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魔法少女リリカルなのはA's The Awakening

作者:迅ーJINー
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第二十一話

 
前書き
 戦闘中のBGM?まぁパンクとかエモコアかけてればいいと思うよ(投げっぱなしジャーマン 

 
 直人と篠宮が一騎打ちに入ろうとしている間、ヴォルケンリッターが闇の書の意思と向き合っていた。

「……お前達も、後は私に任せて、もう休め」 
「そういうわけにはいかない。これまではそれでもよかったが、今度ばかりはお前を止める」

 シグナムが彼女に立ち会い、静かに言葉を放った。その理由が理解できない彼女は戸惑いながらも剣の騎士に問う。

「何故だ……何故立ちはだかる?私はただ、主の願いを叶えるために今ここに降り立った。お前達も私と同じ、主の望み通りに動く騎士ではないのか?」
「そうだ。お前の言う通り、我らは主のためにある。だから我らはお前を止めるのだ。お前のやろうとしていることを今の主は望んでいない。お前も、書を通して主を見てきたのならば、なぜそれがわからない?」

 シグナムが追い詰めようとするが、彼女はまるで聞く耳を持たないかのごとくただ淡々と告げる。

「……将ともあろう者が、戯言を。我々のなすべきことを忘れたか?」
「ならば問い返そう、闇の意思よ。お前の考える我々のなすべきこととは何かをな?」
「お前でさえも私をそう呼ぶのか……」

 彼女に向けてシグナムの放った「闇の意思」という言葉に落胆した顔を浮かべたが、すぐに毅然とした表情を取り戻して言い放つ。

「我らがすべきは、我等の主が望みを叶え、悲しみを解き放つこと。それ唯一つだ。我々はそのためだけに生み出された。そのためだけに使われるべきなのだ」
「ならばなおさらだろう。今まで主の一番そばで見てきたはずのお前が、主がどういう人間かわかっていたはずのお前が、なぜその思いを裏切るような真似をする!」

 それを聞いたシグナムは即座に叩き返した。語気を強めた彼女の言葉を理解できていないのか、再び戸惑うように問いを投げ返す闇の意思。

「私が主を裏切る……どういうことだ?」
「繰り返して言うが、今お前がやろうとしていることは、今の我らが主が望んでいることではない!主の願いを叶えることが最優先というなら、なぜそれがわからない!」

 彼女の言葉から精神が揺れ始めていると見て、シグナムは更に畳み掛ける。本来のプログラムならそのようなことはないのだが、彼女もまた騎士達と同じ存在であるからこそ言葉から崩すことができたといえる。

「戯言を……黙れ!」
「もしもお前が、本当にそれが絶対だと信じるなら、私の話が戯言であると切り捨てるなら、お前の流すその涙は何だ!」

 強く言い返す闇の意思だが、シグナムの言う通りいつの間にか彼女の瞳からは涙が流れていた。それでも彼女は気丈に切り返す。

「これは私の涙ではない……主が流された悲しみの涙に他ならない!この世界に絶望なさった主が、救いを得られなかった主が流したものだ!」
「ならば今発せられているはずの主の声に耳を傾けろ!悲しむ感情が流れ込むなら、その感情の源泉がわかるはずだろう!」
「しかし私はッ……」

 ついに彼女が言葉を続けられなくなった。揺れる彼女の心の壁を壊そうと、強い口調を一切緩めず詰める。

「我等は騎士だ。主に絶対の忠誠を誓う騎士。だがそれは、ただ唯々諾々と主の命に従う道具になることではない!」
「そんなことは今更お前に言われなくてもわかっている!」
「ならばなぜ変わろうとしない!我々は今の主と出会い、本来の騎士とは何かを思い出した!お前だけが、何故いまだに囚われている!何がお前を縛っている!」

 その甲斐あってか、少しずつ語気が強くなり、本音を零し始めた闇の意思。苦しむように言葉を吐き出す彼女の声は、聞く者の心を抉っていく。

「変わろうとしたさ!私だって、好きでこんなことするはずがない!もう主が望まぬ戦いなど、お前たちが苦しむ戦いなどしたくはないのだ!」
「なら答えろ!お前の望みは何だ!主のためというのなら、今お前は、ここで何がしたいんだ!答えろ!」
「私は、私はッ……!?うああああああああああああああああああ!」

