Element Magic Trinity
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眠れる塔の女騎士
前書き
女騎士、と書いて、お姫様、と読むそうです。
魔法評議院、ERA。
「楽園の塔に27億イデアの魔力蓄積!」
「そんな魔力一か所に留めて置いたら暴発するぞ!」
「てか、どうなってんだこれは!」
何の変哲もない―――強いて言えばその存在が禁忌という事―――の塔が、超絶時空破壊魔法、エーテリオンを吸収した。
当然前例のなく、想像を絶する光景に、評議員たちは全員慌てている。
「やられた・・・やられたっ!くそォ!」
まんまとジークレインに一杯喰わされていた事に気づいたヤジマは悔しそうに顔を歪める。
すると、その手を乗せる手摺が、突如崩れ始めた。
「!」
手摺だけではない。
床、天井、壁・・・全てが崩れていく。
「何だ、これは!?」
「建物が急速に老朽化してる!?」
「失われた魔法、時のアークじゃと!?」
「あかん!崩れよる!」
「逃げ・・・ぷぉ!」
「レイジ老師!」
「うわああ!」
「ひいいい!」
「どうなってんだーっ!」
「た、助け・・・」
「ひゃあああ!」
何の前触れもなく崩壊を始める建物から、必死に逃げる評議員達。
そんな中、ヤジマの目に部屋の中央に立つ女性が映った。
「ウルティア」
その女性・・・ウルティアは、崩壊する建物に怯える素振りすらも見せず、ただ立って天井を見上げていた。
「全てはジーク様・・・いえ・・・ジェラール様の為」
そう言って、ウルティアはゆっくりとヤジマに顔を向ける。
その顔には、笑みが浮かんでいた。
「あの方の理想は今ここに、叶えられるのです」
「いや~、見事に崩れたな」
そんな評議院を、少し離れた場所で見ている2人組がいた。
1人は群青色の髪と瞳の青年。
もう1人はキャラメルカラーのセミロングの少女。
「ありがとな、助かったぞ。バンビ」
「私はバンビじゃないのです!」
くしゃっとそのキャラメルカラーの髪に手を乗せる青年・・・クロノに、バンビと呼ばれた少女は必死に―――本人は至って必死だが、全く怒っているようには見えない―――反論する。
「あー、そういやそうだったな。えっと・・・」
「メープルです!メープル・エレシャリオン!妖精の尻尾顧問薬剤師のポーリュシカ先生の1番弟子です!」
少女・・・メープルは彼女としては早口で一気に言い切ると、近くのベンチに腰掛ける。
「悪い悪い。でもホント助かった。お前が『アイツ』の情報解析魔水晶持ってたおかげで、ジェラールの事知れたしな」
「でも驚きましたよ。まさか、ジークレインさんがジェラールさんの思念体だとは」
メープルは肩を竦め、何かを思い出した様に瞬きをした。
「そうだ、クロノさん。もうすぐ『ナギ』の――――」
「・・・解ってる。あと3日だろ」
フッと、クロノの表情が一気に消える。
「お前の従姉妹・・・そして、俺の彼女『だった』女の―――――命日はよ」
クロノの言葉に、メープルは無言で頷く。
「早いよな・・・アイツが死んで、俺が評議院に入ってからもう6年だってよ」
「彼女のいたギルド・・・青い天馬でしたっけ。ボブさんから『顔を出すなら連絡ちょうだい』って」
ナギ。
クロノの彼女であり、メープルの従姉妹であり、青い天馬の魔導士であり、クロノとメープルが出会ったきっかけであり・・・6年前に命を落とした彼女。
「・・・んじゃ、俺ぁそろそろ行くわ。ヤジマの旦那んトコいねぇと怪しまれるし」
「はい。では3日後にまた」
そう言って頭を下げ、メープルがくるっと背を向けた瞬間。
「あ、そうだ」
今度はクロノが何かを思い出したように声を上げた。
振り返り、こてっと首を傾げる。
「この事は誰にも言うなよ?」
「この事、ですか?」
「解ってんだろ」
わざと解らないというように首を傾げるメープルに、呆れたようにクロノは苦笑する。
「俺がジークレインの正体にも、企みにも気づいていながら、それを黙認してた事だよ」
そう。
彼は初めてジークレインと会った時から、薄々は気づいていた。
コイツは普通の人間じゃない、と。
