだね。

「僕のターン、ドロー!」

 ふむ、ちょうどいいカードが来た。今回は全体的に引きがいい気がする。というかこっちも引いたか、強欲なカケラ。なんだこのカケラ祭りは。まあ使わない理由はないしありがたく使っておこう。

「ツーヘッド・シャークを召喚してそのままバトル、サイバー・ラーバァを攻撃!」

 あごの部分を半機械化した青い鮫が、まずは口の上半分でラーバァを一口で噛み砕く。よし、いい調子いい調子。

 ツーヘッド・シャーク 攻1200→サイバー・ラーバァ 守800(破壊)

「さらにツーヘッド・シャークは、1ターンに2回の攻撃ができる!もう一回攻撃!」
「だが、サイバー・ラーバァもまた効果がある。このカードが戦闘で破壊された時、デッキから別のサイバー・ラーバァを呼び出す!」
「む、しつこいモンスターだね。まあいいか、攻撃しちゃって!」

 ツーヘッド・シャーク 攻1200→サイバー・ラーバァ 守800(破壊)

 先ほどとは逆の、口の下半分で2体目のラーバァを噛み砕くツーヘッド・シャーク。どうせ3体目が来るだろうと思っていたが、カイザーに動きはない。

「これで俺のデッキにサイバー・ラーバァはもういない、効果は使わないぞ」
「………だったら、カードを1枚セットして永続魔法、強欲なカケラを発動。ターンエンド」

 今僕が伏せたカードは、ポセイドン・ウェーブ。おそらくカイザーは次のターン、今度こそサイバー・ドラゴンかその融合体を出してくるはずだ。だけど、攻撃を1度止められるポセイドン・ウェーブを張っておけば1ターンは大丈夫なはずだ。というかむしろ、さっさとダメージを与えて何か仕掛けてくる前に倒したいから攻撃してくれる方がありがたい。

 カイザー LP4000 手札:2
            モンスター:なし
            魔法・罠:強欲なカケラ(0)
                  強欲なカケラ(0)
強欲なカケラ(0)

 清明 LP4000 手札:3
          モンスター:ツーヘッド・シャーク(攻)
          魔法・罠:1(伏せ)
               強欲なカケラ(0)

「俺のターン。まず通常のドローをしたことで3枚の強欲なカケラにそれぞれ強欲カウンターが1つのる。さらにサイバー・フェニックスを守備表示で召喚、ターンエンドだ」

 サイバー・フェニックス 守1600

「僕のターン!強欲カウンターがたまって、と」

 ううん、もっと序盤からガンガン攻めてくると思ってただけに今の守備固めが逆に怖い……。でもここで迷ってても何もできないししょうがない、か。

『仕掛けてくるとしたらまず間違いなく次のターンだな。逆に言うと、このターンだけはこっちも動き放題だ。さーて、どうすっかねえ』
「よし、ここはいつも通り動くよ!キラー・ラブカを召喚、さらに水属性モンスターのラブカをリリースして手札のシャークラーケンを特殊召喚!」

 シャークラーケン 攻2400

「バトル、シャークラーケンでサイバー・フェニックスに攻撃!」

 シャークラーケン 攻2400→サイバー・フェニックス 守1600(破壊)

「サイバー・フェニックスがバトルで破壊された時、俺はカードを1枚ドローすることができる」

 さーて、問題はここだ。今ツーヘッドに攻撃させれば2回攻撃で2400のダメージを与えることができる。だけど、もしカイザーの手札に速攻のかかしとかのカードがあったらどうなる?攻撃は通らず、返しのターンでまず間違いなく攻撃を受けるだろう。何せ次のターンはカイザーの手札の数が違う、今伏せてある2枚だけで対抗できるかどうかは怪しいものだ。なら、ここはメイン2に移ってツーヘッドを守備表示にすべきだろうか。