 絶叫とともに、その全身から黒い魔力が吹き上がった。

「あ、主……わかりました。後は、騎士達に任せます……」
「何だ、何が起こっている……?」
「騎士達よ、頼む。お前達の手で、私を……止めて、くれ……ううっ!?」

 それが収まると同時に、彼女の瞳から光が失われていく。その合間、彼女は誰かと話すようにささやき声で言葉を紡いでいた。彼女の全身が震えると同時に、瞳が完全に光を失い、その顔からは表情すら消え去った。それを見て、一同に緊張が走る。

「何か良くわからねぇけど、ヤバイってことはわかるぜ」
「それは私でもわかる。問題は、奴に何が起こったのかということだ」

 シグナムの横にヴィータが並び、自らのデバイスであろうハンマーを肩に担ぎ、彼女に告げた。そしてシグナムもそれに答えつつ、彼女の剣であるレヴァンティンを構える。

「はやては、絶対取り戻す!行くぞアイゼン!」
「Jawohl.」

 一触即発の空気の中、彼女達に念話が届いた。

『みんな、聞こえる!?』
「「主!?」」
「「はやて!?」」
「「はやてちゃん!?」」

 念話が届いたシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、なのは、フェイトが驚く。彼女達に繋がれた念話は、闇の書の主である八神はやて、その人であった。

『あれ、兄ちゃんから返事ないけど……まぁ兄ちゃんやし大丈夫やろ。ちょっと聞いて!』
『うん!』

 代表としてなのはが先頭に出て反応を返す。全員が固唾を呑んで彼女を見守っている。

『あんな、なんとかその子の意識を防衛プログラムとかいうのから切り離すことはできてん。せやから今そこにおるその子はただのプログラムやねんな』
『うん』
『まぁだから何が言いたいかっていうと、その子を思いっきりぶっ飛ばしたって欲しいねん!』
「ええっ!?大丈夫なの!?」

 これには全員が驚く。何しろはやてが中にいるのにそれごと吹っ飛ばせというのだから。しかし、大丈夫だとはやては続ける。

『むしろ吹っ飛ばしてもらわんことには、うちが前に出てこられへんのよ。なんかそんな仕様にされてるらしいねん』
『何それ……』

 あきれるというかあっけにとられているなのはだが、気を締めなおして一同に顔を向ける。フェイトが黙ってうなずくと、なのはもレイジングハートを構えなおした。

「全力、全開!行くよ、レイジングハート!」
「All right my master.」

 フェイトも自らのデバイスの形態を大鎌に変形させた。刃の部分は黄色の魔力光によって形作られている。

「行くよ、バルディッシュ!」
「Yes sir.」

 その二人に、シグナムとヴィータ、ザフィーラが近づいていく。

「兄上殿はいない以上、この場は私が指揮をとらせてもらう」
「はい。どうしたらいいんですか?」

 どうやらここからはシグナムが指揮をとるらしい。まぁ竜二も直人もクロノもいない以上、指揮官として振舞える者など彼女以外にいないだろう。現状の戦力において、前衛にシグナムとフェイト、ヴィータの三人、ザフィーラとユーノが闇の意思を抑える役目となれば、止めを刺すのはもちろん彼女しかいない。シグナムはその少女の目を見て問うた。

「高町、任せていいか?」
「大丈夫です」
「No problem.」

 なのはとレイジングハートが同時に答える。

「よし、行くぞ。各自状況開始!散開せよ!」
「了解!」

 各自行動を開始し、はやて奪還作戦、開始である。



 ちょうどその頃、直人は篠宮と剣戟を繰り広げていた。

「オラァッ!」
「まだまだァッ!」

 一合、二合、三、四、五。空中で繰り広げられる一対一の殺陣。振り下ろせば下から、振り上げれば上から、さらに押し合い引き合い。ここまで何度も打ち合いを繰り広げた二人は互いに無傷ではない。直人は右脇腹と左太股から、篠宮は左胸と右腕から血が流れているし、その部分のバリアジャケットは破損しており、浅い切り傷も見える。

