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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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外伝
外伝1:フェイト編
  第13話:奥へ奥へと・・・


ゲオルグを先頭に廃工場の中に入ったB分隊の面々は、
1階から2階へ上がる階段の手前で待機していた。

工場の外まで聞こえた巨大な何かの足音のような音の正体は未だ判明しておらず、
不気味さを感じながらもゲオルグは作戦を前に進めることを選択した。

かくしてゲオルグ達は階段の手前にまでたどり着いた訳だが、
ここで一つ問題が発生した。

本来の作戦計画では、門を破壊するための攻撃を終えたA分隊が
B分隊に続いて工場の中に突入し、1階および地下倉庫の探索と
警備に当たる予定になっていた。

だが、A分隊が狙撃手の撃破にあたったためにA分隊の工場内への突入が
B分隊の突入からずいぶん遅れる結果となった。

そのために、B分隊は階段の近くでA分隊が追い付いてくるのを
待つことになったのである。


B分隊の面々は工場が稼働していた時には部品か工具が置かれていたであろう
棚が集まって捨て置かれているところにひとかたまりになって待機していた。
分隊員たちは一様に押し黙り、その表情からは緊張感が感じられる。

ゲオルグはルッツやフェイトと集まって、これからの作戦の進め方について
話しあっていた。

「この待ち時間、あまり好ましい時間経過ではありませんね」

ゲオルグが眉間にしわを寄せて小声で言うと、フェイトが頷く。

「そうだね。こうしてる間にも着々と迎撃の準備を整えてるはずだし」

「ですけど、B分隊が追い付いて来る前に2階に進む訳にもいかないですよ。
 2階に上がったとたんに迎撃されて、地下に隠れていた敵との間で
 挟撃されようものなら目も当てられないどころか、全滅さえあり得ますから」

あたかも若者2人のはやる気持ちを抑えようというかのように、
ゲオルグやフェイトよりも10歳以上年長のルッツが慎重意見を述べた。
すると、ゲオルグは苦笑しながらルッツに向かって頷いた。

「ありがとうございます。
 ですけど、心配しなくても僕もフェイトも判ってますよ。
 徒に突っ込むつもりはありませんから、安心してください」

己の考えを読まれていたことに驚き、ルッツは目を大きく見開いて
ゲオルグを見た。 
ゲオルグが無言で頷くと、ルッツはボリボリと自分の頭をかき回した。

「余計なお世話だったみたいですね。 では、これからどうしますか?」

ルッツがゲオルグに向かって尋ねると、

「それはヒルベルトさんたちが来てから決めるべきでしょうね。
 ただ、基本的には当初の計画を進めることになると思いますよ」

「では、我々が上に?」

「ええ。 僕らB分隊はそのつもりで訓練をして、
 役割分担を考えてきたわけですし。
 それにフェイトが僕らに同行する以上、エメロードを逮捕するのは
 僕らの役割ですよ」

ゲオルグの言葉にフェイトも大きく頷く。
フェイトがゲオルグに続いて話そうと口を開きかけた時、
工場の入り口の方から多くの足音が聞こえ始めた。
一瞬、B分隊の全員が身構える。

だが、次の瞬間に届いた通信でその緊張は少し緩和した。

『A01よりB01。 A分隊は工場内に入った。 迎えを寄越してくれ』

レーベンを構えて立ち上がったゲオルグは、そっと安堵の吐息をもらす。

「B01了解。 誰か向かわせます」

ゲオルグはヒルベルトに宛てて通信を送ると、傍らに立つルッツに向かって
小さく頷いた。
ルッツはそれに小さく頷き返すと、少し離れたところで集まっている
分隊員たちの中の1人に声をかけた。
声を掛けられた隊員は工場の入り口に向かって駆けて行く。

その背中を見送りながら、ゲオルグは自分の側に戻ってきたルッツに話しかける。

「ありがとうございます」

「いえ。 それよりも、これで作戦が前に進められますね」

首を横に振りながらルッツがそう言うと、ゲオルグは思案顔で頷いた。

「ええ。 ですが、それなりに時間が経ってしまいましたから
 迎撃についても考慮しなおす必要がありますね。
 そのための情報を得るためにも、監視カメラによる再偵察を
 お願いしようと思うんですが、どう思いますか?」

