SONG FOR USA
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1部分:第一章
第一章
SONG FOR USA
あの桟橋でだったのを覚えている。君を抱き締めて見果てない遠い夢を言ったことを。
「きっとなるよ」
俺は強い声で言った。そしてあの国へ旅立った。
アメリカ。夢と自由の国。ここできっと大きくなってやると決意して。俺はやって来た。
名もないギターだけ持った若い日本人が何処までやれるのか。確かめたかった。そしてニューヨークへやって来た。
仲間達も一緒だった。俺達は何かになる、なってやるつもりだった。
来る日も来る日も街の街頭でギターを弾いた。そして歌った。ボロいアドレスさえ碌に知らないアパートの屋根裏に住み込んで俺達はニューヨークで歌っていた。暑い時も寒い時も。
特に寒さに堪えた。俺達は固いパンと時たま手に入るケンタッキーのフライドチキンで過ごしていた。
「こんなのが一番のご馳走だってんだからな」
「俺達もいい加減貧しいよな」
「そうだよな。早いとこビフテキでも気楽に食える身分になりたいよ」
「おいおい、そこで出て来るのは七面鳥だろ」
「そんなの食ったことねえよ」
「そういや俺もだ」
こんな馬鹿な話ばかりしていた。夜の遅くまで歌ってそして生きていた。窓を眺めると寒空に星だけがある。
いつもやけに綺麗だった。ニューヨークの空は汚れてると聞いてたが窓から見える空は綺麗だった。俺達はその空を眺めて暮らしていた。
「おい、流れ星だぜ」
仲間の誰かが言った。
「何か願い事するか?」
「そうだな」
俺はそれに応えて少し考え込んだ。それから言った。
「願うか。けど一つしか願うことないよな」
「ああ。ここで大きくなりたいよな」
「それしかないな」
流れ星は七つ見えた。その全部に祈った。この時俺達は音楽のことしか考えていなかった。だからあの時。あいつのことを祈っておけばよかった。今ではそれを悔やんでいる。
アメリカに渡って一年が過ぎた。相変わらず俺達は街角で歌っていた。
その街角では有名になっていた。道行く人が落していく金も増えていた。だがここでもっと凄いものが落ちてきた。
「!?」
何か英語で中年の皮ジャンを着たおっさんが俺達に声をかけてきた。最初は誰かと思った。
「何だ、このおっさん」
「同業者か?」
「おっと失礼」
そのおっさんはここで急に日本語になった。
「君達は日本人か」
「ええ、まあ」
「済まない。最初見た時は日系人か中国系だと思ったよ」
「はあ」
そういえばこのニューヨークには日系人の街のリトル=トウキョウがある。そしてチャイナ=タウンもある。やっぱりここはアメリカだ。人種の坩堝ってやつだ。そう思われたのも無理はない。
「まさか日本から来たとはね」
「まあ色々ありまして」
メンバーを代表して俺がこう言った。リーダーだからだ。
「これが今の日本の音楽なのか」
「日本の音楽じゃありませんよ」
俺はここでこう言ってやった。
「俺達の音楽なんですよ。これが」
「ほう」
そのおっさんは俺の言葉を聞いて目をピクリと動かした。
「君達の音楽か」
「そうですよ。他の誰のものでもありませんよ」
「そうか、いいものだな」
「俺達の音楽がですか?」
俺達はその言葉に尋ねた。昼だというのに外は凍える様に寒い。だが心だけは熱かった。そしてもっと熱くなってきていた。興奮しだしていた。
「いや、両方がだよ」
日本語でこう返してきた。
「両方」
「君達の音楽と心だ。両方共気に入った」
「はあ」
「どうだい、私と一緒に来ないかね?」
「貴方とですか!?」
「イエス」
ここでは英語になっていた。
「どうだい、一緒に来ないかね」
「飯でもおごってくれるのかな」
「だったらいいんじゃねえか?丁度腹も空いてきたところだしな」
「ははは、食事だけじゃないさ」
おっさんは俺達の言葉を聞いて顔を崩してきた。
「その他のことも。色々と話がしたいんだ」
「何だろうな」
「とりあえず行ってみるか?まさかこんなむさ苦しい男を売り飛ばすなんて奴はいないだろうしよ」
「そうだな。それじゃあ」
俺は仲間達と相談した後でおっさんにまた顔を向けた。
「七人もいますけど。いいですか?」
俺達のバンドは特別だった。ヴォーカルが三人にギターの俺とベース、ドラム、そしてサックスの七人だ。ヴォーカルがキーボードとかをやったりする。楽器も多いが人間も多い。そんなバンドだった。
「ああ、いいとも」
おっさんは顔を崩して応えた。
「それじゃあバーガーショップにでも行こう。そこでゆっくりと話をしたい」
「はい」
俺達は付いて行った。これがアメリカでの全ての、音楽での俺達のはじまりだった。
そのおっさんは何とプロデューサーだった。俺達の音楽を聴いて興味を持ったと話してくれた。
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