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神葬世界×ゴスペル・デイ

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第一物語・後半-日来独立編-
  第六十章 解放《5》

 
前書き
 苦しくて苦しくて、その先に何が待っているのか。
 不安で堪らない。
 怖い。現実ではなく、自分を見る人々の視線が。
 昔の自分なら逃げていただろう。けど――。 

 
 このままでは救出されかねない。
 それだけは阻止しなくてはならないため、解放場から離れた場所に立つ央信は映画面|《モニター》を表示した。
 映るのは解放場を背負う駆翔天の操作室。
 映画面に映る人物は前に会話をしていた隊隊長で、その隊隊長は不機嫌そうに眉間にしわを寄せた普段の表情をこちらに向けた。
『何か用か』
「ああ、解放の速度を速めてほしい。このままでは宇天長を取り逃がす恐れがあるからな」
『分かった、伝えよう』
 言い、彼方から映画面を切った。
 結界がある以上は、こちらからは手を出せない。ただ事態の行方を見届けるしか出来無いのだ。
 今、解放場にいる二人。
 見るからにはしゃいでいるようにも見えるが、明らかに宇天の長の様子は前と変わっている。
 生き生きとしている、と言えば正しいのだろうか。
「全く、本当に羨ましいよ。力も持ち、寄り添える者もいるお前が」
 自分には無いものを持っている彼女が、羨ましくもあると同時に妬ましい。
 どうしてそこまで持ち合わせているのに、そんなにも弱いのかと。
 特別な能力を持ち合わせていない人族に産まれて来た苦しみを知りもせず、授かった力を扱えない宇天の長が。
「お前とはもっと違う形で会いたかったよ、委伊達・奏鳴」
 言葉の後。
 解放場にいた二人から、突如として大量の光が漏れ出した。
 解放の速度が上がったのだ。
 まるで強風に吹かれたように光は乱れ、天へと流れていく。
 最後の時は、既に迫っていた。



「やべえな、時間掛け過ぎたか。なあ奏鳴、何時までおっきおっき言ってんだ。いい加減飽きるぞ」
 頬に手を当て、未だに連呼し続けている。
 解放など知ったこっちゃないと言わんばかりに。
 いいことなのかもしれないが、このままでは二人共解放されてお仕舞いだ。
「後で見せてやるからこっちに戻ってこいよ」
「卑猥者が!」
「冗談だったんが……」
「あ、す、すまん」
「卑猥なのはどっちがだよってな」
 今度は縮こまる奏鳴。
 見ていて飽きないな、とセーランは思った。唸るような音を聴きながら、よし、と一言。
 最後くらいはきちんと決めてやると、意気込んだ。
「さっきまでの時間は辛かったか?」
 問い掛ける。
 奏鳴は前の時間を思い出すまでもなく、答えは決まっており。
「楽しかった、かな」
「なら生きていてよかったじゃん。苦しいこともあるだろうけど、同じくらいに楽しいこともあるんだから」
「私は、生きていていいのかな……」
「んな当たり前のこと聞くなよ。むしろ、お前が死んでいいことなんて無いんだからさ」
 励ますような、そんな言葉を送る。
 奏鳴にとって一番安心出来る言葉であり、ずっと言われたかった一言でもあった。
 なんだか照れ臭くて、微笑むしかなかった。
「俺はここで最後にしたくない。お前はどうだ?」
 問われた。
 今までならば否定の言葉を述べていただろうが、もうそれは無い。
 決めた。
 生きることが苦しく、辛く、悲しいものであっても。私は――、

「生きよう」

 たった一言。
 だがその一言を言うのに、どれだけの時間を犠牲にしたのだろう。
 重たく、動く気配の無かった口が動いた。もっと早く口にしていれば、こんなにも苦しまずに済んだのかもしれない。しかし、この一言を言わなくてよかったのかもしれない。
 何故ならば、こうして“待ち望んでいた人”に会えたのだから。
 目の前に立ち、微笑み掛けてくれる人。
 素直じゃない自分を好きでいてくれて、命を省みずに解放場へとやって来た。
 ありがとう。
 感謝の言葉は口にはせず、今は心の奥底に閉じ込めた。素直になれないから。
 