『俺は何も言わないからな。後々まで響く選択だろうし、これは自分で考えて決めとけ』

 静かに、そして真剣につぶやくユーノ。まあ、さすがにここで助け舟はくれないか。たとえあったとしても無視しただろうけど。
 僕は………。

「攻撃、ツーヘッド・シャーク!カイザーに2回のダイレクトアタックだ!」

 その一声を待ちかねていたかのようにツーヘッドが飛び上がり、一発の魚雷になったかのようにカイザーへ突進する。そしてその牙は、確かにカイザーに届いた。

「くっ……!」

 ツーヘッド・シャーク 攻1200→カイザー(直接攻撃)
 カイザー LP4000→2800
 ツーヘッド・シャーク 攻1200→カイザー(直接攻撃)
 カイザー LP2800→1600

「よしっ!」

 これでカイザーの残りライフは1600、次のターンの攻撃をポセイドン・ウェーブで反射すれば1600ダメージが入って僕の勝ち。このままいけば、勝てる。あの男に、カイザーに!

「これでターンエンドだよ」

 カイザー LP1600 手札:3
            モンスター:なし
            魔法・罠:強欲なカケラ(1)
                  強欲なカケラ(1)
強欲なカケラ(1)

 清明 LP4000 手札:2
          モンスター:ツーヘッド・シャーク(攻)
                シャークラーケン(攻)
          魔法・罠:強欲なカケラ(1)
               1(伏せ)

「俺のターン、ドロー。この瞬間、2つ目の強欲カウンターが強欲なカケラにたまる。そしてそのカケラの効果発動、2つ以上のカウンターがたまったこのカードを墓地に送ってカードを2枚ドロー………俺が引くのは合計6枚だ」

 そう言って6枚のカードを引くカイザー。これであっちの手札は10枚、か。さあ、このターンが正念場だ。

「もう勘づいているとは思うが、清明。覚悟はいいな?」
「もちろんだよ、カイザー」
「ならば、俺の本気を見せてやろう!フィールド魔法、シャインスパークを発動!このカードは光属性の攻撃力を上げる代わりに守備力を下げる、お前のウォーターワールドのようなものだな。そしてエクストラデッキからサイバー・エンド・ドラゴンを除外!」
『何!?まさか!』
「生まれ落ちろ、もう一つのサイバー・エンド!Sin(シン) サイバー・エンド・ドラゴンを特殊召喚!」

 何の下準備もなしにいきなり出てきたそのモンスターは、特徴的な三つ首と言いメタリックなボディといいまさしくサイバー・エンド・ドラゴン………いや、違う。とてもよく似ているけど、あのモンスターは僕がこれまで見てきたサイバー・エンドじゃない。例えるなら、もう1つのサイバー・エンドといったところか。

 Sin サイバー・エンド・ドラゴン 攻4000

「まだだ!手札から融合を発動し、3体のサイバー・ドラゴンを融合!融合召喚、サイバー・エンド・ドラゴン!」

 Sinの隣に、本家本元のサイバー・エンドがそびえ立つ。攻撃力4500の貫通もちモンスターは、はっきり言ってかなりまずい展開だ。

 サイバー・エンド・ドラゴン 攻4000→4500 守2800→2400

『いや。Sinモンスターは強力だが、他のモンスターが攻撃をできなくさせる特殊効果を持っている。このままなら今の召喚に意味はないな。まあ、そんなことまずありえん話だが』
「まだ俺はこのターン、通常召喚をしていないな。サイバー・ドラゴン・コアを召喚し、その効果を発動。デッキから『サイバー』または『サイバネティック』と名のつく魔法、罠カード1枚をサーチ………俺はこの効果で、サイバネティック・フュージョン・サポートを手札に加える」

 目も鼻もなく、こじんまりとした姿は機械の竜というより機械の蛇。なるほど、きっとあのカードが文字通りサイバー・ドラゴンたちの核になるんだろう。

 サイバー・ドラゴン・コア 攻400→900 守1500→1100

「そして融合回収を発動、墓地の融合1枚と融合素材となったモンスター1体を手札に戻す。これでサイバー・ドラゴンと融合を手札に戻し、そのまま発動!場のコアと手札のサイバー・ドラゴンを使用し、サイバー・ツイン・ドラゴンを呼び出す!」

