Element Magic Trinity
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運命
「これで終わりどす!」
刀を構えた斑鳩がエルザに向かっていく。
「姉さん!」
「エルザ!」
カッ、カッ、カッ・・・と厚底の下駄が地を踏みしめる音が響く。
それとほぼ同時にショウとアルカの声が重なる。
エルザが2本の刀を構え、力強く斑鳩を睨みつけ―――――
桜の花弁が舞い、エルザと斑鳩が激突した。
静寂。
似た態勢で静止するエルザと斑鳩。
そんな2人を、ショウは目を見開いて、アルカは真剣な表情で見ていた。
「くっ!」
声を上げたのはエルザだった。
斑鳩が笑みを浮かべたと同時に、その右肩が斬れ、血が噴き出す。
「勝負あり」
斑鳩が勝利を確信し、呟く。
――――――刹那、斑鳩の目が見開かれた。
「ごぷっ!」
斑鳩の腹辺りから、血が噴き出した。
「そ・・・そんな・・・」
信じられない、というように目を見開く斑鳩。
それを見たショウの表情が驚愕から歓喜へと変わり、アルカが面白いものを見つけた時とは違う、晴れ晴れとした笑顔を浮かべる。
「うあああああ・・・!」
ドサッと背後で倒れる斑鳩に目を向けず、エルザは立っていた。
斬られた右肩からは流血しているが、刀を持ち、しっかりと立っている。
「凄い!やっぱ姉さんは凄いよ!」
「っしゃあああ!」
ショウが嬉しそうに叫び、アルカはガッツポーズをする。
息を切らすエルザに、倒れる斑鳩が声を掛けた。
「み・・・見事、どす・・・うちが、負ける、なんて・・・ギルドに入って以来・・・初めてどす・・・しかし、あなたもジェラールさんも負けどすわ・・・」
その言葉に、エルザは斑鳩の方を振り返る。
「15分・・・」
そう呟き、塔の天井に手を伸ばす。
「♪落ちてゆく~正義の光は~皆殺し~」
震える手を必死に伸ばし――――――
「ぷ、ひどい詩・・・」
がくっと気を失った。
「15分!?エーテリオンの事か!?」
斑鳩の言葉にエルザが斬られた肩を押さえながら、驚愕する。
そして、斑鳩とは逆方向に立つショウとアルカに目を向けた。
「ショウ、アルカ、ケガは平気か?」
「う、うん。なんとか・・・」
「ジャケット以外は無事だぞ」
傷口を押さえて立ち上がるショウと、ズボンのポケットに閉まったジャケットだった布をポケットの上から叩くアルカ。
「今すぐシモン達や私の仲間達を連れて、この塔を離れるんだ」
「!」
「は!?」
エルザの言葉に2人は驚愕する。
「で・・・でも・・・」
ショウが何かを言いたげに口を開く。
「私の言う事が聞けるな、ショウ」
が、完全に言い切る前に、エルザが優しい笑みを浮かべて遮った。
それを見たショウは言葉を失くし、俯く。
「うん・・・」
その返事を聞いたエルザは、ひたひたと廊下の奥へ向かっていく。
「おいエルザ。お前はどうすんだよ?」
アルカの言葉に、エルザは顔を向けず―――――
「決着をつけてくる」
その眼に怒りを宿し、強く言い放った。
「!」
エルザ達とは別の廊下で、ナツは目を覚ました。
「うお!?」
「目が覚めたか、ナツ」
正確に言えば、シモンに背負われた状態で目を覚ました。
そのシモンの隣を、ティアが無言で歩いている。
「あれ?」
ナツはきょろきょろと辺りを見回す。
「確か俺、変な『乗り物』に乗せられて・・・」
気を失うまでの事を思い出すナツ。
梟にロケットに乗せられた事を思い出し―――
「おおお・・・おぷぅ」
「よせ!思い出して酔うんじゃねぇ!」
「アンタどれだけ乗り物ダメなのよ!」
―――思い出して、酔った。
シモンとティアが思わずツッコむ。
そして事情を知らないナツに、シモンが説明を始める。
「その後お前は梟に食われてグレイに助けられたんだ」