「いいと思いますよ」

ルッツが頷きながら言うと、ゲオルグはわずかに笑みを浮かべた。

「じゃあ、ミュンツァー隊長にお願いしてみましょうか」

そう言って、ゲオルグはミュンツァーとの通信を繋ぐ。
ゲオルグの前に現れた通信ウィンドウにミュンツァーの横顔が現れる。

「ミュンツァー隊長。 シュミットです」

ゲオルグが声をかけると、その声でミュンツァーは通信ウィンドウが
開かれたことに気付いたようで、少し慌てた様子で向き直る。

『どうした? 何かトラブルか?』

「いえ。 間もなく工場内でA分隊と合流できそうなので、
 作戦を継続しようと思うのですが、その前に再偵察をお願いできませんか?」
 
『再偵察? 監視カメラへのハッキングでか?』

「そうです」

ゲオルグの依頼に対しミュンツァーは即座に首を縦に振った。

『いいだろう。 後で連絡するから少し待て』

「了解です。 お願いします」

ゲオルグはミュンツァーとの通信を切るとフェイトとルッツの方へ向き直った。

「すぐに偵察を実行してくれるようです。 結果が出るまで待ちましょう」

ゲオルグがそう言うと、フェイトとルッツは黙って頷く。
しばらくすると、A分隊がB分隊が待機しているところに到着し、
ゲオルグたち3人のもとにヒルベルトがやってきた。

「悪い、遅くなった。 それで状況は?」

ヒルベルトがすまなそうな表情を浮かべながら訊くと、
ゲオルグが首を横に振りながら口を開く。

「いえ、当初の予定ではB分隊が敷地内に侵入したらA分隊が後を追うという
 作戦計画でしたけど、変わってしまいましたからね。仕方ないですよ。
 それで状況ですけど、見ての通り今のところ待機中です。
 A分隊との合流を待っていたのもありますけど、ミュンツァー隊長に
 上の再偵察をお願いしているのでその結果を待って作戦を続行します」

「そうか。 で、計画は?」

「変更なしでいこうと思います。 A分隊に地下と1階の抑えをしっかりと
 固めてもらったうえで、僕たちB分隊が上階への突入とエメロードの
 身柄確保を行おうと思いますが、どうでしょう?」
 
「それでいいと思う。 事前の訓練もそのつもりで積んできたわけだし、
 あいつらもそのほうが安心してことに当たることができるだろ」

ヒルベルトは、A分隊とB分隊の分隊員たちが集まっている方を
顎でしゃくるようにして言う。
ゲオルグたちが自分の言葉に頷くのを確認して、ヒルベルトは言葉をつなぐ。

「なら、A分隊は周囲警戒と1階各所の探索に入る。
 重点的に抑えるのは・・・予定していた4箇所から変えなくていいな?」

ヒルベルトの言う予定の地点とは、工場の正面出入口・地下への階段・
裏手にある荷物搬入口・廃棄物搬出口の4箇所で、
作戦計画立案時に選定されたものだ。


ヒルベルトの問いかけに、ゲオルグは一瞬考えてから首を縦に振る。

「変える必要はないと思いますよ。 ただ、撤退せざるを得ない状況を考える
 必要性が計画時よりも高くなっているので、退路の確保を最優先にお願いします」
 
「判った。 なら裏手と廃棄物搬出口の人員を割いて正面に回すことにする」

「お願いします」

ゲオルグとヒルベルトは互いに頷き合うと、それぞれの分隊のもとへと歩く。
ひとかたまりになって待機していたB分隊の面々は、歩いてくるゲオルグたち
3人の姿を見ると立ち上がる。

彼らのそばまで来て足を止めたゲオルグは分隊員たちの顔を順番に見る。
全員の顔を見終わったゲオルグは、咳払いをして話し始める。

「楽にしてください。 ヒルベルトさんとの協議の結果、我々B分隊が
 当初の予定通り上層階への突入を担当することになりました。
 訓練通り、迅速な作戦遂行を目指しましょう。 いいですね?」