 サイバー・ツイン・ドラゴン 攻2800→3300 守2100→1700

「う、うわあ………」

 さっきまで何もなかったフィールドに、今は超大型モンスターが3体。

「さらに速攻魔法、禁じられた聖杯を発動。Sinの効果をこのターン無効にし、攻撃力を400アップさせる」

 Sin サイバー・エンド・ドラゴン 攻4000→4400

 これで、さっきユーノが教えてくれたSinモンスターのデメリットもなくなった。これから来るのはとんでもない攻撃力の4回連続攻撃、1発でも喰らったら即死か、そうでなくてもほぼ瀕死クラス。………頼むよ、ポセイドン・ウェーブ。これさえ決まればいくら向こうに攻撃力があっても僕の勝ちなんだ。

「ゆくぞ、バトルだ!まずはSinサイバー・エンドでツーヘッド・シャークを攻撃!エターナル・エヴォリューション・バースト!」

 本家の方とは違い、三つの首からそれぞれ火炎弾を打ち出して攻撃するSinサイバー・エンド。だが、その火球はツーヘッド・シャークに届く前に分厚い水の壁に阻まれた。

「トラップ発動、ポセイドン・ウェーブ!その攻撃を無効にして僕の場の水、魚、海竜族1体につき800のダメージを与えるからこれで1600のダメージ、このデュエルはもらった!」
「甘い!手札からハネワタの効果発動、このカードを墓地に送ることで俺がこのターン受ける効果ダメージはすべて0になる!」
「だ、だけど攻撃は止めきった!まだまだ負けるもんか!」
「確かにな。だが次だ!サイバー・エンド・ドラゴンで攻撃、エターナル・エヴォリューション・バースト!」

 もう何度となく目にしてきた、すべてを焼き尽くす白い熱線。初めてカイザーとデュエルした時にはなすすべがなかったけど、今の僕はもう違う。

「墓地からキラー・ラブカの効果を発動、このカードをゲームから除外してその攻撃を無効に、そして攻撃力を僕のエンドフェイズまで500ポイントダウンさせる!」

 サイバー・エンド・ドラゴン 攻4500→4000

「ふっ、これも受けたか。だが、続くサイバー・ツイン・ドラゴンの2回攻撃は止めきれまい!2体のモンスターを焼き尽くせ、エヴォリューション・ツイン・バースト!」

 確かに、カイザーの言うとおりだ。僕の防御札はもう、全部使いきった。どうすることもできないまま、ツーヘッド・シャークとシャークラーケンが白い光に飲み込まれて消えていく。

「うわあああっ!」

 サイバー・ツイン・ドラゴン 攻3300→ツーヘッド・シャーク 攻1200(破壊)
 清明 LP4000→1900
 サイバー・ツイン・ドラゴン 攻3300→シャークラーケン 攻2400(破壊)
 清明 LP1900→1000

「俺は、これでターンエンドだ。さあ、お前の本気のデュエルを見せてみろ!」
「くっ……」

 僕の本気のデュエル、か。この手札は、かなりいいところまで来てる。具体的にはあと1枚、あのカードさえ来れば逆転できる。と、そこでユーノがあることに気が付いた。

『あーなってこーなって………待てよ?こーきてあーきて、それで…………ふむ。清明、次の俺らのターンはお情けでもらったと思え』
「え、いきなりどうしたのさ?」
『今の攻撃、確かに俺らは捌ききったよな』
「うん」

 だいぶ危なかったとはいえ、なんとかライフも1000残ってる。もっとも、1000なんてあのモンスターたちの前じゃ大した量じゃないゴミみたいな数値だけど。

『あれ、攻撃の順番が一か所でも違ってりゃ………具体的には最初にツインから来てたらラブカ効果の発動条件から言ってどう考えても4000以上のダメージが通る計算になるんだよ。それにカイザーが気付かないはずがねえ、いわゆる奴のリスペクトデュエル、ってやつなんだろうな………手を抜かれたのは事実だし、正直これは気に入らんが』
「な、なるほど」