 辰ノ大花は歓喜に似た声に包まれた。
 生きよう。
 ただその一言を聞き、涙を流す者までいる。
 大人達は先代を思い浮かべ、子ども達は周りに合わせ騒ぐ。
 後の事態よりも、皆は抑えることの出来無い喜びに浸った。日来の長によって自分達の長は、委伊達家の娘は救われた。
 嬉しくて嬉しくて。ただ嬉しくて、訳も分からず騒ぎ始めた。



 唇を噛み締め、潤んだ瞳を解放場へと向ける実之芽。
 自分では救えなかった。なのにセーランと言う者は、この瞬間に彼女を救ってしまった。
 何も出来無ず情けなくて、だけど今は奏鳴が救われたという事実の方が実之芽の感情を動かしていた。
 近くには天桜覇王会指揮官とその補佐がいるが、二人共今の事態に唖然としていた。
 ここまで来て、自分達の行いが無と化そうとしたいるのを飲み込めずにいる。
「ありがと。本当に……ありがとう」
 けど相手にするのは後でいい。
 溢れ出す涙のせいで視界が悪く、まともに戦える気がしないから。
 こんな時ぐらい感傷に浸ってもいいわよね。
 強く保ち続けていた心が揺れ、泣き崩れたのはすぐのことだった。
 彼女の泣き声は小さく、自分の弱いところを隠しているように見える。覇王会隊長兼指揮官としてのプライドがそうさせる。
 仲間は理解していた。だから誰も実之芽を見ないようにした。
「私も、もっと強くならないと……ならなきゃいけない……」
 呟くようなその声は、誰かに聞き取られることはなかった。
 決心の言葉を吐きながらも、しばらく実之芽が泣き崩れたままなのは変わらなかった。



 遠くの町から西貿易区域を、遠目に見詰める二人の学勢。
 御茶丸と明子は、戦術を練る最中で自身らの長の言葉を映画面|《モニター》越しに聞いた。
「やってくれましたか、日来長」
「日来長と話してる時の奏鳴ちゃん。とても生き生きとしてました」
「そうですねえ。やっと寄り添える者が出来たという感じです」
 ゴーグル越しに見る西貿易区域も、自分達がいる町同様に歓喜に満ち溢れているような気がして、自然と笑みが溢れた。
 片方の口端を曲げた、怪しげな笑い。
 普段は見えることのない笑みを、明子は見逃さずに、
「今、昔の御茶丸の笑い方でしたね。やっぱり気真面目な性格だと無理あると思うんですよ、私」
「そうですか?」
「いいんじゃないかな。別に今なら」
「おほん。お言葉に甘えて」
 咳払いを数回し、喉の調子を伺う。
 普段は常に声を変えている。昔のように話せるかは自信は無かったが。
「こんな感じか?」
「はい、そんな感じです。何時ものアホ声よりよっぽど格好いいですよ」
「ふん、久し振りこの口調で話すのも、今は悪くはないか」
 口調が変わった御茶丸は手荒く掛けていたゴーグルを外し、裸眼で辰ノ大花を見渡した。
 目尻が鋭く上がった、柄の悪い少年の印象が強い。
 切るのが面倒で後ろに束ねた長い髪が顔に掛かっているので、手で払うように弾いた。
「源水さんよお、どうやらあんたの娘。一人立ち出来そうだ。賭け事はあんたの勝ちだよ、たく。負けたなら仕方ねえ、鬼真面目に生きてやるよ」
「御茶丸の生真面目ってなんか違う気がするんだよねえ」
「ほっとけ。後は天桜長をどうにか出来れば、今日はお祭り騒ぎだ」
 言い、御茶丸は新たな映画面を表示。
 表示されている送信のボタンを押し、再び笑みを漏らす。
 それには、こう打ち込まれていた。

『宇天全学勢に告ぎもおおおす。
 今いい感じなので、黄森に仕返したい人はどうぞ! 今がチャンスううう!
 何時かやる? 今でショ――――タイムだ!
 行け! 行っちまえ!
 これ逃したらもう仕返しなんて出来ねえぞ!
 武勇伝つくりてえんだったら行かなきゃ損損、ただの損!
 では』