「はいっ!!」

ゲオルグの訓示に分隊員たちは精悍な顔で頷きながら返事をする。

「では、ミュンツァー隊長からの偵察情報が入り次第作成を続行します。
 それまで待機しててください」
 
そう結んでゲオルグは後ろを振り返る。
そこには右手に握られたバルディッシュを見つめるフェイトが立っていた。

「フェイト」

ゲオルグが声をかけると、フェイトはゆっくりとゲオルグのほうに顔を向けた。

「何かな?」

「大丈夫?」

ゲオルグが尋ねるとフェイトは不思議そうに首をかしげた。

「なにが?」

「精神状態・・・かな」

ゲオルグは言いづらそうにしながらもフェイトに向かって告げる。

「フェイトは僕らの中で飛びぬけた力があるから頼りにしてるんだけど、
 またさっきみたいに自分を見失うようなら、分隊みんなの安全にも関わるし
 作戦への参加を見合わせてほしいんだ。 どうかな、大丈夫かな?」

「大丈夫。 さっきみたいに自分の役割を見失ったりしない。
 信じて、ゲオルグ」

フェイトはまっすぐにゲオルグの目を見つめて、決意をこめた口調で言う。
その言葉を聞いたゲオルグは、しばらくフェイトの目をじっと見つめたあと、
フッと表情を緩めて微笑を浮かべる。

「判った。 一緒にがんばろう」

「うん。 よろしくね」

フェイトは大きくゆっくりと頷き、ゲオルグに向かって笑いかける。

『シュミット』

そのとき、ゲオルグの目の前に通信ウィンドウが開かれ、
画面の中のミュンツァーがゲオルグに話しかけてくる。

「はい。 偵察結果ですね? 何か変わったことはありましたか?」

『いや、特にはない。 エメロードも変わらず3階の小部屋にいる』

ミュンツァーの言葉を聞いたゲオルグは、わずかに眉根を寄せて黙り込む。

「・・・変ですね」

1分ほどの沈黙のあと、ゲオルグは難しい表情をしてそんな言葉を発する。
それを受けたミュンツァーは同じように渋い表情をして頷く。

『そうだな。 偵察に関してはともかく、お前らが突入したのに
 何も動きがないというのはおかしい』

「彼らは偵察に気づいていて、それを逆用しようとしているんじゃないでしょうか」

『かもしれん。 だが、そうだとしてこちらの作戦計画を変えるのもな・・・』

「ええ。 有効な対応策がない以上、偵察情報を信用するのは危険ですね」

『・・・中止するか?』

ミュンツァーが厳しい表情でそう言うと、ゲオルグは首を横に振った。

「いえ。この機会を逃せばエメロードを逮捕できる機会が訪れる保障はありません。
 幸い、偵察情報を信用できない可能性が高いということは事前に
 わかっているんですから、十分注意を払ったうえで作戦を続行させてください」

ゲオルグの言葉に、ミュンツァーは腕組みをして考え込む。
そのとき、もうひとつの通信ウィンドウが開く。

『ちょっと割り込んでいいですか?』

そこにはヒルベルトの顔が映っていた。

『隊長。 ここはやらせてもらえませんか?
 ゲオルグが言ったように状況は最悪というほどではありませんし、
 この先こんなチャンスがあるとは思えないんですよ。
 もし、危険そうならすぐに撤退しますし、俺たちA分隊もサポートします。
 ゲオルグやフェイトが無理をするようなら俺が襟首を引っつかんででも
 連れて帰ります』