「ハァ、ハァ、ハァ……」

 だが、お互いにそんな傷など気にしていない。テンションが昇り詰めているせいか、お互いしか見えていない。どちらが先に殺すか、殺されるか。勝って生き残るか、負けて死ぬか。もはやどちらかの命を消さねばつかぬ決着とまで来ている。息を切らせてにらみ合い、整えるその一瞬の時を互いに感じて突進する。互いに相手には負けられない、ここで死ねない理由があるから、さらに苛烈に攻めていく。二人の剣戟はもはや、常人には見えないレベルへと昇華していった。

「ハハハッ、懐かしいなぁ。PT事件のときもこうだったっけかァ?」
「思い出させるなこのクソ野郎!テメェのせいであの子は、アリシアは!死なずにすんだあの子はッ!」

 そして、懐かしむように語りだす篠宮に激高し、吼える直人。しかし彼は一蹴して続ける。剣をぶつけ合いながらも。しかし、ここに来て篠宮が当初見せていた狂人のような言動が変わっている。まるでこちらが素であるかのように。

「今更ほざくなよ!あの子と一緒にテメェも死んでりゃよかったのさ!レプリカは所詮レプリカでしかなかったろう!?あの母親と一緒に絶望の海へと沈めばよかったんだ!半年近くも人形の兄貴分なんざしてて楽しかったか!?」
「篠宮ァ……今頭の筋何本か切れた音がしよったぞォ……」

 『レプリカ』『人形』その言葉を聴いた瞬間、直人は一旦距離を置くと、剣の切っ先を正面に向けて突進した。それを見て篠宮も、剣を正眼に構えて立ち向かう。同時に駆け出し、一瞬の交錯の後、互いに反転して激突し、つばぜり合いとなる。

「なら言わせてもらうけどな!あの時だって、テメェらがたきつけてプレシアさん担いでジュエルシード集めさせたんやろうが!」
「騙されるあの女が間抜けなのだよ!それを狙っていたのは確かだがな!」

 互いに言葉を、力を、全て叩きつけるようにぶつかりあう。そこに論理性はない。あるのはそんなものなどどうでもいいと思わせるほどの『想い』。憤怒と憎悪が激しく火花を散らす。

「アリシアはまだ、あの時点で完全に死に切ってたわけやない!確かにアルハザードの存在は俺も信じてはなかったけどな、願いを叶える力があるジュエルシードなら、その力だけで仮死状態にあったあの子の生命活動を取り戻すことは充分できたはずなんや!」
「たらればの話は情けねぇぞ!仮死状態にあったなら、なぜさっさと入院させなかったんだ!?あの女に金がなかったとは思えんがな!」

 そもそもなぜ直人とフェイトが知り合ったのか。それはこの年の春頃にここ海鳴で起きた、ジュエルシードと呼ばれるロストロギアによって発生した様々な動植物の暴走事件。それを解決するために動き出したなのはと何度か激突したことでフェイトの境遇を知り、彼自らおせっかいを焼きに行ったのだ。またその事件が、なのはがユーノと出会い、直人と共に魔法を覚えるきっかけでもあった。現在、一般にこの事件は、「ジュエルシード事件」と呼ばれている。

「生体工学を専攻する科学者の中でも筆頭やったプレシアさんですらどうにもならんかったもんを、ミッドの病院ならどうにかできたんか!?」
「そんなことまで俺が知るか!愚か者の想いだとか、力なき想いだとか、そんなもんはただの幻に過ぎねぇんだよ!」

 また篠宮は、直人が海鳴の高校に転校してきて初めてできた同世代かつ同性の友人であった。それなりにいたずら好きな悪ガキではあったが、爽やかなイメージのある好青年であった。人望も厚く、勉強もスポーツもそつなくこなせる優等生。しかし、今の彼にその面影は見られない。

「お前が……お前がそれを言うか!?あの事故で親を亡くしたお前が!」
「だからこそ思い知った!力なきものの願いなど、無駄でしかないこともな!」

 そんな彼が変わったのは、高校卒業とほぼ同時に発生した交通事故。無力を呪い、絶望しきり、たまたま出会った『暁の交響曲』の関係者を通して魔法に触れた。そのことから彼は力を求めた。病的なまでに。そして二年経ち、ジュエルシード事件で直人と激突したのだ。

「なんのための力なんやそれは!?お前はその力を手にして何がしたいんや!?」
「俺という存在は、もうあの日で死んだんだよ!今の俺は、『あのお方』のためだけにある!」
「……篠宮、テメェッ……テメェの血は何色だ!?」
「言いたいことはそれだけか?ならそろそろ終わらせようぜ!」

