ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
百二十話:ケジメを付けるということ
前書き
久しぶりの本編更新につき、話を引っ張りすぎないように文量多目です。
暴力的な表現が含まれますので、苦手な方はご注意ください。
洞窟からリレミトで脱出して、村に戻って。
モモを連れて歩く私たちを、村人たちがざわめきながら、遠巻きに見守っています。
……うん、まあ、そうだよね。
むしろいきなり罵倒されないだけ、マシだと思うべきよね。
モモを連れてる以上、したくてもできないのかもしれないが。
そんなことを考えつつ歩く私に、少年が駆け寄ってきます。
おお、勇気あるね!
無知ゆえの無謀かもしれないけど、こういうときはこの無邪気さがありがたいよね!
目の前の少年は目をキラキラさせて私を見上げ、期待と興奮を抑えきれないとでも言うように、勢い込んで話しかけてきます。
「おねえちゃん!おねえちゃんって、モンスター使いなんだべか?」
おお、そうだった!
この子は、知ってるんだった!
主人公の肩書きを左右する、重要なモブでしたよ!
無知だなんて、考えただけでも失礼にもほどがあったね!
謝罪の気持ちも込めて優しく微笑みかけ、答えます。
「そうだよ」
私の返事を受けて、さらに顔を輝かせる重要モブ少年。
「……すげえだな!この、でっかいのも、おねえちゃんの仲間だべか!?撫でても、ええだか!?」
中身は優しく可愛らしい乙女とは言え、見た目は屈強な肉食獣であるところのモモを前にしても怯まないとは!
勝手にモフらず許可を求めるところといい、なかなか見処のある少年ですね!
モモも、ニコニコして応じてます。
「ガウウ!」
『いいよー!』
「うん、いいって。優しくしてあげてね」
「んだ!おら、うちのコロで慣れてっから!大丈夫だべ!」
早速手をかざしてモモに近付く少年の姿に、野太い悲鳴のような声が上がります。
「馬鹿野郎!!やめるだ!!」
……ああ、遂に。
そういう人が、寄ってきてしまうわけですか。
いいけどね、別に。
遅かれ早かれ、こうなるってわかってたからね。
視線に諦めを含ませつつ成り行きを見守る私の前で、必死になるあまり恐ろしい形相になったおっさんが少年に駆け寄り、引っ掴むように抱き上げて回収します。
さらに、腕の中に確保した少年に怒鳴り付けるおっさん。
「馬鹿なことするでねえ!!噛みちぎられでもしたら、薬草じゃどうしようもねえべ!!」
モモは、そんなことしないけど。
親御さんのご心配としては、まあごもっともですね。
しかし息子さんはモンスター使いを知っていて、安全ってわかって近付いてきたのに、このおっさんは知らないのか。
知らずに、頭ごなしに子供を怒鳴るのか。
少年が不満そうな顔で口答えします。
「だども、父ちゃん」
「言い訳はいいだ!!帰るだぞ!!」
「あ、おねえちゃん!あの」
この状況で、私のことを気にかけてくれるとは。
こんな村にあって、本当に有望な少年ですね!