そして彼とよく一緒にいるウルティアとの会話を盗み聞いたりし、彼等の企みにも気づいた。
そこにクロノが何よりも信じているメープルの情報が入り、それは確かなものへと変わった。
が・・・それを彼は、誰にも言わなかった。
「解ってますよ、クロノさん。安心してください。私、嘘をつくのも貫き通すのも得意なんです」
メープルが微笑む。
彼女は、クロノの思考を妹のティアや弟のクロスよりも熟知している。
だからこそ協力し、だからこそ隠し通すのだ。
「それならいいや。んじゃ、またな~」
背を向け、肘まで曲げた右手をヒラヒラと振りながら、クロノは歩いていく。
それを見届け、メープルも歩き出した。
「安心してくださいね。私は―――――――」
誰にも聞こえない声で、メープルが呟く。
その顔に先ほどまでの優しい笑顔はなく、ただ、無表情だった。
「―――――偽る事で生きているんですから」
凄まじい魔力を吸収した楽園の塔近海で、ショウは声を上げた。
「Rシステムだ」
「何!?」
ショウの言葉にグレイが驚愕する。
グレイだけではない。声は出さないが、その場にいる全員が驚愕していた。
「俺達が造っていたRシステムの本当の姿だゼ」
「作動してる」
「作動って!?まさか、ゼレフが復活するの!?」
ルーシィが慌てた様子で振り返る。
「解らない・・・俺達だって、作動してるのは初めて見るんだ」
が、作動している姿を見るのは初めてであり。
ルーシィの問いに、ショウはそう答えるしかないのだった。
楽園の塔、頂上。
「くあぁっ!」
ジェラールの攻撃によって、エルザは吹き飛ばされていた。
「さっきまでの威勢はどうした?斑鳩との戦いで魔力を使い果たしていたか?」
ジェラールのバカにしたような言葉に、エルザは回転して地を蹴り、別空間から見るからに重そうな剣を換装し、ジェラールに向かっていった。
「ジェラァアァアァァル!!!!」
叫びながら、剣を振るう。
しかし、ジェラールは『ジークレインとして』聖十の称号を持っていた男。
エルザの攻撃をいとも容易く避けた。
「今頃、評議院は完全に機能を停止している。ウルティアには感謝しなければな」
エルザは右手に持っているのと同じ剣を、左手にも持つ。
「アイツはよくやってくれた」
残りの魔力は多くない。
冷静に、そして力強く、エルザは剣を振るっていく。
「楽園にてすべての人々が1つになれるのなら」
その攻撃を、ジェラールは手から放つ魔力の球体を刃に当て、防いでいた。
「死をも怖れぬと・・・」
跳んだと同時に放たれるエルザの攻撃を、身を逸らして避ける。
「まったく、バカな女である事に感謝せねばな」
そう呟くジェラールの顔は、怪しげな薄い笑みが広がっていた。
「貴様が利用してきた者全てに、呪い殺されるがいい!」
そんなジェラールにエルザが怒号を上げ。
―――――突然、動きを止めた。
「な、何だこれは!?」
右腕がピクリとも動かなくなる。
見ると、エルザの右腕には赤い蛇模様が走っていて、エルザの体を拘束していた。
「拘束の蛇。さっき抱き合った時に付けておいたものだ」
ジェラールがそう言う間にも、蛇模様はエルザの腕から腹へ、背中へ、逆の腕へと走っていく。
「う、あ・・・体が、動かん!」
ガシャ、ゴトッと音を立て、両手に持っていた剣が落ちる。
「Rシステム作動の為の魔力は手に入った。あとは生け贄があればゼレフが復活する。もうお前と遊んでる場合じゃないんだよ、エルザ」
拘束され苦しむエルザを見ても、ジェラールの表情は変わらない。
「この27億イデアの魔力を蓄積した魔水晶にお前の体を融合する。そしてお前の体は分解され、ゼレフの体へと再構築されるのだ」
「が・・・うあ!」
ジェラールがエルザに説明し終えるのを待っていたかのように、ジェラールが言い終わったと同時にエルザは近くの魔水晶に吸い込まれ始める。
「お前の事は愛していたよ、エルザ」
「ああああああっ!くそっ!くそぉっ!」
必死に魔水晶から脱出しようとするが、拘束されたエルザの体は言う事を聞かず、もがいてももがいても出る事は出来ない。
「偉大なるゼレフよ!今ここに!この女の肉体を捧げる!」
ジェラールが両手を上げてそう叫び宣言すると、魔水晶から魔力が溢れ始める。