 リスペクトデュエルってのがなんなのか、それが僕にはいまだによくわからない。わからないけどつまり、僕の腕じゃあまだまだカイザーに本気を出させるほどのレベルじゃないってことか。……悔しい。なんとかして、このドローカードで大逆転してやろう。頼むよ、僕のデッキ。あのカードさえ引けば、あるいはまだわかんないんだ。

「僕のターン、ドローッ!さらにこのドローで僕の強欲カウンターも2つになったから墓地に送って2枚ドロー…………来た来た来たあ!まず魔法カード、クロス・ソウルを発動!僕はこのターンバトルフェイズを放棄する代わりに、モンスターをリリースするとき1回だけそのリリースを相手モンスターに肩代わりさせることができる!」
「なるほど、確かにそのカードなら俺のモンスターを1体確実に墓地に送ることができるだろう。だが、まだそれだけでは足りないな」

 確かに。普通はそうだろう。だけど僕の手にはこのカード、ユーノの提案で昨夜デッキに入れてみたこのカードがある!

「僕のフィールドはさっきのターンにカイザーの攻撃ですっからかんになった、つまりもうカードはない!この条件をクリアした時、爆走特急ロケット・アローは手札から特殊召喚できる!」

 派手な色をした、流線形のメタリックなバカデカ電車、爆走特急ロケット・アロー。このカードは比較的緩い条件で特殊召喚できる代わりに、そのターンのバトルフェイズ不可なうえにこれがいるだけであらゆる効果を自分が発動できなくなり、さらにスタンバイフェイズが来るたびに手札をすべて捨てなきゃいけないというめんどくさいデメリットを詰め込めるだけ詰め込んだようなモンスターだ。だが、その分リターンも大きい。

 爆走特急ロケット・アロー 攻5000

「そしてここで、クロス・ソウルの効果が生きる。僕はクロス・ソウルの効果で選んだそっちのサイバー・エンド・ドラゴン………いや、Sin サイバー・エンド・ドラゴンと、このロケット・アローをリリース!さあ、こいつが僕の切り札だ!マイフェイバリット、霧の王降臨!」

 2つの大型モンスターが消え、すこしすっきりしたフィールド上に剣を手にした鎧の魔法使いがふわりと降り立つ。さあ、ここからだ。さっきはあの攻撃力の前に散々な目にあったけど、一気に反撃と洒落込もう!

『よし、最っ高に上等な条件で出せたな。まさかここまでうまいこといくとはな』
「いつも助けてくれてありがとう、霧の王。この攻撃力はリリースしたモンスターのもともとの攻撃力の合計になる………そしてSinサイバー・エンドは4000、ロケット・アローは5000。つまり霧の王の攻撃力は、過去最高の9000!」

 霧の王 攻9000

「ほう、攻撃力9000……か。大したものだな」

 そう。カイザー必殺の戦術であるパワーボンド+サイバー・エンドでも、その攻撃力は8000止まり。日頃その数字に慣れてきたカイザーだからこそ、攻撃力9000の重みが誰よりもわかるのだろう。口調こそ静かだったけど、そこに込められた思いは伝わってきた。ちなみに今本家じゃなくてあえてSinの方をリリース対象にしたのは、やっぱりカイザーを象徴するモンスターのサイバー・エンドをこんな小技で退場させるのはやっぱり何か違う気がしたから。それと、さっきとどめを刺しに来なかったことに対する借りを返したかったからってのもある。無論カイザーはそんなつもりじゃなかったんだろうけど、気にするのはこっちなんだ。

「もっとも、このターン僕はバトルできないからね。カードをセットして、ターンエンド」

 カイザー LP1600 手札:1
            モンスター:サイバー・エンド・ドラゴン(攻)
                  サイバー・ツイン・ドラゴン(攻)
            魔法・罠:なし
            場:シャインスパーク