そのまっすぐな気質が理不尽に歪められないことを祈りつつ、また微笑みかけます。
「大丈夫。……ごめんね」
私が来なければ、怒られることも無かったのにね。
モンスター使いを知ってる子供が、見れば興味を持つのは当たり前だけど。
私と関わったせいで、怒られることになっちゃって、ごめんね。
微笑む私の前で少年はハッとしたように真顔になって、本気でおっさんに抵抗を始めます。
「……おねえちゃんは悪くねえ!父ちゃん、離せ!」
逆らって暴れる息子の様子に、おっさんはさらに怒りを増大させて怒鳴ります。
「ガキがいっちょまえに、色気付いて!!いいから、黙って帰るだ!!」
……穏便に済ませて頂きたかったのに。
逆効果だったか。
本当に、悪いことをした。
ごめんよ、少年。
内心で少年に懺悔する私の後ろで、仲間たちが不穏な気配を醸し出します。
こっちも宥めておかないと、今からこんなんではこの後大変なことになりそうだ。
振り返って、仲間たちに声をかけます。
「……みんな。大丈夫だから。仕方ないよ、あれが普通の反応だと思う」
「……そうかも、しれないが。だからって」
「私は大丈夫だから。モモ、ごめんね。そんなに時間はかけないから、少しの間、我慢してくれる?」
「ガウ……ガウウ……」
『あたしは、いいけど……。それより、ドーラちゃん』
「大丈夫だから。モモがいいなら、もう行こう」
説得しようったって無理な話だと思うので、それぞれに何か言いたげなのを、ほとんど無理矢理に黙って頂いて。
村人たちに遠巻きにされながら、村長さんの家に向かいます。
村長さんは、まさしく苦虫を噛み潰したような渋面で、私たちを待ち構えていてくれました。
その表情のまま、静かに口を開きます。
「……話は聞いただ。わかってる、何も言うな。金は、払う。約束だからな。また化け物をけしかけられたら、たまったもんでねえ」
さっき村に着いたところで、姿を見せる以外に何もしてないが。
誰に、どんな話を聞いたんだ。
「……お金はいりません。ですから、少し話を」
「オラたちのほうには、話すことは何もねえ。とにかく、早く出ていってくれろ。厄介事は、もうたくさんだべ」
聞く耳持たないってヤツですか。
理解してもらえるなんて、最初から期待してなかったけど。
でも嫌な思いをするってわかってても戻ってきたのは、きちんと筋を通すためだから。
わかってもらえなくても、言うことは言ってから行かないと。
「……それなら。あなたは何も言わなくていいので、ただ、聞いてください」
「……」
返事はありませんが。
答えてくれないならいいように受け取って、勝手に進めるだけです。
「この子は、私の大切な家族です。生き別れになって、ずっと探していました。悪気があってのことではないとは言え、私の家族がご迷惑をかけてしまったのは、事実です。だから、お金はいりません。本当に、申し訳ありませんでした」
私の言葉を咀嚼するように、村長さんが黙ってこちらを見詰めます。
ややあって、また村長さんが口を開いて。
「……その化け物が、あんたの仲間なのは、認めるだな?」
私の、大切な家族って。
今、言ったところなのに。
こちらの言いたいことを、ちゃんと理解して受け取ってくれるような相手なら、そもそもこんな話になってないけど。
でも、それは聞き流せない。
「化け物ではありません。私の大切な家族で、仲間です」
「……なら、やっぱり、金は受け取ってもらうだ。オラにわかるのは、あんたとその化け……それが、仲間で、間違いなく一緒さいるってことだけだ。オラは、この村を守らねばなんねえ。厄介事は、ごめんだべ」
また化け物と言いそうになったのは、睨み付けてやめさせましたが。
本当に、自分の聞きたい情報しか受け取らないんですね。
期待なんて、してなかったけど。
物事をきちんと理解できる能力がなくて、それでもなんとか村を守ろうとするのなら。
理解できないものを切り捨てることで守ろうとするのも、それはそれで正しいんだろう。
場合によっては逆に不利益を招く行為だけど、私は今回の件が片付いたら、もうこの村に関わるつもりは無いんだから。
少なくとも私個人への対応としては、村のことだけを考えるなら別に間違ってない。
私にどう思われたって、村に不利益は無いんだから。
そして、私は言うべきことは言ったから。
相手に理解する気が無いとわかれば、後は話を終わらせるだけ。
「……私が、このお金を受け取れば。あなた方は、安心できるのですか?」