ヒルベルトが強い口調で言うと、ミュンツァーはうなり声を上げて目線を下げる。
しばらくしてミュンツァーが顔を上げると、その目には決意の色が浮かんでいた。

『・・・判った。 だがな、全員無事に戻って来い。 これは命令だ。
 シュミットもヒルベルトもいいな?』

『はい、判っています』

「了解しました」

ヒルベルトとゲオルグが揃って返事をすると、
ミュンツァーは厳しい表情のまま頷き、通信を切った。

『気をつけろよ、ゲオルグ』

「わかってます。 ヒルベルトさんもお気をつけて」

『ああ。じゃあな』

ヒルベルトはそう言って最後にニヤッと笑い、通信ウィンドウが閉じる。
ゲオルグは数秒目を閉じ深呼吸すると、カッと目を見開き分隊員たちのほうを
振り返る。

「さあ、行きましょう!」

「はいっ!!」

分隊の全員が声を揃えて返事をする。
ゲオルグが先頭を切って2階への階段へと向かって歩き出す。

「ゲオルグ」

半歩遅れてついていくフェイトが話しかけると、ゲオルグは前を向いたまま、
歩みを止めずに答える。

「なに?」

「あのね、私のために無理に作戦を続けようとしてるんだったら・・・」

「馬鹿にしないでよ」

そう言ってフェイトの言葉をさえぎるゲオルグの肩がわずかに震える。

「エメロードが許せないのはフェイトだけじゃない。
 僕や分隊のみんなも同じだよ」

2階へとあがる階段の前に到着し、ゲオルグは足を止め階段の先を見上げる。

「フェイトも見たでしょ、あの研究所で起きたこと。
 あんなことを起こすようなヤツをのさばらせておくことはできない。
 それを許すくらいなら僕は管理局を辞める。 意味がないから」

そこでゲオルグはフェイトのほうを振り返る。

「だから一緒に行こうよ、フェイト」

そう言うゲオルグの顔には微笑が浮かんでいた。
ゲオルグにつられるようにフェイトも微笑む。

「うん。 一緒に頑張ろ」

そして2人は階段を登り始める。
2人の後にはB分隊の面々が続く。

階段の先は暗くなっていて、先頭を歩く2人にも2階がどんな様子なのかを
うかがい知ることはできない。
一歩一歩階段を上がっていくのと、やがて2階が近づいてくる。
2階の床に足をつけたところで、ゲオルグは1度足を止めた。
2階には事務室が並んでいて、階段から続く廊下の両側にはそれぞれ数個の
ドアがあった。

(迎撃はなし・・・か、予定ではここで隊を2つに割る予定だったけど・・・)

当初の作戦計画では、ゲオルグとフェイトの2人がこのまま3階へと上がり、
残るB分隊はルッツの指揮で2階の探索と警戒にあたることになっていた。
だが、偵察情報が信頼できないことで状況が不透明となり、
ゲオルグは当初の作戦計画のまま進むことにためらいを覚えていた。

(でも、僕とフェイトなら飛行魔法が使えるし、万一3階で孤立しても
 脱出するだけなら・・・)

ゲオルグは分隊全員の安全と作戦目的を考え合わせ、何が最善かを模索する。

(それに計画に沿った訓練を積んできたんだし・・・よしっ!)

ゲオルグは決断し、分隊員たちのほうを振り返る。

「計画どおり進めます。 僕とハラオウン執務官はこのまま3階に進み
 首謀者のエメロードの身柄を押さえます。
 皆さんは2階の各部屋の探索と警戒を。 いいですね、ルッツ曹長」

「了解です。 分隊長もお気をつけて」

ルッツは精悍な表情で頷く。

「はい。 そちらも慎重にお願いしますね。 あと、連絡は密に。
 何かあったらすぐに連絡してください」

「了解しました」

次いでゲオルグは隣に立つフェイトに目を向ける。

「行くよ、フェイト」

「うん」

2人は互い頷きあうと、ルッツたちと別れて3階へとさらに階段を上がっていく。
直線的に伸びていた1階から2階への階段とは違い、2階から3階への階段は
踊り場で向きが反転する構造になっている。

踊り場まで上がり、さらに上へ登るべく身体の向きを180度回転させた
ゲオルグとフェイトを突然魔力弾による射撃が襲う。

「ゲオルグっ!」

「うん、判ってる!!」

フェイトとゲオルグはお互いに声を掛け合い、3階フロアにいるであろう
敵の射界の死角に入るべく、2mほど飛び下がる。

[やっぱり来たね、どうする?]

[敵のいる場所がはっきりしないからなぁ・・・。
 僕が攻撃範囲の広い魔法で3階フロアに上がってすぐのあたりに
 けん制攻撃をするから、フェイトさんはその隙に突入。どうかな?]
 
[いいと思うよ]

[わかった、じゃあ行くよ!]