「グレイに!?」
「だけどグレイも相当のダメージを負ってしまってね。ハッピーが塔の外に連れ出しているわ」
シモンの背から降りたナツは2人の言葉に驚愕する。
「だーっ!ありえねぇ!俺が負けてグレイが勝っただとー!?」
「別に負けた訳じゃねーだろ。食われたんだ」
「このネタで1か月はいじられんぞ!アイツネチっこいからな~くそ~」
「オイオイ」
「アンタに言われたらおしまいね」
ティアが肩を竦める。
「こうしちゃいられねぇ!リベンジだ!あの梟ともう1回戦ってくる!今度は片手だな!それくらいのハンデがなきゃ・・・」
「そんな事してる場合じゃねーんだよ!」
「やめなさいバカナツ!」
「うごっ」
再び梟と戦おうとするナツをシモンがマフラーを掴んで止め、ティアはその背中に飛び蹴りを決める。
ティアの飛び蹴りの痛みを堪えながらナツは起き上がった。
「・・・つーか、アンタ誰だっけ?」
今更ながらの質問をするナツ。
「シモンだ。エルザの昔の仲間だよ・・・ぐっ!」
ナツの問いにシモンは軽い自己紹介をし、突然腹を抑え膝をついた。
「お前、ケガしてんのか!?」
「お・・・俺の事はいい。よく聞け・・・ナツ、ティア」
突然膝をついたシモンを見てナツは戸惑うが、シモンは話を続ける。
「さっきウォーリーとミリアから『通信』があった。倒れてるルーシィとジュビア、その2人の近くに座っていたルー、そして三羽鴉の1人を見つけたとな。事情を知らねぇアイツ等は戸惑っていたが、ルーシィ達を塔の外へ連れ出してもらった」
そこまで言って一旦区切り、さらに続ける。
「そしてすぐにショウの通信で、三羽鴉が全滅した事を知った」
「俺何もしてねぇ!」
ナツは思わず叫ぶ。
そこでシモンは口を閉じ、代わりにティアが口を開いた。
「三羽鴉じゃないけど、私が1人倒したから、もうジェラールの用意した4人の戦士は残っていないわ」
ティアはそう言い、戦ったジェメリィを思い出す。
そして、ぎゅっと唇を噛みしめた。
「残る敵はジェラール1人。そこはエルザが向かっている。アイツは全ての決着を1人でつけようとしてるんだ」
シモンの言葉をナツとティアは真剣な表情で聞く。
「あの2人には8年にわたる因縁がある。戦わねばならない運命なのかもしれない。だが・・・ジェラールは強大過ぎる・・・」
そこまで言い、下がっていた目線を2人に向ける。
「頼む、エルザを助けてくれ」
ナツとティアにそう頼み込むシモン。
それを聞いた2人は顔を見合わせ―――――――
「やなこった」
「お断りよ」
「!?」
シモンの頼みを断った。
カコォーン。
騎士の駒が、着物を着た駒を倒す。
チェス盤にジェラールの4人の戦士の駒は1つも立っていない。
立っているのは、エルザ側の駒だけだ。
「やれやれ、ゲームはもう終わりか」
カラン、コロコロ、と。
チェス盤の上の駒を動かし、残念そうに呟くジェラール。
「人の命で遊ぶのがそんなに楽しいか?」
そこに、ジェラールのものではない声が響いた。
その声の主が誰か、ジェラールは解っているようで、顔も向けずに言葉を紡ぐ。
「楽しいねぇ。生と死こそが全ての感情が集約される万物の根源。逆に言えば、命ほどつまらなく虚しいものはない」
そう言うとジェラールはゆっくり、声の主に目を向けた。
「久しぶりだな、エルザ」
声の主・・・エルザは、強い意志と覚悟だけの表情で、ジェラールを睨みつける。
「ジェラール」
8年ぶりの再会・・・その再会は、誰もが喜ばないものだった。
「感動の」という言葉が何よりも似合わず、8年ぶりだというのに戦わなければならない・・・辛く悲しい再会。
「その気になればいつでも逃げ出せたハズだが?」
お互いがお互いを見つめ、睨み、静かに声を響かせる。