「そういうことだ。その金さえ渡してしまえば、こんなシケた村に用はねえべ。オラたちとしても筋は通したことになるで、話はそこで終わりだべ」
「……そうですか。では、これは頂いていきます」
「そうだか。なら、もう用はねえだな。もう、会うこともねえべ」
「そうですね。お世話になりました。では、私たちはこれで」
モモをしつこく化け物なんて言わなければ、最後にもう一回謝って帰るところだけど。
でも一回は謝ったし、何度も謝ったところでどうせ相手に許す気は無いというか、何について謝ってるのかすら理解する気は無いんだから。
私の家族を化け物呼ばわりされたことを謝られてないし、こんな態度を取り続ける相手に形だけ謝られても許す気は無いし。
歩み寄る姿勢を見せる必要は、どちらの立場からしても既に無いので、淡々と別れを告げて村長さんの家を出ます。
外に出たところで、村長さんの家ではずっと黙ってたモモが、悲しそうな声を出します。
「ガウウ……ミュウ……」
『ドーラちゃん、ごめんね……。あたしのせいで……』
……あのおっさんにどう思われるかより、モモがどう思うかのほうが、よっぽど重要なのに。
モモもきっと同じだろうけど、筋を通したいっていうのも、私のわがままみたいなものだからなあ。
モモも含めて、他のみんなは気が進まなそうだったのに。
モモがこんなに悲しそうにしてるのも、ある意味、私のせいだよなあ。
「モモは、悪くないよ。ごめんね、化け物なんて呼ばせて、嫌な思いさせちゃって」
「ガウウ!ガウ!ガルルルル!」
『ううん!ドーラちゃんは、違うって言ってくれたもん!あのおじさんになんて言われたって、ドーラちゃんがわかってくれてたらいいの!』
「うん、私もだよ。あの人になんて言われたって、モモとみんながわかってくれてるから、大丈夫」
「ガウ……!」
『ドーラちゃん……!』
同じ気持ちで通じ合うモモと私が和やかに見詰め合っていたところに、招かれざる闖入者が現れます。
「は!やっぱり、オラの言った通りだ!飼い慣らした化け物をけしかけておいて、善人ぶって金さ巻き上げにくるとは!可愛い顔して、とんだ悪女だべ!」
もちろん、理不尽お兄さんでした。
ああ、最悪だ。
この人ともう一人は絶対に来ると思ってたけど、最悪なほうが先に来た。
和やかな空気が台無しだ。
……それはともかく、また聞き流せない単語を、当然のように。
「……私のことは、どう言われても構いませんが。この子を、化け物と言うのはやめてください」
悲しそうな顔が、せっかく明るくなったところなのに!
私はともかく、モモを理不尽に貶めるのは本当に許せない!
怒りを込めて睨み付ける私に向けて、理不尽お兄さんが鼻で笑います。
「は!この期に及んで、まだいい子ぶるだか。さすが、徹底してるだな。カールを誑して、いい男さ侍らせて。顔だけでなく、体もさぞ、具合がいいんだべな?」
……この人は。
若い癖に親父臭いというか、言うことがいちいち下品なんだよね。
内容だけじゃなく、言い方も態度も。
ニヤニヤしながら舐め回すように全身を見るとか、本当に気持ち悪いんですけど。
女と見れば、そういう考えしか浮かばないのかね。
「……おい。いい加減に」
「……ヘンリー。やめて」
ああ、ヘンリーがもう切れそう。
後ろのピエールとモモからも、殺気がすごい。
理不尽お兄さんもこの間は威圧されてあっさり腰抜かしてた癖に、私を眺め回すのに夢中で全然気付いてないみたいだし。
自分の命が風前の灯火であることにも気付かずに、ニヤニヤと気持ち悪い笑いを浮かべた理不尽お兄さんが、ジリジリとにじり寄ってきます。
「どうだ?オラとも、一晩付き合わねえだか?どうせ、好き者なんだべ?悪女でもいい女だ、オラとしても願ったりだ。一晩中、じっくり楽しませてやるだから」
目の前の男の気持ち悪さよりも、隣の人の怒りが気になって仕方なかった私が、プチッと何かが切れる音を聞いたような気がしたところで。
「……すまん、ドーラ。俺は、もう無理だ」
「ヘンリー!!」
宣言して動き出すヘンリーを咄嗟に押さえようとしますが、その前に私が背後からピエールに腕を押さえられ、何の妨害も受けずに飛び出したヘンリーが理不尽お兄さんに殴りかかって殴り飛ばし、悲鳴を上げる理不尽お兄さんに追い縋ってさらに殴り続けます。
……ちょ、これは!
本気で殴ったらきっと一撃で死ねるから、たぶん手加減はしてるんだろうけど!
でも加減しても、そんなに殴ったら死んじゃう!!