 清明 LP1000 手札:1
          モンスター:霧の王(攻)
          魔法・罠:1(伏せ)

「俺のターン、ドロー。確かに攻撃力9000の霧の王は恐ろしいが、まだわからんぞ?魔法カード、貪欲な壺を発動。墓地のSinサイバー・エンドにサイバー・フェニックス、サイバー・ドラゴン・コアにサイバー・ラーバァ2体をデッキに戻して2枚ドロー。よし、攻撃力はだいぶ下がるがいいだろう。俺は、墓地のサイバー・ドラゴン3体と場のサイバー・エンド、サイバー・ツインの合計5枚を除外。サイバー・エルタニンを特殊召喚する!」

 これまでカイザーが使ってきたたくさんのサイバー系モンスターが光り輝きながら空高く昇って混じり合い、一つの大きな光になって戻ってきた。その姿はこれまでのサイバーの集合体のようで、中央の巨大な顔にそこから伸びた長い首にも顔。そして特徴的なことに、サイバー・ドラゴン系列の頭部を模したようないくつものオプションパーツが辺りに漂っている。

「サイバー・エルタニンの攻撃力と守備力は、今除外したモンスター1体につき500ポイントアップする。シャインスパークの分も含めると攻撃力は3000だな」

 サイバー・エルタニン 攻2500→3000 守2500→2100

「だけど、その数字じゃあ僕の霧の王の方がはるかに上!」
「だが、エルタニンの効果はもう一つある。このカードが特殊召喚に成功した時、場の全ての表側表示モンスターを破壊する!受けてみろ、コンステレイション・シージュ!」

 エルタニンのオプションパーツの目に光がともり、その口が一斉に開いて霧の王をめがけて白い熱線を放つ。だけど、何かしらの効果で霧の王を破壊してくるのはこっちだって想定済みだよ!

「トラップ発動、デモンズ・チェーン!このカードがある限り、エルタニンの効果は無効だ!」

 霧の王がゆっくりと片手を上げると地面から無数の黒い鎖が伸びてきて、エルタニン本体とすべてのオプションパーツをがんじがらめにする。おお、非常に珍しい霧の王が魔法っぽいものを使うシーンが見れた。

 サイバー・エルタニン 攻3000→0 守2100→0

「なるほど、どうやらお前は実際、この1年で別次元の強さに到達したらしいな。だが、俺もアカデミアの皇帝と呼ばれた男。そう簡単に勝ちを譲るつもりはない!サイバー・ヴァリーを通常召喚し、第2の効果発動!このカードと俺の場の表側表示モンスター、サイバー・エルタニンをゲームから除外することでカードを2枚ドローする!そしてカードを2枚セットして、ターンエンドだ」

 カイザーの場は空になった。このまま攻撃すれば勝てるけど、用心のためにもう1体モンスターが引ければ申し分ない。

「僕のターン、ドロー!」

 うん。

「攻撃、霧の王!ミスト・ストラングル!」
「トラップ発動、ガード・ブロック!その戦闘ダメージは0になり、俺はカードを1枚ドローする」


 も、もう1体モンスターさえ引けてたら………!


「メイン2。一時休戦を発動、お互いにカードを1枚ドローするよ」
『そのかわり次の相手のエンドフェイズまでお互いはダメージを受けない………あーあ、絶好のチャンスだってのに』
「う、うるさいうるさい!カードをセットしてターンエンドっ!」

 カイザー LP1600 手札:3
            モンスター:なし
            魔法・罠:1(伏せ)
            場:シャインスパーク

 清明 LP1000 手札:1
          モンスター:霧の王(攻)
          魔法・罠:1(伏せ)

「俺のターン。速攻魔法、サイクロンを発動!」

 まずい。ここでこのカード、最後の守りの砦が破壊されたらたぶん霧の王の破壊まで持って行かれる。この伏せカードはフリーチェーンじゃないし、これを止める手段はない!