 これを受け取った学勢達は、別の意味でとてと複雑な心境だった。
 自分達の覇王会戦術師らしさは出ているが、あっちがノリノリ過ぎて付いていけない。
 覇王会メンバーと明子だけは、彼の本当の姿を知っている。
 彼なりの努力が滲み出た、別の意味でいい伝文|《メール》だった。



「学長、本当にそれで……」
 辰ノ大花の東側にある宇天学勢院高等部の校庭。空を見詰め話していた蓮に向かって、隣にいたタメナシは問い掛けた。
 蓮は首を縦に振るだけで、青い空から目を離そうとしなかった。
「私が言わなくても、きっと奏鳴ちゃんはそう言う筈よ。留学という形を取れば、身の安全は保証されるわ」
「しかしながら、皆は納得するでしょうか」
「解ってくれるわ。だって奏鳴ちゃんは一人の女性として、この地を巣立って行くのよ」
 彼女のためでもある。
 世界を知ることで、客観的に辰ノ大花を見ることにも繋が、結果将来のためとなる。
 それに、恋人と一緒にいることは当然のことだ。
「判治……貴方の学勢、いい子達ね」
 同じ学長となった後輩の教え子。
 後輩であった判治の教え子の手によって、自分の教え子である奏鳴は救い出された。
 こういうこともあるのかと、長年生き続けていた蓮は少し驚いている。
 ただ遠くを見る蓮の目の先には、空に浮かぶ大きな日来の姿があった。



 日来学勢の魔法術師達により戦闘艦は減り、比例して砲撃が弱まる。結果として防御戦が楽になり始めた頃。長莵神社にて、女子数名が騒いでいた。
 周囲のことは気にせずに、若い力を振り撒いていた。だが周囲には彼女達以外、誰もいなかったために長莵神社を護っている美兎の両親に怒られることはなかった。
 それに一番騒いでいるのは、
「やりましたああ! やってくれましたよ――! さすがセーラン君ですよおおおおお!」
「美兎、あんたってば騒ぎ過ぎよ」
「と言ってる明もそのガッツポーズはなんでしょうねえ」
「セーランに彼女出来るフラグよ、これ! つまり琴姫が私のヒロインとなる時代が来たってことよおおお! 嬉しくないわけがないわ!」
「ひろいん? わたし、が?」
 琴姫こと美琴は理解出来ていない様子だったが、これ以上その話題は危険だと感じ、美兎と恋和の二人は話を切り替える。
 一度美琴に夢中になってしまうと何をするか分からない。
 気を付けねば、と意思疏通によって二人は思った。
「これでセーランも幸せになれますね」
「はい、ずっと想い続けていた相手が救われたんです。幸せに決まってます」
 美兎と恋和は笑い合う。
 本当によかったと。
 きっと灯も話題に乗っかってくると信じて、だがしかし一方の明は、美琴をさらって何処かに消えていってしまった。
 後になって気付く二人は、別の事態を解決すべく慌てて灯を探し始めた。



 中央前方船・明石の船首近くにいるアストローゼとニチアにレヴァーシンクは、急いで次の戦術を練っていた。
 宇天の長が“生きたい”とは言ったものの、解放場から救出する方法に、その後の黄森との戦い。これらをどのように処理する、最も効率のよい方法を探っていた。
「辰ノ大花には伝達者の飛豊を送った。飛豊には日来に戦う意思は無いことを証明してもらい、辰ノ大花にも同じようにやってもらう」
 レヴァーシンクはあらかじめ用意してある作戦を元に、戦術を再構築していた。
 彼と話す相手は、覇王会指揮官であるアストローゼだ。
「それでいいだろう。無抵抗な敵に攻撃を仕掛け続ければ、黄森はたちまち名が落ちるからな。しかし問題は解放場からどのように、二人の長を救出するかだが」
「解放場事態を占領するしかないと思うな」
 口を出したのはニチアだ。
 彼女なりの考えを、迷わず口に出す。
 何かと突っ掛かり易い彼女の性格ゆえに。
「戦闘艦に背負わせる形の解放場だから、まずは解放場を背負う戦闘艦を狙った方がいいんじゃないかなあ」
「やっぱりそうなるよね。よし、辰ノ大花の力も借りてあの戦闘艦を押さえよう」
 映画面|《モニター》に映る駆翔天を指差し、大間かな戦術は練れた。
 後はこれをどのようにして運用するか、それは彼らの技量に掛かっている。