「ピエール!!離して!!」
もがく私を、あくまで冷静さを崩さないピエールが、痛みも感じさせずに抑え込みながら答えます。
「ドーラ様、こればかりは。拙者とて、ヘンリー殿に加勢致したいところ。ドーラ様を巻き込まぬよう、抑えておるに過ぎませぬ」
「だけど!!このままじゃ、ヘンリーが!!」
……殺人犯になってしまいます!!
それも、私のせいで!!
「殺す前には、お止め致します。拙者とて、あの程度の者のためにヘンリー殿のお手を汚させるのは本意ではありませぬ。死ぬより恐ろしい目というのも世の中にはありますゆえ、殺す必要も無いでしょう」
……なんか、恐ろしいこと言ってるんですけど!!
これは殺人事件に発展しないであろうことを喜ぶべきなのか、ギリギリまで止めさせてもらえないだろうことに戦慄するべきなのか。
為す術も無く呆然と事態を眺める私の前で、ボコられて叫び続けていた理不尽お兄さんの悲鳴が止み。
ピエールがすかさず私から離れて、ヘンリーを止めに入ります。
拘束から解放されてもまだ呆然としている私は、ただ見ていただけですが。
「ヘンリー殿、その辺りで」
「……こんな奴!!もう、殺しても」
激情が収まらない様子のヘンリーが暴れるのも、ピエールはきっちり抑え込んで。
「ドーラ様が嘆かれます。ヘンリー殿が、そのような形でお手を汚されては」
冷静に語りかけられて、ヘンリーが動きを止めます。
「…………そうだな。すまん」
「なんの。ヘンリー殿がされねば、拙者がそうしておりました。止める者もおらず、息の根を止めておったやも知れませぬ。お互い様でありましょう」
「……そうか」
……え?
どっちかしかいなかったら、確実に殺りにいってたの?
その時にはたぶん私が止めに入っただろうけど、それはそれで火に油を注ぎそうというか。
……とにかく、一人じゃなく二人いてくれて、良かった!
まだ、良かった!!
呆然と立ち尽くした状態から気を取り直して、ヘンリーに駆け寄ります。
「……ヘンリー」
近くに寄って顔を見上げると、気まずそうに目を逸らされます。
「……すまん」
……ヘンリーの怒りが気になり過ぎて、あんまり気にならなかったけど。
思い出してみたらやっぱり気持ち悪かったし、魔物をけしかけた疑いを持たれてるとしてもあそこまで言われる筋合いは無かったし。
モモを悪く言った相手に対して、私もかなり怒ってたことは間違いないわけで。
ヘンリーも同じように、私のために怒ってくれたわけだから。
やり過ぎだったかもしれないけど、それでも私に謝らなくてもいいのに。
「ううん。……ごめんね」
私のために、あんなことさせちゃって、ごめん。
「謝るなよ。お前は悪くない」
「だけど、私のために」
「お前は、悪くない。だから、謝るな」
私のわがままに付き合わせたせいで、嫌な思いも、嫌なこともさせちゃったのに。
だから、やっぱり私は謝りたいんだけど。
私のために怒ってくれたヘンリーが、そう言ってくれるなら。
「……うん。……ありがとう」
私のために、怒ってくれてありがとう。
「ああ」
謝るのをやめてお礼を言った私に、ヘンリーも逸らしてた視線を戻して微笑みます。
……ところで。
「……この人。……治さないと」
「やめろ。近寄るな。放っとけ」
倒れ伏す理不尽お兄さんに向かって歩き出そうとしたところで、すかさずヘンリーに抱き締められて止められます。
うん、私もできれば、近寄りたくは無いんだけど。
「……だけど。……死んじゃうかもしれないし」
「それなら、それでもいいだろ」
おいおい。
「……いや、ダメでしょ、さすがに。ヘンリーが殺したことになるじゃない、それじゃ」
「……」
……それでもいいと思ってそうだ。
……それほど、怒ってくれたってことだろうけど!
でも最低限、手放しちゃいけない人としての良識ってあると思う!
相手のそれには多大なる疑いの余地があるけれども、それでも殺されて当然というほどのことはされてないんだから!
かなり悪質なセクハラ親父みたいだったけど、でも無理矢理事に及ぶほどの度胸も力も、きっと無いんだから!