「私はかつての仲間達を解放する」
「構わんよ。もう必要ない。楽園の塔は完成した」
お互いに違う決意があり、意志があり、動く。
「あと10分足らずで破壊されるとしてもか?」
「エーテリオンの事か?クク・・・」
小さい笑い声が、大きく響く。
「その余裕・・・やはりハッタリだったか」
静寂の中に、エルザの怒りの滲んだ声が響く。
ぐっ、と。エルザは持っていた刀を強く握りしめた。
「いや・・・エーテリオンは落ちるよ」
ばさ、と。
ジェラールがずっと被っていたフードを外す。
それと同時に、エルザが刀を構えた。
「それを聞いて安心した!10分!貴様をここで足止めしておけば、全ての決着がつく!」
エルザの言葉に、ジェラールは嘲り笑うように言葉を返した。
「いや・・・お前はゼレフの生け贄となり死んでいく。もう決まっている。それが運命だ」
「貴様等・・・仲間を・・・エルザを助けないというのか・・・」
シモンの言葉に、変わらない氷の如く冷え冷えとした声でティアは呟く。
「助ける助けない以前の問題ね。私はエルザがどうなろうと興味ないし、関係もない。アイツが誰を倒そうが他人事だし」
「エルザの敵はエルザが決着をつければいい。俺達が口を挿む問題じゃねぇな」
ティアに続いてナツもエルザを助ける事を拒否する。
が、シモンはそんな事では引き下がらない。
「エルザではジェラールに勝てない!!!!」
「アイツをバカにすんなよコノヤロウ!!!!」
「違う!力や魔力の話じゃねぇんだよ!!!!」
そう怒鳴りながら、シモンはナツのマフラーを掴む。
先ほどの梟と再戦しようとするナツを止める時とは違う、エルザを助けてほしいという気持ちでいっぱいの力で。
「エルザは・・・アイツは未だにジェラールを救おうとしてるんだ!!!!」
そう怒鳴るシモンの脳裏に、奴隷時代の光景が蘇える。
ジェラールの話を一心に聞き、笑顔を浮かべるエルザの姿が・・・。
「俺には解る!!!」
そんなエルザの事がずっと好きだったから・・・エルザをずっと見てきたから・・・。
ナツやティアの知らない『ジェラールと過ごしていたエルザ』を知っているシモンは理解していた。
「アイツにジェラールを憎む事など出来ないから!!!!」
必死の表情で怒鳴り語るシモンに、ナツとティアは言葉を失う。
ぱし、とシモンはナツのマフラーから手を離した。
「ジェラールは狡猾な男だ。エルザのそういう感情をも利用してくる」
楽園の塔の外では、既に夕日が沈みかけていた。
小窓から、オレンジ色の光が零れる。
「状況はさらに悪い。評議院がここにエーテリオンを落とそうとしているのは知っているな。もちろんそんなものを落とされたら塔の中の人間は全滅だ。ショウの話ではあと15分・・・いや、もうあと10分か」
「何!?」
「は!?」
エーテリオン射出のタイムリミットを聞いて、ナツとティアは驚愕の声を上げる。
「エルザは全員を逃がせと言って1人で向かった。エルザの事はよく知っているだろ?まさかとは思うが・・・エーテリオンを利用してジェラールを道連れに死ぬ気かも知れん」
シモンがそう言った瞬間、ナツが歯を食いしばる。
「何で・・・何でそれを先に言わないのよっ!!!!!」
ティアが声を荒げ、身体を小刻みに震わせる。
半殺しのプロが『死』という単語に並の人間以上に恐怖を覚えているのだ。
その脳裏で、1つの映像が途切れ途切れに現れ、消える。
「エルザはどこにいるんだぁ!!!!!」
後書き
こんにちは、緋色の空です。
書いてる時はナツとティアって最高のペアだと思うんですけど、書き終わるとそーでもなくなる気が。
・・・何故でしょうね。
感想・批評、お待ちしてます。
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