 剣戟の最中に聞いた彼の想いを聞き、完全に直人は言葉を失った。そして二人は間合いをとり直し、構えなおす。

「もうええわ、決着付けようや!」
「ああ。お前を殺して、俺は組織への義理を果たす!」

 二人の刃が互いの体を貫こうと接近する。しかし、そこに割り込むひとつの影があった。それは二つの刃を双方から受け、胸から背中から貫かれ吐血していた。

「しまった!?誰巻き込んだんや!」
「っ!?すまない、無事か!?」

 二人とも急速に思考が冷える。関係のない人間を死なせたとあっては間違いなく直人にとって精神的ショックが大きい。篠宮はおそらく自陣営の人間だと思ったのか、反射的に謝罪の言葉が飛び出した。彼らが刃をすぐに抜かないのは、手当てをする前に引き抜くと出血量が大幅に増えるからだ。しかし、その男は平然とした顔で二人の刃を力ずくで引き抜いた。吹き出す血を見ながらも、男は何を気にすることもなく、舌打ちをして呟いた。

「なんだ、ハズレか」
「アンタはっ……なんでこんなところにおるんや!」
「出動命令が下ったからに決まってんだろ。デカい魔力反応があったらしいからな。しかしこっちかと思ったから来てみたらいたのは小物二人。俺の勘も鈍ったかねぇ」

 割り込んだのはフレディ。彼だからこそ、適切な処置など必要なかった。貫かれたはずの体の傷がもうふさがり始めている。

「……貴様がフレディか。殺しても死なない管理局員というのは本当らしいな」
「ほう、局員じゃねぇのに知ってるとは珍しいなお前さん。誰から聞いた?」
「貴様と戦ったことがある人間だ、とだけ言っておこう……山口、この勝負は預けた。この男がいる戦場なら、あのお方にお任せする」
「おい篠宮……ウグッ!?」

 追おうとする直人の首根を掴んでフレディが止める。

「お前は今すぐ戻れ」
「何でや……まさか、応援って?」
「あの程度の数なら、俺一人で十分だ。むしろお前みたいな半端モンがチョロチョロしてると間違えて殺しかねんぞ?」

 そういったフレディは、見るものに怖気を走らせるほどの獰猛な笑顔を浮かべていた。その気迫に圧倒されたか、篠宮を逃してしまったことで頭が冷えてきたのか、直人は静かに頷いた。

「……わかった。執務官殿に報告しておく」
「それでいい。さっさと行け」

 直人がアースラ陣営の元へと飛び去ったのを見て、フレディは再び前を向くとグロウルに地図を出させた。敵の位置を示すマーカーが、彼の元へと向かってきているのがわかる。

「さぁて、ああいった手前、そろそろ仕事するか」
「だな……ん?旦那、面白そうな反応が引っかかったぜ」
「ほう……どっちだ?」
「あの八神って兄ちゃんのいる方向に向かってやがる。直接向かうより、そっちのほうが早そうだ」
「OK。じゃあ連中片付けてから行くか」

 そのままフレディは、竜二のいる方向へと移動を開始した。移動速度は音を超えているそうだが、二人の決着には間に合わなかったのか、それとも自分が手を出す必要はないと感じたからなのか、その本心は本人のみぞ知る。



 そんな中、竜二はただ一人、バリアジャケットを展開しつつタバコをふかしていた。

『浸ってますねぇ』
『これでも目と頭は必死で動かしてんだよ』
『いいんですかねぇそれ』
『黙って仕事しろ……おおっと!?』

 などと相変わらず念話を繰り広げていると、竜二は突然タバコを捨ててすぐに駆け出した。するとちょうど竜二がいた地点に暗い赤の魔力光が落ちてくる。

「チッ……何や今の!?」
『おそらく殺傷設定の魔力攻撃と思われます』
『それはわかるわ!どこからその攻撃が飛んできたかが問題……』
『上です!』
『了解!』

 すぐに竜二はソードマスターモードに変更し、向かってくる魔法攻撃をかわして行く。着地したと思ったら数メートルを一瞬で移動し、また着地しては移動しての繰り返しで、敵に着地位置の予測をさせないための動きだ。