「破壊するのはこの、俺の伏せカードだ!」

 ………あれ?まあいいや、素直に喜んでおこう。いや、十分不気味だけど。わざわざ自分のカードを破壊するなんて、一体何をしようとしてるんだ?

「そして破壊されたサイバー・ネットワークの効果発動。このカードが破壊された時、自分の除外された光属性機械族モンスターを可能な限り特殊召喚する………甦れ、俺のサイバー・ドラゴンたちよ!」

 サイバー・ドラゴン 守1600
 サイバー・ドラゴン 守1600
 サイバー・ドラゴン 守1600
 サイバー・エンド・ドラゴン 守2800
 サイバー・ヴァリー 守0

 ここか?ここでこのカードを使うべきか?………いや、まだだ。伏せカードはこの1枚しかないんだ、ここで今の僕にとって最後の守りの要になるこのカードを使ってまだカイザーに余力があったとしたら、そのあとの展開に対する抑止力がなくなる。だから、ここはこらえておこう。

「そしてこの効果を使った場合、俺の魔法、罠カードはすべて破壊されるからここでシャインスパークは破壊だな。だが、それでも十分だ!サイバー・ドラゴンのうち1体を軸として、俺の場の5体の機械族モンスターで融合!出でよ、融合素材モンスターをすべて墓地に送ることでその数1体につき1000ポイントの攻撃力となる異端のサイバー、キメラテック・フォートレス・ドラゴン!」

 それは、これまで出てきたサイバー流モンスターたちとは全然違っていた。さっきのエルタニンもたいがいにぶっとんでた見た目だったけど、少なくともパーツの一つ一つやカラーリングはいかにもなサイバー流だった。だけどこのモンスターは違う。より正確に獲物を射止めるためなのかスコープのような模様がついた目もさることながら、その紫色を軸にしたカラーリングは白を基調とする他のサイバーとはかけ離れている。そしてまずいのが、攻撃力が5000………つまり、機械族の切り札であるリミッター解除を使った時の攻撃力が10000、今の霧の王をさらに超えてくる数値になる。くっ、前言撤回!このカードを使ってでもあのモンスターには消えてもらう!

「何を狙ってるかは予想がついたけどまだまだ僕は負けない、負けるもんか!トラップ発動、奈落の落とし穴!キメラテック・フォートレスの攻撃力が5000なら、破壊して除外してやるまでさ!」
「やはり、まだ罠が仕掛けてあったか。だがそれも俺の計算のうちだ!見せてやろう、俺のパーフェクトを!速攻魔法発動、サイバネティック・フュージョン・サポート!」
「あのカード、確かあの時の……!」

 僕の記憶に間違いがなければ、カイザーが怒涛の大量展開を始めたターンにサイバー・ドラゴン・コアの効果でデッキからサーチしてたカードのはずだ。そういえば、ここまでずっと使ってなかったっけ。

「このカードの発動時、俺は半分のライフを払うことで1度だけ、墓地の素材を使い機械族融合モンスターを出すことができる!」
「墓地のモンスターで機械族の融合モンスター!?」

 カイザー LP1600→800

 カイザーのライフが、ついに僕を下回る。だけど、喜んでられる状況じゃない。まさか、まさかあの手札のカードは。

「魔法カード、パワー・ボンド発動!墓地のサイバー・ドラゴン3体を素材とし、サイバー・エンド・ドラゴンを融合召喚!そしてパワー・ボンドにより融合召喚されたモンスターの元々の攻撃力は、元々の攻撃力と同じだけアップする」

 サイバー・エンド・ドラゴン 攻4000→8000

 やはり来た、サイバー流の頂点にしてカイザーの切り札、パワー・ボンドで呼び出したサイバー・エンド・ドラゴン。しまった、もしさっきネットワークを破壊してサイバー・ドラゴンを出してきたときに奈落を使っておけば!