 ここは中央後方船・日中。
 日来学勢院の校庭にて、数名の教員らが外で辰ノ大花の西貿易区域の様子を各自表示した映画面|《モニター》で見ていた。
 その教員のなかには咲もおり、横には学長である榊もいた。
 学長の横にいるのだから、咲の態度が自然と固くなっている。
「そんな無理して背筋真っ直ぐにしなくても。たかが学長、それだけだよ」
「ですが、あの姿を見せなかったという幻の学長ですよ。しっかりしないわけには」
「幻って。俺、別に隠れてたわけじゃないし。学長ってことを明かさなかっただけで」
「いえいえ。それでも学長なので」
 意地でも背筋を伸ばし続けるらしい。
 呆れる程真面目だと思う榊は、個人的には面白いと感じるのでそのままにしておく。
 宇天の長が“生きよう”と発言したために、現場はかなり騒がしくなっている。どうにか出来るのか、心配しながら二人は戦いの行方を見守る。
 すると、あ、から始める榊の言葉。
 何かを思い出したように、背筋を伸ばしている咲に顔を向け。
「そういえば、本来三年一組の担任になる筈だった先生。この救出が上手く行けば治療も済んだみたいだし、日来に戻ってくるって連絡あったよ」
「え、本当ですか!?」
「これが上手く行ったらだけどね」
 これとは、二人の長の救出のことだ。
 咲は返事を返し、
「はい。心の準備をしておきます」
「あの先生は元気だからねえ。日来の戦力アップにも繋がるだろうね」
「酒代が高く付きます……」
「ざるでもあったね、あの先生」
 同情の笑みを送る。
 何はともあれ、全ては救出がきちんと出来た後の話しだ。
 最後の最後まで油断してはならない。
 実戦では、その最後まで何があるのか分からないのだから。



 告げられた一言。
 “生きよう”という、答えを。
 後からセーランはその一言に、新たな一言を付け足す。
「生きよう。一緒に、な」
「私のものになってくれるか」
 光乱れるなか、二人は互いを見詰め合う。
 同じ場所に立ち、共に解放されているなか。
「いや、今からお前は……私だけのものだ」
「急に押しが強くなったな」
「別にいいじゃないか。だって、私はこのまま……」
「待ってくれよ。なら告白からやり直そうぜ。一生で一度の告白だ、ちゃんとしたものにしたい」
「ああ、そうだな」
 二人は笑い、気恥ずかしそうにお互い照れる。
 妙な沈黙を挟み、セーランが咳払いでそれを吹き飛ばす。改めて思えば、この解放による光はまるで二人を包むように渦巻いていた。
 光によって照らされ、眩しく、しかし目の前には想い人がいる。
 この上無い安心感が身を包み、一呼吸したセーランは告白する。
「この時が来るのをずっと待ってた。ちょっと違う感じだけど、最高の告白の機会になった」
 一拍置いて、
「どんなに苦しくても、辛くてもさ。側に俺がいる。頼られるように強くなる。もう一人にはさせねえ」
 だから。
「何かが欠けてる俺だけど、お前の側で、お前を守りたい……奏鳴……」
 二度目。手を奏鳴へと差し出す。
 返事が返ってくれるのを願って。
 奏鳴は差し出された手を、腕を、胸を、首を、顔を見た。
 身体の至るところが解放され、ほっといたならば自分より先に全身を解放されてしまう。
 もう何処にも行かせない。ずっと君は私のものだ。
 明日も、明後日も、一ヶ月後も、一年後も、これからも、死んでも。
 側にいるよ、君の側に。
 自分には家族もいない、仲間も何時かは離れていく。だけど、君だけが側にいてくれるなら。
 他のものはいらない。
 今はただ、君といることだけが幸せだ。
 セーランに対する気持ちが、奥底から沸き出てくる。
 自分だけのもの。それが嬉しい。
 なら、返事を返さなければ。
 告白の返事を。
「今もこの気持ちには素直にはなれないが、多分、私は君を必要としている。……だから」
 だから。
 後に続く言葉が上手く出せず、間が徐々に開いていく。
 素直に、素直になればいい。
 言い聞かせ、
「何かを失った私だけど……永久に愛して、くれるなら……!」
 胸に詰まっていたものを吐き出すように、精一杯の声で伝えた。
 そして右の手を、差し出された左の掌へと乗せる。
 照れ臭くて、恥ずかしさから身体が熱い。
 言ってしまったと、言った後に改めて思う。
 セーラン。
 まだ胸に残ったものを吐き出すように、口に出そう、彼の名を。
「――――」