「ジェラール・・・」
エルザはジェラールの名を呟く。
が、ここにいるジェラールはエルザの知る、あの優しかったジェラールではない。
ゼレフの亡霊によってゼレフを復活させようとしているジェラールなのだ。
「ジェラァーーーールゥゥーーー!!!!」
左目から涙を流しながら、エルザはジェラールの名を叫ぶ。
そしてエルザの体は完全に魔水晶に取り込まれ―――――
「おっと」
「間に合ったわね」
―――――る事はなかった。
右腕を掴み、魔水晶に吸い込まれかけていたエルザを2人の人物が救った。
その光景にジェラールが、エルザが驚愕で目を見開く。
「エルザは妖精の尻尾の魔導士だ。渡さねーぞ」
笑みを浮かべてそう言うのは、ナツ。
その横で変わらない無表情で腕を組むのは、ティア。
「ナツ、ティア・・・」
「な~にしてんだよ。早く帰って仕事行かねーと、今月の家賃払えねーぞ。ルーシィが」
「そうね。アイツは毎回毎回家賃家賃うるさいもの。きっと今月も金欠よ」
ドサッとエルザを床に横たわらせる。
「ス、スマン・・・体が・・・動かなくて・・・」
「ほ~う」
それを聞いたナツは、意地悪そうな笑みを浮かべる。
「普段ヒデェ目にあってるからな!こ~れでもくらえっ!」
そして、エルザの体を擽り始めた。
「や・・・やめっ」
「かっかっかーーーっ!」
「やめなさいバカナツ」
「うごっ」
そんなナツの明らかに空気を読んでいない行動を止める為、ティアはその背中に飛び蹴りを決めた。
「ナツ・・・ティア・・・今すぐここを離れるんだ・・・」
「嫌よ。私もコイツも、そんな簡単に引き下がるほど素直じゃないの」
「お前が無理なら代わりに俺達がやってやっからさ」
「よせ・・・」
2人の言葉に、エルザはゆっくりと言葉を紡ぐ。
「相手が悪い・・・お前達はアイツを知らなすぎる」
「知らなきゃ勝てねぇもんなのか?」
「私、知らない相手で普通に勝ってきたけど」
ティアは無表情のまま、自分が過去に戦ってきた人間を思い出す。
そして「知ってる人間は少ないわね」と呟いた(ちなみに『知っている人間』はナツとかである)。
「頼む・・・言う事を聞いてくれ・・・」
そう懇願するエルザの左目から、じわっと涙が溢れ、流れる。
それを見たナツとティアは顔を見合わせた。
「よっ」
「な・・・何を・・・」
エルザが戸惑う中、ナツはエルザを抱き抱える。
「エルザ、俺もティアもお前を全然知らねぇ」
「え?」
ナツの言葉をエルザが聞き返した、瞬間――――――
「「けど勝てる!!!!」」
2人は同時に同じ言葉を口にし―――――
「がっ!」
ナツは左拳を、ティアは右拳を、エルザの腹に叩き込んだ。
その光景に、ジェラールも目を見開く。
「・・・」
ズリ・・・とエルザの体は落ち、ドサッと床に倒れ込む。
「噂以上の傍若無人ぶりだな。身動きできねー仲間を痛めつけて満足か」
2人の背中に、ジェラールが声を掛ける。
「・・・黙りなさい。愚者が」
そんなジェラールに、ティアは殺気だけを含ませた声を響かせた。
それと同時に、彼女の体から凄まじい量の殺気が噴き出す。
「エルザが、泣いてた」
ナツが、ゆっくりと口を開く。
「弱音を吐いて、声を震わせていた」
握りしめた拳は、怒りで震えている。
「そんなエルザは見たくねぇ。エルザは強くて凶暴でいいじゃねーか」
そこまで言い、2人は振り返る。
ナツの顔は怒りで燃え、ティアの顔は無表情であり、殺気立っていた。
「目が覚めた時、いつものエルザでいてほしいから、俺達が戦うんだ」
ナツの言葉に、ジェラールは笑みを浮かべる。
「面白い。見せてもらおうか、ドラゴンとカトレーンの魔導士の力を」
その言葉を皮切りに、ナツは右拳に炎を纏い、ティアは水の剣を持ち、ジェラールに向かっていった。
後書き
こんにちは、緋色の空です。
1番書きたい話まであと少し・・・楽しみです。
途中で名前だけ出てきた『ナギ』は、これからも名前だけ出るかもしれません。
まだ予定ですが。
感想・批評、お待ちしてます。
9月22日、クロノの恋人の名前を変更しました。
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