念話を介した短い打ち合わせを終え、ゲオルグとフェイトはその結果に沿った
行動をとり始める。

[レーベン、カートリッジロード。 メッサーレーゲンを範囲最大で]

[《了解しました》]

直後、レーベンの刀身が青黒い魔力光で包まれる。
そしてゲオルグは3階フロアの高さまで飛び上がるとレーベンを振った。
刀身から剥がれた魔力光はいくつにも分かれて、
それぞれが小さな刃の形状となって3階フロアのほうへと飛んでいく。

「フェイト!」

「うん、任せて!」

フェイトはゲオルグの声に応じると階段に沿って3階フロアに向かって飛んでいく。
3階フロアに着地したフェイトの目に、数人の杖型デバイスを持った
魔導師の姿が映る。
彼らはゲオルグのけん制攻撃を防御するために、バリアを張ったようだが、
普通の魔力弾ではなく刃の形をしているメッサーレーゲンにバリアを切り裂かれ
少なくないダメージを受けているようにフェイトには見えた。

「いくよ、バルディッシュ」

《Yes sir》

フェイトはハーケンフォームのバルディッシュを固く握りなおすと、
敵の魔導師たちに向かって飛ぶ。

敵側もメッサーレーゲンによる波状攻撃が終わったと見るや、
追撃を予測し即座に態勢を立て直そうとするあたり、只者ではない。

だが、フェイトの磨き抜かれたスピードは彼らの予測を悠々と上回る。
敵の魔導師たちが警戒態勢を立て直そうと顔を上げたとき、
すでにフェイトは彼らの目の前に迫っていた。

フェイトがバルディッシュを横なぎに振るうと、彼ら全員が魔力ダメージで
気絶し倒れた。
硬い床に倒れ伏した彼らを遅れて到着したゲオルグがバインドで拘束していく。

全員にバインドを掛け終わりゲオルグはフェイトのほうに歩み寄る。

「フェイト」

ゲオルグが声を掛けると、フェイトはゆっくりと振り返った。
ゲオルグの顔を見るとにっこりと笑う。
2人はそのまま近づくと、お互いの手を合わせてハイタッチする。
パンっと小気味いい音が辺りに響き渡った。

次いでゲオルグは床に転がっている4人の魔導師を見る。

「どうしようか、このままにもしておけないよね」

「2階の誰かに回収してもらうのはどう?」

フェイトが案を出すと、ゲオルグはしわを寄せる。

「どうだろう・・・そんな余裕があるかな? ちょっと聞いてみるね」

ゲオルグは通信回線を開きルッツに呼びかける。

「B01よりB02 応答願います」

ルッツからの応答はすぐに入った。

『B02よりB01、どうしました?』

「3階フロアで敵と交戦して身柄を拘束したんですが、僕とフェイトは
 先に進まないといけないので、回収のために何人か回せませんか?」

『ちょっと待ってください・・・』

1分ほど待っていると、ルッツの声が再びゲオルグの耳に届く。

『2名ならまわせそうです。階段を上がらせればいいですか?』

「はい、お願いします」

ゲオルグはそう言って通信を切った。
そして、両側にいくつもの扉が並ぶ通路の奥に鋭い目を向けるフェイトのところに
歩み寄っていく。

「フェイト。2階から2人上がってくるから、僕らは奥に進もう」

声を掛けられたフェイトからは反応がなく、ゲオルグは怪訝な表情をして
フェイトの方に手を置く。

「フェイト、聞いてた?」

フェイトはゲオルグのほうへ顔だけで振り返る。

「うん、聞いてたよ。 それより、ほら」

フェイトは顔を前に向けて通路の奥を指差す。
ゲオルグはフェイトの指先が指し示す方向へ目を凝らす。

「あっ・・・」

暗い通路の先に蠢く何者かを見つけ、ゲオルグは思わず声を上げた。

「どうする? 結構な数が居そうだけど・・・」

フェイトに問われ、ゲオルグはレーベンを握りなおす。

「迅速に突破する。 それだけだよ」

ゲオルグの簡にして要を射た答えに、フェイトは苦笑する。

「簡単に言うね。 でも、ゲオルグの言うとおりかな」

そして、フェイトはバルディッシュを構える。

「ここからが本番だし、なのはを見習って全力全開で行かないと」

「なのはって?」

「私の友達・・・ううん、親友かな」

「フェイトの親友か・・・。 こんど僕にも紹介してよ」

「いいよ。 こんどミッドに戻ったらね」

「ありがとう。 さてと、それじゃあそろそろ行こうか」

「そうだね。 ついて来られる?」

「誰に言ってるのさ。 さっきフェイトを止めたのは僕だよ」

ゲオルグはそう言って不敵な笑みを浮かべる。

「そうだね。 じゃあ、行くよ!」

フェイトのその言葉を合図に、2人は通路の奥で蠢く敵の影に向かって
床を蹴り飛ばした。

 
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