『いや、これは悔やんでもしゃーねえ。気持ち切り替えろ、次行くぞ次!』
「まだ1枚足りんが、俺はこれでターンエンド。エンドフェイズに俺はパワー・ボンドのリスクとして4000のダメージを受けるが、そのダメージはお前の一時休戦の効果により無効となった」
「くっ………僕のターン!」

 ちら、と今引いたカードを確認する。よし!これが最後の賭けだ、ここで負けたら次はない!

「カードを2枚セットして、ターンエンドにするよ」

 カイザー LP800 手札:1
           モンスター:サイバー・エンド・ドラゴン(攻)
           魔法・罠:なし

 清明 LP1000 手札:0
          モンスター:霧の王(攻)
          魔法・罠:2(伏せ)

「俺のターン!」
「そのスタンバイフェイズにトラップカード、和睦の使者を発動!このターンお互いのモンスターは戦闘破壊されずに、戦闘ダメージも0になる!」
『な、ん、で、それを今使うんじゃお前はあああああっ!』

 あ、やっちゃった。しかしここは聞こえないふりしてスルー。この効果で次のターンまで繋げれば、きっと……!

「いいだろう。カードを1枚セットして、ターンエンドだ」
『よしっ!』

 そう叫んだのはユーノだったのか、それとも僕の心の声だったのか。そんなことはもうどうでもいい。次の僕のターン、ここでこのデュエルに決着をつける!

「僕のターン!」

 引いたカードは、ウォーターワールド。よし、使おう。別にカウンターされても痛くもなんともないフィールド魔法なのに、ここでこのデュエルも終わると思うと一手一手が慎重になる。これで霧の王の攻撃力は9500、あと一歩で5桁には届かないものの破格の数値には変わりない。

「いくよ、霧の王………バトルフェイズ、霧の王でサイバー・エンド・ドラゴンに攻撃!」

 サイバー・エンドに真っ向から戦いを挑む霧の王が大剣を大上段に振りかぶると、その刃が魔法の光を放ちだす。だがそのまま剣を振り降ろそうとすると、サイバー・エンドもただでやられるわけにはいかんとばかりに3つの口から同時に光線を発射して抵抗してきた。するとその瞬間サイバー・エンドの体中に機械がショートするとき特有の青いプラズマが走り、なんと光線の太さが倍になる。カイザー、やっぱりあのカードを!

「攻撃宣言時にリバースカード、リミッター解除を発動させてもらった。このターンのみ、機械族モンスターの攻撃力はさらに倍になる。これで終わりだ、清明!」

 そういうカイザーは、僕がこの1年で見てきた中で1番いい顔をしてたと思う。すごく生き生きと、本気で本気のデュエルを楽しんでいるような。もしそうだとすれば、僕はカイザーの本気を引き出すことに成功したんだろうか。

 サイバー・エンド・ドラゴン 攻8000→16000

 だけどカイザー、それじゃあ僕は倒せないよ。

「……ふっ」
「何?」
「そのリミッター解除は僕の想定内!トラップ発動、メタル化・魔法反射装甲!このカードは自分モンスター1体の装備カードになって攻守を300アップさせるけど、それだけじゃない」

 そう言っている間にもソリッドビジョンには動きがある。サイバー・エンドが自身の限界を超えて放つ光線を霧の王はその剣でがっちりと受け止め、それどころか少しずつだが押し返しつつあった。そして、霧の王は一歩ずつ前に進んでいく。ゆっくりではあるが、確実にあのサイバー・エンド・ドラゴンを倒すために。

「このカードを装備したモンスターが攻撃するとき、その攻撃力はさらに相手の攻撃力の半分だけアップするんだよ。今のサイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力が16000なら、こっちは8000ポイントの攻撃力を得ることになる………覚悟はいい、カイザー?これが僕らの全力だ、ファイナルミスト・ストラングル!!」

 霧の王 攻9500→9800→17800

 そしてついに霧の王の剣が光線を完全に切り裂き、そのままの勢いでサイバー・エンドの体を一刀両断する!