『主もこれが使えるようになったんですね』
『お前にメチャクチャつき合わされてな。今では感謝してるけど』
『しかし、敵が一向に降りてきませんね』
『ならこっちから突っ込んだるわ!』

 すると竜二は重機関砲を構えたフルファイアモードに変更した。バリアを展開すると、先程までかわし続けた魔法攻撃を弾き飛ばしながら射線上をまっすぐ突っ込んでいく。そのお返しか、あるいは挨拶代わりか、ランチャーを数発発射しながら突進を続けると、見えたのは中年の男。ベージュのロングコート、赤いTシャツ、青いデニムパンツ、黒いビジネスシューズという出で立ちである。左手に持っている剣のようなデバイスを降ろした男はため息をつき、攻撃を止めて竜二と正面から向き合うと、一言告げた。

「あれを食らわずにここまで登ってくるとはな。何者だ、貴様」
「いきなり仕掛けてきて名乗りもせん奴にくれてやる名前なんぞあるかいな」

 その言葉に、竜二も憮然とした態度で返した。

「そうか。それは残念だが……我々が名乗るのは相手を必ず殺すと決めたときだけでな」
「ああ、そりゃやめといたほうがええわな。半端な傷で逃げ帰って、生き恥晒したくはないやろ?」

 竜二の軽い挑発だが、男は乗っては来なかった。むしろあざけるような笑みを浮かべたまま竜二を見て、冷静に言葉を投げかける余裕も見せる。

「……そのような姿をした貴様こそ、本当に人間か?そのような機械の塊となった人間など聴いたことがない」
「ワレが知らんだけやろ?おるかもせぇへんで。どっかの戦闘機の名前みたいな奴とかな」
「……まぁ、どうでもいい。貴様に恨みはないが、あの書に関わるものは全て殺せという上からの命令だ。構えろ。せめて戦って死なせてやる」
「上等。むしろワレが死ぬような真似にならんことを祈っといてやるわ」

 男は剣を両手で構えて竜二に向け、竜二はソードマスターに戻して抜刀した。

「……人間であったか。しかしなら今のは何だ?」
「敵にわざわざ教えると思うか?」
「それもそうか……始めよう」
「ああ」

 そして竜二は、遭遇した男と空中で高速戦闘を繰り広げていた。接近しては剣戟を繰り広げ、鍔迫り合いに入るたびに間合いを広げ、また剣戟を繰り返す。しばらく続けると疲労感からか、仕切りなおして間合いをとり、にらみ合う二人。

「ハァァ……くっそ、なんやねんこのオッサン。展開クソ早ぇ……」
「力と勢いでゴリ押しするような戦いに乗るつもりはない。私ももう年だからな」

 本人はそういうが、彼の一撃は決して軽くはない。その鍛え上げられた体から繰り出される剣の一撃は重く、竜二は自分の刀が折れやしないかと心配してしまうほどだった。

「……ほな、もうそろそろ一撃で決めるか?」
「願いたいところだが、君相手だとそれもごめんだ。年のせいで衰えを感じていてね。判断速度も反射神経も、全て若い者にはかなわんよ」
「それは俺に対する皮肉のつもりかオッサン。マジ腹立つわァ」
「こちらからすればそれが事実なのだからそう言われても困るのだがな」
「あぁそうかい」

 それだけ早く動けている上に余裕まで見せておいてよくいう、と竜二は内心ぼやく。実際今の竜二は、ソードマスターモードならフェイトの全力ダッシュに食らいつく程度のスピードを出せるようになったし、急反転もこなせるようになっている。しかし、その機動力に普通に食いついてこれるどころか一瞬でも上回ってみせるこの男の機動力を見て、改めて気を引き締めなおさざるを得なかった。またここまでの戦闘で、長年戦場に身を置いている人間の経験と自信というものは侮れない、と彼は感じている。彼のことについて全く知らない竜二だが、それでも積み上げてきた者特有の雰囲気というものは感じ取っていたのだろう。

『一撃はダメ、このスタイルでの接近戦でもダメ。おまけに遊ばれてる気までしてきよったで。はてさてどうしたものか』
『どうしましょうか』
『どうしようか』
『どうしましょうか』
『……お前そのままオウム返しすんなや。何か考えろ』
『私だって必死で考えてるんですよ!』
『いやそこで逆ギレされても!』
『ならどうしろと!』
『知るかボケェ!』
『ちょ、落ち着いてください主!』
『テメェが始めたんやろがァァアア!』