黙り込むヘンリーの代わりのように、ピエールがさらっと口を挟みます。
「なれば。薬草でも置いてゆけば良いでしょう。幸い、先の町でドーラ様が買われた物を、多目に残してありますゆえ。この者であれば一つでも十分でありましょうが、二つも置いておけばもはや文句を付けられる余地もありませぬ」
殴り倒した相手の怪我を治す手段を与えてやったからって、それで文句を付けられなくなるとは思えないが。
モモを貶されたし酷いセクハラだったし、それで相殺ということでも、それはひとまずいいとしても。
「……置いてくの?……使わないで?……使えないでしょ、この人」
ときどき呻いてはいるし、辛うじて意識はありそうだけど。
自分で動いて薬草を使うなんてことは、できそうに無いんですが。
「いずれ、村人に発見されましょう。それまでは痛みを堪え、己が言動を省みて悔やめば良いのです。性根は変わりはせぬでしょうが、安易な言動は慎むようにもなりましょう」
……ピエールさん、怖いです!
……そうか、こうして教育的指導を重ねてきたのか。
私が見てる分、きっとこれでもまだ甘いほう……考えない、考えない!
「……そっか。……死なないよね?発見される前に」
「辛うじて意識が残る程度で止めましたゆえ。痛みを堪え切れず途中で意識を飛ばす程度ならばあるやも知れませぬが、死ぬほどのことはありませぬ」
やっぱり、意識はあるんだ。
しかも、狙ってやったとか……!
……本当に怖いです、ピエールさん!!
良かった、味方で!!
「……そ、……そう、なんだ……。なら、大丈夫だね……」
「請け合っても」
ピエールの説明に安心するやら怖いやら、とにかく一応納得した私の横で、モモとコドランとスラリンが理不尽お兄さんを威嚇してます。
「ガルルルル……!!グルルルル……!!」
『ドーラちゃんに、ドーラちゃんにー!!あんな、ひどいこと言ってー!!ヘンリーさんがやったからあたしはしなかったけど、あたしだって許さないんだからー!!』
「なに、この兄ちゃん動けねーの?でも、意識はあるわけ?……そっかー、今なら噛みついても引っかいても、無抵抗かー。……どーしよっかなー」
「ピキー!!ピキー!!」
『スラリン!!おこる!!ゆるさない!!』
意識があって、かつ動けない理不尽お兄さんを。
至近距離で。
「……モモ、コドラン、スラリン。その人、もう動けないから。やめてあげて……」
「ガルルルル!!グルルルル!!」
『だけど!!あたしは、まだなにもしてないもん!!』
「そーそー。ヘンリーはさんざん殴ったけど、おいらたちもなんかしたいじゃん?ドーラちゃんを守る仲間として!」
「ピキー!!」
『スラリン!!おこる!!』
「……いや。化け物とか呼んでた相手に、意識はあるのに動けなくて逃げられない状態で、至近距離で威嚇されるとか。すごい、怖いと思うから。調子に乗って色々言う割に気が小さそうだから、魔物に囲まれるとかそういうのも。もう放っといても死にそうなくらい、ボッコボコだし。……もう、やめてあげて」
「ガウウ!?ガウ、ガルルルル!!」
『え、そんなに怖いの!?うん、ならやっぱり、もう少し!二度とこんなことしないように、いっぱい怖がらせておくの!!』
「モモちゃんがそう言うなら、おいらだって協力しないわけにいかないよね!」
「ピキー!!」
『スラリン!!おこる!!』
「いや、もう……十分だと思うから……もう、行こう……?」
興奮冷めやらぬモフモフと小動物たちをなんとか宥めて、理不尽お兄さんに薬草を供えてその場に放置して、また少し歩いたところで。
「……ドーラさん!」
また、声がかかります。
聞き覚えのある声に嫌な予感を覚えつつ振り返る私、舌打ちするヘンリー。
「……カールさん」
うん、絶対に来るとは思ってた。
でもだからって、本当に来なくてもいいのに。
さっきの今なので、もう惨劇の予感しかしないのに。
後書き
感想欄のご意見を参考に、当初の予定から少々展開を変更しました。
大筋には変わりありません。
ご意見ご感想、ありがとうございました。
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