 霧の王 攻17800→サイバー・エンド・ドラゴン 攻16000















「ついに、ついにあのカイザーに………あれ?」

 おかしい。もう勝負はついたはずなのに、ソリッドビジョンによる演出上の砂ぼこりが消えない。いつまでたってもフィールド上が、そしてその向こうにいるカイザーが見えない。

「なっ!?」

 少しおさまってきた砂ぼこりの向こう側で見えたのは、信じられないもの。あるはずのないもの。そんな、どうして。

「どうしてサイバー・エンド・ドラゴンが、霧の王が、まだフィールドにいるのさ………」

 いや、ただいるだけではない。霧の王が振り切ったその剣はサイバー・エンドの真ん中の首を切り落として再起不能にさせていたものの、そのまま右側の頭がぼろぼろになった状態で噛みついていてそれ以上振りきれなくなっている。さらにその右の首そのものがぐるぐると霧の王を絞めつけていて、なんとかそこから脱出しようとする霧の王も動くことができないことになっている。そして最後の、左側の首は既に口を開けていて、もう一度この至近距離で光線を打つためにエネルギーのチャージを行っている。

『いや、まさか、あれ………』

 そう震え声のユーノが呟いて指さすのは、サイバー・エンドの首ではない。

『おいおい、ちょっと待てよ、まさかリミッター解除だけじゃなくて、あっちまで持ってたってのか……?』

 ユーノが指差しているのは、首の向こう側に広がる胴体。普段は機械でできた羽があった部分。あった、と過去形なのには訳がある。今その位置に生えているのは機械の翼なんかじゃない。あれはもっと生物的な、一言で言い表すなら…………天使。
 そしてその向こうから、カイザーの声が聞こえてくる。

「ありがとう、清明。やはり卒業デュエルの相手にお前を選んで正解だった。お前がそうやって俺の限界以上の力を使い俺を超えてくるからこそ、俺はさらにその先へゆき、もう1つ限界を突破することができる」
「すごいよ、やっぱりカイザーはものすごい。これ以上ないくらい最高に決まったのに、まだ奥の手があるんだもん」
「これ以上ないくらい、か。そうやって自分の限界を決めつけるものじゃない。それが俺からの、卒業生として贈る言葉だ。ダメージステップ。手札からオネストを墓地に送り、サイバー・エンドの攻撃力をお前の霧の王の数値、17800ポイントアップさせる」
『いくらメタル化が数少ないオネスト相手にも後出しで攻撃力を上げられるカードとはいえ、リミッター解除と組み合わされたら上昇値が追いつかねえぞ………ま、カイザーらしいといやカイザーらしいし、清明らしいといや清明らしいのかね』

 霧の王 攻17800→26700→サイバー・エンド・ドラゴン 攻16000→33800
 清明 LP1000→0

 チャージが完了した。動けない霧の王にゆっくりと最後の首が照準を合わせ、そこから霧の王に巻きついた自分の首ごと消し尽くさんと光線を撃つ。もう奥の手なんて残ってない。僕のライフは、0になった。





「負けちゃった、か」
『そだな』

 ふー、と息を吐くと、こちらに近寄ってくるカイザーの姿が見えた。試しにおーい、と手を振ると向こうも振り返してくる。そんな光景が、なぜだがおかしかった。

「先ほども言ったが、改めて礼を言わせてくれ。いいデュエルだった、ありがとう」
「ありがと、カイザー。こちらこそ、楽しかったよ」
「ああ、そうだな」

 そう言って、カイザーがすっと自分の右手を差し出す。その手をぐっと握り返してちょっと笑うと、カイザーも少し笑みを浮かべた。観客席にいるみんなの拍手をぼんやり聞きながら、なにはともあれ僕は幸せなけだるさに包まれていた。
 こうしてカイザーは、デュエルアカデミアの皇帝は学校を去っていった。だけど、またいつかきっと会えるだろう。そうしたら、今度こそ僕が勝とう。その時までにもっともっと強くなって、最終的にはデュエルキングと洒落込むんだ。 
 

 
後書き
1年生編終了です。次は何回かやるやる言ってたイフストーリー、稲石VSアムナエル。

 
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