 などと相変わらずなやり取りをかわしながらも、並行処理している思考は絶対に止めない。止めれば待つのはただ死あるのみ。動物的な反射で体を動かしているように見せても、常にどうやって落とせばいいのか常に考えて戦うことが、彼の死中に活を見出し戦闘者としてさらなる境地へと誘う。竜二はこのままでは埒が明かないと見たかアサルトモードに変更し、軽機関銃、ミサイルポッド、大剣、魔力ブースターという装備を展開。それを見た男は、どこか関心したように声をかける。

「……ほう、先程の姿か」
「まぁちょっと違うけどな。さぁ、続き始めよか!」
「よかろう、かかってくるがいい!」
「後悔すんなやオッサン!行くで!」

 それに竜二が返すと彼は機関銃を構え、そのまま再び高速戦闘となった。お互いが平行移動しながらも、竜二は軽機関銃を連射し、男はそれをスピードを上げてかわす。そしてある程度間合いが開くと、抜剣して剣戟を繰り広げるという展開になっていく。その様子は、まるで見るものを興奮させる熱き舞踏にも見えた。

「おお、やってるやってる」

 するとそこから少し離れた位置に、血塗れとなったフレディが到着する。かなりの人数がいたはずなのだが、その相手をしていた連中がどうなったのかはあえて語るまい。

「へぇ、あの男相手に結構持たせるねぇあの兄ちゃん。成長したって事かな」
「奴さん手加減してるとは思うけど、それでもまぁ及第点はあげれるかな」

 ここでグロウルは吹けもしない口笛をイメージしてヒュウと一呼吸挟む。

「珍しいね、旦那が女の体以外を褒めるなんて」
「潰すぞアンティーク。新人ってのはちゃんと見て、褒めるべきところは褒めてやらなかったら使い物にならんまま死ぬんだよ。その後に臨死体験させるのがコツだな」
「ヒャアッハッハッ!やっぱ変わってねぇわ!」

 二人の戦闘が始まったのを見てか、すぐに乱入するのではなくタイミングを見て仕掛けることにしたフレディ。グロウルにも否やはないのか、竜二の立ち回りを褒めたりとのんびりしている始末。

「それにしても便利だなぁあの兄ちゃんのデバイス。あんなにクルクル使う武器を変えれるってのは、どこでもどんな相手でも戦えるってことだぜ」
「確かにな。生き残るためならあれ以上に便利なものはそうそうないだろうよ。武器ってのはどんなものでも、形態上の欠点ってのはどうしてもできちまうからなぁ」
「あれをベルカ式でやってるってのが怖いよな。あんなことできるユニゾンデバイスなんて、旦那知ってたか?」

 グロウルの問いにフレディは首を振った。一体何年生きているのかはわからないが、そんな彼でも星天の書を見たことはないらしい。

「いんや、初めて見たな。欲しくなってきたわ。ますます」
「待機状態はいい女だもんな」
「ああ。よこせとまでは言わないが、貸せって言いたくなるね。いつ返すかは知らねぇけど」
「クソすぎるわぁ、安定のゲスっぷりだわぁ。吐き気がするぜっ!」
「今更だろうが。クックックッ」

 声を漏らさず、喉を鳴らして静かに笑うフレディ。傍から見たら突然そんな笑いを漏らすのだから変人と思われたとしても無理はないだろう。そんな様子を見せている危険人物な彼など眼中にないかのごとく、二人の戦いは過激さをさらに増して行く。

「しかしこの分だと、当分は混ざらなくても見ているだけで楽しめそうだ。兄ちゃん、できるだけ持たせろよ」
「とか言いつつ、とどめが自分が、って考えてんだろ?」
「いくらあの兄ちゃんが成長したとはいえ、あの程度の魔導士に落とせるほどアイツはヤワじゃねぇよ。久しぶりに見たが、全く変わってねぇようで安心したわ」

 フレディは殺意を隠そうともせず静かに嗤った。 
 

 
後書き
 様子見とは彼らしくない?いやいや、クソ野郎であっても自分が気に入った人間相手にはそれなりに敬意を払うんですよ彼も。竜二さんは彼の御眼鏡に一応かなったようですが、果たして。 
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