『オ前ヲ死ンデモ手放サナイ』



 セーランは聞いた。
 彼女の口から、初めて言われた自分の名前を。
 想い人に名前を呼ばれることに、変な違和感を感じる。照れ臭いような、気恥ずかしいような。
 時期に慣れればいいが、と少し心配になった。
「温かい。人というのはこんなにも温かいものなのだな」
 ぎゅっと、離れさせないように奏鳴はセーランの手を掴んだ。奏鳴の肌からは、ひんやりとした温度がセーランへと伝わっていく。
 柔らかく、強く握ったら潰れそうだ。
 セーランは感じた。
 体温が伝わってくるのと同時に、震えも伝わってくるのを。
 微弱に奏鳴が震えている。感激のあまりでか、それとも恐怖でか。
 本人に聞けば分かるのだろうが、この状況では無理だ。
 告白は成功したと言っていいだろう。しかし解放場から脱け出す必要がある。このままでは、さすがの二人も解放されてしまう。
 もう奏鳴は一人ではない。
 言いたいことがあるならば、自分から言いに来るに違いない。
「さあ、後はここから脱け出すだけだな」
「それはやまやまだが、一体どうやって。人類史上、解放場の結界が破られたことは一度もない」
「壊すのは結界じゃないさ」
「結界を壊さずに脱け出すのか……?」
「これを壊すのさ」
 足で解放場を数回踏み付けた。
 理解出来ず、驚きのあまり無言になる。
「解放場の故障なら、何件か人類史上あったろ」
 確かに数件ある。だが、かと言って今の状況をどうする気だというのか。
 解放されているなかでは系術は使えない。
 系術は外部流魔、または内部流魔を消費して発動する。
 今の状況では、系術を使うために流魔を消費しても、系術として形をなす前に解放により流魔分解されてしまう。
 消費した流魔から系術を構築していくのだが、その過程で再び流魔に戻った場合、発動失敗とみなされ系術は発動しない。加護も同様だ。
 セーランが知らない筈はない。
 まさか自力で壊すなどと、無茶苦茶なことは言わないだろう。いや、彼なら言いそうだが。
 こうなったら、やるしかないのか。
「なら竜神の力を使って――」
 セーランは首を横に振る。
「駄目だ」
「大丈夫だ。今の私なら、きっと竜神の力を扱える!」
「いいか、その力は後のために取って置くんだ」
「今使うべきではないのか」
「脱け出しても、戦うべき相手がいるだろ」
 戦うべき相手。結界の外。
 戦闘艦の甲板上からこちらを遠目に見ている、黄森の天桜学勢院覇王会会長。
 織田瓜・央信。
 竜神の力は彼女と戦う時のために取って置き、解放場は別の力を使い脱け出す。
 まだセーランの全てを奏鳴が知ったわけではない。心配で、不安で。でも信じたくて。
 混ざり合う気持ちのなか、彼の手をぎゅっと掴んだ。 
 

 
後書き
 今章でやっと長らく続いていたヒロインこと、奏鳴ちゃんを救出出来ました。
 解放場にまだいますが、次章でそれは解決します。
 そして久し振りに他のキャラも登場。
 まさかの御茶丸君の本性暴露。蓮とタメナシとの今後に続く会話。更には灯の美琴誘拐事件に続き、新キャラというか詳細不明の先生復帰のお知らせ。
 今後の物語を爆発した章でもありました。
 長い道のりでした。
 素直になれない奏鳴ちゃんが、これからは幸せになるといいですね。
 では、また会いましょう。 
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